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第一章【出会い編】
ラックドレイン
しおりを挟む不思議な現象を次々と見せられた俺は、今とても困惑していた。
よりによってなんで悪魔なんだ。とっととコイツを魔界とやらに返して、俺は元の安定した生活に戻る!! その為にはまずは情報収集だ。しかしそうだな、あまり人目に付きたくない。
という訳でサタコを家に招き入れる事にしたんだが──、
「ここが俺の家だ。ボロいけど、ここで一人暮らしをしてるんだぜ? まぁ上がれよ」
サタコはキョロキョロと物珍しそうに部屋の中を見渡すとそのまま部屋の中へと入っていった。
「おいおい! 土足かよ! ってか裸足!? 足洗ってから入れ! この世界ではそれがルールだ!」
「安心しろ別に汚くは無い。それに私は一センチほど浮いている。さっき小石を踏んで痛かったのでな」
サタコは足元を指さして見せる。確かに少しだけ浮いている気がする。流石悪魔は伊達じゃない。
部屋に着くなり早速本題に入る。まずは情報の整理からだ。
「お前って本当に俺に召喚されたのか?」
「『お前』では無い。サタコと呼んでくれ。そうだ、間違いない」
腕を組み実に偉そうなサタコさん。確か自分の事を“魔王”って呼んでいたし、あっちの世界では随分と偉かったに違いない。他にも隠れた凄い力があるかもしれないし、ここは慎重に攻めるのが得策か。
「幸運を食べるって言ったよな? それは俺のじゃなきゃ駄目なのか? さっき他の人の幸運頂いていたみたいだけど……」
そうだ。何も俺の運を食べる必要なんて無いはずだ。タダでさえ俺には運というものが無いのに、こんな奴に付き纏われたのでは正直やっていく自信が無い。
「そうだな。さっきの行動は『ラックドレイン』と呼ぶのだが、確かにラックドレインは他の者にも有効だ」
「じゃ、じゃあ!」
「しかし私のお腹が満たされるのは、お前の幸運だけだ」
「なんでだよ!?」
食い気味にサタコの肩を叩くも、その後の言葉に肩透かしをくらい思わず天を仰ぐ。
「私を召喚できたのは、お前が『幸運』を媒体に使って呼び出したからだ。いわば私との契約は、お前の幸運で成り立っている。お前が私を使う、そして私がお前を食べる」
うおっ、何急に怖い事言っちゃってんのよ!
サタコさんの目があまりにも真剣で、そのクリクリの黒目は飲み込まれそうな程に深く、反射敵に俺は思わずたじろいだ。
「か、帰る方法に心当たりは?」
「無い。私は召喚士ではないからな。その辺はお前の方が詳しいんじゃないのか?」
「さっきも言ったように、俺は召喚士じゃねぇんだ! サタコを魔界に返す方法なんか検討もつかないぜ」
そこが一番問題だ。このままでは俺の人生は真っ暗確定。一生不運続きの人生──、そんなの真っ平ゴメンだ。
「そうなのか? ならば仕方あるまい。とりあえずこの世界の事をもっと知りたい。明日にでも街に繰り出すか」
「おいぃ、随分とのんびりだな! お前はいいけど、その間俺は運を吸われ続けているんだぞ!?」
「安心しろ、運なんてのは減れば常に補充されて行くものなのだ。『運が悪い』なんてのは一時的な現象に過ぎん。それに、この世界に慣れる事と情報集めの為には街に出るのが一番早い」
「そ、そうなのか? 運は補充されていくものなのか……」
その言葉に俺は少し安堵した。このまま吸われ続けてカラッ欠になるのかと思ってたからだ。
「まぁ、一気に吸い出せば一発で不慮の事故、なぁんて事も無くはないけどな。フハハハハハ」
「やめて! お願いだからそれはやめて下さいいぃぃ!!」
「安心しろ、私とてお前を失ったら終わりなのだ。お前の事は命に変えても守ってやる」
俺は不覚にも今の言葉にドキッとしてしまった。実はこの悪魔サタコ、よく見るとめちゃくちゃ美少女だ。漆黒のワンピースには悪魔の頭のような帽子が付いていて可愛らしい。肌は、ワンピースとは対照的に、白く透き通るような透明感があり、髪も黒髪のオカッパだが、上手に切り揃えられている。
「な……なぁ、俺明日学校なんだけど行ってもいいのか? サタコは街に行くんだろ?」
「お前の家は分かった。それにお前がもし逃げたら、この街の幸運を片っ端から頂いて地獄にしてやるからな。それだけ覚えていてくれれば問題ない」
ちくしょーー! この悪魔め! 泣きたいぜ……
「今日は疲れたから私はもう寝る。明日の朝ラックドレインするからな。あまり運を使うんじゃないぞ」
そう言ってサタコは眠りについた。俺のベッドで……
さて俺はこれからどうすればいいのか……考えても思いつかないから昨日借りてきたDVDでも観るか。これ泣けるって評判なんだよな……
こうして突如として現れた謎の『大魔王サタコ』との共同生活一日目が終わった。これから先、一体俺はどうなってしまうのだろうか?
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