20 / 90
第二章【能力者狩り編】
ユキちゃん
しおりを挟む
■■■■
月が変わって六月。
俺は大学生活にも慣れてきて、友達も増え、大学は俺にとって居心地のいい場所へと変わっていた。
「恭くん!」
一日の授業を終え、帰る準備をしていた俺に話しかけてきたのはユキちゃんだ。茶髪のロングヘアーをクルクルと指で弄りながら何やら言いたげな様子。
「どうしたの?」
「今日、一緒に帰らない?」
──!!
はい、来ました。遂に俺にもやって来ましたよ! 日本は六月、梅雨入り待ったナシでも俺の人生は立春待ったナシだぜ!
「もちろん! 俺で良ければいつでも一緒に帰るけど?」
「本当!? 嬉しい……!」
ユキちゃんはホッとした表情を浮かべていた。彼女なりに勇気を出して誘ってくれたのだろう。女の子の方から誘わせるだなんて、俺も男としてまだまだだ。
ともあれ、俺は地上に舞い降りたエンジェルことユキちゃんと一緒に帰宅する事になった。
一緒に帰るとは、一緒に行くともまた違った喜びがある。普段、悪魔と生活している俺から言わせてもらえば、なんとも言えない極上の癒しだった。
楽しい時間もあっという間。ユキちゃんの家があるのは、帰る方向は一緒でも、途中からお互いが反対に曲がらなければならない。
「ユキちゃん、家あっちだよね? せっかくだから送っていくよ。」
別れ道に差し掛かったところでユキちゃんを気遣う俺。男子たるもの紳士で無ければならない。
「本当!? じゃ……お願いしちゃおっかな……」
少し申し訳なさそうな仕草を見せたが、素直に甘えてくるユキちゃん。
くぅーっ可愛いぜ!
だが現実は時に非常なものだ。
特に俺に至っては、人よりその頻度が高い。
角を曲がった所でコンチニワ。俺の悪運が発動。
クソッ、こんな時に……
出迎えてくれたのは──、
丸顔で全体的に丸いフォルムの男と、四角い顔でガッチリした四角いフォルムの二人組。
見るからに悪そうだ……
「ケケケケケッ待ってたよぉぉぉユキちゃぁぁん」
知り合いか? こんな見た目悪そうな奴らと知り合いなのか? 人は見かけによらないとはこの事か。
四角男がゆきちゃんに話しかけているのを見てそう思ったが、どうやらそうでは無かった。
「恭くん、黙っててごめんなさい……私。最近この人達にしつこくされてて……」
俯きながら事情を話してくれるユキちゃん。手はギュッと握られていて、そうとう怖かったのだろうと見て取れる。
黙っていたとは言え、そんなユキちゃんを見て助けないわけにはいかない。
何が人は見かけに寄らねぇだ。
俺のエンジェルを付け回す悪党共が!
許さねぇ!
そう──、俺は “運は無くても心まで無い男じゃねぇ” からな!
「おい、ユキちゃんを付け回してんのか? 嫌がってんのが分かんねぇのかよ?」
正直怖い。メチャクチャ怖い。
視線は定まらず、脚なんかはご覧の通りだ。
だけど、ビビったらそれこそ相手の思う壷。
ここはハッタリ張りまくりで張り倒す!!
「なんだぁ、てめぇは? こんな美女独り占めしていいと思ってんのかァ? 学校で習わなかったんですか?『独占禁止法』ってやつを──、よっ!!!」
──ッ!!
「ぐはぅっ」
深々と俺の溝落ちにめり込んだ四角男の右腕が、俺の悲痛な声を吐き出させた。
ヤベェ……ハッタリ張る前に張り倒されちまっ──、
すかさず丸男の蹴りが飛んでくる!!溝落ちに入ったパンチのせいで呼吸が止まっているため身体が動いてくれない。
当然躱せる訳もなく、蹴りを顔面にモロに受け、転がるように派手に吹っ飛ぶ俺。
「ケケケケッ大した事ねぇのにイキがってっからだよ!」
追い打ちをかけるように唾を吐きかけられ、更に腹に蹴りを食らう。呼吸が止まり、最早声すら出ない。脳が揺れて意識はあるが、体が動いてくれない。
「待……よ……聞いて……け、俺の……バック……は……」
「おやおやぁ? まだやられたりねぇってか? 俺弱いものいじめは嫌いなんだよ──なぁ!」
「ぐぇはッ」
絞り出る声すら惨めだ。完全完敗、不運な男にヒーローは務まらなかった。
せめてユキちゃんだけでも──、
「卑怯よ! あなた達って、本っ当に最低ね!!」
パシンッ──!
乾いた音。
朦朧とした意識の中で見た光景。
殴られたのは──、ユキちゃん。
「ギャーギャー言ってんじゃねぇぇよ!大人しく俺達に付いてくりゃいーんだよ! あ?」
殴られ動揺するユキちゃんの腕を、無理矢理引っ張り連れて行く丸男と四角男。
「いい廃ビルが、あんだよぉ……そこで一緒にいいことしよぉぉぜぇぇ?」
こんのゲス野郎ぉぉぉぉぉ!!
思いとは裏腹に俺の体はピクリとも動かない。なんて情けない姿だろうか。俺がこんな体質だからユキちゃんが──、
■■■■
あれから何分経っただろうか。
いつしか周りは雨に濡れ、その景色を一変させていた。
俺の立春は、時を進め一瞬にして梅雨前線に陥っていた。
「クソッ早く行かねぇと……」
呼吸が整いようやく体も動くようになった。
ブロック塀に寄りかかりながら、なんとか立ち上がる。
口元からは真っ赤な血。
鉄の味がするってのは本当だった。
「アイツら……何処へ……絶対に許さねぇ」
俺の怒りは頂点に達していた。雨に濡れる事など大した事では無い。
と思ったが、俺の周りだけ雨が降っていない……何故だ……
「恭。怒りで周りが見えなくなってはダメだぞ」
聞き覚えのある声にハッとなり振り返る。
そこに居たのは目いっぱい手を伸ばし俺に傘をさしてくれているサタコが居た。
「サタコ……なんで……」
「雨が降ってきたのでな。迎えに来てやったぞ」
「サタコぉ……なんでぇ……」
何故だか涙が出てきた。いや、頬を伝うそれは雨だったのかも知れない。
「力を……力を貸してくれないか……ユキちゃんが、ピンチなんだ」
「世話の焼ける家畜だな。まぁいいだろう。私にとってもユキは友達だ」
「ほ、本当か!? ありが、とう。恩に着る」
「お前──、いや。恭はいつも私を助けてくれるからな」
■■■■
俺達は走り出していた。アテはある。最後に四角男が言っていたあの言葉。
“いい廃ビルがあるんだよ”
町は広い、探せば廃ビルなんていくらでもあるだろう。しかし真っ先に思いついたのが『警察官に囲まれた廃ビル』だった。まずはそこに向かう。
それにしても──、
「おい! サタコ! もうちょっと傘上げてくんない!?」
サタコの身長からして傘の位置が低すぎる為、屈みながら走る俺。正直しんどい!
「無理だ。これ以上は手が上がらん」
「だったら傘を俺によこせ!!」
「これは私の傘だ。嫌なら出ていけ」
「いや、俺の傘だから!俺が買った傘だから!!」
「どうやら元気になった様だな」
■■■■
廃ビルに着いた……
外は曇っているため想像以上に中は薄暗い。
だが時は一刻をあらそう。
俺達は、注意深く足を奥へと運んでいく。
「…………」
小さいが微かに声が聞こえる。ビンゴだ。俺にもまだ多少の運はあったようだ。
気づかれない様に、声のする方へ進んで行くと、懐中電灯が三本上向きに立てられ当たりを照らしている。その光の中に見たものは──、
「こんのゲス野郎どもぉぉぉ!!ユキちゃんから離れろ!!」
着ていた服は脱がし散らかされ、下着姿で震えるユキちゃん。その周りを取り囲む様に丸男と四角男。肩から掛けられている筈のブラジャーの紐は切断されている。ナイフだろうか。
「アレレェ? 誰かと思ったらイキガリ君じゃねぇぇかよぉぉぉ。もしかして仲間に入りたかったのかなぁ? ケケケケケケケケケッ!!」
相も変わらずゲスな笑い声を発する奴だ。こいつらだけは許さねぇ……
ズルだチーターだ言われたって知ったこっちゃねぇ!!
「なぁサタコ。マジョリんがズルより嫌いなもの、知ってっか?」
「愚問だな恭。何回全巻読んだと思っておる」
俺は「やれ」と、サタコに指示をする。サタコが俺に従い構えると、常人には見えない鎌が錬成されていく。
「私が嫌いな物は『ズル』でも、もっと嫌いなものは『ゲス野郎』よ! 覚悟しなさい! マジョリんパウワー!! エグゼンティボーーー!!」
流石だな。台詞ならず動きまでもが完コピだけ。
サタコが魔女っ子マジョリんの名シーンを熱演しながら鎌を振り抜いた!
「なんだぁ? このちびっこいのは? もうちょっと成長したら可愛がってやんぜぇぇぇケケケケケケケケケッ!」
「ハァハァ……おではこの位幼い方が興奮するんだなぁ……ハァハァ」
二人は斬られた事すら気づかない。勝負ありだ。最後までゲス野郎だった二人には、同情の余地などない。
ゲス野郎二人は俺目掛けて飛びかかって来る。しかし──、暗がりで何か大きめの『缶』のような物にぶつかり転倒し、中身をぶちまけながら仲良く派手にすっ転んだ。
「あーあ。ツイて無いねー、二人さん。この液体『瞬間接着剤』だってよ」
俺は缶拾い上げ、ラベルをコンコンと叩きならが床に張り付いた二人に説明してさしあげる。
「クソッ……なんだこれ取れねぇぇぇぇ!!」
「おでにくっつくなよ! またくっついちまうだろ!」
床と二人は最早一心同体。
可愛そうだから助けを呼んでやるか。俺は “運はなくても心まで無い男” じゃねぇからな。
「もしもし? あ、警察ですか? ちょっと強姦魔を捕まえたんで、引き取って欲しくて電話したんですけど……商店街近くの廃ビルです。あ、はい。お願いします」
俺がピッと携帯を切ると、恨めしそうな目で見てくる二人。
「よかったな。すぐに迎えに来てくらるってよ」
「クソッ、やりやがったなぁ!」
俺は何もやってない。二人は勝手に転んだだけだ。しかし彼等の不運は終わらない。二人切ったのだ、当然といえば当然か。
積まれてあった鉄のパイブが突如崩れ雪崩のように転がってくる。勿論、俺とサタコは避ける。あんなのが当たったら痛いからな。
「おいおいおいおいマジかよぉぉぉぉ!!!!」
──ドンガラカッシャーン!!!
「うわぁ……痛ったそぉ……」
その後二人は駆けつけた警察官達により現行犯逮捕され、ユキちゃんは保護され事情聴取される事になった。
別れ際ら赤くなった顔で「助けに来てくれてありがとう」って、言ってくれた。俺は心底助けられてよかったと思った。
株が上がったとかどうとかより、ユキちゃんが助かった。それだけが嬉しかった。
「サタコ、ありがとうな」
「うむ。バームクーヘン三百個位で手を打とう」
「もうちょいまけてくんない?」
月が変わって六月。
俺は大学生活にも慣れてきて、友達も増え、大学は俺にとって居心地のいい場所へと変わっていた。
「恭くん!」
一日の授業を終え、帰る準備をしていた俺に話しかけてきたのはユキちゃんだ。茶髪のロングヘアーをクルクルと指で弄りながら何やら言いたげな様子。
「どうしたの?」
「今日、一緒に帰らない?」
──!!
はい、来ました。遂に俺にもやって来ましたよ! 日本は六月、梅雨入り待ったナシでも俺の人生は立春待ったナシだぜ!
「もちろん! 俺で良ければいつでも一緒に帰るけど?」
「本当!? 嬉しい……!」
ユキちゃんはホッとした表情を浮かべていた。彼女なりに勇気を出して誘ってくれたのだろう。女の子の方から誘わせるだなんて、俺も男としてまだまだだ。
ともあれ、俺は地上に舞い降りたエンジェルことユキちゃんと一緒に帰宅する事になった。
一緒に帰るとは、一緒に行くともまた違った喜びがある。普段、悪魔と生活している俺から言わせてもらえば、なんとも言えない極上の癒しだった。
楽しい時間もあっという間。ユキちゃんの家があるのは、帰る方向は一緒でも、途中からお互いが反対に曲がらなければならない。
「ユキちゃん、家あっちだよね? せっかくだから送っていくよ。」
別れ道に差し掛かったところでユキちゃんを気遣う俺。男子たるもの紳士で無ければならない。
「本当!? じゃ……お願いしちゃおっかな……」
少し申し訳なさそうな仕草を見せたが、素直に甘えてくるユキちゃん。
くぅーっ可愛いぜ!
だが現実は時に非常なものだ。
特に俺に至っては、人よりその頻度が高い。
角を曲がった所でコンチニワ。俺の悪運が発動。
クソッ、こんな時に……
出迎えてくれたのは──、
丸顔で全体的に丸いフォルムの男と、四角い顔でガッチリした四角いフォルムの二人組。
見るからに悪そうだ……
「ケケケケケッ待ってたよぉぉぉユキちゃぁぁん」
知り合いか? こんな見た目悪そうな奴らと知り合いなのか? 人は見かけによらないとはこの事か。
四角男がゆきちゃんに話しかけているのを見てそう思ったが、どうやらそうでは無かった。
「恭くん、黙っててごめんなさい……私。最近この人達にしつこくされてて……」
俯きながら事情を話してくれるユキちゃん。手はギュッと握られていて、そうとう怖かったのだろうと見て取れる。
黙っていたとは言え、そんなユキちゃんを見て助けないわけにはいかない。
何が人は見かけに寄らねぇだ。
俺のエンジェルを付け回す悪党共が!
許さねぇ!
そう──、俺は “運は無くても心まで無い男じゃねぇ” からな!
「おい、ユキちゃんを付け回してんのか? 嫌がってんのが分かんねぇのかよ?」
正直怖い。メチャクチャ怖い。
視線は定まらず、脚なんかはご覧の通りだ。
だけど、ビビったらそれこそ相手の思う壷。
ここはハッタリ張りまくりで張り倒す!!
「なんだぁ、てめぇは? こんな美女独り占めしていいと思ってんのかァ? 学校で習わなかったんですか?『独占禁止法』ってやつを──、よっ!!!」
──ッ!!
「ぐはぅっ」
深々と俺の溝落ちにめり込んだ四角男の右腕が、俺の悲痛な声を吐き出させた。
ヤベェ……ハッタリ張る前に張り倒されちまっ──、
すかさず丸男の蹴りが飛んでくる!!溝落ちに入ったパンチのせいで呼吸が止まっているため身体が動いてくれない。
当然躱せる訳もなく、蹴りを顔面にモロに受け、転がるように派手に吹っ飛ぶ俺。
「ケケケケッ大した事ねぇのにイキがってっからだよ!」
追い打ちをかけるように唾を吐きかけられ、更に腹に蹴りを食らう。呼吸が止まり、最早声すら出ない。脳が揺れて意識はあるが、体が動いてくれない。
「待……よ……聞いて……け、俺の……バック……は……」
「おやおやぁ? まだやられたりねぇってか? 俺弱いものいじめは嫌いなんだよ──なぁ!」
「ぐぇはッ」
絞り出る声すら惨めだ。完全完敗、不運な男にヒーローは務まらなかった。
せめてユキちゃんだけでも──、
「卑怯よ! あなた達って、本っ当に最低ね!!」
パシンッ──!
乾いた音。
朦朧とした意識の中で見た光景。
殴られたのは──、ユキちゃん。
「ギャーギャー言ってんじゃねぇぇよ!大人しく俺達に付いてくりゃいーんだよ! あ?」
殴られ動揺するユキちゃんの腕を、無理矢理引っ張り連れて行く丸男と四角男。
「いい廃ビルが、あんだよぉ……そこで一緒にいいことしよぉぉぜぇぇ?」
こんのゲス野郎ぉぉぉぉぉ!!
思いとは裏腹に俺の体はピクリとも動かない。なんて情けない姿だろうか。俺がこんな体質だからユキちゃんが──、
■■■■
あれから何分経っただろうか。
いつしか周りは雨に濡れ、その景色を一変させていた。
俺の立春は、時を進め一瞬にして梅雨前線に陥っていた。
「クソッ早く行かねぇと……」
呼吸が整いようやく体も動くようになった。
ブロック塀に寄りかかりながら、なんとか立ち上がる。
口元からは真っ赤な血。
鉄の味がするってのは本当だった。
「アイツら……何処へ……絶対に許さねぇ」
俺の怒りは頂点に達していた。雨に濡れる事など大した事では無い。
と思ったが、俺の周りだけ雨が降っていない……何故だ……
「恭。怒りで周りが見えなくなってはダメだぞ」
聞き覚えのある声にハッとなり振り返る。
そこに居たのは目いっぱい手を伸ばし俺に傘をさしてくれているサタコが居た。
「サタコ……なんで……」
「雨が降ってきたのでな。迎えに来てやったぞ」
「サタコぉ……なんでぇ……」
何故だか涙が出てきた。いや、頬を伝うそれは雨だったのかも知れない。
「力を……力を貸してくれないか……ユキちゃんが、ピンチなんだ」
「世話の焼ける家畜だな。まぁいいだろう。私にとってもユキは友達だ」
「ほ、本当か!? ありが、とう。恩に着る」
「お前──、いや。恭はいつも私を助けてくれるからな」
■■■■
俺達は走り出していた。アテはある。最後に四角男が言っていたあの言葉。
“いい廃ビルがあるんだよ”
町は広い、探せば廃ビルなんていくらでもあるだろう。しかし真っ先に思いついたのが『警察官に囲まれた廃ビル』だった。まずはそこに向かう。
それにしても──、
「おい! サタコ! もうちょっと傘上げてくんない!?」
サタコの身長からして傘の位置が低すぎる為、屈みながら走る俺。正直しんどい!
「無理だ。これ以上は手が上がらん」
「だったら傘を俺によこせ!!」
「これは私の傘だ。嫌なら出ていけ」
「いや、俺の傘だから!俺が買った傘だから!!」
「どうやら元気になった様だな」
■■■■
廃ビルに着いた……
外は曇っているため想像以上に中は薄暗い。
だが時は一刻をあらそう。
俺達は、注意深く足を奥へと運んでいく。
「…………」
小さいが微かに声が聞こえる。ビンゴだ。俺にもまだ多少の運はあったようだ。
気づかれない様に、声のする方へ進んで行くと、懐中電灯が三本上向きに立てられ当たりを照らしている。その光の中に見たものは──、
「こんのゲス野郎どもぉぉぉ!!ユキちゃんから離れろ!!」
着ていた服は脱がし散らかされ、下着姿で震えるユキちゃん。その周りを取り囲む様に丸男と四角男。肩から掛けられている筈のブラジャーの紐は切断されている。ナイフだろうか。
「アレレェ? 誰かと思ったらイキガリ君じゃねぇぇかよぉぉぉ。もしかして仲間に入りたかったのかなぁ? ケケケケケケケケケッ!!」
相も変わらずゲスな笑い声を発する奴だ。こいつらだけは許さねぇ……
ズルだチーターだ言われたって知ったこっちゃねぇ!!
「なぁサタコ。マジョリんがズルより嫌いなもの、知ってっか?」
「愚問だな恭。何回全巻読んだと思っておる」
俺は「やれ」と、サタコに指示をする。サタコが俺に従い構えると、常人には見えない鎌が錬成されていく。
「私が嫌いな物は『ズル』でも、もっと嫌いなものは『ゲス野郎』よ! 覚悟しなさい! マジョリんパウワー!! エグゼンティボーーー!!」
流石だな。台詞ならず動きまでもが完コピだけ。
サタコが魔女っ子マジョリんの名シーンを熱演しながら鎌を振り抜いた!
「なんだぁ? このちびっこいのは? もうちょっと成長したら可愛がってやんぜぇぇぇケケケケケケケケケッ!」
「ハァハァ……おではこの位幼い方が興奮するんだなぁ……ハァハァ」
二人は斬られた事すら気づかない。勝負ありだ。最後までゲス野郎だった二人には、同情の余地などない。
ゲス野郎二人は俺目掛けて飛びかかって来る。しかし──、暗がりで何か大きめの『缶』のような物にぶつかり転倒し、中身をぶちまけながら仲良く派手にすっ転んだ。
「あーあ。ツイて無いねー、二人さん。この液体『瞬間接着剤』だってよ」
俺は缶拾い上げ、ラベルをコンコンと叩きならが床に張り付いた二人に説明してさしあげる。
「クソッ……なんだこれ取れねぇぇぇぇ!!」
「おでにくっつくなよ! またくっついちまうだろ!」
床と二人は最早一心同体。
可愛そうだから助けを呼んでやるか。俺は “運はなくても心まで無い男” じゃねぇからな。
「もしもし? あ、警察ですか? ちょっと強姦魔を捕まえたんで、引き取って欲しくて電話したんですけど……商店街近くの廃ビルです。あ、はい。お願いします」
俺がピッと携帯を切ると、恨めしそうな目で見てくる二人。
「よかったな。すぐに迎えに来てくらるってよ」
「クソッ、やりやがったなぁ!」
俺は何もやってない。二人は勝手に転んだだけだ。しかし彼等の不運は終わらない。二人切ったのだ、当然といえば当然か。
積まれてあった鉄のパイブが突如崩れ雪崩のように転がってくる。勿論、俺とサタコは避ける。あんなのが当たったら痛いからな。
「おいおいおいおいマジかよぉぉぉぉ!!!!」
──ドンガラカッシャーン!!!
「うわぁ……痛ったそぉ……」
その後二人は駆けつけた警察官達により現行犯逮捕され、ユキちゃんは保護され事情聴取される事になった。
別れ際ら赤くなった顔で「助けに来てくれてありがとう」って、言ってくれた。俺は心底助けられてよかったと思った。
株が上がったとかどうとかより、ユキちゃんが助かった。それだけが嬉しかった。
「サタコ、ありがとうな」
「うむ。バームクーヘン三百個位で手を打とう」
「もうちょいまけてくんない?」
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる