凶から始まる凶同生活!

風浦らの

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第三章【陰陽師編】

行く年来る年

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 十二月三十一日。

 今日は大晦日だ。

 今年も色々とあったが今日で終わりかぁ。そう思うと、なんだか大晦日ってのも感慨深いものがあるな。

「恭、大晦日はどう過ごすのだ?」

「ん?ああ、神社にお参りに行くよ。勿論お前も連れて行くけどな」

「私も行くのか?寒いのは苦手だ。一人で行ってくれ」

 な、なんて冷たい奴なんだ!元はと言えば、お前のせいで帰省できねぇんだぞ?その事わかってんのかよ!?

 そうなのだ。大吉とユキちゃんは帰省中で、俺も山形に帰りたかったのだが、サタコが居るから帰れないのだ。まさか連れて行く訳にもいかず、親には電話で言い訳するのに散々苦労したものだ。


「お前も行くの!早くしろ、日付が変わっちまうだろ」

「このぉ!甘えん坊さんめ!」

 くっ、このやろぉ……誰がこんなチンチクリンに甘えるかっつーの。


 ───。


 俺は新年一発目を来年の幸せと安全を祈願して、神社でお参りしようと決めていた。


 神社に着くと、流石に人が多い。皆、初詣目当てで来ているのだろう。暫く出店を眺めたりしながら歩いていると、一人の巫女さんが話しかけてきた。

「凶さん!来てくれたんですか」

「おぉ!シルシル、相変わらず巫女さん姿は可愛いな!」

「そ、そんな。私なんて全然ですよ」

 顔が赤くなり実に可愛いらしい。やはり女の子はこうでなくては。

「恭、この列に並ぶのか?早く帰りたいのだが」

 それに引き換え、長い行列を見て早くも帰りたいと言い出すサタコさん。

 なぜ俺はシルシルと付き合わなかったのか?なぜあの時『サタコのーと』が頭を過ぎったのか。あの時、俺はなんて言おうとしていたのか?今になってわからない事だらけだぜ……

「シルシル、お仕事頑張ってな!落ち着いたら新年の挨拶に行くよ」

「シルシルまた遊びに行くぞ!」

「うふふっ、ありがとうございます。楽しみにしていますね!でわまた。良いお年を」


 挨拶を済ませ、俺達は長い列に向かう。もうすぐ日付が変わり、新年がやってくる。


 長い列に加わろうとした所で、サタコが出店を指差しおねだりしてくる。


「恭。長い戦いになりそうだから、あれを買ってくれ」

「ん?あぁ、みたらし団子か……しょうがねぇな」

 三本入りのパック詰めの団子。これを与えておけば、少しは大人しくしてくれるだろう。


 ──。


 ボーン……ボーン……


 と鳴り響く鐘の音。それと共にあちこちで聞こえてくる「ハッピーニューイヤー!」


 今、日付が変わったのだ。俺もサタコと向かい合い、新年の挨拶をする。


「明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します」

「うむ」

 それだけぇぇえええ!?

 ま、悪魔に日本の文化を押し付けるのもアレだしな……少しムカつくけど、大目に見るしかねぇか。


 長い行列の進みは遅い。サタコは既に飽き飽きしていて、隣の子供に鎌を近づけては離して、近づけては離してを繰り返している。

 おいおい、心臓に悪いよ。お願いだから止めてくれ……

 そして、遂にそれさえも飽きたサタコさんは、俺におんぶを要求し、挙句の果てには「お参りする時に起こしてくれ」と言う始末。

 なんで俺がと思ったが、下手に暴れられるよりはよっぽどマシだ。流石に新年一発目から、ドタバタしたくねぇもんな。

 我慢だ、我慢するのだ佐藤恭。


 それから一時間程並んだだろうか。ようやく俺達の番が回ってきた。

「おい、サタコ起きろ。お参りするんだろ?」

「うみゅ……んにゃ……」

 本当に寝起きが悪いな。まぁ、流石にお参り位は出来るだろ。

「ほれ、この百円玉をあの箱の中に投げ入れるんだ。やってみるか?」

「うむ。これをこうやって、こう!!」

 勢いよくサタコの手から放たれた『みたらし団子』が宙を舞う!

 全然違うからぁぁぁ!!ちゃんと俺の話を聞いてましたか!?

「何投げ込んでんだよ!団子が賽銭箱にベッタリじゃねぇか!」

「こっちの方が価値があるからな。これで私の今年は確約されたな」

「それお前の価値観だから!神様は食いかけの団子なんて欲してねぇんだよ!」

 あーあ……後でシルパパに怒られるんだろうな……とりあえず今は後ろがつっかえてるから無理だ。はぁ……憂鬱だぜ……

 お参りを済ませ、ようやく長い拘束から解放される。本来なら次はおみくじを引くのだろうけど、ここのおみくじはとにかくヤバイ。絶対に引いてはいけない。

「サタコ、分かってると思うけど、おみくじだけは絶対に引くなよ」

「え?」と振り向いたサタコさん。さっき渡した百円玉で既におみくじを引いた後でした……

 ま、まさかな……流石に、ねぇ?

「お前なぁ、もしそれが『最凶』だったらどうするんだよ!?」

 カタカタと青白く震えるサタコさん。

 え……嘘でしょ?ねぇ、嘘だと言ってください。

 サタコがおみくじを見せてくる。そこに書かれていた文字は、なんとまさかの、


『最凶』



 マジかよ……これ召喚士とか関係ねぇじゃん。あれだよ、きっと団子を投げ入れたから神様が怒ってんだよ。ってかここの神様、サタコの親父だったよな?コイツどんだけ魔界で親不孝はたらいてたんだよ……

「恭、どどどどうしよう……」

 落ち着け佐藤恭。こんな時こそ落ち着くのだ。俺の時も、シルシルの時も、投げ捨てた直後に召喚された。

「と、とりあえず絶対に離すな。しっかり持ってろ」

 と、言った直後、ヒラヒラと舞い落ちる『最凶』おみくじ。

 マジかよ、コイツ絶対わざとだろ!くそっ!させるかぁぁぁぁあああ!!!

 俺は人目も幅からず、地面に滑り込む様にキャッチする!

 体は泥だらけになったが、そんな事はどうでもいい。これ以上お荷物を召喚されてたまるか!


「ふぅ。何とか召喚は免れたぜ……しかし、これからどうすればいいんだ」

 このままどこかに保管するべきなのか?それとも、置いた瞬間に召喚されてしまうのか……分からねぇ……

「恭。いい考えがある」

「いい考え?なんだよ?」

「燃やそう」

 えぇぇ……

「それはちょっと……バチとか当たりそうじゃね?」

「大丈夫、大丈夫」

 そう言って指先から炎を出し、『最凶』おみくじに近づけるサタコさん。

 え、いや、ちょっと心の準備が……

 そんな俺を他所に、おみくじに火を近づけるサタコさん。

 そしておみくじの端がチリチリと燃え始める。



 ──あ、熱い熱い熱い!!──


 え?今何か聞こえたような……



 更に火は燃え広がり……


 ──熱いって!やめてやめて、ちょっと何してんのぉぉぉぉ!!?──



 そして最後は激しくブワッと燃え上がり……



 ──いやいやいやいや!熱いってぇぇ!!──



 と、燃え尽きました……



「……………………。」




 う、うん。ごめんなさい……


「か、帰ろっか」

「そうだな」



 という新年の幕開けでした。



 明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します!


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