凶から始まる凶同生活!!

風浦らの

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第二章【能力者狩り編】

ユキちゃん

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 ■■■■

 月が変わって六月。

 俺は大学生活にも慣れてきて、友達も増え、大学は俺にとって居心地のいい場所へと変わっていた。

「恭くん!」

 一日の授業を終え、帰る準備をしていた俺に話しかけてきたのはユキちゃんだ。茶髪のロングヘアーをクルクルと指で弄りながら何やら言いたげな様子。

「どうしたの?」
「今日、一緒に帰らない?」

 ──!!

 はい、来ました。遂に俺にもやって来ましたよ!    日本は六月、梅雨入り待ったナシでも俺の人生は立春待ったナシだぜ!

「もちろん!    俺で良ければいつでも一緒に帰るけど?」
「本当!?    嬉しい……!」

 ユキちゃんはホッとした表情を浮かべていた。彼女なりに勇気を出して誘ってくれたのだろう。女の子の方から誘わせるだなんて、俺も男としてまだまだだ。

 ともあれ、俺は地上に舞い降りたエンジェルことユキちゃんと一緒に帰宅する事になった。
    一緒に帰るとは、一緒に行くともまた違った喜びがある。普段、悪魔と生活している俺から言わせてもらえば、なんとも言えない極上の癒しだった。

 楽しい時間もあっという間。ユキちゃんの家があるのは、帰る方向は一緒でも、途中からお互いが反対に曲がらなければならない。

「ユキちゃん、家あっちだよね?    せっかくだから送っていくよ。」

 別れ道に差し掛かったところでユキちゃんを気遣う俺。男子たるもの紳士で無ければならない。

「本当!?    じゃ……お願いしちゃおっかな……」

 少し申し訳なさそうな仕草を見せたが、素直に甘えてくるユキちゃん。

    くぅーっ可愛いぜ!

 だが現実は時に非常なものだ。
    特に俺に至っては、人よりその頻度が高い。
    角を曲がった所でコンチニワ。俺の悪運が発動。

 クソッ、こんな時に……

 出迎えてくれたのは──、
 丸顔で全体的に丸いフォルムの男と、四角い顔でガッチリした四角いフォルムの二人組。
    見るからに悪そうだ……

「ケケケケケッ待ってたよぉぉぉユキちゃぁぁん」

 知り合いか?    こんな見た目悪そうな奴らと知り合いなのか?    人は見かけによらないとはこの事か。

 四角男がゆきちゃんに話しかけているのを見てそう思ったが、どうやらそうでは無かった。

「恭くん、黙っててごめんなさい……私。最近この人達にしつこくされてて……」

 俯きながら事情を話してくれるユキちゃん。手はギュッと握られていて、そうとう怖かったのだろうと見て取れる。
 黙っていたとは言え、そんなユキちゃんを見て助けないわけにはいかない。

    何が人は見かけに寄らねぇだ。
    俺のエンジェルを付け回す悪党共が!
    許さねぇ!
    そう──、俺は “運は無くても心まで無い男じゃねぇ”  からな!

「おい、ユキちゃんを付け回してんのか?    嫌がってんのが分かんねぇのかよ?」

 正直怖い。メチャクチャ怖い。
    視線は定まらず、脚なんかはご覧の通りだ。
    だけど、ビビったらそれこそ相手の思う壷。
    ここはハッタリ張りまくりで張り倒す!!

「なんだぁ、てめぇは?    こんな美女独り占めしていいと思ってんのかァ?    学校で習わなかったんですか?『独占禁止法』ってやつを──、よっ!!!」

 ──ッ!!

「ぐはぅっ」

    深々と俺の溝落ちにめり込んだ四角男の右腕が、俺の悲痛な声を吐き出させた。

 ヤベェ……ハッタリ張る前に張り倒されちまっ──、

 すかさず丸男の蹴りが飛んでくる!!溝落ちに入ったパンチのせいで呼吸が止まっているため身体が動いてくれない。
    当然躱せる訳もなく、蹴りを顔面にモロに受け、転がるように派手に吹っ飛ぶ俺。

「ケケケケッ大した事ねぇのにイキがってっからだよ!」

 追い打ちをかけるように唾を吐きかけられ、更に腹に蹴りを食らう。呼吸が止まり、最早声すら出ない。脳が揺れて意識はあるが、体が動いてくれない。

「待……よ……聞いて……け、俺の……バック……は……」
「おやおやぁ?    まだやられたりねぇってか?    俺弱いものいじめは嫌いなんだよ──なぁ!」
「ぐぇはッ」

   絞り出る声すら惨めだ。完全完敗、不運な男にヒーローは務まらなかった。
   せめてユキちゃんだけでも──、

 「卑怯よ!    あなた達って、本っ当に最低ね!!」

    パシンッ──!

    乾いた音。  
    朦朧とした意識の中で見た光景。
    殴られたのは──、ユキちゃん。

「ギャーギャー言ってんじゃねぇぇよ!大人しく俺達に付いてくりゃいーんだよ!    あ?」

 殴られ動揺するユキちゃんの腕を、無理矢理引っ張り連れて行く丸男と四角男。

「いい廃ビルが、あんだよぉ……そこで一緒にいいことしよぉぉぜぇぇ?」

 こんのゲス野郎ぉぉぉぉぉ!!

 思いとは裏腹に俺の体はピクリとも動かない。なんて情けない姿だろうか。俺がこんな体質だからユキちゃんが──、


 ■■■■

 あれから何分経っただろうか。
 いつしか周りは雨に濡れ、その景色を一変させていた。 
    俺の立春は、時を進め一瞬にして梅雨前線に陥っていた。

「クソッ早く行かねぇと……」

 呼吸が整いようやく体も動くようになった。
    ブロック塀に寄りかかりながら、なんとか立ち上がる。
    口元からは真っ赤な血。
    鉄の味がするってのは本当だった。

「アイツら……何処へ……絶対に許さねぇ」

 俺の怒りは頂点に達していた。雨に濡れる事など大した事では無い。
 と思ったが、俺の周りだけ雨が降っていない……何故だ……

「恭。怒りで周りが見えなくなってはダメだぞ」

 聞き覚えのある声にハッとなり振り返る。
 そこに居たのは目いっぱい手を伸ばし俺に傘をさしてくれているサタコが居た。

「サタコ……なんで……」
「雨が降ってきたのでな。迎えに来てやったぞ」
「サタコぉ……なんでぇ……」

 何故だか涙が出てきた。いや、頬を伝うそれは雨だったのかも知れない。

「力を……力を貸してくれないか……ユキちゃんが、ピンチなんだ」
「世話の焼ける家畜だな。まぁいいだろう。私にとってもユキは友達だ」
「ほ、本当か!?   ありが、とう。恩に着る」
「お前──、いや。恭はいつも私を助けてくれるからな」

 ■■■■

 俺達は走り出していた。アテはある。最後に四角男が言っていたあの言葉。

 “いい廃ビルがあるんだよ”

 町は広い、探せば廃ビルなんていくらでもあるだろう。しかし真っ先に思いついたのが『警察官に囲まれた廃ビル』だった。まずはそこに向かう。

 それにしても──、

「おい!    サタコ!    もうちょっと傘上げてくんない!?」
  
 サタコの身長からして傘の位置が低すぎる為、屈みながら走る俺。正直しんどい!

「無理だ。これ以上は手が上がらん」
「だったら傘を俺によこせ!!」
「これは私の傘だ。嫌なら出ていけ」
「いや、俺の傘だから!俺が買った傘だから!!」
「どうやら元気になった様だな」

 ■■■■

 廃ビルに着いた……
 外は曇っているため想像以上に中は薄暗い。
    だが時は一刻をあらそう。
    俺達は、注意深く足を奥へと運んでいく。

「…………」

 小さいが微かに声が聞こえる。ビンゴだ。俺にもまだ多少の運はあったようだ。
 気づかれない様に、声のする方へ進んで行くと、懐中電灯が三本上向きに立てられ当たりを照らしている。その光の中に見たものは──、

「こんのゲス野郎どもぉぉぉ!!ユキちゃんから離れろ!!」

 着ていた服は脱がし散らかされ、下着姿で震えるユキちゃん。その周りを取り囲む様に丸男と四角男。肩から掛けられている筈のブラジャーの紐は切断されている。ナイフだろうか。

「アレレェ?    誰かと思ったらイキガリ君じゃねぇぇかよぉぉぉ。もしかして仲間に入りたかったのかなぁ?    ケケケケケケケケケッ!!」

 相も変わらずゲスな笑い声を発する奴だ。こいつらだけは許さねぇ……
 ズルだチーターだ言われたって知ったこっちゃねぇ!!

「なぁサタコ。マジョリんがズルより嫌いなもの、知ってっか?」
「愚問だな恭。何回全巻読んだと思っておる」

 俺は「やれ」と、サタコに指示をする。サタコが俺に従い構えると、常人には見えない鎌が錬成されていく。

「私が嫌いな物は『ズル』でも、もっと嫌いなものは『ゲス野郎』よ!    覚悟しなさい!    マジョリんパウワー!!    エグゼンティボーーー!!」

 流石だな。台詞ならず動きまでもが完コピだけ。

    サタコが魔女っ子マジョリんの名シーンを熱演しながら鎌を振り抜いた!

「なんだぁ?    このちびっこいのは?   もうちょっと成長したら可愛がってやんぜぇぇぇケケケケケケケケケッ!」
「ハァハァ……おではこの位幼い方が興奮するんだなぁ……ハァハァ」

 二人は斬られた事すら気づかない。勝負ありだ。最後までゲス野郎だった二人には、同情の余地などない。

 ゲス野郎二人は俺目掛けて飛びかかって来る。しかし──、暗がりで何か大きめの『缶』のような物にぶつかり転倒し、中身をぶちまけながら仲良く派手にすっ転んだ。

「あーあ。ツイて無いねー、二人さん。この液体『瞬間接着剤』だってよ」

 俺は缶拾い上げ、ラベルをコンコンと叩きならが床に張り付いた二人に説明してさしあげる。

「クソッ……なんだこれ取れねぇぇぇぇ!!」
「おでにくっつくなよ!    またくっついちまうだろ!」

 床と二人は最早一心同体。

    可愛そうだから助けを呼んでやるか。俺は “運はなくても心まで無い男” じゃねぇからな。

「もしもし?   あ、警察ですか?   ちょっと強姦魔を捕まえたんで、引き取って欲しくて電話したんですけど……商店街近くの廃ビルです。あ、はい。お願いします」

 俺がピッと携帯を切ると、恨めしそうな目で見てくる二人。
「よかったな。すぐに迎えに来てくらるってよ」
「クソッ、やりやがったなぁ!」

 俺は何もやってない。二人は勝手に転んだだけだ。しかし彼等の不運は終わらない。二人切ったのだ、当然といえば当然か。

 積まれてあった鉄のパイブが突如崩れ雪崩のように転がってくる。勿論、俺とサタコは避ける。あんなのが当たったら痛いからな。

「おいおいおいおいマジかよぉぉぉぉ!!!!」

 ──ドンガラカッシャーン!!!

「うわぁ……痛ったそぉ……」

 その後二人は駆けつけた警察官達により現行犯逮捕され、ユキちゃんは保護され事情聴取される事になった。

 別れ際ら赤くなった顔で「助けに来てくれてありがとう」って、言ってくれた。俺は心底助けられてよかったと思った。
 株が上がったとかどうとかより、ユキちゃんが助かった。それだけが嬉しかった。

「サタコ、ありがとうな」
「うむ。バームクーヘン三百個位で手を打とう」
「もうちょいまけてくんない?」

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