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第三章【陰陽師編】
復活の魔王
しおりを挟むサタコの容態は相変わらず良くない。俺は携帯電話の電話帳を見て、誰か居ないか探ってみる。
『雪水 涼』
こいつだ!サクは病気になったらどうしているんだ?俺はすぐさま電話をかける。
とぅるるる……とコール音がなった後、涼が電話に出る。
「やあ恭。珍しいな、どうした?」
「悪い涼、早速聞きたいんだけど、サクが病気になったらどうしてるんだ?」
「サクが病気ねー、考えた事も無かったな。どうするんだろ?」
くっ、コイツらいったいどれだけ体丈夫なんだよ!
「そ、そうか……わかった。わざわざ悪かったな」
「力になれなくてすまない。もしかしてサタコちゃんが病気とか?」
「いや、何でもねー……また皆で遊びに行こうな!」
そう言って俺は電話を切る。雪水達が来ると、余計に混乱しそうだからな……
他に誰か居ないのかと、再び電話帳を眺める。
『末永 大吉』
駄目だ……
『福田 幸』
駄目駄目!サタコが異世界から来た魔王だなんて言えねぇ。
他に、他に誰か居ないのか……ん?
『間場 凛』
これだ!!
俺は早速電話する。初めての電話だとか、敵かもしれないだとか、今は関係ない!もう頼れるのは間場 凛しか居ないのだ。
「も、もしもし!恭だ!佐藤恭だけど」
「あ、佐藤恭!?連絡待ってたんだ~、なにか慌ててる様だけど、どうかしたのかな?」
「サタコが、サタコが熱とクシャミで倒れたんだ。何か知っているなら、力を貸して欲しい……」
「なんですって!それは大変ね、場所は何処!?すぐ行くわ!」
「え?」
「場所は何処って聞いてるのよ!」
「えと、A区のA駅で、駅から近い神社だけど……」
「わかったわ!じゃまた後で」
そう言ったきり電話は切れた。間場 凛が、助けてくれる……?
──。
三十分後、間場 凛から電話がかかってきたので、シルシルが神社の入口で出迎えることに。そして、間場 凛を連れて戻ってきたのだが、俺の目の前に現れたのは……
「え……ま、マジョリん!?」
何故か魔女っ子マジョリんのコスプレをした少女が目の前に居た。確か、前に秋葉原で会った……
「久し振りね、佐藤恭」
ふわりと銀髪をかきあげるその姿は、間場 凛のそれと同じだ。
つまり、間場 凛→まじょうりん→マジョウリン→マジョリん??どういう状況だよ。本名が似てるからコスプレしているのか?
「秋葉原でイベントがあってね。急いできたのよ、それよりもサタコちゃんは?」
俺の頭の中を読んだのか、マジョリんは質問するより先にサタコの安否を気遣った。
「そ、そうだった!こっちだ」
俺はマジョリんをサタコの前に連れてくる。サタコは相変わらず苦しそうにしている。顔は真っ赤で、額には汗が滲み、時々魘されていた。俺はそんなサタコを見ているだけで辛かった。
「どうだ?何か分かるのか?」
「そうね、これは『魔熱』だと思うわ」
「魔熱??それは一体……」
「詳しい原因は分からないわ。ただ、私の家に伝わる記述によれば、大魔王サターオも同じ様な症状が出たの。その時、苦しんでいたサターオを救ったのが、町娘お京の『接吻』だと伝えられているわ」
確か、サターオはサタコの父親だ。そして、お京はその契約者だ。つまり、サタコを助けるには、俺がサタコにキスをすれば、もしかしたら助かるのかも知れない、という事か。
キス……
「佐藤恭、頼んだわよ」
「よ、よしきた」
俺はサタコに顔を近づける。近くで見ると、睫毛が長いのがよく分かる。マシュマロの様な、ふわふわほっぺに触れ、俺は目を閉じる。
「へっくちゅ」
くっ、負けるな佐藤恭。サタコを助ける為だ。
クシャミまみれになった顔を拭き、再トライ。
そしてついに、俺の口とサタコの口とが重なり合う。
柔らかい感触が口元に伝わってくる。「んん、」と、サタコの声がする。と同時に、俺の体の中に、口を伝って熱い『何か』が流れ込んできた。その『何か』は、俺の身体中を駆け回り、やがて頭の天辺からスーッと抜けていった。
俺は何事かと唇を離し、目を開けてみる。すると、サタコの目がパチっと開き、ガバッと起き上がったのだ!
「サタコ!?起きて大丈夫なのか!??」
「うむ。よく分からないがスッキリしたぞ」
サタコは唇の辺りに指を当てながら、いつもの様にふてぶてしく言った。
まさか、キスしたの気づいてたのかな……でも、元気になって良かった!
俺は周りの目もはばからずに、サタコを抱きしめた。なんだかんだ俺はサタコが大好きだ。その事を改めて思い知ったのだ。
「マジョリん、ありがとうな!本当に恩に着るよ」
「いえいえ、私もサタコちゃんが大切だからね」
マジョリんこと間場 凛とは一体何者なのか。今の発言からすると、敵でないことは明らか。真相に迫るには今しかない!
「マジョリん、聞きたいんだけど、お前は一体何者なんだ?何故俺達の前に現れる?」
この時ばかりはサタコも、シーも、シルシルも邪魔はしなかった。
「そうねー、約束は約束だものね。いいわ」
マジョリんは一息ついて話し始める。
「私は悪魔を魔界に送り返す仕事をしているわ。職業は『陰陽師』って事になるわね。こう見えても正当後継者よ」
「なんだとぉ!??」
皆が一斉に驚きの声をあげる。
マジョリん=間場 凛=陰陽師!?追い求めていた者が一度に揃った!?
「陰陽師だって!?そ、それじゃあサタコを魔界に返す事が出来るってのかよ!?」
「そうね、ただ今は無理ね。春にならないとそれは出来ないの」
「なにか理由があるのか?」
そこまで話した所で、マジョリんの携帯が鳴った。マジョリんは携帯の画面を見るや、
「ごめーん、仕事抜けて来ちゃったから、皆大激怒みたい……また今度ゆっくり話しましょ」
と言って、急いで支度をして部屋を飛び出して行った。
「え、ちょ、、、」と俺の声だけが遅れて部屋に響いた……
──。
シルシルとシーにお礼を言って、すっかり元気になったサタコを連れ、俺達は家に帰ることに。
その帰り道。
「恭、なかなかうまかったぞ」
「え!?な、なんの事かなぁ……」
「昨日食べた、栗マシュマロだ」
こいつぅぅどこまで気づいてやがるんだ!!
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