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第二章【能力者狩り編】
涼とサク
しおりを挟む「知り合いなのか? シルシル」
「え、えぇ。幼馴染みの『雪水 涼』です。数年ぶりに会いました」
成程、幼馴染みねぇ。しかしやけにシルシルに気がある素振りだな。二人の関係が気になるな。
俺がやきもきした気持ちで雪水を見てると、雪水涼がそれに気づい様に会話を広げる。
「新しい彼氏か? こんな駄目そうな奴連れて歩いていたら、瑞の価値が下がっちゃうぜ?」
挑発気味に見下してくる雪水。
見た目はイケメンでも体は俺より一回り小さく、華奢な印象。
当然俺も強気になる。
「なんだと、この野郎ぉ」
「ふっ、本当の言葉を投げかけられて怒っているのかい?」
バチバチと火花が飛び散る!
「あ~ん! 一人の女を取り合うなんて~素敵ね~! もう食べちゃいたいわ~」
突然俺と雪水の間に割って入ったのは、ゴリマッチョの女の容姿をした男だった。つまり『オネエ』。
突然のオネエの登場に、サタコも嫌そうな顔を見せている。
まさか『オネエ』に対しても特別な体質とか持ってねぇだろうな。不安だぜ。
「サク、少し手伝ってくれ」
サクとはこのゴリマッチョの名前だろう。そして雪水の連れで間違いなさそうだ。
しかしこのゴリマッチョときたら、頭は坊主で紫。顔はハリウッド系で服装は露出多め(求めてない)ととんでもねぇな。
てかコイツなんだよ!マジで気が散るぅ! 嫌でも視界に入ってくるんですけど。
「恭! こいつは!」
「凶さん! 目を閉じて下さい!!」
──え?
サクの目がピカーンと光り、その光が俺の角膜に写り込む。その眩しさに俺は目を開けていられなかった。
────。
「あれ? なんで俺達争ってたんだっけ? そんな事より、雪水! お前はなんて可愛い奴なんだ! 俺の愛を受け取ってほしい!!」
俺は雪水の前で膝まづき、愛を語った。
雪水が愛おしくて堪らない……なんだろう、この気持ち……これが恋ってやつなのか。いやいや違う、これは──、
「やめろ気持ち悪い、俺はお前には興味等無い」
「それでも俺は諦めない! 恋の障害は大きければ大きい程に、ハードルは高ければ高い程に燃え上がるのだからぁ!!」
身体が勝手に動いた。脳は働いてはいるが、まるで自分のものじゃないようだ。
「サタコちゃん! これは!?」
「うむ。奴は『サキュバス』だな。雪水はお前等と同じく召喚士だ」
「涼ちゃんが召喚、士……」
「サキュバスの媒体は『愛』だ。愛を与える能力に、食料は召喚士の愛。恭は今無理やり愛を植え付けられておる」
「愛を!?」
おいぃぃぃぃ!! どうなってんだよ俺の体ぁぁ!? 頼むから言う事を聞いてくれ!
こんな人通りの多い所で、愛の告白とか有り得ねぇ!!!
しかも『男』に!? 恥ずかしすぎる!! でも──、
それでも愛を抑えきれねぇ!!
操られてるのはともかく、意識があるってのは辛すぎる。いっそ意識事消し去って欲しかった。
周りを見れば人だかりが出来ていて、このままでは恥ずかし死にしてしまうだろう。
「見ろ瑞。これがこの男の正体だ。いい加減に目を覚ませ」
「涼ちゃん! どうしてこんな事するんですか!? 早く凶さんを元に戻して下さい!」
「おや、もうバレたか。流石に召喚士相手では通じなかったかな。しかし、わかって欲しい。俺は、お前を守りたいんだ」
「居なくなった、くせに。未来が見える事で、気味悪がられた日々。大好きだった剣道を辞めた日。私が押し潰されそうになった時、涼ちゃんは傍に居なかったじゃないですか!? それを今更出てきて何なんですか?」
熱くなるシルシル。二人の間に一体何が? と言うか、早く俺の体を戻して欲しい。
大衆の面前で、男に愛の言葉を投げかけ続ける俺。しかも相手はガン無視……
辛すぎる。
「仕方が無かった。俺はある日、神社でサクと出会った。その日以来俺は人を愛する事が出来なくなったのさ。だから逃げた! はっきり言う、怖かったんだ!でももう──、」
「凶さんは……凶さんは逃げませんでした! 私が不安で押しつぶされそうな時、俺はお前を忘れないって! 俺が一生お前を守ってやるって言ってくれたんです!!」
え!? そんな事言ったっけな!? 言ったような言ってないような……いや言ってねぇぇぇ!! そんな事言ってねぇよ!?
「そんなにこの男の事が……?」
「私は……私は、凶さんの事が『好き』なんです!!」
──ズッキューーーン!!!
完全にハートを撃ち抜かれた!! 撃ち抜かれたというのに、何やってんだ俺の体ぁぁぁ!! それでも雪水への愛が抑えきれない!
「シルシル。恭を助けたくば、サキュバスを撃て。お前ならば容易く出来るはずだ。それとも私がやろうか?」
「いいえ、私がやります。私がケジメをつけなければならない事ですから」
そう言うと、シルシルは立て掛けてあった幟を手に取り、中段に構える。
「行きます」
サキュバスの能力は『魅了』相手の目を見詰める事で発動するのは分かっている。未来の見えるシルシルにとって、手の内のバレた相手等敵ではない。
スパーァン!とサキュバスの頭を撃ち抜き、一撃の元に切って落とした。
「いや~ん」と言う気持ちの悪い言葉と共に気絶するサキュバス。パートナーがサタコで良かったと初めて思った瞬間だった。
「くっ……それ程までの愛だとは」
膝を付き項垂れ、負けを認める雪水涼。
その瞬間俺の体は自由になり、サタコとシルシルが駆け寄ってくる。そして周りに集まった観衆からは暖かい拍手が巻き起こった。
「おめでとう!」
「感動したぞ!」
「よ、色男!」
ってなんだこれ! なんて寸劇でしょうか!?
恥ずかしさのあまり、俺達は場所を変え、裏道で話の纏めを行う事にした。
■■■■
「涼ちゃんゴメンなさい。私達、また仲良く出来ますよね?」
「瑞……約束する。もう邪魔はしない。これからは大人しく『女』として瑞に接する事にするよ」
──え?
「えぇ!? 雪水って女なの!?」
「気づかなかったのかい? こんなに可愛い男がいるか?」
信じられない。確かに物凄く綺麗な顔をしているが、振る舞い、喋り方、顔立ち。その全てが完璧なまでに男だ。
「それと……その……シルシルって俺の事が……」
「なな、なんの事ですか? わ、私も操られていたので、その……よく覚えていないんですが……」
「えぇぇぇ!? 覚えてないの!? ……それもそうか。少し言動がおかしかったもんなぁ……」
「しょ、召喚士だから多少は耐性があるようで、何とか勝ちましたけど……」
そうなのか? 確かに俺の意識も、完全には持って行かれなかったからな。
シルシルが俺の事を好きと言った事は、サキュバスによる操作だった──、か。
何だか最後に複雑な気分になったぜ……
その後目を覚ましたサキュバスは、お腹が空いたと言うと、雪水の首元にかぶりつき、愛を吸い取っていた。
傍から見たら完全に『BL』にしか見えなかったのが衝撃的で、俺の目に焼き付いて離れなかった。
「恭。私も腹が減った」
「朝食べたでしょぉぉぉ!?」
愛し続ける事の出来ない体、か。悪魔って奴は本当に適当な奴らだぜ。
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