凶から始まる凶同生活!!

風浦らの

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第三章【陰陽師編】

アップル

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 ■■■■

    俺達は、久し振りに果物が食べたいと、近くの八百屋さんに来ていた。秋と言ったらやっぱり食欲の秋だろう。

 お店に着くと、店内に居たのはただ一人で、その店員らしき人が話しかけて来た。

「ハロォー」
「ハ、ハロー……」

 なんてこった!    店員が外国人だなんて、この島国日本において有り得るのだろうか!?
    流石東京だぜ……しかし、店員は店員だ。日本語くらい話せるだろう。

「あ、あの、『リンゴ』下さい」
「ワッツ?    アイドントスピーク、ジャッパニーズ」

 何ィィ!!    日本語を喋れないだとぉ!?     国際社会だとは聞いていたが、まさかここまで迫って来ていたとはな。
    よかろう。現役大学生の力、とくと見よ!

「アップルプリーズ」

 俺はリンゴを一つ持ち上げ、英語で“リンゴをくれと”店員に言った。しかし肝心の店員の反応はというと──、

「ノンノンノンノン、『アポー』」

 人先を振り否定した後、リンゴを持ち上げ正しい発音で返してくる。

 発音なんてどうでもいいんだよ!    早くリンゴを買わせてくれ!!

「ア、アップルプリーズ」

 恥ずかしい!    滑らかな発音は、一般人の日本人には恥ずかしいんだよ!!    しかし、さっきよりはそれっぽく言ったぞ!    さぁ、俺にリンゴを寄越すのだ!!

「ノンノンノンノン、アポー」

 もういいっつってんだろ!    早くリンゴをだな──、

「恭。発音がなってないぞ、そん事では店員さんが困ってしまうだろ。どれ、私が手本を見せよう」

 なにぃ!?    サタコのやつ、英語を話せるとでも言うのか!?

 サタコは深く深呼吸をし、恥ずかしげも無く発音してみせた。

「アポー」

 その単語を聞いた店員は、にこやかな顔をしパチパチパチと手を叩いている。

 くっ、なんだこの敗北感は……サタコよ、そのドヤ顔をやめるんだ。腹立つから。

「恭、何を恥ずかしがっておる。日本人の悪い癖だぞ」

 お前はどこの国目線で言ってんだよ!
 くそっ!    やってやるぜ。俺にだって意地ってものがある。

 俺は腹をくくり、顔を真っ赤にしてアップルを発音した。

「アポー」

 どうだ!    見たか外国人!!    これで文句ねぇだろ!    さっさとリンゴをよこしやがれ!!

「ノンノンノンノン、『アップー』」

 変わってんじゃねぇかぁあああああ!!    さっきと違うよね?    明らかにさっきは『アポー』だったよね!?
 上等だよ、日本男児舐めんな!    やってやるよ、アップーだろ?    アップー!

 俺は息を大きく吸い込み、全身全霊で発音した。

「アップー」

 ………………。


「ノンノンノンノン、『アパー』」


 なんだよ今の間は!    次の発音考えてただろ!    バカにしてんのかよ!?

 尚も意味の無い攻防は続く。サタコがバナナを持ち出して発音してきたのだ。

「バンナーナ」

 それを聞いた外国人は、ニコニコ笑いながら手を叩く。
 それに負けじと俺も発音する。

「バンナーナ」
「ノンノンノンノン、『バンナーンナ、ンナッ、ンナッ』」

 自分の口を指差し“ンナ”を強調する外国人。

 一緒だっただろぉぉ!    依怙贔屓えこひいきしてんじゃねぇぇよ!    もう我慢出来ねぇ!!

 俺は我慢の限界を迎え、遂に店員に詰め寄った。

「おい!    早くリンゴを買わせろ!」
「ワッツ?」

 俺達の騒ぐ声に、店の奥からオジサンの店員さんが出てきた。

「おや?    あんた達三人ともお客さんかい?    遅くなってすまないね。少し外していたもんでね」

 ──ッ!!

 確かに今『三人』って言ったよな。じ、じゃあコイツは──、

 横目でチラリと外国人を見ると、外国人特有の、“さぁ?”みたいなポーズを決め込んだ。

「誰だお前ぇぇぇぇえええ!?」

 俺は名も知らぬ店員じゃない外国人に、長々と英会話レッスンを受けていたというのか。

 俺の愕然とした姿を他所に、外国人は腕時計を見ると、最後に『チャオ』と言って帰っていった。

 チャオは英語じゃねぇだろ。

 俺はその後「アップルプリーズ」とオジサン店員に言ったら、「はいよ、リンゴね」とリンゴをくれた。


 あぁ……日本人最高……

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