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第三章【陰陽師編】
最後のお願い
しおりを挟む俺は知っている。最近サタコが夜中に起き出し、ひっそりと泣いている事を。
俺との別れを惜しんでの事なのだろう。俺もその涙を見ると胸が苦しくなり、自然と目から涙が溢れてくるのだった。マジョリんに指定された日は、『四月十日』奇しくも、俺とサタコが出会った日と同じ日だ。場所は千葉県にある『S山の麓』
残す所あと一週間と少しか……
──。
今日もサタコは夜になると、一人ムクっと起き出し、「あぅあうぅ……」と静かに声を出し泣いていた。見かねて俺はサタコに声をかけてみる。
「サタコ、泣いているのか?」
俺が寝ていると思っていたのか、ビクッと体を動かしコチラを見てくるサタコさん。目を細腕で擦りあげ、泣いてないアピールをする。
「泣いてなどおらん、寧ろ笑ってたのだ。失礼な奴め」
いや、そっちの方が怖いわ。ったくいつまでも素直になれない奴め。
「こっち来て寝るか?」
俺はベッドの布団を少し開け、寂しがり屋のサタコを招くと、サタコは無言でベッドに潜り込んでくる。そして、心無しか笑顔の戻ったその顔で、ふふっと笑うのだった。
「おい、恭」
「ん?どうしたよ、眠れないのか?」
「お願いがあるのだが、聞いてくれるか?」
この後に及んでお願いか、みずくさい。もうすぐお別れなんだ、出来ることなら何でも聞いてやるつもりだっての。
「何でも言ってみろ、叶えてやるかは保証しねぇけどな」
俺の言葉にムッとしながらも、スグに布団を顔まで引っ張り上げるサタコさん。そして……
「その、なんだ……キ、キスをしてはくれまいか」
「え……」
「嫌……なのか?やはり相手が悪魔では、ダメ…………だな」
それだけ言うと、今度は布団に深く潜り込むサタコさん。俺の気持ちは勿論ダメではない。少し驚いただけだ。誰になんと言われようと、俺はサタコが好きなのだ。そして、サタコもまた俺を好いてくれている。
俺は布団をバッと払い除け、勢いよくベッドの上に立ち上がる!
「いいかよく聞け!大魔王様!俺はなぁ!世界で一番お前が大切なんだよ!そして何を隠そうお前が大好きなんだぜ!参ったか!」
布団を失い、丸くなって手で顔を隠していたサタコさんが、指の間から俺の方を見ている事に気づくと、急に恥ずかしさがこみ上げてくる。
コホンと一つ咳払いをし、恥ずかしさを紛らわせた後、俺はベッドを指差し「ここに座れ」と促した。
さっきの衝撃が忘れられなかったのか、目と口が大きく開いたまま顔面が固まっているサタコさん。言われるがままに、ベッドの上に正座する。
その顔やめろよ、一応俺のヒロインなんだから……
「今からその……キス、するぞ」
「うえぇぇえ!?」
驚くんじゃないよ!俺だって緊張してんだから……それにお前からしようって言ってきたくせに……
俺はベッドに片膝を付き、サタコの顔に自分の顔を近づけた。
意を決してキスをしようとしたのだが、サタコさんの目と口が大きく開いたままで、とてもキスする状況では無い。
「おいぃ!最悪目はいい、口だよ口!口は閉じてくれ!!」
こんなに大きく口が開いていたんじゃキスなんてとても無理!俺のヒロインにはロマンという物が無いのか。もういい!
俺は手でサタコの目を抑え、そのマシュマロほっぺに口を近づける。
チュッ
「ホォォォウ!」
今のはサタコさんの歓喜の声です。そんなに喜んで貰えて、俺は幸せ者だよ。
顔を真っ赤にし、興奮が治まらない様子のサタコさん。
「おい、恭!最後のお願いがあるのだが、聞いてくれるか?」
最後なんて言うなよな……
「なんだ、言ってみな」
次はどんなお願いが飛び出すのやら。うちのワガママ大魔王様には振り回されっぱなしだぜ。
「あの、だな……」
「ん?」
「私の事をだな……」
「お、おぅ」
「忘れないでくれ」
「ああ。勿論だぜ」
────。
俺はサタコの最後のお願いを形にすべく、皆で記念撮影をしよう!と提案し、俺達に関わった全ての人達にコンタクトをとった。
皆忙しいだろうに、指定した河川敷には大勢の人が集まっていた。
集まりも集まったり。
大吉、ユキちゃん、シルシル、シー、涼、サク、凛の主要メンバーから、
一郎、二郎、SABUROU、虎谷龍太郎、獄門会の皆さん、シルパパ、謎の外国人、夢野雫先生、モブ子、カルロッテちゃん、タケト君と、名前の付いたキャスト達に続き、
白クマさん、ラッコさん、蟻蔵、アリ次郎助、フランソワーズ・ボブ・アリー、座敷童子、ハム美、フランス人形
等など、人外の者まで。そうそうたるメンバーが集まってくれた。
ちょっと集まりすぎぃぃぃ!!ってか人外枠の方達、どうやって知ったんですか!?そしてどうやって来た!!
ふ、ふふふ……わははははっ!
そうだよな。賑やかな方がいいもんな。それだけサタコ達が愛されていたんだよな。
「皆ぁ!!今日は集まってくれてありがとう!!一生忘れられない思い出を残すぞぉぉぉぉ!!!」
オオオオオオオオッ!!!
凄い迫力!皆の気持ちがビシビシと伝わってきた。
俺の隣ではシルシルが皆に頭を下げていた。思えば、シルシルは記憶を常に失っていく体質だ。きっと皆と過ごした思い出もいつかは忘れるのだろう。そうなる前に皆で記念撮影をする事に、一際感謝をしているのだろう。何よりも、その目に浮かぶ涙が物語っていた。
「シルシル、涙が出ておるぞ?笑うのだ。美少女が台無しだぞ」
「もう、サタコちゃんったら」
──。
「はーーい、皆さん準備は良いですかーー?はい、チーズ!!」
パシャリ!!
こうして俺達は集合写真を撮った。この写真は俺達の繋がりの証であり、決して消えない思い出だ。
その後写真は現像され、皆それぞれがメッセージを書き込んだ寄せ書きと共に配られた。
約束だ。俺は皆の事を絶対に忘れないよ。
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