凶から始まる凶同生活!!

風浦らの

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第一章【出会い編】

初めてのお出かけ

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    俺の大学生活はGWに突入していた。GWと言えば、以前大吉が計画してくれた動物園計画がある。そして今日はその当日。俺は楽しみ半分、不安半分で家を出ていた。と言うのも──、

「恭、動物園には魔獣が沢山いるんだろ?    楽しみだな」
「そうだな」

    動物園には爆弾を背負って行く事になっていたからだ。前日どこで嗅ぎつけたか、サタコの執拗な“連れて行け”攻撃に屈した俺は、渋々連れていくことにしていた。弱いと言っても俺にしてみれば、この子の機嫌しだいで地獄のような生活が待っているからだ。

    取り敢えず皆と合流する前に、お菓子でも買って行こうかと、途中のコンビニに寄ってみた。当然サタコはお店・・に来るのは初めてで、店内の商品の数々に目を輝かせている。そして、暫く目を離した隙に、店の奥から大量のお菓子を抱えてやって来た。

「おい恭。これも持っていこう」
「歩けねぇ程抱えてくるんじゃねぇ!    大体そんなに買える程お金をもってねぇんだよ」
「お金?」
「ここにシールが貼ってあるだろ?   これは百円、これは二百円、コレなんか千円だぞ。大体髭剃りなんて必要ねぇだろ。さっさと戻して来い」

    俺に怒られて、あからさまにブー垂れるサタコさん。しかし魔王様の執念はこんなものでは無かった。何やら思いついた様子で、ワンピースにくっついていたポケットに手を突っ込むと、中から油性ペンを取り出した。

    アンタはドラ〇もんですか?!

    そして、下手くそな数字を値札シールの上から書き出したのだ。

「見ろ恭。これは十円、これは二十円、そしてこの髭剃りはなんと一円だぞ。喜べ」
「ちょっと、何勝手なことしてんの!    お店の物にそんな事しちゃダメでしょうがぁ!!」
「えっ?」
「大体こんな事しても意味ねぇんだよ。お会計の時は、このバーコードってやつを機械で読み取って値段を調べるんだ。しょうがねぇから、値札を剥がして戻して来い」

    わかったのか観念したのか、サタコは渋々商品を担いでお店の奥に消えて行った。

    ちっ、だから連れてきたくなかったんだよな。この先が思いやられるぜ。

    俺は長持ちしそうな飴やグミ、飲み物等を一通り手に取りレジへと持っていった。

「いらっしゃいませー、お会計はこちらでーす」

   綺麗な店員さんの前に、持ってきた商品を並べる。飴、グミ、お茶、バームクーヘン。

   バームクーヘン?   こんなの選んだっけな?

   おかしいと思っていたところ、レジ台から小さな手が引っ込んでいくのが見えた。

   くっ、コイツ……金がねぇって言ってるのに……まぁ、しょうがねぇ。もうめんどくせぇからかってやるか。

「以上で宜しいでしょうか?」
「あ、はい。お願いします」
「では失礼しまーす」

    店員さんが商品を手に取りレジに通していく。飴、グミ、お茶、バームクーヘン──、

「え、いや、ちょ」

   その時俺には見えてしまった。不自然に油性ペンで塗りつぶされた、バームクーヘンに付いているバーコードを──、

「お会計は、十三万三百円でございまーす」
「ちょっ、おかしいでしょ!   気づいてよお姉さん!」
「えー?   でもレジには確かに十三万三百円って出てますけど?」
「ああ、もういいです。全て俺のせいなんです……あの、申し訳ないんですけど、そのバームクーヘンはキャンセルでお願いします」

   キャンセルと言う一言を聞いたサタコは、そんな馬鹿なと言わんばかりの表情でこちらを見ているが、そんな事は関係ない。何もしなければ買ってやった物を。

「では、お会計は三百円でございまーす」
「はい、お願いします」

レジでお会計を済ませた俺達は、集合場所の駅へと向かった。道中、納得のできないサタコさんがブツブツ煩かったが、何かを発見して一気にご機嫌が回復した。

「おぉー恭!   見ろ見ろ!   鉄の塊が列を成して走っているぞ!   あれはなんだ?」
「ああ、あれは電車って言ってな、今からあれに乗るんだよ」
「ほー、へー、あの魔獣に乗るのか。楽しみだな」

    サタコにとっては、見るもの全てが新鮮なのだろう。一つ一つのリアクションが、俺にとっても新鮮でその点だけは一緒に居て楽しい。駅での待ち合わせの最中も、アレはなんだと質問攻めを受けていた。

「よう、恭!    あれ?    今日はサタコちゃんも一緒なのか?」
「おはよう恭君!    サタコちゃん!」

 待つこと五分、大吉とユキちゃんが合流する。やはりサタコを連れてくるのは嫌だった……早起きして、さっさとラックドレイン済ませてのんびり遊びたかったなと、二人を前にして思った。サタコが二人に変な事をしないか気が気ではないのだ。

「しかし恭はサタコちゃんにベッタリだな?    もしかしてシスコンか?」
「シスコン。知っておるぞ、妹を大好きなお兄ちゃんの事だな」
「サタコちゃん難しい言葉知ってるんだねー!    すごーい!」

 不覚にもユキちゃんに褒められ、頭をなでなでされているサタコを見て羨ましいと思ってしまった。それにしても意外だったのは、サタコがそんな言葉まで知っていたことだ。魔王の知識は半端ではない。

「他にも知っておるぞ、『幼女』『メイド』『ロリコン』『猫ミミ』全部恭の漫画で覚えたぞ」

 おいぃぃぃ!    このおチビさん何サラッと俺の恥ずかしい趣味バラしちゃってんの!?

 俺は咳払いをし、取り敢えず電車に乗ろうと促す。大吉は、「にひひっ」と、にやけながらも従ってくれる。流石の親友。

「あ、ちょっと待って!    実はもう一人来る予定なの」
「え?    ユキちゃんの友達?」
「そうそう!    あ、来た来た!    噂をすれば」

 少し遅れて申し訳なさそうにしてやって来たのは、黒い髪を左右で束ねたツインテールに、眠そうな目をした女の子だ。でもどこかで見たことあるような……

「紹介するわ、同じ大学の『天神 瑞てんじんしるし』ちゃんよ!    珍しい名前だけど、『シルシル』って呼んであげて!」
「ども、初めましてシルシルです。神社で巫女もやっています。今日は宜しくお願いします」

 ──!!

 思い出した。俺が十二連敗した神社の巫女さんだ。まさか同じ大学に通っていたとは。しかし初対面で『シルシル』はハードル高いぜ……

「おう!    宜しくシルシル!」
「シルシルか。変な名前だな。プクク」

 お前等すげぇな。

 俺も負けじと呼んでみる、この流れを切らしてはならない。流れに乗るのだ。頑張れ佐藤恭!

「よ……宜しく!シルシル……」

「皆さん宜しくです。あ、凶さんですよね?    覚えています。十二連敗の凶さん」

 何故俺の名前を知っている!?    そう言えばあの時、自分の名前叫んでいた様な気もするが。

「なんか違うような気もするけど、そうだね……十二連敗の凶さんです。宜しく」

 皆の頭の上に『?』が浮かんでいるのが見えたが、ようやく全員揃ったので早速出発だ!    目指すは上野動物園!!

 取り敢えず切符を買わなければならないのだが、サタコは一体何歳なのだろうか。見た目的には子供料金でも行けそうなんだが……

「ねーねー、サタコちゃんって何歳なの??」

 絶妙のタイミングでユキちゃんが聞いてきた。それは俺も気になっていた所だ。

「私か?私は八百十……
「十一歳だよ!    十一歳!!」

 サタコの言葉に被せて咄嗟に十一歳と答えたが、果たして見えるか?    中学生に見えなくもないが……

「サタコちゃんは小学生かー、じゃあ子供料金だね!    お姉ちゃんが切符買ってあげるよ」

 ユキちゃんが切符をサタコに手渡すと、サタコは物珍しそうにそれを眺めた。当然切符も初めてのなのだろう。

「サタコ、俺が手本を見せるから同じようにやるんだぞ?」

 サタコはコクコクと頷くと、俺が改札を抜けるのを真剣な目つきで見つめている。こういう時だけは可愛い。

 次はいよいよサタコの番だ。サタコは見様見真似で切符を入れると、勢いよく改札を走り抜けた!

 ──おお!

「見たか恭。これが魔王の力だ」
「いや普通だし。ならここに居る全員魔王になれるな」

 電車に乗り込んでからもサタコのテンションは高い。

「見ろ!    恭!    鉄の塊がすごい速さで走っているぞ!」
「そうだな、驚いたか?」
「見ろ!    見ろ!    恭!!    鉄の塊が土の中に潜ったぞ!!」
「地下鉄だからな。凄いか?」
「なぁ?    恭」
「今度はなんだよ」
「お腹がすいた。ご飯にしよう」
「それはせめて目的地に着いてからにして下さいぃぃぃ!!」

    目的地に着くにも一苦労。動物園ではいい子に出来るか、今から不安で押しつぶされそうだ。
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