上 下
85 / 90
第三章【陰陽師編】

本当の気持ち

しおりを挟む
 二月も後半に突入。

 平日の大学にて。

「でよー、凛の奴がさー」

 俺は大吉にひたすら話しかけられていた。

「そしたらなんて言ったと思う?凛の奴──」

 さっきから、ずーーーっとこの調子だ。口を開けば『凛』『凛』『凛』。もういい加減鬱陶しい。硬派が売りじゃ無かったのか。人間、彼女が出来たらこんなものなのか。

 ヒートアップする大吉に対し、生返事を返し続ける俺。早く俺のこの興味の無い素振りに気づいて欲しい。

「恭、お前はどう思う?」

「あ、あぁ。俺もそう思うよ」

「だよなー!!」

 そろそろ逃げ出そうかと思ったその時。救いの女神が!

「おはよう恭君!」

 女神の正体はユキちゃん。容姿もさることながら、その性格までもが女神様。

「おはようユキちゃん!」

「早速なんだけど、昨日の夜に涼ちゃんと遊んだんだけど──」

 ぐぬぬぬ……女神と言えども恋をしたら盲目になるのか。最近の話題は、専ら『涼ちゃん』。彼女のいない俺にとって、この二人の相手をするのが最近おっくうになっていた。

 彼女ねぇ……。俺にだってできそうな時位あった。つい最近だって、シルシルに告白されたし、サタコのノートには、俺に恋をしたと記されている。その気になれば俺にだって。

 しかし俺は一度たりとも女の子と付き合ったことが無い。チャンスは何度かあったが、ことごとく実らなかった。それがもしも産まれ持った『凶運』のせいだとしたら……

 ──ゾクッ

 いかんいかん、そんな悲しい事を考えるな。今まではただの偶然だ。負けるな佐藤恭!


 ────。


 俺は家に帰るまでずっとその事を考えていた。そして出した答えが……

「なぁ、サタコ。俺とお付き合いしたいか?」

 相変わらず何を言っているんだ俺は。こんな中学一年生みたいなのを前にして、自分でも恥ずかしいぜ。

 俺の問いかけにサタコさんの反応はと言うと。『既に下僕ではないか』という返しが来ると思いきや、顔をこれ以上無いくらいに真っ赤に染め上げ、両手をギュッと握り下を向いている。

 これって……

 マジなやつじゃねぇか!!

 どどどどどうする!?この後どう収拾つけたらいいんだよ!?

 実に想定外。こんなに女の子になるなんて……そして俺が質問してから既に三分は経過しているだろうか、もう沈黙がキツイ。


 ………………。



「もしも、もしもしたいと言ったらどうなるのだ」

 遂に開かれたサタコの口から発せられたその言葉。相変わらず下を向いたままだが、イジらしいその姿に俺は久しぶりにサタコの事を『可愛い』と思っていた。

 しかし、サタコと俺が付き合う……か。人間と悪魔、同居人、見た目は大人と子供。

「そ、そりゃああれだ、俺達が釣り合う筈がねぇだろ」

「…………そうか。わかった」

 サタコは小さく言葉を残し立ち上がると、出かけてくると言い残し部屋を出ていってしまった。

 何やってんだよ俺は、自分から聞いておいてこの返事はねぇだろ、ましてやサタコの気持ちは既に知っている。こうなる事くらい予測できた筈だろ!

 俺は遅れてサタコの後を追った。しかしまたしても俺のミス。遅すぎたのだ。既にそこにはサタコの姿は無かった。せめてすぐに後を追いかけていたら、捕まえて……

 捕まえてなんて言う?俺もお前が好きだとでも言うのか?確かに一緒に居て楽しいし、見た目も可愛い。ほっとけない存在であるに変わりはないのだが、果たしてそれは『恋』と呼ばれる代物なのだろうか?

 でも心配だぜ。失恋したショックで何やらかすか分かったもんじゃねぇ。とにかく探しながら考える!


 ────。


 俺は街中を走り回っていた。とにかくサタコが行きそうな場所を手当り次第に立ち寄り、更に移動の合間に、サタコを知る人達全てに電話した。そして、その全ての人に口を揃えて言われてしまったのだ。


『本当に分かってないな』

 と。


 全くもってその通り。傍から見たら見え見えだったのかも知れない。そんなアピールをしていた女の子を、からかう様な事をした自分が許せなかった。もっと正面から向き合うべきだったのだ。



 街を一周走り回っただろうか。それでもサタコを見つける事が出来ず、俺は家に戻ってきていた。もしかしたら、サタコが帰ってきているんじゃないかと思って。



 階段を登り、部屋を目指すその途中──



 居た!!



 サタコはアパートの階段の裏側で、フードを深く被り、膝を抱え座り込んでいた。まさかこんなに近くに居たとは。

 俺はもう決心していた。分かったんだ。
 俺は、サタコの事が──


「お嬢さん、お一人ですか?」

「なんだ恭か……」

 俯いた顔を僅かに上げて、俺の声に反応したサタコ。

「隣に座っても宜しいですか?」

「あっちへ行け」

 口を尖らせ随分とご機嫌斜めの様子だが、俺は構わず隣に座った。

「なぁサタコ、話をしてもいいかな?」

 なんの返事もしてくれないサタコさん。

「俺さ、さっき恥ずかしさから嘘ついちゃったんだ」

「嘘?」

「そうだ。実は俺には好きな人がいるんだ」

「シルシルか?そんな話は聞きたくない」


 ちゃんと伝えなきゃ。何故俺がシルシルの告白を断ったのか、やっとわかったんだ。見た目とか、年齢とか、悪魔だとか、そんな事関係ねぇ。


「よく聞いてくれ、俺はお前が好きだ」


 俺のその一言に、ガバッと顔を上げこれでもかって程に目を大きく見開き、口をパクパクさせるサタコさん。

「ききき、恭は私の事が大好きなのか。そ、そうかそうか。ほほう」

「それでお前の気持ち聞きたいんだけど、サタコは俺の事をどう思っているのかなぁって……」

 ついに言った!やっと自分に素直になれた。これが心の奥底にあった本当の気持ちだ。

「下僕では満足できなくなったか。そうかそうか、私は可愛いからな」

「あの、それでお前の気持ちは……」

 顔は赤いが、いつものペースを取り戻しつつあるサタコさん。

「恭にこんなに頭を下げられてはなぁ、まぁ考えてやらない事も無いでもない」

 くっ、コイツ。もうお前の気持ちはバレてんだよ。なんでまた意地張ってんだよ!それにまだ頭を下げてねぇし。

「ま、嫌なら無理にとは言わねぇけどな」

「べ、別に嫌では無いがな!そうだな、ならば仕方なく……」

「はいぃぃ!?仕方なくってなんだよ!そんな感じならこっちから願い下げだぜ」

「なぬ!私の心を弄んだのか?下僕のクセに生意気な」

「生意気はお前でしょうが!このチンチクリンがぁ!」

 ──。

 とまぁ、そんなレベルの低い言い争いを永遠と続け、お互い一歩も引くことなくこの話は有耶無耶となってしまった。


 人間ってやつは、どうしてこうも素直になれない生き物なのだろうか。




 ──サタコが魔界に帰るまであと一ヶ月──

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...