115 / 202
第一巻
★自分を卑下するのもダメ。
しおりを挟む
エレベーターが五階で開いた。二人はエレベーターホールを抜けて部屋に向かう。少し昼間より温度が下がり涼しくなってきた。僅かな隙間でこちらのお祭りの光程度が視界に入る。そんなに大きくないエリアで田園という坂道ばっかりのところでやっている神社のお祭りだ。
「あとは自信持って」
「ええ、、、それは無理だよ」
「無理でも持って」
「無理だってば」
「だから無理でも持ってって」
「こんな目にあったばっかだよ、持てるわけない」
「じゃあ明日から持って」
「いや、無茶それ」
キーボタンにタッチする。
反応音がなり、ロックが解錠された。ドアを開けて中に入る。人感センサーで自動的に玄関の照明が付く。まだモダン焼きのソースや海老、豚肉の焼けた香りがほんのり残っている。そして扉がドアクローザーのおかげでゆっくりゆっくり背後で閉まった。
「さっきも言ってくれたけど、そもそも自分の良いところなんて全然思いつかないよ。だから自信なんて持てるわけないじゃん?」
そう。これと言って自分ができることで特に凄く秀でていることなんて思い付かない。これが樹里なら数えきれないほど人に『凄い』と言わせることがたくさんあるのに。僕にはこれと言って無い。
「無いことないよ、そんなこと絶対ない」
「じゃあ何よ?」
「まず背が高いでしょ」
「いや、僕より高い奴なんていっぱいいるって」
「だからそこの考え方が違うんだって」
「?」
「背が高いのは十分にモテ要素。別に誰より高いとか関係ないの。他にも料理が上手い」
「いや、それも・・・・」
「それも上手いやつはいくらでもいる?そうじゃない。私が食べたいものを食べたいときに食べたい味付けで出せる。これが他人にもできたなら、きっとその人は凄く喜ぶ。プロの職人技みたいなことを誰も要求はしていない」
「・・・・・・・」
「他にも歌も上手い。ああ、それもって言わないでよ。別にプロやストリートミュージシャンで動画サイトに出て再生数何十万とか言ってる人と比較しようとしているんでしょ?違うって。そういうんじゃないから。でも明らかに上手いから」
まだ続く。
「まだまだあるわ。バイクの運転も上手いでしょ。勉強も凄く努力している。あと意外と異性とのコミュニケーションは上手だった。もっとコミュ障でダメダメかと思ったけど全然上手かった。あれだけできるんなら私が手助けなんてする必要はなかった。洗濯もキレイにしてくれるし、掃除も確かに手抜きだけどちゃんと要点は押さえている。陰キャだボッチだって言うけどちゃんと良いポジション取りしている。地味だけどちゃんとお洒落も知ってる。前髪被っているけど目もキレイ。実はイケメン。性格は抜群に優しくて穏やか。癒やし系。心がキレイ。もうこの点に関しては絶対に自信持って推せる。いや、推したくない。推して皆に知られたら嫌やもん。確かに少しマイナス思考が過ぎるけど、出過ぎた図太い奴らよりはよっぽど良い。他にももっともっと・・・・」
なんか・・・赤面してくる。樹里から熱を帯びた僕へのエールがどんどん「これでもかこれでもか!」と送られてきて胸が熱くなる。
「ありがとう、樹里」
「ううん、私本気で思ってるよ。あにぃは比較対象が凄い高いところにありすぎるんだよ。完璧主義・完全制覇なの。そこまで要求することってほとんど何もないわ。それに女子だって別に料理の腕がプロ級ですって言えばそれは凄いと言われるけど、かと言って必ずその人の好きなものを好きな味付けで出してくるかは別の話だし、それより一般的にできるぐらいです、でも充分嬉しいもんよ。ましてや好きな食べ物を知り尽くしてアレンジも相手好みに合わせてくれる気持ちは、何にも勝るわ。自分で自分を落としてしまう比較はしないで」
・・・・完璧主義、完全制覇。そんなつもりはなかったはずなのに・・・そうだね。僕はいつの間にかそういう比較の仕方をしていたかもしれない。もっと一般的に優れている、だけで十分なのに、百八十センチ以上ないからダメ、とかプロ級じゃないからダメ、とか、そんなことばかり思っていたかもしれない・・・・
「それにさ・・・」
力説していた樹里がスッと力を抜き、ヘルメットをパントリーの所定の棚にしまい、僕のも受け取ってくれて樹里の白いそれの横に置いた。
次の言葉には一拍も二拍も間があった。この間は引きとなり、注目を引きつけた。
「プッ・・・」
「あとは自信持って」
「ええ、、、それは無理だよ」
「無理でも持って」
「無理だってば」
「だから無理でも持ってって」
「こんな目にあったばっかだよ、持てるわけない」
「じゃあ明日から持って」
「いや、無茶それ」
キーボタンにタッチする。
反応音がなり、ロックが解錠された。ドアを開けて中に入る。人感センサーで自動的に玄関の照明が付く。まだモダン焼きのソースや海老、豚肉の焼けた香りがほんのり残っている。そして扉がドアクローザーのおかげでゆっくりゆっくり背後で閉まった。
「さっきも言ってくれたけど、そもそも自分の良いところなんて全然思いつかないよ。だから自信なんて持てるわけないじゃん?」
そう。これと言って自分ができることで特に凄く秀でていることなんて思い付かない。これが樹里なら数えきれないほど人に『凄い』と言わせることがたくさんあるのに。僕にはこれと言って無い。
「無いことないよ、そんなこと絶対ない」
「じゃあ何よ?」
「まず背が高いでしょ」
「いや、僕より高い奴なんていっぱいいるって」
「だからそこの考え方が違うんだって」
「?」
「背が高いのは十分にモテ要素。別に誰より高いとか関係ないの。他にも料理が上手い」
「いや、それも・・・・」
「それも上手いやつはいくらでもいる?そうじゃない。私が食べたいものを食べたいときに食べたい味付けで出せる。これが他人にもできたなら、きっとその人は凄く喜ぶ。プロの職人技みたいなことを誰も要求はしていない」
「・・・・・・・」
「他にも歌も上手い。ああ、それもって言わないでよ。別にプロやストリートミュージシャンで動画サイトに出て再生数何十万とか言ってる人と比較しようとしているんでしょ?違うって。そういうんじゃないから。でも明らかに上手いから」
まだ続く。
「まだまだあるわ。バイクの運転も上手いでしょ。勉強も凄く努力している。あと意外と異性とのコミュニケーションは上手だった。もっとコミュ障でダメダメかと思ったけど全然上手かった。あれだけできるんなら私が手助けなんてする必要はなかった。洗濯もキレイにしてくれるし、掃除も確かに手抜きだけどちゃんと要点は押さえている。陰キャだボッチだって言うけどちゃんと良いポジション取りしている。地味だけどちゃんとお洒落も知ってる。前髪被っているけど目もキレイ。実はイケメン。性格は抜群に優しくて穏やか。癒やし系。心がキレイ。もうこの点に関しては絶対に自信持って推せる。いや、推したくない。推して皆に知られたら嫌やもん。確かに少しマイナス思考が過ぎるけど、出過ぎた図太い奴らよりはよっぽど良い。他にももっともっと・・・・」
なんか・・・赤面してくる。樹里から熱を帯びた僕へのエールがどんどん「これでもかこれでもか!」と送られてきて胸が熱くなる。
「ありがとう、樹里」
「ううん、私本気で思ってるよ。あにぃは比較対象が凄い高いところにありすぎるんだよ。完璧主義・完全制覇なの。そこまで要求することってほとんど何もないわ。それに女子だって別に料理の腕がプロ級ですって言えばそれは凄いと言われるけど、かと言って必ずその人の好きなものを好きな味付けで出してくるかは別の話だし、それより一般的にできるぐらいです、でも充分嬉しいもんよ。ましてや好きな食べ物を知り尽くしてアレンジも相手好みに合わせてくれる気持ちは、何にも勝るわ。自分で自分を落としてしまう比較はしないで」
・・・・完璧主義、完全制覇。そんなつもりはなかったはずなのに・・・そうだね。僕はいつの間にかそういう比較の仕方をしていたかもしれない。もっと一般的に優れている、だけで十分なのに、百八十センチ以上ないからダメ、とかプロ級じゃないからダメ、とか、そんなことばかり思っていたかもしれない・・・・
「それにさ・・・」
力説していた樹里がスッと力を抜き、ヘルメットをパントリーの所定の棚にしまい、僕のも受け取ってくれて樹里の白いそれの横に置いた。
次の言葉には一拍も二拍も間があった。この間は引きとなり、注目を引きつけた。
「プッ・・・」
3
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
乙男女じぇねれーしょん
ムラハチ
青春
見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。
小説家になろうは現在休止中。

学園のマドンナの渡辺さんが、なぜか毎週予定を聞いてくる
まるせい
青春
高校に入学して暫く経った頃、ナンパされている少女を助けた相川。相手は入学早々に学園のマドンナと呼ばれている渡辺美沙だった。
それ以来、彼女は学校内でも声を掛けてくるようになり、なぜか毎週「週末の御予定は?」と聞いてくるようになる。
ある趣味を持つ相川は週末の度に出掛けるのだが……。
焦れ焦れと距離を詰めようとするヒロインとの青春ラブコメディ。ここに開幕
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる