遠い星のお話

風浦らの

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遠い星のお話

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     どこにでもあるごく普通の小さな町。
    ここに一人の少年が住んでいた。

    この少年は家が貧しく、オモチャを買い与えられた事もなく、お腹いっぱいご飯を食べた記憶もさえも、遠の昔に忘れ去っていた。

    両親は健在だが、関係は良好とは言えず、寝静まった頃によく口喧嘩をしているのを少年は知っている。

    だけど少年はめげること無く、これまで逞しく生きてきた。世の中には自分よりも苦しい人生を歩んでいる人が、星の数ほど居る。という事も知っていた。

    それでも人間、時には挫けそうになる。そんな時、少年は夜遅くこっそり家を抜け出した。
    家からそう遠くない、この丘の上が彼のお気に入りの場所だった。

    ここに来ると決まって少年を出迎えてくれる者が居た。彼の名前は『コニス』。と言っても、コニスという名前は少年が彼に付けた名前で本当の事は分からない。
    
    コニスは、本来の色が分からないくらい泥で茶色くなった毛を靡かせ、「ワンワン!」と訪れた少年の足元をグルグルと周り喜びを表現した。

    本当は少年の家で飼ってあげたいのだけれど、貧しい少年の両親は許してはくれないだろう。

    「コニス、元気にしてた?」
    「ワンワン!」
    「そうかそうか。よしコニス、おいで!」

    二人はこの丘の一番高い所で、揃って星空を眺めるのが好きだった。
    空一面に広がる星空を見ていると、空腹も嫌な事も、全て忘れられる気がした。

    「綺麗だね。僕達の悩みなんてちっぽけに思えちゃうくらい」
    「ワン!」
    「そうだ、コニスはあの星知ってる?」

    少年はひとつの星を指さすと、釣られるようにコニスもその星を眺め、それをじっと見つめた。

    「あの星にはね、僕達と同じように生物が住んでいるんだって。凄いよね!」

     星を見つめながらパタパタと尻尾を振ったコニスは、少年の話へと耳を傾けた。

   「僕も本でしか見た事がないんだけど、あの星はとってもキレイな星なんだよ!    自然が豊かで、全ての生物が仲良く共存してるんだって」
   「ワンワン!」
   「そうだね。僕とコニスも一緒に暮らせたらいいのにね。
    それでね、ここからが凄いんだ!    驚く事に、あの星には差別も貧困も、戦争だって無いんだって!    信じられる!?    皆が互いを思いやり、仲良く協力し合っているから上手くいっているんだってさ。えらいよね!    この世界もそうだったらいいのにね」
    「ワオーン」

    こんな小さな少年の耳にさえも、酷い噂や事件のみならず、今の世界情勢、環境問題の話は入ってくる。
    少年は星を見上げ、この世界をうれいた。

     「ワンワン!」
     「え?    あの星の名前は何かって?    あの星は『地球』って言うんだよ!    素敵な星だから、コニスにも知って欲しかったんだ」
     「ワンワン!」
     「あぁ、僕達もいつか行ってみたいと思わない?    地球に──────」
      「アオォォン!」

     今日も変わらず、少年の目に地球は輝いて見えている。

    そこから何億光年も離れた星を見上げ、少年は遥かなる想いを馳せた。

    これは遠い星を想う遠い星のお話────

     おしまい。
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