不器用な指先

merori

文字の大きさ
上 下
8 / 8
6年前、忘れられない少女

鈴木小夜

しおりを挟む




「しつこいですが…渡辺先生、こればかりは本当に分からないものですよ」



そう言って職員室を後にした高野先生の言葉が、僕の中で未だに残り続けている。

恋をまともにした事がない僕にとって、とても衝撃的な話だったからだ。
幸いなことに、今日は5時間目と6時間目の授業が無かった。慣れていない現実的な恋愛の話によって、今の僕はかなり調子がおかしくなっている。


最近の中学生はこんな早いうちに恋愛をするのか…?
それともこの学校が早いだけなのか…?
下手したら、僕にとって未知の世界であるキスやそれ以上の事もしているのかもしれない。



…ふと、小夜の事を思い出した。


不純と無縁な彼女の容姿と話し方だったが、実は彼氏がいたりそれ以上のことも…
いやいや。こればかりは本人とその周りしか分からないものだ。僕が関与するような事じゃない。

それより、なぜ彼女の事を思い出したのか…自分でもよく分からなかった。



心が慌ただしい僕に落ち着け、落ち着け……と必死に言い聞かせていたら、あっという間に放課後になっていた。




僕ひとりしか居なかった職員室へ、各教室から徐々に先生達が戻ってくる。




「渡辺先生、下校時の指導が始まるので一緒に行きましょう」


そう話しかけてきたのは、まさかの高野先生だった。
その声を聞き、僕の体は反射的にビクッと動いた。



「あっ、は、はい、わかりました」


「……もしかして、5時間目に話したこと引きずってます?」


……的中してますよ、高野先生。


「ま、まぁ…ちょっとだけ気にしていました」


「そうですよね、こんなお盛んな中学校なかなか無いですしね」


「た…確かにお盛んですよねぇ……」



そうじゃないんです、高野先生……。

恋愛経験無い僕には刺激的過ぎる内容だった、ということは隠して高野先生に話を合わせる。



「そんな生徒が大半だと思ってしまうかもしれません。というか、そんな生徒が多いのがウチの学校の現状なんですが……。そうじゃない生徒も、もちろんいますよ」


「そうなんですか…」


【そうじゃない生徒】というワードに僕は少し安心した。


「例えば、ウチのクラスで言うと…鈴木小夜とかはそういった話は聞いたことが一度もないですね」


……鈴木小夜!!
純真無垢でいて欲しい、と思っていた僕の心は高野先生の言葉によって急に満たされた。


「渡辺先生、今日来たばかりですしまだ分からないかもしれませんが…鈴木小夜は理科係なので、これから渡辺先生と話す事が増えていくかもしれません」


「…僕、鈴木小夜さんと昼休みに話しました。授業の準備はありますか、と僕のところに来てくれました」


昼休みに彼女が来てくれた事を話すと高野先生は「おっ!」と言い、元々明るい表情の彼だが、その表情は僕の話を聞いて益々明るくなった。


「鈴木さん、この学校に相応しくない位にいい子なんです。礼儀正しい上に成績も学年トップクラスでして…赴任初日の渡辺先生のもとに訪ねるくらいに」


「そ、そうなんですね。確かに凄く礼儀正しい生徒でした」



今日彼女に出会い、その時に感じていた事を僕は必死に隠し…高野先生との話を続ける。



「さて、そろそろ校庭に向かいましょう。下校指導に遅れちゃいます」



高野先生はそう言い、僕を校舎から校庭に連れて行ってくれた。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

教師失格

ひとちゃん
恋愛
「先生、どうしてあの時私のキスを受け入れたの?」 主人公の神崎真綾(かんざきまあや)は中学時代に16歳上の副担任の渡辺宏貴(わたなべひろき)に恋をし、ある冬の日にキスを交わしてしまう。 だが、離任と共に渡辺はお見合いで結婚をしてしまい叶わぬ恋に。 高校卒業後、真綾は地元から都内の中堅クラスの大学へ進学しそこで出会った2歳上の米崎凌河(よねざきりょうが)と交際。20歳になった真綾は成人式に行くため地元へ戻ったが、渡辺と再会してしまうことに。 真綾の揺さぶられる心、凌河からの異常な愛情、渡辺の本心…混ざり合う人間関係を2人は乗り越えハッピーエンドになるのか、それとも地獄へ落ちるのか。 ★毎日更新中★

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

シチュボ(女性向け)

身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。 アドリブ、改変、なんでもOKです。 他人を害することだけはお止め下さい。 使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。 Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

処理中です...