【R15】【第一作目完結】最強の妹・樹里の愛が僕に凄すぎる件【第二作目連載中】

木村 サイダー

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第二巻

★らんのご乱心~予兆~その1

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もうお店のお客様のほとんどは掃けたと思う。この時間帯になれば「そば処らん」は少しゆとりが出てくる。夕方の食事をされるお客様の回転が終了して、今は19時すぎ。ラストオーダーまで後30分切った。営業終了まではあと1時間。
――――20時以降はやる意味がない。


【そば処らん】は私が生まれた年に祖父と父で開業したお店。ズバリ私の名前のお店。当初はここらの観光はそれほどメジャーでもなくお客様もパラパラで、祖父母の家庭を私の家庭がやっていくのがなんとかなぐらいの収益力しかなかった。
しかしこの地域の観光に地方自治体が力を入れて吉原を吉原桜ノ宮に変更し、そこに咲く桜の山道を名物に売り出した。それが大いに当たって神宮参拝→吉原桜ノ宮という一つのシニア向け観光ルート、もしくはウォーキングをかねた聖地巡り・パワースポット巡りの定番となった。私の家件店舗は吉原桜ノ宮出口に位置し、またそれが国道沿いでもあるのでバス観光で来られるお客様も、徒歩観光のお客様も両方受け入れれる位置であり、十分に大きな駐車場も完備していた。

今となっては手に入らない既得権不動産となっている。当然お客様は増え続け、年々収益力は上がり、今では複数人のバイトも雇ってお店を切り盛りしている。
祖父が他界したため、職人も一人雇っている。勿論私は小学生の頃からお手伝いに入り、今ではここのバイトリーダー兼経営陣の一人となっている・・・のだが、、、


・・・・最近、疲れて来ている。


とにかく、そんな立地であるがゆえに20時以降は今度全くといってお客様は来ない。よってやる意味がない。実質19時にもなればラストオーダー三十分前なのに『終わりムード』になってしまう。けどこのムードに流れてダラダラしたり、早々と片付けをするのも嫌だった。
割と母親はそうするのだが、父親や生前の祖父は時間内はギリギリまでお客様が来ることに備えたい人だった。そこを私は受け継いでいる。けど、最近ちょっと力が入らない・・・倦怠期なのだろうか。


実は考えていることがあって、そのせいだというのは分かっている。
別に樹里ねーさんから指摘されたからではなく、前から感じていたこと。
それをはっきりと言葉で指摘してきたのは樹里ねーさんだけど・・・


テーブルの上の備品類を他のバイトの子と確認して回ったあと、私は一番店の顔、玄関レジのそばに立って表にお客様がこないかを見張るために立つ。当然私が立ったからといってすぐにお客様が入るような神通力は私にはない。

茜色の割烹着の袖口についた出汁の汚れをほんの少し気にする。清潔さは大事だから。けどホテルの飲食店というわけでもないので、庶民派の蕎麦屋、というイメージを大切にするなら、出汁が飛んだような汚れとか、油がついたような汚れなら、あえてあったとしても少しならかえって良いと思う。これぐらいなら問題なし。ラストオーダーまであと三十分少々・・・もうお客様は来ないだろう。


この色の割烹着も私が選んだユニフォームだ。インナーは黒か白のTシャツ。
さすがに着物は私も無理だしバイトの子やおばちゃんに着てもらうわけにもいかない。茜色にしたのは、照明、木製のテーブルの色合いと合わせたかったからと、茜色にすればお出汁が跳ねたりこぼしたりしたときの色が分かりにくいかと思ったから。
また茜色は店内の壁紙の黄緑色とも相性がいい。

他にも、比較的大き目でガランとしていた玄関の隅は壁を竹垣で覆い、手水鉢を買ってもらい自動で飛び出した竹筒から水が巡って出るようにしてもらった。横には灯籠を置いて雰囲気を出し、その一角は床は真っ白の玉砂利を引いている。これらは全て私の案。お客様が座るテーブルの上はペンダントライトで色は濃い黄色の照明。ランプシェードは竹で網模様に作られている。和モダンなタッチ。
これも私の案。以前は座敷だったところを『お年寄りは足を曲げて座るのがキツイ』ことに気づき、和室に合うテーブルと椅子と揃えた。これも私の案。


私の意見は率先的に取り入れてくれる。名前が私の名前であるように、この店は親からしても私自身なんだろう。『そば打ちの練習をしたい』といえば父親は快く引き受けてくれて、正規の営業時間後に教えてくれる。そば打ちはまだ修行中だけど、出汁はもう小学校の時から母親の作り方を見てマスターして、自分で作っていた。今では完璧に作れる。


『そば処らんは私のお店』それに便乗して、意見を言いすぎて困らせてしまうこともある。

道路と反対側の山手の窓際からは竹林が見えるようにしたい。

蕎麦でクッキーやプリン、お菓子を作ってコーヒーも出してみたい。

そこらへんはシビアで未だになかなか『YES』とは言ってもらえない。また、「PB商品を作って販売したい」もNGだった。PB商品は売れたらあっという間に、それこそ寝ている間にお金が儲かるようだが、在庫を抱えると賞味期限による廃棄費用と在庫費用がすごいらしい。

そこを恐れて父も母も『YES』とは言わない。また特殊なコネクション・・・芸能関係とか、そういうのを使って広げていくことが手法のようだけど、うちはそれはない。あくまで田舎のこじんまりしたそば屋だから。何度か芸能人もリポーターも来ていてお店もテレビに出ているが、いわゆる『伝手』にはならなかった。


最後のところは私は凄く拘った。PB商品の企画や試作も個人的にした。できるものは一部しかないけど。



というのは、正直最近、飲食店というものは『人柱で成り立っている』と思えてくる時がある。人柱とは『生贄』のこと。そう、人の『時間』の生贄である。


お店を開かないとお金にならない。しごく当たり前の話だが、サラリーマンは土日祝日の休みを取っている間も給料は付いている。

私たちはバイト以外の従業員の給料や固定費を考えれば『お金にならない』どころかマイナスになる。


他の女子たちは土日になると都会にプラッとあてもなく出かけて友達とウインドウショッピングを楽しんだり、ゲームセンターで遊んだり、カラオケをしたり、プリクラをとったりして楽しんでいる。

彼氏ができた子は楽しそうに二人でお出かけをする。そして翌日も予定はなく、ダラダラしたり、家のお手伝いを軽くしたり、自分の買い物を少し近所に行ったりとか。

一方私と言ったら土日が一番忙しい集客時で、お店で天手古舞をしている。よっぽどのなにか、学校行事、以前なら部活がないと休みにくい。

学校もお仕事もない日なんてお正月と、あとは職場で申請した病欠と今年だったら仲間との旅行で、年間合計十日無い。父親と母親も年間で言えば六十日ぐらいしか休んでない。

サラリーマンは年間休日百二十日以上とか広告で謳っている時代で。勿論『用事があるから休みたい』といえば周囲はそのように合わせてくれるけど、経営者の一族だけに余計に言いにくい。


そうやっていつも笑顔で、働き者の私が誰からもウケが良いんだ。だからそのようにしている。他の私は居ないんだ・・・・いつだって。
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