凶から始まる凶同生活!!

風浦らの

文字の大きさ
上 下
30 / 90
第二章【能力者狩り編】

大切な話

しおりを挟む
 
 いつものおちゃらけたサタコの姿では無い。真剣な眼差しで見つめてくるサタコ。

「恭。今から言うことは真面目な話だ」 
「な……なんだよ急に……」
「恭──、お前の願いはなんだ?」

 俺は思わずたじろぎ、サタコの求めている答えではないだろうと思いつつも、言葉を返す。

「わ、悪かったよ、お前の願いばかり見ちゃってよ、ひょっとして怒ってんのか?」

 足を止め、暗闇の中向かい合う。月明かりが二人を照らし出し、お互いの表情までが見てとれた。

「恭。そうではない。私にはお前の願いを叶える『義務』がある。初めて会った日のことを覚えているか?」
「初めて会った、日?」

 ──一つだけ願いを叶えてやろう──

「あ……」

 確かにそんな事を言っていた気がする。
 しかし、こんなチンチクリンな魔王に何が出来るのだろう?    俺はそんな感情から、そのことを自分の記憶から排除していた。

「そうだ。我々召喚された側は、召喚士の願いを叶える『義務』がある。そして、それを達成し戻った際には『ご褒美』が待っている。まぁ、ギブアンドテイクだな」
「それはわかった、けどよ?    そんな簡単に願いが叶えられんのかよ!?」
「そうだな。力の及ばない事も多々あるだろう。ケット・シーがいい例だな。あれは恐らく、シルシルの望んだ結末では無いだろう」

 久しぶりにサタコに恐怖を感じた。こんなに冷静で淡々と喋るサタコはいつぶりだろうか?    そして、契約に触れてくる辺り、まさに異世界から悪魔そのものだ。

「じゃ、じゃあなんで今まで黙ってたんだよ?    それに、お前なら願いをちゃんと叶えられるってのかよ!?」

 そうだ。いくら願いを叶えると言われても、意図しない方向に人生が傾いたらどうする。ならば“願いを言わない”、という選択肢も俺にはある筈。

「黙っていたのは、願いを叶える為には時間が必要だったからだ。それに言った筈だ。私は魔王だと。叶えられない願い等、そうそう無い」
「す、すげぇ自身だな……」

 普段のサタコを知っていれば、鵜呑みにする事など到底できない言葉の数々。

「疑っているのか?   では分かりやすく順を追って話そう」

    言い深く息を吐いた後、サタコは話し始める。

「時間がかかると言ったな。その理由はこうだ。『ラックドレイン』は私の栄養源だ。お前から運を刈り取り吸収している。しかしそれだけではない。私は、吸収した運を少しずつ貯め込んでいるのだ。それが今、ようやく願いが叶えられる程に溜まったのだ」

 お年玉を預かる母ちゃんみたいな奴だなと、シリアス場面なので心の中で叫んだ。

「そしてどんな願いも叶えられると言ったのは、その運を恭。お前の為に使えると言う点だ。お前に纏めて返すと言った方がしっくりくるかな?」

 俺は思わずゴクリと息を飲んだ……それは確かに最強だ。サタコと出会って約三ヶ月。三ヶ月分の幸運を纏めて使えるなら、確かにどんな願いでも叶いそうだ。

「そこまではわかった、それで因みに今どの位運が貯まってんだよ?」
「ふむ。そうだな。バームクーヘンで言ったら五十個位だな」

 ──え??

 俺の三ヶ月の不運の代償ってバームクーヘン五十個にしかならないの!?

「いやいやいやいや、流石に少なすぎんだろ!」
「まぁ、ザックリだ。もう少しあるかもしれん。さあ、願いはなんだ?    言ってみろ」

 俺は考えた。ここは大事なシリアス回だ、下手な答えは出せない。

 俺の願いはなんだ?
   『短冊』には、運が良くなりますようにと書いたが、果たしてバームクーヘン五十個の力で叶うのか?
    そもそも、運を使って運が良くなるとか、もはや意味わからねぇし……

「…………………」
「どうした?    早く言え」
「あの……その」
「ん?」
「もうちょっと貯めさせて下さいぃぃ!!」

 俺はバッと頭を下げ、大人になるまでお年玉は、母ちゃんが管理してくれとお願いした。

「それも良かろう」

    と短く言うと、サタコは再び歩き出し、家路を辿る。

「おっと、それともう一つ」
「んだよ。まだあんのかよ」
「私は甘い物が好きだと思われているかもしれないが、しょっぱい物も中々イケるぞ」
「それ今言わなきゃダメでしたかね」

 衝撃の事実を知った俺は、暫く動けなかったが、遠くで野良猫に追いかけ回されているサタコを見て、慌てて助けに向かった。

    ■■■■

 家に着くと、さっきまでのシリアスモードは何処へ行ったのか、布団の上にゴロンと寝転がり、漫画を広げ「フハハハッ」と一人笑い転げるサタコさん。

「どうした?    恭、もしかしてこの漫画、読みたかったのか?    すまんがあと十分待っててくれ」

 はぁ……俺の振り回されっ放しの『凶同生活』はまだまだ続きそうだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

処理中です...