凶から始まる凶同生活!

風浦らの

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第二章【能力者狩り編】

喧嘩

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 ■■■■

    八月某日。

「暑い暑い暑い暑い暑い暑い」
「あーもう!    んな事たぁ分かってんだよ!    そんな事より扇風機の前からどいてくれ。俺に風が全く来ねぇだろ!」

 扇風機の首振りに合わせて体を右に左に揺らすサタコさんを前に、暑さのせいもあり俺はイライラしていた。

「恭。怒ると体温が上がるらしいぞ?」
「誰のせいだと思ってんだよ、いいからどけ!」

 俺は我慢できず、サタコを扇風機の前からどかそうと、ワンピースのフードに手をかける。
     案の定サタコは抵抗し、扇風機の頭にしがみつき離れようとしない。

「この場所は父上に守れと言われたのだ!    絶対に引くものかぁ!」
「何わけのわかんねぇ事言ってんだよ!」

 醜い争いは苛烈を極め、扇風機の首の取り合いが行われた。
    ただでさえ暑いのに、何をやっているのかと思ったのはその数秒後。もっと早く我に返ってさえいれば──、

     ボキッ。

     こんな事にはならなかっただろう。
     一家に一台しかない夏の必需品である銭湯の首が折れてしまったのだ。

「………………」
「どうすんだよ……これ……」
「扇風機さぁぁぁぁん!!」

 扇風機の頭を広い、必死に応急処置を施すサタコさん。しかし、何度くっつけてみても扇風機さんの首はポロリと落ちてくる。それどころか、扇風機の羽さえ回らず完全に壊れた様子だ。

「サタコ、お前の魔法で冷風とか、冷水とか、氷とかだせないのかよ?」
「私が出せるのは、火、お湯、電気だけだ」
「いつも思うんだけどれ火と電気は分かるんだけどお湯ってなんだよ。あぁ、ツッコむのも疲れる……とりあえず出かけるか。ここに居たんじゃ、“茹でダコ”になっちまう」


 ■■■■

 ピンポーン。

 そんなこんなで白羽の矢が立ったのは大吉だった。知り合いの家に急に押しかけて「涼ませてくれ」なんて言える訳なく、まぁ大吉ならいっか的な感じで来てみた訳だが。

「よー恭!    珍しいな?    まぁ上がれ上がれ!」

 いきなり押しかけたにも関わらず、大吉は嬉しそうに家へと上げてくれた。

     コイツ本当にいい奴だよな……あれ?    大吉っていい奴だっけ?     いや多分いい奴なんだろう。

 大吉も田舎から東京に出てきたくちで、地元は北海道らしい。家は当然ながらボロい安アパートだが、意外と几帳面な大吉は、部屋を綺麗に片付け内観はサッパリとした雰囲気となっていた。

「まぁ座れよ」

    ソファを指差し言ってくる。部屋の中は、エアコンが効いているらしくとても過ごしやすい。

「恭の部屋とは大違いだな」
「うるせぇ。俺だって無駄な出費さえ無かったらエアコン位買ってるぜ」

 サタコが悪態をついてくるも、お返しとばかりに悪態をつきかえす。

「おいおい、俺の部屋で喧嘩とかやめてくれよな?」

 大吉が呆れた顔で宥めてくるも、サタコの悪態は止まらない。

「大体なんだ。窓を開ければ虫やら鳥が入ってくるから開けるなとは」
「お前がいけないんだろ?    俺だって本当は窓ぐらい開けたいんだけどな」
「それにあのボロアパート。水漏れはするわ、風呂は壊れるわ」
「それもこれも誰のせいだと思ってるんだよ?」
「おまけに恭ときたら──、」
「そんなに家が嫌なら、大吉の所にでも住めばいいだろ?!」
「え……?」

 俺は熱くなり机を音が出る程叩き、声を荒らげた。

「おーい、よせって。こんな所で兄弟喧嘩なんてすんなよ……」

 俺はその場に居られなくなる程頭に来ていた。
    「おいおい」と大吉が止めるも、どうにも腹の虫が治まらず、静止を振り切り真夏の外に飛び出した。

    ────、

 取り敢えず、コンビニでも行って時間でも潰すか……

 時間を潰す為、コンビニに入り涼みながら立ち読みをした。しかし頭に過ぎるのはサタコの言葉ばかり。

『恭の家とは大違い』
『ボロアパート』
『恭ときたら』

「クソッ。頭に来て立ち読みもままならねぇ」

 あれから何分経ったかと、携帯に目を通してみれば、一通のメールが届いていた事に気がついた。

『恭ぉどうすんだよ。サタコちゃん泣いちゃってんじゃねーかよ。早く迎えにこーい』

「ちっ、誰が迎えに行くかよ。暫く反省してろってんだ!」

 一通り立ち読みを終えると、コンビニを出て今度はスーパーに向かう。夜の買い出しがてら涼んで行く為だ。
    スーパーに向かう為、暫く道を歩いていると白い子猫に出会った。

「よーう、恭。今日は一人なのか?    珍しいな」
「なんだシーか。実はちょっと喧嘩しちまってな。一人で時間潰してんだよ。お前の方こそ、このクソ暑いのに散歩かよ?」

 シーはくるりと身を翻し、得意げにこう言った。

「俺様はサタコとは違って『氷結系』の魔法が使えるからな!    この暑さでもどうってことねーのよ!」
「氷結系?    どんな風に?」
「まぁ簡単に言えば、俺の運動エネルギーを魔力で冷気に変えてるのさ。だから動く度に涼しいって訳さ」
「ふーん。よくわかんねぇけど、この季節にはピッタリな能力だな。俺にも冷たいのかけてくれよ」

 シーはニヤリと笑い「いいのか?」と聞いてくる。その笑の意味は気になるが、この暑さが涼しくなるなら敢えて目を瞑ろう。

「いくぜっ」シーが飛びかかってくる!

「オラオラオラオラ!」
「あぶっあべっぶべ!」

 ペチペチとシーの拳が俺の顔面に叩きつけられた。全く痛くないけど正直鬱陶しくなり、俺はシーの体を鷲掴みにして投げ捨てた。

「確かにヒンヤリしたけど逆に暑苦しいわ!」

    投げ捨てられたシーは、空中で身を翻し見事に着地を決める。

「ま、そういう事だ」
「どういう事!?」
「パートナーには相性ってもんがあんだよ。お前には俺様は無理だし、サタコはお前じゃなきゃ無理だ。そういう事だ」
「え?    どゆこと?」
「いいからさっさと仲直りしてこいって言ってんだよ!!」

 俺はシーの短い足で蹴られ、渋々サタコを迎えに行く事にした。時間的にも頃合いだろう。

 と、その時。またしても俺の携帯にメールが届いた。

『大変だ恭、サタコちゃんが!    とにかく商店街の電気屋まで来てくれ!』

 ──ッ!!

 まさかサタコの身に何かあったのか!?

 一気に高まる不安。
    動物に襲われたのか?
    能力者狩り?    はたまた新たなる敵か?!    怪我はしてないだろうか?

 俺は全力で走った!    走りながら頭の中で後悔だけがグルグルと回った。
    
    サタコ、すまねぇ!  俺が一人にさせたばっかりに──、クソッ。サタコ、サタコ!    サタコ!!

    ■■■■
 
 電気屋に着いた時、最初に目にしたのは大吉の姿だった。俺は息を切らせたまま大吉に駆け寄る。

「大吉!    サタコ、サタコは!?」
「それが、さっきからあの調子でよ」

 と、大吉の指さす方向は電気屋の店内。何やら店員と揉めてる様だ。

「サタコちゃんがさ、“どうしても扇風機を持って帰るんだ!”って言って聞かねーのよ。持っていたお小遣い全部出してんだけど、三百八十円しかねーから、店の人も困っててよ」

   ──そ、それって……

「サタコ……お、お前……」

 俺は思わず涙が零れた。
 普段はいがみ合ってる俺達。
 でも共同生活をしていくうちに、少しづつ分かりあっていったよな。
 お前は俺じゃなきゃダメなんだな。俺もお前じゃなきゃダメだよ。
    その意味が今やっとわかった。

「サタコ、もういいんだ。扇風機が無くても、お前が居れば俺はそれでいい」

 俺は後ろからそっとサタコを抱きしめた。

「恭ょぉぉぉ……」

 涙を流しながらサタコは振り返る。三百八十円を握りしめ「ごめんなさい」って。

 その言葉に俺は全てを許した。
     初めて聞いた『ごめんなさい』は、俺の心に深く刻み込まれた。

 この先何があっても、俺はサタコの味方だ。サタコを守るのは他の誰を置いても俺しか居ない。必ず無事に魔界に帰してみせると決意を新たにした。

「お、めでたく仲直り出来たか?     ったく世話のかかる兄妹だぜ。それじゃ、仲直り記念に俺から一度きりのチャンスをやろう!」

 そう言って大吉が取り出したのは、商店街の福引チケットだ。これで一回福引が回せるらしい。

 俺とサタコは二人で一緒に福引を回す。共同生活における共同作業。

 運の悪い俺達に当たりが出るなんて思ってもいない。だけど──、このハンドルを回しきった時、何かが変わるんじゃないかって。

 そんな気がしてた。





 ──カラン。






「お、おお当たりぃぃぃぃぃ!!!」

「え!?」
「恭!?」

 俺達は抱き合い喜び合った!!    二人で力を合わせれば、どんな凶運にだって立ち向かえる!!    この先俺達は何があっても──、

「一等は『電気ストーブ』でございます!    お二人共、おめでとうございまーす!!」


「「………………………」」


 また一つ、俺とサタコの絆が深まった。
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