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★自分を卑下するのもダメ。
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エレベーターが五階で開いた。二人はエレベーターホールを抜けて部屋に向かう。少し昼間より温度が下がり涼しくなってきた。僅かな隙間でこちらのお祭りの光程度が視界に入る。そんなに大きくないエリアで田園という坂道ばっかりのところでやっている神社のお祭りだ。
「あとは自信持って」
「ええ、、、それは無理だよ」
「無理でも持って」
「無理だってば」
「だから無理でも持ってって」
「こんな目にあったばっかだよ、持てるわけない」
「じゃあ明日から持って」
「いや、無茶それ」
キーボタンにタッチする。
反応音がなり、ロックが解錠された。ドアを開けて中に入る。人感センサーで自動的に玄関の照明が付く。まだモダン焼きのソースや海老、豚肉の焼けた香りがほんのり残っている。そして扉がドアクローザーのおかげでゆっくりゆっくり背後で閉まった。
「さっきも言ってくれたけど、そもそも自分の良いところなんて全然思いつかないよ。だから自信なんて持てるわけないじゃん?」
そう。これと言って自分ができることで特に凄く秀でていることなんて思い付かない。これが樹里なら数えきれないほど人に『凄い』と言わせることがたくさんあるのに。僕にはこれと言って無い。
「無いことないよ、そんなこと絶対ない」
「じゃあ何よ?」
「まず背が高いでしょ」
「いや、僕より高い奴なんていっぱいいるって」
「だからそこの考え方が違うんだって」
「?」
「背が高いのは十分にモテ要素。別に誰より高いとか関係ないの。他にも料理が上手い」
「いや、それも・・・・」
「それも上手いやつはいくらでもいる?そうじゃない。私が食べたいものを食べたいときに食べたい味付けで出せる。これが他人にもできたなら、きっとその人は凄く喜ぶ。プロの職人技みたいなことを誰も要求はしていない」
「・・・・・・・」
「他にも歌も上手い。ああ、それもって言わないでよ。別にプロやストリートミュージシャンで動画サイトに出て再生数何十万とか言ってる人と比較しようとしているんでしょ?違うって。そういうんじゃないから。でも明らかに上手いから」
まだ続く。
「まだまだあるわ。バイクの運転も上手いでしょ。勉強も凄く努力している。あと意外と異性とのコミュニケーションは上手だった。もっとコミュ障でダメダメかと思ったけど全然上手かった。あれだけできるんなら私が手助けなんてする必要はなかった。洗濯もキレイにしてくれるし、掃除も確かに手抜きだけどちゃんと要点は押さえている。陰キャだボッチだって言うけどちゃんと良いポジション取りしている。地味だけどちゃんとお洒落も知ってる。前髪被っているけど目もキレイ。実はイケメン。性格は抜群に優しくて穏やか。癒やし系。心がキレイ。もうこの点に関しては絶対に自信持って推せる。いや、推したくない。推して皆に知られたら嫌やもん。確かに少しマイナス思考が過ぎるけど、出過ぎた図太い奴らよりはよっぽど良い。他にももっともっと・・・・」
なんか・・・赤面してくる。樹里から熱を帯びた僕へのエールがどんどん「これでもかこれでもか!」と送られてきて胸が熱くなる。
「ありがとう、樹里」
「ううん、私本気で思ってるよ。あにぃは比較対象が凄い高いところにありすぎるんだよ。完璧主義・完全制覇なの。そこまで要求することってほとんど何もないわ。それに女子だって別に料理の腕がプロ級ですって言えばそれは凄いと言われるけど、かと言って必ずその人の好きなものを好きな味付けで出してくるかは別の話だし、それより一般的にできるぐらいです、でも充分嬉しいもんよ。ましてや好きな食べ物を知り尽くしてアレンジも相手好みに合わせてくれる気持ちは、何にも勝るわ。自分で自分を落としてしまう比較はしないで」
・・・・完璧主義、完全制覇。そんなつもりはなかったはずなのに・・・そうだね。僕はいつの間にかそういう比較の仕方をしていたかもしれない。もっと一般的に優れている、だけで十分なのに、百八十センチ以上ないからダメ、とかプロ級じゃないからダメ、とか、そんなことばかり思っていたかもしれない・・・・
「それにさ・・・」
力説していた樹里がスッと力を抜き、ヘルメットをパントリーの所定の棚にしまい、僕のも受け取ってくれて樹里の白いそれの横に置いた。
次の言葉には一拍も二拍も間があった。この間は引きとなり、注目を引きつけた。
「プッ・・・」
「あとは自信持って」
「ええ、、、それは無理だよ」
「無理でも持って」
「無理だってば」
「だから無理でも持ってって」
「こんな目にあったばっかだよ、持てるわけない」
「じゃあ明日から持って」
「いや、無茶それ」
キーボタンにタッチする。
反応音がなり、ロックが解錠された。ドアを開けて中に入る。人感センサーで自動的に玄関の照明が付く。まだモダン焼きのソースや海老、豚肉の焼けた香りがほんのり残っている。そして扉がドアクローザーのおかげでゆっくりゆっくり背後で閉まった。
「さっきも言ってくれたけど、そもそも自分の良いところなんて全然思いつかないよ。だから自信なんて持てるわけないじゃん?」
そう。これと言って自分ができることで特に凄く秀でていることなんて思い付かない。これが樹里なら数えきれないほど人に『凄い』と言わせることがたくさんあるのに。僕にはこれと言って無い。
「無いことないよ、そんなこと絶対ない」
「じゃあ何よ?」
「まず背が高いでしょ」
「いや、僕より高い奴なんていっぱいいるって」
「だからそこの考え方が違うんだって」
「?」
「背が高いのは十分にモテ要素。別に誰より高いとか関係ないの。他にも料理が上手い」
「いや、それも・・・・」
「それも上手いやつはいくらでもいる?そうじゃない。私が食べたいものを食べたいときに食べたい味付けで出せる。これが他人にもできたなら、きっとその人は凄く喜ぶ。プロの職人技みたいなことを誰も要求はしていない」
「・・・・・・・」
「他にも歌も上手い。ああ、それもって言わないでよ。別にプロやストリートミュージシャンで動画サイトに出て再生数何十万とか言ってる人と比較しようとしているんでしょ?違うって。そういうんじゃないから。でも明らかに上手いから」
まだ続く。
「まだまだあるわ。バイクの運転も上手いでしょ。勉強も凄く努力している。あと意外と異性とのコミュニケーションは上手だった。もっとコミュ障でダメダメかと思ったけど全然上手かった。あれだけできるんなら私が手助けなんてする必要はなかった。洗濯もキレイにしてくれるし、掃除も確かに手抜きだけどちゃんと要点は押さえている。陰キャだボッチだって言うけどちゃんと良いポジション取りしている。地味だけどちゃんとお洒落も知ってる。前髪被っているけど目もキレイ。実はイケメン。性格は抜群に優しくて穏やか。癒やし系。心がキレイ。もうこの点に関しては絶対に自信持って推せる。いや、推したくない。推して皆に知られたら嫌やもん。確かに少しマイナス思考が過ぎるけど、出過ぎた図太い奴らよりはよっぽど良い。他にももっともっと・・・・」
なんか・・・赤面してくる。樹里から熱を帯びた僕へのエールがどんどん「これでもかこれでもか!」と送られてきて胸が熱くなる。
「ありがとう、樹里」
「ううん、私本気で思ってるよ。あにぃは比較対象が凄い高いところにありすぎるんだよ。完璧主義・完全制覇なの。そこまで要求することってほとんど何もないわ。それに女子だって別に料理の腕がプロ級ですって言えばそれは凄いと言われるけど、かと言って必ずその人の好きなものを好きな味付けで出してくるかは別の話だし、それより一般的にできるぐらいです、でも充分嬉しいもんよ。ましてや好きな食べ物を知り尽くしてアレンジも相手好みに合わせてくれる気持ちは、何にも勝るわ。自分で自分を落としてしまう比較はしないで」
・・・・完璧主義、完全制覇。そんなつもりはなかったはずなのに・・・そうだね。僕はいつの間にかそういう比較の仕方をしていたかもしれない。もっと一般的に優れている、だけで十分なのに、百八十センチ以上ないからダメ、とかプロ級じゃないからダメ、とか、そんなことばかり思っていたかもしれない・・・・
「それにさ・・・」
力説していた樹里がスッと力を抜き、ヘルメットをパントリーの所定の棚にしまい、僕のも受け取ってくれて樹里の白いそれの横に置いた。
次の言葉には一拍も二拍も間があった。この間は引きとなり、注目を引きつけた。
「プッ・・・」
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