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第一章【出会い編】

ハッピーライフ

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    ■■■■

「恭ぉぉぉぉぉぉ!!!」

 サタコの悲鳴で目が覚めた。時間は午前六時。
    まだ起きるには早い時間だ、朝から一体なんだってんだ。

「んん、どうしたサタコ……まだ早いぞ……って、ええぇぇぇ!?」

 朝起きて目にしたのは、サタコの周りを飛び交う『鳩』達だった!    その数四匹。鳩達は執拗にサタコを追いかけ回し、攻撃しながら周りを飛び回っている。

「おいおい!    どうしたんだよこの状況はよぉぉ!?」
「ふえぇ……助けてくれ恭ぉぉ!」

 サタコはもう半泣きだ、しかし何故サタコだけ狙われているのか……と、俺は気づいた。サタコの周りに落ちてるゴミ、あれは昨日のバームクーヘンの包み紙だ……

 とりあえず俺は鳩を窓から追い払い、サタコを助けると、

「ふえぇ…怖かったよぉ」

 俺の胸に飛び込んでくるサタコ。か、可愛い……しかし、ここはビシッと言ってやらなければならないのだ。心を鬼にして、悪魔を躾けるのだ!    負けるな佐藤恭!!    

    俺は、サタコの肩にポンッと手を置き、一呼吸置いて話し始める。

「サタコさん、あの包み紙はなんですか?」
「え……?  あれはその……さっきの!   さっきの鳥がやったんだろう!  そうだ!    違いない!」

 こいつ、この期に及んで嘘ついてくるとは……さっきの可愛さに騙されなくてよかったぜ。

「もう一つ聞くけど、その口の周りに付いているのはなんですか?」

 サタコの口の周りにはチョコレートがベッタリ付いていた。実は昨日のバームクーヘンには二種類入っていて、一つはプレーン、そしてもう一つはチョコレートだった。きっと暗がりで慌てて食べたか、寝ぼけて手元が狂ったかのどっちかだろう……

 サタコは口の周りを手で擦り、手についたチョコレートを見ると、あきらかにバツの悪そうな声を出した。

「こ、これは……あれだ、悪魔特有の唾液だ。悪魔の唾液は黒いのだ!」

 と、小学生並みの嘘で誤魔化そうとしてくる。必死に隠そうとする姿は正直可愛い。しかし共同生活をする上で、ある程度はルールを守って貰わなければこっちとしても困る。

「サタコもういいんだ。とっくにバレている。ったく、夜中の間にバームクーヘン全部食いやがって!    どんだけ気に入ったんだよ!」
「そうか。バレていたのか。ならば仕方あるまい。漫画の続きでも読むかな」

 そう言ってサタコは布団に潜り込み漫画を広げ始めた。

 コイツ……さっきまでの可愛さはどこに行ったんだよ!?

「おい!    サタコ、悪い事をしたんだ。ちゃんと謝れよ!」

 と言うもサタコは知らんぷり。その態度に少し頭にきた。俺は漫画を取り上げ声を張り上げた。

「罰としてこれは没収だ!!」

 するとサタコはムッとしたのか、被っていた布団を投げ出し、飛びかかってくる!    そして俺のお腹にパンチを一発。

「返せ恭!    それは私の物だ!」

 しかしサタコの腕力は小学生低学年並み。来るとわかってれば全く痛くない。俺は漫画をサタコの届かない所まで高く持ち上げた。それを目掛けてサタコがジャンプするも届かない。

「どうした?    魔王様。さぁ早く謝るんだ!」
「う……ひっく……う……うぇ……」

 ──え!?

 やばい、やばいぞ佐藤恭!    このままでは小学生に意地悪して泣かせている大学生の図じゃないか!?    なんとかしなければ!

「サタコ、反省しているのか?」

 コクコクと涙目で頷くサタコさん。これが魔界からやって来た悪魔の姿か。反省している様にも見える為、俺は仕方なく漫画を返した。

「ったく、しょうがねぇな。勝手に家のもの食うんじゃないぞ?   あれは俺の栄養源だ、無くなったら死んでしまう。俺が死んだら、お前も困るよな?」

 サタコはまたもコクコクと頷くと、散らかったバームクーヘンのゴミを自主的に片付け始めた。更に──、「今日は特別に朝飯は我慢しよう。喜べ家畜」と言ってきた。

 初めてサタコに勝った……

 言い方は気に入らないが、サタコがゴミを片付けた事とラックドレイン無しってのはちょっと嬉しい。それに、窓を開けっ放しにして寝てしまった俺も悪いしな。女の子が家に居るんだ、今後気をつけなきゃな。

 サタコと和解した後は、朝の準備を済ませ少し早いが家を出る。

「サタコ~学校行ってくるから、いい子にしてるんだぞ」
「わかった。任せておけ」

 不安は尽きないが、俺は大学に向かう。今日はウキウキだ!    なにせラックドレイン無しの普通の一日・・・・・が始まるのだから!

「あー!    普通って最高ぉぉ!!」


 ■■■■


 家を出て滞りなく大学に着くと、早速大吉と出会った。

「大吉!    おはよう!    随分と早いんだな」
「おう、恭。今日はなんだかテンション高いな。俺はGWの予定決めようと思ってな。少し早めに来たんだ」
「GW?   確か来週からだったよな?    どっか行くのか?」

 今週は四月の第三週だ。大学に入学して早いものでもうGWだ。慣れた頃にこの連休は有難いのか有難くないのか……

「皆で動物園でも行こうかなって思ってるんだけど、どうかな?」
「おぉ、いいね!    行く行く!    親睦を深める意味でも是非皆で行こうぜ!」

 動物園なんて何年ぶりだろうか。東京の動物園ってどんな感じなんだろう、ユキちゃんは来てくれるのかな?   等と妄想が膨らむ。

「それじゃ決まりな!    ユキちゃんも誘っておくから、決まったら連絡するぜ」

 大吉はそう言うと「講義が始まるまで少し寝る」と言って机に伏せた。

 みんなで動物園か……楽しみだなぁ!

 俺は一日中その日の事を妄想しながら、楽しく一日を終え無事に家に帰る。

    ■■■■

 一日を通して、何事も無く家の玄関の前まで戻って来た。

 これだよこれこれ!    平和な日常が戻ってきたぜ!    ウェルカム!    マイ・ハッピー・ライフ!

 心の中でそう叫びながら家のドアを開ける──、

 ……え??

「サタコさん、それは何かな?」
「おかえり。恭」

 サタコが見てくれと言わんばかりに、何やら黒い虫の様な物をつまんで出迎えてくれる。その虫はよく見ると、いや、よく見なくてもアレだった。そう『ゴ〇ブリ』です。

 俺の歓喜の叫びは一瞬にして悲鳴へと変わっていった。

「おいぃぃぃ!!   なにやってんの!?   馬鹿なの!?    ばっちーから早く捨てろってぇ!!」
「なんだ?    恭。はっはーん、まさかこれが怖いのか?    ほれほれ」

 サタコはその『ゴ〇ブリ』を面白がって俺に近づけてきた。

「やめろぉぉ!   早く捨てろよ!   はやくぅぅぅぅ!」

 一連のお決まりのやり取りを終え、サタコはようやく『ゴ〇ブリ』を外に捨てた。なんでも、侵入してきた外敵を捕まえたんだそうだ。偉いのやら偉くないのやら……

「サタコ、ちゃんと手を洗えよー」
「わかった。次からは叩き潰すとしよう」
「え……?    間違っては無いような気はするけど、お前が言うとなんか心配だぜ……」

 どうやら運が悪く無くても俺のハッピー・ライフはサタコの実力の前に崩れ去ってしまうようだ。

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