凶から始まる凶同生活!

風浦らの

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第一章【出会い編】

GW最終日

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   ■■■■

「あぁ……金が無ぇ……」

 財布をひっくり返して見るものの出てくるのは小銭ばかり。
 今日はGW最終日。皆と遊ぶ約束をしていたのに、急な出費の連続により我が家は金欠状態に陥っていた。
 まだ月初だって言うのに。
    運に金が絡んで来るのだとしたら、俺の人生は……あぁ、考えたくもない。

「そんな暗い顔をするな恭。無いなら増やせばいい」

 カップ麺に手から出したお湯を注ぎながらサタコが無茶を言ってくる。
 それにしても手からお湯がこんな所で役に立つとは、さながら人間ポットだ。

「あのなぁ、この世界ではお金は貴重な物なの!   おいそれと手に入るものじゃねぇんだよ!」

    サタコに悪気が無いのは分かっているが、人間金に余裕が無いと心にも余裕が無くなるものなのか。俺は少しカリカリしていた。

 ──ピンポーン──

 家のチャイムが鳴り響く。
    まさか変な勧誘ではないだろうなとドアを開けると、そこに立っていたのは──、

「よー恭!    貧乏学生してるかー?」
「恭君こんにちわ。ここが恭君の家かぁ。へぇ」
「凶さんこんにちは。死にかけてると聞いたもので、来ちゃいました」

 いつもの大吉、幸、瑞の大層な名前トリオだった。

「おお、今日はごめんな。急に出費があってさ。せっかく誘ってくれたのに、金が無くて行けなくなっちまって……」

 頭を指でポリポリと掻きながら三人を出迎える。
    流石に金が無いなんて恥ずかしいからな。

「大丈夫大丈夫!    気にすんな。ほらよ、これでも食って命をつなぎ止めろ!」

 そう言って大吉が差し出してきたのは、大きなスーパーの袋だ。中にはギッシリとお菓子やらカップラーメンやらが入っていた。それらは今の俺にとっては金銀財宝よりも輝いて見えた。

「おお!    マイフレンド!   助かるわぁ!」

 俺がそう言って大吉をきつくきつく抱きしめると「気持ち悪ぅ」とか言って顔を手でグイッと押しのける。
     それでも擦り寄る俺達のやり取りに、その場に笑いが起きた。

「まぁ上がってくれよ。何も無い部屋だけど、それなりに労わないと失礼ってもんだろ?」

 俺は皆を家に上げると、一人暮らし用の小さなテーブルを囲むように座ってもらった。そして、サタコにお茶を出すよう言うが──、

「何で私がやらなければならないのだ?」

 と断られる。今のサタコはそれどころではない。大吉の買ってきた『お菓子』に興味津々、色々物色しながら、一つ一つ取り出して目を輝かせている。

「コラ、食べるんじゃないぞサタコ!」

 叱りつけると「わかっておる」と不貞腐れる。

 まあ、お客様にサタコの手湯で煎れたお茶なんか、飲ますわけにはいかないか。

 俺はキッチンに向かいお湯を沸かし、お茶を煎れる準備を始めた。

「わぁ。凄いですね、この本!」
「このフィギアもう売ってねーんだよなー」
「あ、私このアニメ知ってるー!」

 俺のオタクコレクションを見てるのだろうか、なんだか騒がしい。気になりチラリと覗いてみると……

「そしてこれが『魔女っ子マジョリん』だ。異世界からやって来たマジョリんが、悪と戦うお話なのだ。そしてここが恭の机だ。パソコンは自由に使っても良いが、この引き出しには鍵がかかってて開かないのだが、絶対何か隠していると私は思っている」
「ってなーにやってるんだ!!」

 俺は引き出しをガタガタ揺さぶるサタコの頭を、スリッパで引っ叩いた。
    スパーン!     といい音が響き、サタコが頭を抑え恨めしそうに俺を見ると、ほのぼのとした笑いが起きた。

 お茶を出し終わり一息つく。そして会話は明日から始まる学校の話題に。

「GWもあっという間だったなぁ。明日から学校かぁ」
「そうですね、でもでも、大学楽しくないですか?」
「まぁ、好きな事を学べるってのは魅力的だよなぁ。でも、まだ入って日が浅いから、人間関係が面倒臭せーかな」

 大吉でもそんな風に思うのか。誰にでも人懐っこくて、尻尾を降る犬みたいな奴だと思っていたから意外だ。

「そう言えば皆さんは、大学の図書館には行きましたか?    うちの大学の図書館って、東京都でも有数の数揃えてるみたいなんですよ」

 シルシルが興味深そうに図書館をプレゼンしてくる。

    図書館か……召喚に関する記述とか探しに行こうと思っていたが、うちの大学にそんな大きな本棚があったとは。

「そうなんだ!?    私、今度行ってみようかな!    調べ物とかするには持ってこいだよね!」
「一般開放されているから、サタコちゃんも一緒にどうですか?    好きですよね?    本」

 ちょ、シルシルさん。余計な事言わないでくれますか!?    サタコを連れて行くという事が、どんな事かわかってますか!?

「そんなに沢山本があるのか?    なかなか興味深いな。ならば、今度一緒に行こうではないか」

 サタコが何故か真面目な顔をして言っている。普段は漫画しか読まないくせに、博識ぶってるのか。しかし、シルシルは「わぁ!」っと喜び、そのまま約束を取り付けた。

 サタコと出かけるのは疲れるんだよな……俺が。

 その後、買ってきたお菓子を摘みながら、二時間ほど五人でお喋りをした。出会って間もない五人だが、会話は途切れることなく弾み、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

 夕方になると、明日から学校という事もあり、皆は早々に帰宅する。
    大吉とユキちゃんは見送ったのだが、シルシルはなぜか帰らなかった。

    やがて大吉とユキちゃんが見えなくなると、シルシルはおもむろに胸に手を当てTシャツの襟元をグイッと下げた。オドロキで目を逸らそうとしても、その見かけによらず豊満な胸に嫌でも目が行ってしまう。

「凶さん。やっと二人っきりになりましたね」

 ──な!?

 なんだなんだ!?    この状況はよぅ!?    まさか、境遇が似たもの同士でいつの間にか恋に発展するパターンか!?    いいのか、いいのか見ても……ではお言葉に甘えて──、

 恐る恐る真っ白で柔らかそうな胸を覗き込もうとしたその瞬間、胸とTシャツの間からニョキっと『白猫』が顔を出す。ケット・シーだ。

 こんのクソ猫がぁぁぁぁぁ!!見えねぇじゃねぇかよぉぉ!    テメェなんつーファンタジーゾーンから顔だしてやがんだぁぁ!!    

「読者に謝れよぉぉ!」
「ど、どうしたんですか!?    凶さん」
「ごめん。心の声が。気にしないで」

    俺は平静を保ち、普段を装いケット・シーの頭をチョンと叩くと、何事も無かったかの様に話しかけた。

「居たのか?    全然気づかなかったけど」
「俺様は常に瑞と一緒に居るんだぜ?    当たり前だろ」

 それはお風呂も一緒ですか?   と聞こうと思ったが、流石に自重する。

「んで。要件はなんだ?    話があるからわざわざ残って顔を出したんだろ?」

 俺はわざとらしく小指で耳を掻く仕草をとり、早く要件を言えと催促する。未だにシルシルの胸が頭から離れないのだ。

「要件って程じゃねーんだがよ。最近、猫達の間で妙な噂を耳にするもんでよ、お前らも他人事じゃねーから教えといてやろうと思ってよ」

 なんだこいつ、見かけ通り猫のコミュニティー築いてやがんのか?    便利そうだけど、似合いすぎてて笑えるぜ。

「それで?    どんな噂だよ」
「なんでも、『能力者狩り』って事件があったみたいでよ。つってもまだ一件だし、能力者ってのが、俺らを指す言葉なのかは分からねーから、ハッキリとは言えないんだが……ま、一応気をつけろや」

 俺は息を飲んだ。
 そんな事考えもしなかった。確かに、こんな珍しい能力があるならば、とっ捕まえて研究したり、悪用する奴らが出てきてもおかしくない。俺達にもその危険は充分すぎる程ある。

「能力者狩り、ね……わかった気をつけるよ!    サンキュ、ケット・シー」

 俺は顎に手を当て考え込んだ姿勢をとった後、ケット・シーにお礼を言った。彼等と手を組んでいなかったら、こんなに早く気づいては居なかっただろう。

「あとそのケット・シーってのも、種族名だからな?    瑞のようにシーって呼んでくれ」
「了解。シー、これからもお互い助け合って行こうな!」

 俺は握手のつもりで手を差し出すと、シーは小さな両手で俺の薬指をキャッチした。俺達が固い握手で結ばれた瞬間だった。

 話が終わると、シルシルはいつもの様にペコリとお辞儀をして帰っていった。

「なぁサタコ、能力者狩りだってよ」
「そんなもの恐れる必要は無い。私は天下の魔王だぞ?」
「その自信過剰どうにかしろよ。外であんまり能力使うなよ?」
「わかっておる。そんな事より早く貰ったお菓子を開けよう」

 目を輝かせながら適当に返すサタコさん。お菓子を与えなければまともに話も聞いてくれない。これ程“そんな事より”が似合う奴は中々いないだろう。

    呆れてため息が漏れたが、その夜は不安に襲われた気分を晴らすかのように、サタコと二人で『お菓子パーティー』を開催した。

 ──。

「うわー!    恭!    なんだこれは!?」
「うわっこれ、お昼に作ったカップラーメンじゃねぇかぁ!!    魔界の食べ物みたいになってんじゃねーかよ!    試しに食ってみろサタコ!」
「やめろ!    そんな物を私に近づけるでない!!」

    一人では暗い気持ちのままだっただろう。
 なんだかんだ、コイツとの共同生活にも慣れてきた。
    サタコがいない生活なんて、最早考えられなくなっているのかも知れない。

    ※その後カップラーメンは恭が責任をもって食べました。

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