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第二章【能力者狩り編】
大切な話
しおりを挟むいつものおちゃらけたサタコの姿では無い。真剣な眼差しで見つめてくるサタコ。
「恭。今から言うことは真面目な話だ」
「な……なんだよ急に……」
「恭──、お前の願いはなんだ?」
俺は思わずたじろぎ、サタコの求めている答えではないだろうと思いつつも、言葉を返す。
「わ、悪かったよ、お前の願いばかり見ちゃってよ、ひょっとして怒ってんのか?」
足を止め、暗闇の中向かい合う。月明かりが二人を照らし出し、お互いの表情までが見てとれた。
「恭。そうではない。私にはお前の願いを叶える『義務』がある。初めて会った日のことを覚えているか?」
「初めて会った、日?」
──一つだけ願いを叶えてやろう──
「あ……」
確かにそんな事を言っていた気がする。
しかし、こんなチンチクリンな魔王に何が出来るのだろう? 俺はそんな感情から、そのことを自分の記憶から排除していた。
「そうだ。我々召喚された側は、召喚士の願いを叶える『義務』がある。そして、それを達成し戻った際には『ご褒美』が待っている。まぁ、ギブアンドテイクだな」
「それはわかった、けどよ? そんな簡単に願いが叶えられんのかよ!?」
「そうだな。力の及ばない事も多々あるだろう。ケット・シーがいい例だな。あれは恐らく、シルシルの望んだ結末では無いだろう」
久しぶりにサタコに恐怖を感じた。こんなに冷静で淡々と喋るサタコはいつぶりだろうか? そして、契約に触れてくる辺り、まさに異世界から悪魔そのものだ。
「じゃ、じゃあなんで今まで黙ってたんだよ? それに、お前なら願いをちゃんと叶えられるってのかよ!?」
そうだ。いくら願いを叶えると言われても、意図しない方向に人生が傾いたらどうする。ならば“願いを言わない”、という選択肢も俺にはある筈。
「黙っていたのは、願いを叶える為には時間が必要だったからだ。それに言った筈だ。私は魔王だと。叶えられない願い等、そうそう無い」
「す、すげぇ自身だな……」
普段のサタコを知っていれば、鵜呑みにする事など到底できない言葉の数々。
「疑っているのか? では分かりやすく順を追って話そう」
言い深く息を吐いた後、サタコは話し始める。
「時間がかかると言ったな。その理由はこうだ。『ラックドレイン』は私の栄養源だ。お前から運を刈り取り吸収している。しかしそれだけではない。私は、吸収した運を少しずつ貯め込んでいるのだ。それが今、ようやく願いが叶えられる程に溜まったのだ」
お年玉を預かる母ちゃんみたいな奴だなと、シリアス場面なので心の中で叫んだ。
「そしてどんな願いも叶えられると言ったのは、その運を恭。お前の為に使えると言う点だ。お前に纏めて返すと言った方がしっくりくるかな?」
俺は思わずゴクリと息を飲んだ……それは確かに最強だ。サタコと出会って約三ヶ月。三ヶ月分の幸運を纏めて使えるなら、確かにどんな願いでも叶いそうだ。
「そこまではわかった、それで因みに今どの位運が貯まってんだよ?」
「ふむ。そうだな。バームクーヘンで言ったら五十個位だな」
──え??
俺の三ヶ月の不運の代償ってバームクーヘン五十個にしかならないの!?
「いやいやいやいや、流石に少なすぎんだろ!」
「まぁ、ザックリだ。もう少しあるかもしれん。さあ、願いはなんだ? 言ってみろ」
俺は考えた。ここは大事なシリアス回だ、下手な答えは出せない。
俺の願いはなんだ?
『短冊』には、運が良くなりますようにと書いたが、果たしてバームクーヘン五十個の力で叶うのか?
そもそも、運を使って運が良くなるとか、もはや意味わからねぇし……
「…………………」
「どうした? 早く言え」
「あの……その」
「ん?」
「もうちょっと貯めさせて下さいぃぃ!!」
俺はバッと頭を下げ、大人になるまでお年玉は、母ちゃんが管理してくれとお願いした。
「それも良かろう」
と短く言うと、サタコは再び歩き出し、家路を辿る。
「おっと、それともう一つ」
「んだよ。まだあんのかよ」
「私は甘い物が好きだと思われているかもしれないが、しょっぱい物も中々イケるぞ」
「それ今言わなきゃダメでしたかね」
衝撃の事実を知った俺は、暫く動けなかったが、遠くで野良猫に追いかけ回されているサタコを見て、慌てて助けに向かった。
■■■■
家に着くと、さっきまでのシリアスモードは何処へ行ったのか、布団の上にゴロンと寝転がり、漫画を広げ「フハハハッ」と一人笑い転げるサタコさん。
「どうした? 恭、もしかしてこの漫画、読みたかったのか? すまんがあと十分待っててくれ」
はぁ……俺の振り回されっ放しの『凶同生活』はまだまだ続きそうだ。
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