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神様はツンデレ
しおりを挟むニーオと出会って1ヶ月以上が過ぎていた。
俺はというと、相変わらずパソコンの前での生活を続けている。
「藤田ぁ。暇ぁ」
「んー。そうだっけ?」
俺は一日約10万文字を超える速さで練りに練った内容の小説を書き続けていた。正直、プロになってからもこんなに書いたことは無かった。
────楽しい!!
これが俺のやりたかった事だったんだ。そう思った。実際コメディは人を選ぶし、爆発的ヒットは歴史的に見ても数少ない。ましてや小説となるとその数は…………
でも、この作品は─────
「藤田ぁ」
「なんだよさっきから」
「ニーオと遊ぼ」
キラキラの瞳に思わず「うん」と答えそうになるが、俺にはとにかく時間が無いのだ。その事はニーオが一番分かっているだろうに、なんで俺の邪魔をするかね。まぁ、その辺が子供なんだろうけど。
「俺には時間が無いの。頼むからいい子にしててくれ。ほら、お菓子だって山程買ってやっただろ」
「お菓子飽きたー。ニーオ、藤田と遊びたい」
どうすりゃいいんだよと、俺は頭を抱えたが、使い続けてきた俺の頭が名案をたたき出した。
「そうだ! じゃあニーオものこの小説に登場してみるか? そんで一緒にお話考えるってのはどうだ?」
「ニーオもお話になるの? やるー!」
俺は作品に小さな鬼の子を登場させ、主人公のパートナーとして活躍させてみた。
「ニーオ読めるか?」
「ゆっくりなら大丈夫ー。藤田すごーいね! ニーオが頭の中で動いているみたーい」
「あはははっ、まぁこう見えて、一応プロだからな」
この子は俺が死んだ後どうなるのだろうか? 家主が居ない家には住めないと言っていたから、きっとここを出ていくんだろうな。そう思うと少しだけ不憫だ。
次は長生きする、いい人の家に住めるといいよな。
──────コンコン。
突然玄関のドアのノックが響いた。
人と接するのが苦手な俺だが、死ぬと分かってからは何となく平気になっていた。人間とは不思議なものだ。
玄関のドアを開くと、仕事をしていた頃の担当者が立っていて、俺を見るなり心配そうな顔を浮かべた。
「藤田君! 心配になって様子を見に来たよ」
「鴨志田さん……」
俺は鴨志田さんを部屋へと招き入れた。鴨志田さんは当時無名だった俺のネット掲載を推してくれた人で、その後も担当者となり何かと面倒を見てくれる、俺にとっては “ 恩人 ” と呼べる人だった。
「あれ? 意外と元気そうだね」
「え、えぇまぁ。死因は突然死ですからね」
「え?」
しまった。何を言っているんだ俺は。これじゃぁ、まるで仕事を辞めたいが為にウソをついているみたいじゃないか。
「いえ、死ぬのは本当なんですけど、なんと言うか言い難いと言うか……」
「そうだよな。死ぬ……んだもんな」
重い空気が辺りを包んだ。
まぁそれは予想出来た事だったからいいとして、少し意外だった事が────
「ところでその女の子は?」
「みっ見えるんですか!?」
「え、何言ってるか分からないんだけど」
当然、鬼なんだから俺にしか見えない。と思いきや、とんだ思い違いだった。
いやしかし、逆にこれはチャンスか…………
「この子は妹の子供なんですけど、訳あって今は少しの間だけ預かってるんですよ」
「へぇ、可愛いね。キミ、名前は」
「ニーオだよ。オジサンだぁれ?」
「僕は鴨志田だよ。宜しくね、ニーオちゃん」
俺はその様子を見届けると、鴨志田さんにお茶を出し、再びパソコンの前に陣取った。
「藤田君、また何か小説書いてるの?」
「えぇ、まぁ。死ぬ前に、本当に自分の書きたかった作品を、ね」
「ちょっと読んでもいい?」
そう言って鴨志田さんはパソコンを開くと、数十分間画面に釘付けとなった。折角ニーオを鴨志田さんに相手して貰おうと思っていたのに……
「藤田君、これ────」
「え、えと……」
「めちゃくちゃ面白いよ! 俺、今すぐこれ持って上司に掛け合ってくるよ!!」
「え……本当、ですか……」
「えぇ! 藤田君の思いを、全国に届けよう! 内容は鴨志田四郎のお墨付きだ!」
なんということだ。死ぬと分かった途端にこの展開。人生とは紆余曲折なんだとつくづく思う。きっと神様って奴はツンデレなんだろう。
「ぜ、是非、お願いします!」
俺は深く頭を下げた。隣ではニーオが訳も分からないだろうに、俺以上に喜んでいた。
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