5 / 96
第一章【挑】
レギュラー選抜大会
しおりを挟む■■■■
── 全国卓球選手権地区予選まであと一ヶ月──
この日女子卓球部は、顧問の先生からある提案を受けていた。
「今日は皆に話がある。実は三年生の中から、もう一度レギュラーメンバーを選定し直して欲しいと申し入れがあった。三年生は今年で最後の大会である事も分かっている。実力を見込んで選定したつもりだったが、その熱意に応えてもう一度全ての人間に平等にチャンスを与えようと思う」
顧問の先生の発言に、一様にざわつき始めた部員達。だが乃百合は密かにガッツポーズをしていた。こんなチャンスはもう来ない。これを逃せば新人戦まで大会は無いからだ。それに、一年生ながらにレギュラーを取る。その事にこそ価値があると言うものだ。
「よって今回は実戦形式で選定しようと思う。実践で強いものがレギュラー。これ以上わかり易い選び方は無い。異論は認めない。これから直ぐに三つのグループに別れてリーグ戦をやってもらう。その結果、上位二名がレギュラーだ。わかったか?」
「あの、先生」
「なんだ?」
「リーグの割り振りはどうするんですか?」
「そうだな。強い者が固まったら意味が無いからな。とりあえず現レギュラーは均等に二人づつ分けて、残りは私の独断で実力を判断し、バランスよく割り振ることにしている。他に質問は無いか?」
ざわつきが治まらない部員達だったが、その目は明らかに輝いていた。皆卓球が大好きで、真剣勝負に飢えているのだ。勿論、乃百合とブッケンも例外ではない。
「乃百合ちゃん」
「ブッケン!」
二人は互いの健闘を祈り、軽くラケットを合わせた。
■■■■
「よーし、グループ分けが出来たぞー。それぞれ自分の名前がある卓球台に集合して、それぞれ総当りで試合をしてくれ。勝敗が一緒だった場合は、失点数の少ない方を勝ちとするから、一点でも無駄にするなよ」
顧問の先生がホワイトボードにグループ表を張り出した。
A、B、Cと三つに分けられたグループには、それぞれ四人ずつの名前が書かれており、ブッケンはAグループで、乃百合はBグループだった。
「うわっ乃百合ちゃん、海香先輩と同じだね」
「そういうブッケンだって部長のグループじゃん。どっち道、レギュラーメンバーを倒さなければ納得出来ない訳だし、どのグループも先生が言うようにバランスがいいよ。頑張るしかないよね」
「うん! 私達、毎日頑張ってきたもんね。絶対、一緒にレギュラーになろうね!」
そうは言っても、乃百合の入ったBグループはレベルが高い。三年生でレギュラーを張る児島南、一年生だが経験者の田中深月。そしてなんと言っても、一年生の時からずっとレギュラーメンバーに入ってきた原海香が居る。
海香の卓球はこの学校では群を抜いており、乃百合は練習ですらまとなにやり合えたことが無く、不動のエースと呼ばれている。
「皆グループに別れたなー、じゃあ始めてー」
顧問の先生が見守る中、いよいよレギュラー選抜グループリーグが始まった。
■■■■
乃百合の初戦の相手は海香だった。
「あぁぁぁ、いきなり海香先輩ですか」
「お、乃百合ちゃーん。手加減しないからね~、うっしっしー」
今にもイタズラしそうな程あどけない笑顔を覗かせた海香は、先輩と言っても乃百合と一つしか違わずまだまだ子供だ。が──、
その実力は本物。
【0-3】
【1-5】
【2-8】
乃百合はドライブ主体で攻めてくる海香に対して手も足も出なかった。鋭く回転のかかったボールをなんとか返すも、浮き上がりチャンスボールとなってしまうボールをスマッシュで撃ち抜かれ続け、点差は開く一方だ。
そしてなんと言っても海香の得意とするカーブドライブは、乃百合が見たことも無い角度で曲がって見せた。
「つ、強い……先輩は今まで会った中で一番強いです」
「嬉しいけど、煽てても手加減しないからねー。そう言えば乃百合ちゃんも随分上手くなったよね。一ヶ月前は触れる事も出来なかったボールもあったのにー」
「そりゃ毎日努力してますから。『私達』もっと上手くなりますんで、よろしくお願いします!」
そして──
【3-11】
結局乃百合は、後半意地を見せるも大切な初戦を落とした。
三年生の南先輩が深月ちゃんに負けるのは考えづらく、海香先輩が他の誰かに負けるとも思えない。
それはつまり──、
──もう一敗も許されない──
予想通りに南先輩が深月ちゃんを下すのを見届けた後、深月VS乃百合の試合が組まれた。
ここで負けたら終わり。そう自分に言い聞かせ、乃百合は卓球台の前に立った。
「いくよ、深月ちゃん!」
乃百合の狙いすましたサーブが相手コートを襲う。スピンのかかった良いサーブだった。
少し反応が遅れたが、負けじと深月も腕を伸ばし返してくる。
しかし乃百合は、待ってましたとばかりに間髪入れずに逆方向に弾き返した。
【1-0】
ピンポン玉の弾む子気味いい音と共に、乃百合に得点が告げられた。
【前陣速攻】
乃百合の最も得意とするこの形。
前に前に構え、相手が体制を整える前にうち崩す、速さと勢いで戦うスタイルだ。
「もう一丁!」
元々小学生の時、個人で県大会に出場した乃百合のポテンシャルは高い。最近はブッケンと共に朝練を頑張り、自主練も行ってきた乃百合の力は、体の成長と共により早く、力強くなっていた。
【4-2】
【6-3】
「乃百合ちゃん、早っ……」
【10-6】
なんとか勝ちを拾おうと深月も頑張ってはいるが、実力差は歴然だった。
最後のスマッシュを叩き込み、乃百合は額の汗を拭った。
【11-7】
「ありがとうございました! 深月ちゃん、また試合しようね!」
「う、うん! 次は負けないんだから」
二人は握手を交わし、健闘を讃えあった。
そしていよいよ、残るは最後の相手──、
児島南との対決へ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。
サンタの教えてくれたこと
いっき
ライト文芸
サンタは……今の僕を、見てくれているだろうか?
僕達がサンタに与えた苦痛を……その上の死を、許してくれているだろうか?
僕には分からない。だけれども、僕が獣医として働く限り……生きている限り。決して、一時もサンタのことを忘れることはないだろう。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
うちでのサンタさん
うてな
ライト文芸
【クリスマスなので書いてみました。】
僕には人並み外れた、ある能力を持っていた。
それは『物なら一瞬にして生成できてしまう』能力だ。
その能力があれば金さえも一瞬で作れてしまう、正に万能な能力だった。
そして僕はその能力を使って毎年、昔に世話になった孤児院の子供達にプレゼントを送っている。
今年も例年通りにサンタ役を買って出たんだけど…。
僕の能力では到底叶えられない、そんな願いを受け取ってしまう…
僕と、一人の男の子の
クリスマスストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
瞬間、青く燃ゆ
葛城騰成
ライト文芸
ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。
時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。
どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?
狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。
春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。
やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。
第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる