凶から始まる凶同生活!

風浦らの

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第三章【陰陽師編】

雪遊び

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 月が変わって二月。

「恭ぉぉぉ!    起きろ起きろ!    恭ぉぉ!」

 なんだなんだ、朝っぱらからうるせぇ……ううっ寒い!布団から出たくねぇ。こんな時は寝たフリに限るぜ。寒い寒い。

「恭?    おい恭?   恭ぉぉぉ!!!」

 待ってくれ。流石に寒すぎる。いつも震えてるくせに、今日は異常にテンションが高いよ!    いったい何だってんだ。

「恭、寝てるのか?    えい!」

 えい!    という掛け声と共に、俺の顔面に置かれた白い物体。『雪』だ。

 くっ、雪が降ったのか。それでこんなにテンションが高いのか、まるでは犬だな。    そもそも俺の産まれた山形ではなぁ……って待て待てぇぇ!!

 薄目を開けてサタコを観察していると、風呂桶一杯に山盛りの雪を運んでくるサタコさん。そんなに運んできてどうしようというのだ。

「わかったわかった!   起きるから待ってくれ!!」

「む?    なんだ起きてしまったか。この雪を服の中に詰め込もうと思っておったのに。残念だな」

 なんて恐ろしい事を……どんな遊びだよ。

 俺は渋々布団から出て、体を擦りながら立ち上がる。

 うぉぉ、今日は本当に寒い。こんな時こそ、夏に商店街のくじ引きで当てた『電気ストーブ』の出番だぜ。

 電気代節約の為に、電気ストーブを温存してきたが、流石に限界がきたようだ。俺は電気ストーブをコンセントに繋ぎ、スイッチを入れる。

 どぅぅん……と一瞬だけ起動してすぐに電源が落ちる電気ストーブ。それだけでは無い。テレビ、照明、冷蔵庫など、全ての電化製品の電気が落ちた。つまり、ブレーカーが落ちたのだ。

 なんだと!まさか容量オーバーなのか。

 せめて電気ストーブだけでもと思い、電気ストーブ以外の電気を落として再度ブレーカーを上げる。そしてスイッチオン!

 どぅぅん……と呆気なく落ちるブレーカー。

 あの商店街のジジイ、こんな使えねぇ電気ストーブなんて寄越しやがって!くそっ、これじゃまともに生活出来ねぇ。サタコが布団に入る事を許してくれないし、一体どうしたらいいんだ!!

 何か秘策は無いかと頭を悩ませていると、サタコが外で遊ぼうと、せがんでくる。子供という奴は、なんでこうも雪が大好きなのか。寒くないのか?

「恭。せっかく積もっているのだ。早くお出かけするぞ」

「へいへい。今着替えるから、外で待ってろ」

 俺はガタガタ震えながら、出かける用の服に着替える。コートを羽織り、手袋、マフラーと装備したら、それなりに寒さは凌げた。勿論、サタコにもちゃんと装備させてある。可愛らしい赤を基調とした、帽子にマフラー、手袋。そしてピンクのコート。出費は大きかったが、物凄く喜んでくれたので、俺もとても嬉しかったな。あの時は……


「恭~?」とアパートの下でサタコが呼んでいる。ハイハイ、今行きますとも。

 外に出ると一面銀世界!昨日までの街並みはからは想像も出来ない程の変貌を遂げていた。

「な?    凄いだろ恭!    どうだ、恐れ入ったか?」

 別にお前が凄い訳じゃねぇだろ。しかしこれからどうするか。外を散歩しつつ、大吉の家で暖を取らせて貰うか。うん、そうしよう。




 ──。


 外に出ると日差しが眩しく、家に居るより暖かい気がする。

「恭。見ろ見ろ!」

 見てくれと言うサタコさん。何かと思えば、雪の上で雪玉をコロコロと転がしているではないか。雪だるまでも作りたいのだろう。しかし、すぐに雪の重さに負けて動かなくなる雪玉。

「恭。押すのを手伝ってくれ」

「なんで俺が……もうその大きさで十分だろ」

「私は魔王だぞ?    この程度で満足出来るか。それとも、また運を吸い取られたいのか」

 チラチラと鎌をチラつかせるサタコ。この人を脅すような性格は、魔界に帰す前に治してやらなきゃなぁ……

 俺は仕方なく、雪玉を押すのを手伝ってやる。みるみるうちに、雪玉は大きくなり、サタコの体程の大きさになった。流石にここまで来ると、押すのがしんどい。サタコなんて顔を真っ赤にして必死に押している。しかしそれもここまでだ。

「おい、サタコ。もう押すのは止めろ、この先は下り坂になっている。ここからこの雪玉を落としたら危ないからな」

 押すことに必死になっているサタコ。「ふぬぅぅ!」「ぬあぁぁ!」と、それはもう必死だ。その顔は最早ヒロイン失格レベル。だがもう俺は押して無い。どんなにサタコが押そうとも、動く筈が無いのだ。


 しかし、その時奇跡が起きる。「んにゃぁぁ!」と必死の形相で押し続けるサタコの願いが通じたのか、雪玉はコロッと転がりそのまま坂を駆け下りていく。瞬く間に大きくなっていく雪玉!その先には目的地である大吉のアパートが……

 ちょっと止まってぇぇぇ!    そんな奇跡要らねぇんだよ!!このままじゃ巨大雪だるまがアパートに激突してしまう!!

 慌てて雪玉を追いかける俺とサタコ。しかし無情にも、雪玉はアパートの塀にぶつかり止まったのだが、その勢いで塀は粉々に砕け、雪だるまと共に大吉のアパートの玄関を塞ぐ。

 ぎゃぁぁぁ!なんて事を……一体どれだけの人に頭を下げればいいんだ……と、とりあえず大吉を呼ぼう。大吉なら分かってくれる筈だ。

 しかし大吉のアパートの玄関は、完全に雪で覆われていて呼び出すことが出来ない。とりあえず電話して事情を……と思っていたら、サタコが名案を思いついたらしい。


「バカめ、せっかく雪があるのだ。もっと頭を使った呼び方があるではないか。こう、雪を丸めてだな……えい!」

 ようは、雪を丸めて窓に当てて気づかせようって魂胆なのだろう。サタコの投げ込んだ雪玉は、ヒューッと窓目掛けて一直線。そして、見事に命中して──



 パリィーーン。


 ………………。


 バカはお前だぁぁぁぁぁ!!!

「ちょっと何してんのぉ!?」

「あわわわわわわ」


 そして部屋の中から大吉の叫び声が聞こえる。何が起きたか分からずパニックの様だ。

 スマン大吉!今は顔を合わせられる自信がねぇ……明日必ず謝る。そう心に誓って、俺達はその場を立ち去った。


 ───。


 次の日の大学にて。


「────ってな事が昨日あったんだよ。本当大変だったぜ」

 と、ケラケラ笑いながら昨日の出来事を話してくれる大吉。あんな事さえネタに出来るなんて、本当に心の広い男だぜ。流石親友。


「へ、へぇ……それで大丈夫なのかよ?特に塀とか……」

「あぁ、それなんだけど。これ、大家さんが渡してくれってさ」

 大吉に手渡された紙。それは……

 いち、じゅう、ひゃく、せん、まん。

「三万円!?」

 三万円の請求明細書だった。

 完全にバレてたぁぁぁ!!    流石親友!!


「お前も大変だな」とポンポンと背中を叩かれる。

 流石親友ぅぅぅ!そこまで分かってくれるとは!


 俺は思わず一粒の涙を零した。


 その後家に帰り、サタコに散々お説教をしたが、伝わっているかは相変わらず疑問だった。










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