凶から始まる凶同生活!!

風浦らの

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第一章【出会い編】

図書館捜索

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    ■■■■

 ──ピピピピッピピピピッ──

 携帯のアラームで目が覚める。時間は朝の七時。俺は背伸びをして起き上がると、カーテンを開き朝の光を浴びる。
 今日から学校だ。
 運の無さにもなれ始め、俺は気持ちを新たに勉学に励むと誓っていた。
  

「おい、サタコ起きろ……っておぃぃぃ!!    また足をフィギュアの棚につっこんでるぅぅぅ!!」

 そんなギャグみたいな事は一回でいいんだよ!    それなのにコイツときたら。俺のフィギュアに親でも殺されたんか!    

 サタコの足をどかし、せっせとフィギュアを拾い集め、今回は壊れてはいないみたいだ。と、安心し立ち上がった瞬間だった──、

 ──パキっ……

「NOぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「五月蝿いぞ恭、朝からいったい……ハッ!……『ルル』ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 とまぁ朝から酷い目にあった。
 そのあと怒り狂ったサタコに問答無用でラックドレインされた俺は、ビクビクしながら登校する事に。

    ■■■■


 ──危なーい!──


 危険を知らせる声に、振り向くまもなく俺の頭にテニスボールが直撃した。

「お……痛てて……」

 幸い威力が弱かった為大事には至らず、「すみませーん」と謝る少年に笑顔で大丈夫と答える。
    そう、少年は何も悪くない。悪いのは『運の悪い俺』なのだ。
 “テニスボールは当たるべくして俺に当たった”、ただそれだけだ。

 ってそんな人生嫌だぁぁぁ!!
    
    心の叫びを吐き出した俺に、癒しの声が降り注ぐ。

「あ、凶さんおはようございます」

 癒しボイスの正体はシルシルだ。学校への道のりがほぼ一緒だから、これからは必然的に会う回数も増えそうだ。

「ボールぶつかってたみたいですけど……大丈夫ですか?」
「ああ、日常茶飯事だよ。気にしてたら佐藤恭としては生きていけないレベルにな」
「そうなんですかぁ!?」

    手を口に当てて驚いたシルシル。まだ出会って日が浅い為、彼女が知らないのも無理はない。

「なあ、シルシルはサタコの能力知ってるのかな?」
「ええ勿論です。確か、“運を吸い取る能力”とお聞きしています。もしかしてそれが原因でテニスボールが?」
「まぁそういう事だ──」

 ──バシッ。

 俺の頭の後ろで音がする。
    見ると、シルシルがテニスボールを見事にキャッチしているではないか……
 当たるべくして当たる筈だったテニスボール。
    シルシルの『未来視』によって阻止された。
    それはつまり──、

「ま、まただ……また未来が変わった……運命が、ねじ曲げられた……」
「私が居たら安心ですね!」

 眩しい笑顔を浮かべるシルシル。
    確かにこれは凄い事だ。が、事はそんなに甘くない。

「とっても心強い事に間違いは無いんだけど、俺の運の悪さは『物理』に限った事じゃないからね。離れた場所、俺に関係する物。何でもありなのさ。」

 それは数々の不運が証明している。それに、不運にシルシルを巻き込むわけにはいかない。

「そうなんですか。せっかく凶さんのお役に立てると思ったのに……」

 少し不満そうにし、足元の小石を蹴飛ばす。そんなシルシルもなかなか可愛い……

 その後再三のピンチをシルシルに救われ学校に到着。着くなり大吉に会う。これも悪運なのかと、そんな失礼な考えも浮かんだが。

「おう。大吉おはよう!」
「おー、シルシルおはよう!    あと恭も。なんだ一緒だったのか?」
「俺はオマケか!    道が一緒でさっき偶然会ったんだよ」

 挨拶と何気ない話を終え、講義の時間が迫ったので席につく。
 もうすぐ講義が始まると言うのに、どうしても俺の視線が教室の端っこの方に行ってしまう。
 春も中盤を過ぎたというのに真っ黒なワンピース。
    顔を隠すようにフードを頭から被せているが、悪魔のフード。
    オマケに裸足。
    そして何より小さい、小さすぎる。

「アイツ……!」

 サタコが学校に付いてきやがった。朝の事まだ怒っているのか!?    いやいや、あれは元々俺の物だ。それに元はと言えばサタコのせいであんな惨劇が起きたんじゃねぇか。

    俺はフードに近づき声をかけた。勿論確信があっての事だ。

「サタコさん?    ちょっといいかな?」

 謎の黒ワンピースの前に立ち顔を覗き込む。なんのびっくり落ちも無くそれは『サタコ』だった。謎でもなんでも無かったというオチだ。

 サタコを教室から連れ出し、取り敢えず事情を聴取する。サタコをいきなり叱りつけるのはあまり効果が無い。

「おい、サタコなんで学校に付いてきたんだ?」
「それは……GWが……って恭が居な……ったら……その、寂…………なった」

 サタコの声が小さくてよく聞き取れない。

「え?   なんだって?」
「恭が居なくなって寂びしいと言ったのだ!」

 ──ズッキューーン!!

 なんだこれは……急に胸が痛くなったぞ!?    悪魔の魔術か!?   落ち着け佐藤恭!    とにかく落ち着くんだ。

 とそこへ、動揺する俺に助け舟が。

「やっぱりサタコちゃんだったんですね」

 シルシルが心配になり駆けつけてくれたのだ。

「そうなんだよ、サタコの奴付いてきちゃったみたいなんだよ。参ったぜ」
「丁度いいです。それでは今日、皆で例の図書館に行きませんか?」

 成程、今日なら確かに都合がいいな。またサタコを連れてくるのも面倒だし……よし。

「サタコ、今日図書館に行くけど一緒に来るか?」
「仕方あるまい。ついて行こう」

 何が仕方ないんだか、これまたわかり易く嬉しそうな顔をしてからに。

「じゃ、十四時になったら俺らも図書館に行くから、お前は先に行ってろ。あそこは一般開放されてる筈だから、お前が居ても大丈夫だろう」

    シルシルの提案に「わかった」と言って、サタコは跳ねるようにキャンパスから少し離れた図書館に向かった。
 それを窓から見下ろしながら見ていたのだが、途中カラスに襲われるサタコを見て少し健気に思えた。
    きっと来る時も猫とかに襲われたんだろうなと思うと、少し健気だ。

 ■■■■

 無事に授業が終わり、俺とシルシルは図書館に向かう。
 図書館の前に着くと、その大きさに驚いた。ヨーロッパのお城を思わせる外観で、恐らく三階建てであろうか。横幅もかなり大きい。図書館と言うよりは、有名貴族の邸宅だ。

「こんな物が大学にあったなんて知らなかった……」
「凄いですよね!    なんかワクワクしますね!」

 図書館に入ると、中は真紅の絨毯で埋め尽くされ、綺麗に間隔を開けられた本棚がビッシリと並んでいた。
 そして意外だったのは、サタコがちゃんと待っていた事だ。てっきり迷子になってベソをかいてるのを想像していたから驚きだ。

「遅いぞ、恭」
「へいへい、すみませんでした」
「では、これだけ広いですから『召喚』に纏わる記述の本を手分けして探しましょう。携帯が無いサタコちゃんは、凶さんと離れないで下さいね」

 こうして召喚本の捜索が開始された。
 それにしてもかなり広い。ここから探し出すのか──、
    どうしたものか……


 ■■■■


 手分けして二時間程かけて探したが、それらしいものが見当たらない。
 少し恥ずかしいが、司書さんに聞くのが一番早いか。

「あのー、召喚に関する本を探しているんですが、この図書館に有りますか?」
「召喚ねぇ……確かあの棚の一番左上に、そんな感じの本があったような……」
「本当ですか!?    ありがとうございます!!」

 お礼を言ってその本棚に向かう。初めから司書さんに聞いておけばよかった。

     ええっと、一番上、一番上……高いな……どうやっても届きそうにねぇぞ。

 サタコの提案で、俺はサタコを肩に乗せて取るように試みる。も、後少しのところで届かない。

「うーん……もうちょっと」と、必死に手を伸ばすサタコさん。痺れを切らし、距離を伸ばそうと俺の肩の上に立ち上がった。

「おい馬鹿!    危ねぇって!」

 バランスは最悪。そしてサタコのパンツが……みえ──、

「取ったー!!……うわぁうわ!」

 バランスを崩し俺の真上に落ちてきたサタコさん。

「痛ててて……」
「恭!    何故しっかり支えておらんのだ!!」
「いや、もうちょっとで見え──、じゃなくて、いきなり肩の上に立つやつが居るかぁ!」

 そんなこんなで無事に召喚本をゲット。

「えーとなになに?    タイトル『正しい召喚の行い方』作者『風浦らの』……なんか嘘くせぇ本だな。取り敢えずシルシルを呼ぶか」

 俺はシルシルを携帯で呼び出し、三人で机に置いた本を囲んだ。

「これが召喚本ですか。なんかドキドキしますね!」
「ええっと……俺達が知りたいのは、魔界への返し方だから──、っと。ここだ!」

 目次を開き、そこから『召喚後の返し方』を見つけ出す。そしてほかのページには目もくれずそのページを開くと──、

 ──こ、これは!

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