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第三章【陰陽師編】

いい子にしていたら

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                 新年が始まって数日。

     バタバタした日々もだいぶ落ち着いたある日。

    「恭。何か忘れてはいまいか?」

    「忘れてる?         何を?」

    「むぅぅ」と手を出してくるサタコさん。一体何がしたいのか?

    「恭。分かるな?」

    「いや、全然分かんないです」

「とぼけても無駄だ。漫画で読んだぞ。お正月には、子供にお金をくれるのであろう?」

     お年玉が欲しいのか?    こんな時だけ子供になりやがって!   だいたいお前は八百歳を超えてるんだぞ。寧ろ俺が貰う立場じゃないのか?

「お年玉ってのはな、『いい子』にしていた子供にあげる物なの!サタコはちゃんといい子にできるのかよ?」

「なぬ!?    いい子にだと?    勿論だとも」

    当然!    と胸を張るサタコ。しめた、これはサタコをいい子にするチャンス!

「よーし、じゃあサタコ。今から新年の挨拶回りに行くけど、ちゃんといい子にするんだぞ?」

「わかったです」

『です』を付ければ敬語って訳じゃないんだよなぁ。ただまぁ、その心意気だけは良しとしよう。


 ───。


 俺達は新年の挨拶をするべく、シルシルの家の前に来ていた。

「なぁ、恭。お腹が空いたのだが、ご飯位食べてもよいだろ?これは生理現象であり、当然の権利なのだです」

     そうきたか。賢い喋り方をして、考え方まで賢くなったか。最もな意見だな。ただ、もう少し早く言って欲しかった……


「分かったよ。ホラ、あんまり食べすぎるなよ?いい子なんだから」

     これならどうだ!いい子は過剰に食べないし、言う事を聞くものだ。

「ふむ。いい子とはそういう物なのだなです」

     どんだけ敬語苦手なんだよ。漫画にも敬語位出てくるだろ。

「分かったです」と、サタコは鎌を錬成、俺を斬りつける。斬られた分にはそれが多いのか、少ないのかは分からないのだが……



 ………………。



     あれ?    何も起きない……サタコの奴、だいぶ遠慮したのか?ちょっと可愛そうだったかな。  と、思っていたら玄関がガラガラッと開き、シルパパ登場。

「お前かぁ!    賽銭箱に団子を投げ込んだ奴は!」

     ひっひぇぇ……なんでバレたんだ!?

「ごめんなさい!    ごめんなさい!    もう二度と賽銭箱に団子を入れません!」

 とにかく謝るしかねぇ!    おいサタコ!    お前も謝れ……って、えぇぇ!?

     なんで手を差し出してるんですかぁ!?               この状況でお年玉をねだろうとでもいうのか!    図太い!    図太すぎるぜサタコさん!!!

「な~んだ。サタコちゃんじゃ~ないかぁ、それによく見たら恭君も居るじゃ~ないかぁ」

 な、なんかシルパパの様子がいつもと違う。それになんだかとっても、


 お酒臭いんですけど……


 更にシルパパが執拗に絡んでくる。俺の肩にガシッと腕を回し、

「恭君~あれから、うちの瑞とはどうなっちゃったんだい~?    うちの瑞は可愛いだろ~え?」

「い、いえ、それがその……」

「な~んだって~!!」

 ひえぇ……まだ何も言ってないです……サタコ、早く助けろよ!    なにボサッと立って……ってまだ手を差し出してるぅぅう!!   どんだけお年玉が欲しいんだよ!    ってかタイミングってもんがあるでしょーが!!

 俺はシルパパにお腹をグーでドスドス殴られながら「瑞って可愛いだろ~」を永遠と聞かされ続ける。シルシルの暴力癖は遺伝だったか……

 あははっと、愛想笑いしか出来ずに絡まれ続けていると、

「ちょっとお父さん!    なにやってるんですか!?」

 と、家の奥からシルシルが駆けつけてくれた。た、助かったぁ……

「んもぉ。お父さん、恥ずかしいからやめてください!」

     シルシルは、そう言って俺からシルパパを引き剥がしてくれた。そしてその後、シルパパは娘に叱られてションボリと帰って行く。

 なんか可愛そうだな……結局新年の挨拶してねぇし……


 ──。


「や、やあシルシル。明けましておめでとう!」

「凶さん、明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します」

「シルシル、明けましておめでとうです」

「まぁ、サタコちゃん。明けましておめでとうございます!    挨拶しに来てくれたのですか?お利口さんですね!」

「お利口さん?    お利口さんとは、いい子という事か?」

「え、まぁそうですね」


 その言葉を聞いたサタコは、シルシルに向けてサッと手を差し出す。

 コイツ、シルシルにまで要求するのか。いい加減、はしたないからやめなさい!!

 と、俺がサタコに注意してやろうと思っていたら、「ハイハイ」と笑顔でポケットから何かを取り出すシルシル。まさか用意していたとでも言うのか。


「はい、どうぞ」と渡されたのは『飴玉』が三つ。

 サタコは掌に乗せられた飴玉を握りしめた。

「ありがとうDEATH」

 え?    今、「です」の発音がおかしかったような……気のせいかな。


 玄関の前で挨拶をしていると、そこに涼とサクが合流してきた。

「なんだ、恭に先を越されてしまったな」

「あら~ダ~リンとサタコじゃな~い」

 どうやら新年の挨拶に来たようだ。そしてサタコを見つけた涼が一言。

「サタコちゃんも新年の挨拶かな?偉いじゃないか」

「むむ。偉いとはそれ即ち、いい子だなです」

 サタコはすかさず涼に向かって掌を差し出す。すると、それに気づいた涼はジャンケンだと思い込み『グー』を出す。

 負けてやる当たり流石と言うべきか。ただサタコの望みはそれじゃないんだよなぁ……

 ワナワナと震えるサタコさん。苛立ちがピークに達しようとしていた。サタコの次の行動はというと、なんと急にシルシルの襟元から服の中に手を突っ込むという暴挙!

「ひゃっ」と思わず声が出るシルシル。そして中をゴソゴソとまさぐるサタコさん。


 ちょっとぉ!一体何やってんのぉぉぉ!??


 ようやく襟元から手をガバッと引っこ抜いたと思ったら、その手にはシーが握られていた。そしてシーを地面に置き、右手を差し出す。


 お前にはプライドという物が無いのか!!!


 その差し出された手に対しシーの反応はと言うと、サタコの掌に自分の手を乗せ上手に『お手』をしてみせた。

 おぉ!猫だというのになんて上手なお手なんだ。って感心してる場合じゃねぇ!いい加減サタコの機嫌が……

 スクっと立ち上がり、怒りに震え無言で鎌を錬成するサタコ。これはまずい、新年早々に大惨事にさせてたまるかぁ!!よく聞けサタコ!!

 俺は大きめの声で大袈裟に言った!


「サタコよく我慢したなぁ!とってもいい子だったなぁぁぁ!!」


 俺の全力のお世辞に反応したサタコさん。素早く右手を差し出してくる!俺は待ってましたとばかりに、ポケットから取り出した小銭をジャラリと乗せてやる。


「お……おぉ……おぉぉぉぉ!!お年玉ではないかぁぁあ!!!」

 目をキラキラと輝かせてウットリとした表情のサタコ。俺はそれを見て、お金が欲しかったのではなく『お年玉』が欲しかったのだと気づいた。そう思うとなんだか今までの行動を許したくる俺は、やっぱり甘いのだろうか。


「ほらな恭。良い子に出来たであろう」

 フフンと鼻を鳴らし、得意げなサタコ。

 そうだな。お前にいい子は無理だとわかったぜ。というか、語尾以外何もしてねぇんだよな……



 因みにサタコに渡したお年玉は、百三十円だった。

  

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