凶から始まる凶同生活!!

風浦らの

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第二章【能力者狩り編】

仲良く銭湯

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 ■■■■

    俺達は、家の近くにある銭湯を検索し、荷物を纏めて早速向かった。
    調べてみて分かったのだが、どうやらこの近くの銭湯はここしか無いようだ。

 頭の上にタオルを乗せてペタペタと俺の横を歩くサタコさんは、必要以上に俺に話しかけてくる。どうやら『大きなお風呂』という言葉にテンションが上がっているらしい。
    以前も少し触れたが、サタコはこう見えてキレイ好き(自分の事だけ)であり、お風呂が大好きなのだ。

「おっと、ここだここだ。着いたぞサタコ」

 着いた先の銭湯は古風溢れる作りをしていて、なかなか風格があり、ザ・銭湯って感じだ。

 中に入ると、入口で偶然にもさっき別れたばかりの二人組に遭遇する。大吉とユキちゃんだ。

「いやー、家のお風呂が壊れちまってよー」
「私もなの、まさか恭君も?」
「あはは、そ、そうなんだよ、こんな偶然あるんだね」

 とてもサタコのせいだなんて言えなかった。きっとファミレスでのラックドレインの影響だろう。仲良く揃いも揃ってお風呂が壊れるだなんて、皆に申し訳が立たない。

「んま、とりあえず行こうぜ!    恭ぉ、背中流しっこしよーぜ?」
「んだよ、気持ちわりぃな」
「サタコちゃんは私と一緒に行きましょ!    こっちよ」
「ふむ。初めてなので優しく頼む」

 どこでそんな言葉を覚えたのか、そもそも使い方がおかしい言葉を残し、サタコはユキちゃんに連れられて女湯の方に歩いていった。 
    出来ることなら、俺もあっちのお風呂に行きたいものだ。

 仕方なしに男湯の方に入ると、外観からは想像していなかったが、タイルや壁がピカピカに磨かれており、広々としたお風呂が広がっていた。

「おお……これは期待以上だぜ!    しかも今貸し切り状態!  ヒャッホー!」

 早速はしゃぎまくる大吉。中身は完全に子供で、サタコといい勝負だ。
    まぁ、貸し切り状態だからな。これ位はしょうがないか。

 頭を洗い体を洗う。そしてどうしてもと言うので、大吉と背中を流しっこまでした。
    俺達は、スッキリした所で仲良く湯船に浸かる。
 お風呂は広々としていて、十分に手足を伸ばせる。開放感がありクセになりそうだ。大吉に至っては、泳ぎ始める始末だ。

 暫くはしゃいだ後は、ゆっくりお湯に浸かり疲れを癒す。
 そんな俺達に、更なる癒しのご褒美が訪れた。女湯の方から「うふふ」「あはは」とピンク色の声が聞こえてきたのだ。これぞ癒しのBGM。正直気になる。
    大吉が必死に壁に耳を当てているが、銭湯の上部分は壁が無く、そんなことをしなくても聞こえてくる。

「おぉ。シルシル、お前の家もお風呂が壊れたのか?」
「違いますよサタコちゃん。最近は涼ちゃんと一緒に来るんですよ。開放感があっていいですよね」

 なんだ、涼とシルシルも一緒なのか……なんだか、ドキドキしてきた……

 俺の妄想はどんどん膨らんでいき、留まることを知らない。

「こんばんわ雪水さん。プールの時以来ね!」
「こんばんわ、福田さん。あの日は世話になったな。それにしてもナイスバディだ。惚れた!    俺と付き合ってくれ」

 何言ってんだ涼のヤロー!    俺のユキちゃんになんて事を。惚れやすいにも程があんだろ。どうせすぐ『愛』を吸い取られるくせに!

「涼はよくここに来るのか?」
「ああ、ほぼ毎日来るよ。サクの家にはお風呂が無いからな。サタコちゃんは初めてかい?」
「初めてだが、広くてキレイで楽しいな。気に入ったぞ」
「サタコったら初めてなの~ん?    私が特別にレクチャーしてあげようかしら~ん?」

    ───、

 おいぃぃぃぃぃ!!    最後明らかにダメなヤツ混ざってんだろぉぉぉぉぉ!!    なんで誰も何も言わねぇぇんだよ!?

 欲望に耐えかねたのか、大吉が男湯の壁を登り始めた。器用に登ってくいその姿はある意味凄い。きっと前世は『カエル』だったに違いない。

「お、おい!   大吉、それはマズイって!」
「恭、膨らませるのは妄想だけでいいのか?    俺は嫌だぜ」
「何言ってんだよ!    いいから早く戻ってこい!」

 俺の声を無視し、僅かな出っ張りを頼りにどんどん登っていく。どうしてこうも俺の周りには、言う事を聞かない奴が集まってくるんだ。

 大吉が遂に壁の一番上に手をかけ、ニョキっと顔を出したその瞬間、パコーンっと顔面に風呂桶が命中!    女湯の方から投げ込まれたものだ。大吉はそのままドボーンと男湯に落下し、そしてプカプカと浮かび上がってくる。

「どうしたの?    シルシル」
「いいえ、なんでもありません。それよりサタコちゃんにちょっとお願いが──、」
「……………」
「うむ。わかった」

 俺が大吉を介抱していると、水面に沿って広範囲に渡り『鎌』の斬撃が飛んでくる!お仕置きだ。

 鎌の斬撃が二人を捉えたその直後、勢いよく銭湯の扉が開き、ゾロゾロと一面刺青に覆われた怖い人達が入ってきた。

「兄貴!    今日は貸し切りにしてありますんで、どうぞごゆっくり!!」

 えっ貸し切り!?    聞いてねぇんだけど──、

 俺と大吉は震えながら銭湯の隅で小さくなった。しかしここは銭湯。隠れる場所など無い。

「おう!    オメー等ぁ!!    今日は貸し切りにしてたんだがなぁ?    そこで何やってんだ?    あぁ!?」

 ドスの聞いた声に、膨らませるどころか縮み上がった俺達の息子。
    
    ダメだ……このままでは……なんとかしなくては。考えろ、考えるんだ!    佐藤恭!!

「あ、あの……俺達は、その『三助』なんですよ、そう!    三助!!」
「三助だぁ?    何を訳わかんねー事言ってんだ!!    ぶっ殺すぞ!!」
「ひえぇぇぇ……」

    もうダメだと思われたその時──、

「フォッホッホッ、成程成程。三助ねぇ。それではお願いするとしようかな、三助さん」

 諦めかけたその時、刺青をした男達の真ん中で、一際歳を取った男が口を挟んだ。
    三助とは、その昔背中を流す事を職業としていた人達の事で、今はもう幻の職とされている。勿論、この人は俺達が三助ではない事くらいは分かっている筈だ。

「若いのによく三助と名乗ったものだ。私の名前は獄門会の『虎谷  龍太郎』だ。今日はよろしく頼むよ、三助さん」

「「龍太郎さん!!」」

    刺青男達が口々に名前を呼ぶも、老人はそれを手で制し、俺達を庇ってくれた。

 その後俺達は、龍太郎の計らいで二十人近くいる刺青男達の背中を流す羽目になったのだが、近くで見るとかなり厳つい。これはスポンジで擦っても大丈夫な代物だろうか?    強く擦って血が出たり、色が消えたりしないか戦々恐々だった。

「おい!!」
「す、すみませんッッッ!!」
「なかなかうめぇじゃねぇか」
「あ、ありがとうございますッッッ!!」

    ビビりながらも、全てのヤクザの身体を洗い終えた俺達は、ボロボロの精神状態と、疲れきった体でようやく銭湯を後にした。

    出口では「遅かったな恭」とサタコ達が出迎えてくれたのだが、その含み笑いが実に憎らしい。

    くっそぉ、俺は何もやってねぇのに!

 その帰り道──、

「広くて気持ちよかったな!また行こうな恭!」
「ああ、今度は大吉抜きで行こうな……」
「サクが今度はダーリンと一緒に入りたいと言っておったぞ?」
「どっちでも入れるのぉぉぉ!?    便利な体だなぁぁおい!!」

    たまには皆で銭湯も悪くない。
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