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第二章【能力者狩り編】
最強の刺客
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■■■■
雨。雨。雨。雨。今日も雨。
梅雨入りしてからと言うもの毎日が雨続き。そんなある日の夕方。
「これでは洗濯物が乾かないではないか」
俺の白いTシャツを着たサタコがブー垂れている。サイズが大き過ぎるため、ダボッとした感じでトレードマークのワンピースに見えなくもない。
洗濯はサタコの日課だ。俺が居ない時間を見計らっては自ら自慢の一張羅を洗濯しているらしい。この魔王様は意外に綺麗好きなのだ。
今日は、お気に入りの漆黒のワンピースは部屋の中に干されている。尚、下着はと言うと──、
そう言えばサタコの下着って見たことないな。まさかノーパ……いやいや、考えるな! 止めるんだ佐藤恭! PTAにドヤされるぞ。いやしかし……気になる。
好奇心に負け、俺はわざと大きめに咳払いしサタコの気を引く。
「サタコってどんなパン……」
無理無理無理無理! これじゃただの変態じゃねぇか。
「パン?」
「どんなパン好きだっけ? ってあはは……」
「そうだな。この間食べた『鶯パン』が美味かったな」
「……成程な」
危うく『変態同居人』と言うレッテルが貼られる所だったぜ。よくぞ踏みとどまった佐藤恭。もう忘れよう。俺は至ってノーマルなんだし。小学生のパンツになんて興味が無い……
無い……と……思いま……
視線に飛び込んできたのはサタコの生脚。ワンピースより短いTシャツのせいで、普段見る事の出来ない“絶対領域”までもが露わになっている。そう、イッツア『太もも』!
──ゴクリッ
息を呑む程の脚線美だ。
透けるような白い肌に長い脚。
太ももの先にはいったいどんなワンダフルワールドが……
「おい恭!」
──ビクッ
「何をビクついておる。そこの本を取ってくれ」
「お、おぉ……別にビクついてなんてねぇよ」
言いながら言われた本を取り渡してあげる。サタコは「ふうん」と興味無さそうに返事をすると、ゴロリとうつ伏せになりながら漫画を読み始めた。
これは角度的にイケナイ角度だ。あと数センチで見えてしまう。あとほんの数センチで……
──ピンポーン──
チャイムに反応しビクッとなる俺。
それはたった今、自分が悪い事をしていると自覚があった証拠だ。
我ながら情けなくなる。
「誰だろ。来客なんて珍しいな」
誤魔化すように立ち上がり、玄関の扉を開く。
──ガチャ。
目の前に現れたのは最強の刺客。
歳は四十七歳。
茶がかったセミロングの髪に、厚めの化粧の下にあるパーツは、俺のそれとよく似ている。
そう──、
「母ちゃん!?」
どどどどどどどーーーする!? 不味いぞこれは不味い! パッと見、小学生と共同生活なんて知られたら親が泣くぞ!? いや泣くだけならまだいい。通報でもされたら、俺もサタコも人生終わりだぜ!!
取り敢えず入ってこようとする母ちゃんを、グイグイ外に押し出し『プライバシー』という、やましい事を連想させる言葉を使ってなんとか外に押し出す。
この際なんと思われてもいい。サタコさえ、サタコさえ見られなければなんとでもなる。
俺は母ちゃんを外で待たせ、慌てて部屋に戻るなりサタコに駆け寄り、小声で耳打ちをした。
「サタコ、悪いんだけど少しの間シルシルの家行っててくれ。後でバームクーヘン買ってやるから」
「本当か!?」
出費は痛いが必要経費だ。背に腹は変えられない。
「絶対に会ってはならない人が来た。奴は今玄関に居る。どうにか玄関を通らずこの部屋から脱出する方法を考えなきゃならねぇんだが……」
考え込む俺を他所に「お安い御用だ」と、サタコは玄関にある傘を取ると、今度は反対側に ある窓に寄り、窓枠に足をかける。そして窓を開けるなり迷うことなく飛び込んだ。
──え!?
「馬鹿! ここ二階だぞ!」
サタコを追いかけるように窓から身を乗り出すと、サタコのお気に入りの黄色い傘が花開く。
一センチ浮いているという魔法が効いているのか、音もなく、ましてや水溜りに波紋一つ残さず着地を決めるサタコさん。そしてそのまま手を振りシルシルの家の方に駆けていく。
俺はそれを見届けた後、ホッと息を漏らし、何事も無かったかの様に母ちゃんを部屋に招き入れた。
「どどどうしたんだよ、急に……」
「親戚の真理ちゃんっていたでしょ? 今日はあの子の結婚式だったのよ。ついでに恭の顔でも見てやろうと思ってね!」
「ったく連絡も無しに来んなよな!こっちにだって都合ってもんが……」
「やましい事でもあるのかい? そういう所はお父さんそっくりね」
久しぶりの親子の会話だが何だかギクシャク。やましい事があるのだから仕方が無い。
「あ、そうそう。今日はここに泊まっていくから」
──えぇぇぇ!!?
「わ、わかった、ゆっくりしていってよ……ははっ」
これ以上は逆効果だと悟り、精一杯笑顔を作って答えたが、果たして上手く笑えていただろうか。
「と、取り敢えず何も無いから買出しに行ってくるよ! 母ちゃんはここで待ってて!」
俺は、その場を離れる口実を無理やり作り、携帯と傘を持って外に飛び出した。
■■■■
「という訳なんだよ。頼む! 今夜だけサタコを預かってくれないかな?」
電話の相手は唯一俺の事情を知る仲間、シルシルだ。
「凶さんの頼みなら仕方がありませんね。私がサタコちゃんを責任もって預かりましょう」
「ありがとう! 埋め合わせは必ずするから! サタコが悪い事したら叱っていいから! 何かあったらすぐ電話頂戴!」
「うふふっ、心配性ですね。いい保護者を持ってサタコちゃんは幸せ者ですね」
電話を切り、適当に買い物を済ませ家に帰る。
しかし俺は一つ大きなミスを犯していた。それは、家に帰るなり母ちゃんにされた質問で初めて気づいた。
「恭、このワンピースはなんだい?」
干されたサタコの“悪魔ちゃんワンピース”を指差し聞いてくる。
「俺がコスプレで着るんだよ……ハハハ……変な趣味持ってゴメンナサイ……」
「いいけど、人様に迷惑かけるんじゃないよ?」
ズーーン……
俺の心はボロボロだ。雨の音がやけに大きく聞こえる。そんな最悪の土曜日でした。
雨。雨。雨。雨。今日も雨。
梅雨入りしてからと言うもの毎日が雨続き。そんなある日の夕方。
「これでは洗濯物が乾かないではないか」
俺の白いTシャツを着たサタコがブー垂れている。サイズが大き過ぎるため、ダボッとした感じでトレードマークのワンピースに見えなくもない。
洗濯はサタコの日課だ。俺が居ない時間を見計らっては自ら自慢の一張羅を洗濯しているらしい。この魔王様は意外に綺麗好きなのだ。
今日は、お気に入りの漆黒のワンピースは部屋の中に干されている。尚、下着はと言うと──、
そう言えばサタコの下着って見たことないな。まさかノーパ……いやいや、考えるな! 止めるんだ佐藤恭! PTAにドヤされるぞ。いやしかし……気になる。
好奇心に負け、俺はわざと大きめに咳払いしサタコの気を引く。
「サタコってどんなパン……」
無理無理無理無理! これじゃただの変態じゃねぇか。
「パン?」
「どんなパン好きだっけ? ってあはは……」
「そうだな。この間食べた『鶯パン』が美味かったな」
「……成程な」
危うく『変態同居人』と言うレッテルが貼られる所だったぜ。よくぞ踏みとどまった佐藤恭。もう忘れよう。俺は至ってノーマルなんだし。小学生のパンツになんて興味が無い……
無い……と……思いま……
視線に飛び込んできたのはサタコの生脚。ワンピースより短いTシャツのせいで、普段見る事の出来ない“絶対領域”までもが露わになっている。そう、イッツア『太もも』!
──ゴクリッ
息を呑む程の脚線美だ。
透けるような白い肌に長い脚。
太ももの先にはいったいどんなワンダフルワールドが……
「おい恭!」
──ビクッ
「何をビクついておる。そこの本を取ってくれ」
「お、おぉ……別にビクついてなんてねぇよ」
言いながら言われた本を取り渡してあげる。サタコは「ふうん」と興味無さそうに返事をすると、ゴロリとうつ伏せになりながら漫画を読み始めた。
これは角度的にイケナイ角度だ。あと数センチで見えてしまう。あとほんの数センチで……
──ピンポーン──
チャイムに反応しビクッとなる俺。
それはたった今、自分が悪い事をしていると自覚があった証拠だ。
我ながら情けなくなる。
「誰だろ。来客なんて珍しいな」
誤魔化すように立ち上がり、玄関の扉を開く。
──ガチャ。
目の前に現れたのは最強の刺客。
歳は四十七歳。
茶がかったセミロングの髪に、厚めの化粧の下にあるパーツは、俺のそれとよく似ている。
そう──、
「母ちゃん!?」
どどどどどどどーーーする!? 不味いぞこれは不味い! パッと見、小学生と共同生活なんて知られたら親が泣くぞ!? いや泣くだけならまだいい。通報でもされたら、俺もサタコも人生終わりだぜ!!
取り敢えず入ってこようとする母ちゃんを、グイグイ外に押し出し『プライバシー』という、やましい事を連想させる言葉を使ってなんとか外に押し出す。
この際なんと思われてもいい。サタコさえ、サタコさえ見られなければなんとでもなる。
俺は母ちゃんを外で待たせ、慌てて部屋に戻るなりサタコに駆け寄り、小声で耳打ちをした。
「サタコ、悪いんだけど少しの間シルシルの家行っててくれ。後でバームクーヘン買ってやるから」
「本当か!?」
出費は痛いが必要経費だ。背に腹は変えられない。
「絶対に会ってはならない人が来た。奴は今玄関に居る。どうにか玄関を通らずこの部屋から脱出する方法を考えなきゃならねぇんだが……」
考え込む俺を他所に「お安い御用だ」と、サタコは玄関にある傘を取ると、今度は反対側に ある窓に寄り、窓枠に足をかける。そして窓を開けるなり迷うことなく飛び込んだ。
──え!?
「馬鹿! ここ二階だぞ!」
サタコを追いかけるように窓から身を乗り出すと、サタコのお気に入りの黄色い傘が花開く。
一センチ浮いているという魔法が効いているのか、音もなく、ましてや水溜りに波紋一つ残さず着地を決めるサタコさん。そしてそのまま手を振りシルシルの家の方に駆けていく。
俺はそれを見届けた後、ホッと息を漏らし、何事も無かったかの様に母ちゃんを部屋に招き入れた。
「どどどうしたんだよ、急に……」
「親戚の真理ちゃんっていたでしょ? 今日はあの子の結婚式だったのよ。ついでに恭の顔でも見てやろうと思ってね!」
「ったく連絡も無しに来んなよな!こっちにだって都合ってもんが……」
「やましい事でもあるのかい? そういう所はお父さんそっくりね」
久しぶりの親子の会話だが何だかギクシャク。やましい事があるのだから仕方が無い。
「あ、そうそう。今日はここに泊まっていくから」
──えぇぇぇ!!?
「わ、わかった、ゆっくりしていってよ……ははっ」
これ以上は逆効果だと悟り、精一杯笑顔を作って答えたが、果たして上手く笑えていただろうか。
「と、取り敢えず何も無いから買出しに行ってくるよ! 母ちゃんはここで待ってて!」
俺は、その場を離れる口実を無理やり作り、携帯と傘を持って外に飛び出した。
■■■■
「という訳なんだよ。頼む! 今夜だけサタコを預かってくれないかな?」
電話の相手は唯一俺の事情を知る仲間、シルシルだ。
「凶さんの頼みなら仕方がありませんね。私がサタコちゃんを責任もって預かりましょう」
「ありがとう! 埋め合わせは必ずするから! サタコが悪い事したら叱っていいから! 何かあったらすぐ電話頂戴!」
「うふふっ、心配性ですね。いい保護者を持ってサタコちゃんは幸せ者ですね」
電話を切り、適当に買い物を済ませ家に帰る。
しかし俺は一つ大きなミスを犯していた。それは、家に帰るなり母ちゃんにされた質問で初めて気づいた。
「恭、このワンピースはなんだい?」
干されたサタコの“悪魔ちゃんワンピース”を指差し聞いてくる。
「俺がコスプレで着るんだよ……ハハハ……変な趣味持ってゴメンナサイ……」
「いいけど、人様に迷惑かけるんじゃないよ?」
ズーーン……
俺の心はボロボロだ。雨の音がやけに大きく聞こえる。そんな最悪の土曜日でした。
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