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第二章【能力者狩り編】

一緒にお風呂

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 ■■■■

 七月某日。

「あづい。暑いぞ恭。」

 サタコがテーブルにベッタリと張り付き、ぐったりとしている。

「あんまり暑い暑い言うなよ……余計暑くなるだろうが……」

 俺は団扇で扇ぎながら、生気の無い声で注意する。とにかく暑い、今日は暑すぎた。まだ午前中だというのに、気温は三十五度を超える猛暑っぷりだ。

「異常気象なんじゃねぇか。これ、山形の夏より断然暑いぜ……」

 俺の育った山形は、東北にありながら暑い事で有名だ。あまり知られてはいないが、かつては日本の最高気温を保持していた程だ。

「シャワーでも浴びてスッキリするか……」

 俺はとめどなく滲み出る汗を流すために、お風呂場に向かいシャワーの蛇口を捻る。お湯は少なく、水の割合を増やした水を頭から被ると、火照った体が冷まされていく。

「くぅーっ、気持ちいいぜ!」

 水を止め、スポンジにボディーソープを含ませくまなく洗う。泡を流す前にシャンプーを手に出し、一気に頭を洗うとモコモコと泡立ち、爽やかな香りがお風呂場に充満する。

「恭。入ってもいいか」

 ドアの向こうからサタコの声がする。腹でも減ったのかな?

「ちょっと待ってくれ、飯なら上がったらすぐに食わせてやるから」

 風呂場に俺の声が響く。せっかく気持ちいいお風呂タイムを邪魔されてなるものか。

「そうではない。一緒にお風呂に入りたいと言ったのだ」

 ──え!?   今なんて……

 ガチャリと、ドアが開く。俺の心臓がバックンバックンと響きわたる。
 シャンプーの泡で見えないが、人の気配がする。それ以前に俺は振り返る事が出来なかった。

「お……おい」
「たまには良いではないか。契約者同士なんだ」

 サタコの気配が近づいてくるのが分かる。良いのか!?    契約者ってそういうもんなのか!?    契約にそれも含まれていたりするんですかぁぁ!?

 俺の真後ろで止まり、腰の辺りに手を回してくる。そして、俺の脚に絡みついてくるサタコの細い脚。二本の脚がボディーソープの泡で、ヌルリと擦れ合う。

 ──バクバクバクバク──

 俺の心臓の鼓動が新幹線並のスピードで脈打った。張り裂けるとはよく言ったものだが、まさにそんな感じで大きく動いている。

 おいおいおいおい、何だよこの状況は!?    サタコにとってこれが普通なのか!?    それとも魔界ではこういう文化があるのか!?

「あ……あの、サタコ、さん……?」

 俺の腰は、回されたサタコの細腕にグイッと引き寄せられる。すると、俺の背中にはムニッと小さな二つの弾力のある感触が──、

 ヤバイ……

 俺は完全に固まっていた。ボディーソープの泡は水に戻りポタポタと下に流れ落ちていく。

「なあ、恭。お前には好きな人がおるのか?」

 “俺の好きな人はいるか”、その質問に何人か顔が浮かんできた。
    ユキちゃんはアイドル並に可愛く、憧れの存在。
    シルシルは同じ契約者であり、一番心を開ける人間で、勿論見た目もかなりタイプだ。
    そして、サタコは──、サタコはなんだ──、

「サタコ……俺は、俺はサタコの事が……!!」


 ─────。
 ──。


 気がつけば俺はベッドの上にいた。それを覗き込むようにサタコの顔がある。近い、気を許せば唇が触れ合いそうだった。

「どうした恭。うなされておったぞ。暑さにでもやられたか?    情けないやつめ」

 ──ゆ、夢!?

 まさかの夢オチですか!?    それにしても、なんつう夢見ちゃってんだよ。
    これじゃまるでロリ──、じゃなくて、断じて俺にはそんな趣味はない。
    それにしても最後の質問。あの後俺はなんて言葉を返したのだろうか?    今となっては分からない。

    俺の好きな人、か──、

「何をブツブツ言っておる?   暑いからやめてくれ」

 俺はビクッとしながらも「おぉ、悪ぃ」と返した。

 ベッドから這い降り、背伸びをする。
     魘されていたせいで、大分汗をかいている。
    俺は、一度心と身体をリセットする為にシャワーを浴びることにした。

 お風呂場に来てシャワーの蛇口を捻る。冷水の割合を多くしたお湯は、火照った体を冷ましてくれる。

「くぅーっ、気持ちいいぜ!」

 と、その時──、

「恭。ちょっといいか?」

 ──ドキッ

 ま、まさか……デジャブ!?    いやタイムループか!?    
    はたまた正夢!?
    嬉し……じゃなくて、流石にマズイだろぉぉぉ!?

「ど……どうしたよ?」
「腹が減った」

 扉の向こうでサタコが返してきた言葉に、ホッと肩を落とす。

「上がったらすぐに食わせてやるから待ってろ」
「ダメだ。我慢出来ない。避けられたら我慢してやる」

 サタコがそう言うと、お風呂場のドアを貫通し鎌の斬撃が飛んでくる!

「マジかよ!!」

 斬撃をモロに受けてしまった俺を他所に、お腹が満たされたのか帰っていくサタコさん。
    その直後、さっきまではぬるま湯程の温度だった水が、グングン温度を上げお湯に変わるっていく。

「熱っちぃ!    熱い!   熱い!   熱い!」

 お湯を止めようと手を伸ばすも、熱さに負けて手が届かない。しかもお湯の湯気で視界は悪くなる一方だ。諦めて風呂場を後にしようとしたその瞬間、石鹸を踏み尻餅をつく!

「うおーっ!    痛ってぇぇ!    尻が割れたぁぁぁ!!   ってか熱っつー!!」

 ドタバタしながらなんとか風呂場を脱出し、脱衣所にあったタオルを腰に巻き付ける。

     今回ばかりは絶対に許さないと、怒り心頭のまま部屋へと戻る。

「おい!    サタコ!    待てって言っただろ!    なんで言う事を聞けないんだ!!」

 俺は開口一番サタコにお説教をした。しかし当のサタコは漫画を読みながらこう返す。

「悪かった。今度一緒にお風呂に入ってやるから許せ」

 ──ドキッン

「冗談だ。間に受けられても困る」

 だってさ。アハハ……はぁ。
    俺はやましさもあって、怒る気を一気に失った。
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