凶から始まる凶同生活!

風浦らの

文字の大きさ
上 下
24 / 90
第二章【能力者狩り編】

ぴよ吉

しおりを挟む
    ■■■■

   ある日の夜。

    買い物から帰ってくると、サタコが部屋の真ん中でうずくまっていた。

    「おーい、どした?    お腹でも痛いのか?    大丈夫かよ」

    いつもは走り回って出迎えてくれるのだが、今日は様子が違う。流石に少し心配になったので声を掛けてみたのだが、サタコからは思わぬ答えが返ってきた。

「おかえり。恭、悪いのだが私は今とても忙しいのだ。残念だが今日は構ってやれん」
「俺には忙しそうには見えねぇんだけど。それよりお前、お腹の下に何か隠してるだろ」
「ギクッ」

    当てずっぽうで言ってみたものの、サタコのお手本のような反応に俺は確信した。今度は何をやらかしてくれたのかと、話を聞く前から憂鬱だ。

「早く出せ。今なら怒らねぇから」
「ほ、本当か?」
「ああ」
「本当に本当だろうな?」
「本当に本当だ。どっちにしろ俺も早い方がいいからな」

    俺の方を伺いながら、サタコはお腹の下に手を突っ込み、ある物を取り出した。それは紛れも無く『生卵』だった。

「お前これをどこで手に入れたんだよ」
「そこの冷蔵庫からだ。沢山あったからな」
「……んで、なんでお腹の下に入れてるんだよ」
「恭、知らんのか?    卵を温めるとヒヨコという魔獣が産まれるのだぞ?     今日テレビで言ってた。間違いない」

    俺は言葉を失った。うちの魔王様がこんなに世間知らずだったとは。
    
「あのなサタコ。この卵はいくら温めてもヒヨコにはならねぇんだ。残念だけど、今日の晩御飯に使うから返してくれるかな」

    俺はサタコから卵を取り上げ、真実を告げた。サタコが声を上げ取り戻そうと飛びかかってくるのを手で制し、俺は台所へと向かう。

「恭!    ぴよ吉を返せ!」
「ぴ、ぴよ吉って、この卵に名前を付けてるのか!?    まだぴよぴよ言ってねぇのに!?     お前、蟻さん事件を忘れたわけじゃねぇよな?」
「いいから返せ!    鎌で切り刻むぞ!」

    俺はあまりのしつこさに、これだけは言いたくなかったが、最後の手段に出る。実はこの生卵、見れば既に少し割れているのだ。きっとサタコが温めている時に割れてしまったのだろう。仮にこれが本当にヒヨコが産まれる卵だったとしても、これでは可能性はゼロだ。それに割れた卵は痛みが早く、一刻も早く調理した方がいい。

「いいかサタコ、よく見ろ。ココ割れてるだろ?    これじゃあどうやっても──、」
「お、おお……」

    まるで子供の夢をぶち壊した気分になり、俺は少しバツが悪かった。

「おおぉ !    恭、早くこっちに渡せ」
「え?    しかしだな──、」
「もうすぐ生まれるぞ!    早く、早く渡すのだ!」
「でも、もう割れちゃってるし……」
「知らんのか恭。ヒヨコが生まれる時は、卵が割れるんだぞ。テレビでやってた」
「お前のテレビに対する信頼は絶大だな」

    その時のサタコの顔は、あまりにも純真無垢で、俺は心が傷んだ。
    俺という人間は、いつからこんなに現実的になってしまったのだろうか。
    子供のやっている事を応援し、失敗したらフォローする。それでいいじゃないか。
    ましてや、名前を付けるほど執着しているものを、サタコの前で食べるだなんて出来やしない。
    だから俺は、サタコにこの卵をあげる事にした。例え産まれなくても、気の済むまで温めさせてあげようと。

「そうか、もうすぐ産まれるのか。じゃぁ大切に温めるんだぞ。取り上げて悪かったな」
「わかってくれたか。頑張って温めて、ぴよ吉が生まれたら恭にも抱っこさせてやるからな」
「それは楽しみだな」

    それからサタコは再びお腹の下に卵を入れて、先程と同じ体勢で温め始めた。俺がご飯を食べている時も、お風呂から帰ってきた時も、俺が寝るまでずっと温めて続けた。

「おい、サタコ。そろそろ寝ねぇと明日起きれなくなるぞ」

    寝る前にサタコに声をかけるも、サタコは目を擦りながら「良いのだ」と返し、尚も卵を温め続けた。まぁ、そのうち飽きるだろうと俺は明日の学校の為に眠りについた。

    ────。
    ───。
    ──。
    ─。

    ドガーーンッ!!

    突然の爆発音に目が覚めた。直後に響くサタコの絶叫!

「ぴよ吉ィィィィ!!」

    俺は飛び起き、音のした方へと急いぐ。場所は台所だ。
    そこで目にしたのは、無惨に飛び散ったぴよ吉の姿だった。

「お、おま、これ……」
「恭ぉ……ぴよ吉が、ぴよ吉がぁぁ」

    ぴよ吉は、電子レンジを中心にバラバラに飛び散り、電子レンジ内はおろか、キッチンの壁にまで張り付いている。これを見たら大体の想像はつく。

「サタコさん」
「あのな恭。少し眠くなったので、もっと早く温める方法は無いかと思ってだな」
「だからってぴよ吉爆発させたらダメでしょうがぁ!!」

    注・電子レンジに生卵を入れてはいけません

   ったくしょうがねぇ。大切にしていた卵を自分の手で爆破させたんだ。落ち込んでねぇ筈ねぇからな。ここは保護者としてケアしてやるか。

「あのなサタコ。この卵は無精卵って言ってな、元々ヒヨコの産まれないタマゴなんだ。だからあんまり気にするな」
「ヒヨコの産まれない卵?」
「ん、あぁ。まあ、人間が食べる為に品種改良された卵だな。考えてみれば、俺達は色々な命の上に生きているんだ。だからサタコも食べ物を粗末にしたり、生き物を虐めたりしたらダメだぞ?」
「そうなのか」

    サタコには少し早かったか。とはいえもう八百歳、これぐらい教えておかないと、流石にまずいだろう。

   俺の言葉に俯くサタコさん。

「ならば──、ならば恭がぴよ吉を食べてやってくれ」
「お、俺がぁ!?」
「知っての通り、私が食べても栄養になることは無い。恭が食べてくれるならぴよ吉も本望だろう」

    それはごもっともな意見なのだがと、ぴよ吉の残骸を見詰める俺。

「うっ……」

    電子レンジの中は滅茶苦茶で、思わず喉の奥からこみ上げてきた。そんな俺を他所に壁に飛び散ったぴよ吉を掻き集めるサタコさん。

「それもですかぁぁ!?」
「当然だ。ぴよ吉の命を無駄にする事は私が許さん」
「元々おめぇが爆破したんだろうが!」
「ほら、出来たぞ。さぁ食べるのだ恭」

     お皿に盛られたぴよ吉。命の大切さを説いた手前、食べませんとは言い出せない。俺は心を決めてぴよ吉をスプーンですくい上げた。

「本当に食べるの?」
「無論だ。ぴよ吉は恭の中で生き続けるのだ」
「く……そうだ。お酢かけてもいいですかね。ちょっと味が無いと食べづらくて」

   確かお酢には殺菌作用があると聞いた事がある。焼け石に水かも知れないが、気持ち的にそっちの方が──、

「わがままなヤツめ。ほら」

    自分でかけると言うよりはやくサタコさんがドバドバとお酢を投入してくれた。

「うわぁぁ!   ちょと何してんのよぉぉ!!     シャッバシャバじゃねぇか!    なんて料理だよこれ!!」
「む、入れすぎたかな」
「入れすぎってレベルじゃねぇよ!   限界突破だよ!    最強のモンスター誕生しちゃったよ!」

    絶望する俺の隣で、さあ食えと言わんばかりに見つめてくるサタコさん。

   食えばいいんだろ食えば!   遅くなる程悪化していく気がするし、ここは一気に行く!    男、佐藤恭行きます!

「ズズズーー、ぶっはぁ!!」

    大量のお酢を吸い込みむせ返る。これはちょっと無理──、

「ぴよ吉……」
「いや、サタコさん」
「ぴよ吉……」
「ちょっとこれ」
「ぴよ吉……」

    俺は一時間かけて美味しくぴよ吉を平らげた。
    良い子の皆、食べ物は粗末にしたらダメだからね。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

処理中です...