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★やはり樹里が前に言った「そんな扱いを受ける男」の方だったようだ。
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気が付けば樹里に抱きしめられていた。抱きしめられていたといえば恋愛要素が大であるがそうではない。一時的に怒りと悲しみでトリップした僕がどうもかかって行きそうになっていたみたいで、僕を立ったまま抱き着いて止めていた。それで僕のきっと愚かで間抜けな怒った形相を隠して、向こうに気づかれないようにしてくれていたのだろう。少しでも僕のプライドをきれいに守ったんだと思う。
正気が戻ってきた当たりから、頭から血の気が引いていく感覚とともに、胃の上部が何か悪魔にでもゆっくりゆっくりしかも強力に掴まれていく感触が身体を突き抜けていく。
「う・・・・うう・・・」
僕は苦悶して呻きながら・・・身体が折れていく
「あ、、、、あにぃ、今度はあれ(PTSD)か。ちょっと、、、ベンチあけて!」
座っていた亜子さんが「何??」と驚いたようになっているが、急変をすぐ理解したのかサッと避けた。
「どうしたん?・・・お兄さん顔・・・真っ青やん」
「にんたま大丈夫?」
「御堂くん、そこの会館の休憩所入ろうか。うわ、、ホンマや、え?救急車呼んだほうがいいか?」
僕は樹里の身体を叩いて気づかせた。
「いや、樹里。。。皆に見られたくない」
「ええ?」
「まだ初期段階やから、、、今のうちに誰もおらんところへ」
「誰もおらんところ・・・?」
「あれやったら、、、僕一人でうろついてくるわ・・・・」
「んなことできるわけないやろ!」
樹里の真剣な声色に周囲が過敏に反応する。
「え?御堂君どうしたん?」
「食あたりとかかな?」
何も事情を知らないクラスメイトたちも寄ってくる。
「あの、今日もう、、帰るわ」
樹里が横に回り、僕の肩を組んだ。
「あ、大丈夫?休んでいかないの?いける?」
「うん、、、本人ももう帰りたいみたいやし・・・」
「ああ、そうか。分かった」
辻本君が頷いた。
「え?お兄さん意識あるの?ホンマ大丈夫なん?」
亜子さんも寄ってきて背中に手をあててくれるが、僕はこの皆のいる状況からいち早く逃げたかった。
「これ、神宮東公園のほうってこの通りじゃなくて表からいける?」
「ああ、そっちから行った方が近いよ」
電車通り以外は蛇行していてよく分からなかったのだが、どうやら公園脇には表通りから行くほうが近いようだ。その方が助かる。下手にさっきの集団に僕や特に樹里が近づいて田中さんに気づかれてもあかんし、あんな調子に乗った集団だったら樹里をその場でナンパしかねない。そうなるともうひとつややこしい。
「これそこの角を曲がってぐるっと行くんやな?」
コの字を書いていくかの確認。
「そうやなあ、そこはそれしか抜け道がないわ」
「分かった、ありがとう。あにぃ行こう。みんなごめん、帰るわ!」
本当はしゃがみ込みたかった。頭を心臓より下にして血液を脳に送りたかった。
けど周りに人が多すぎてそんなことしたらただ事じゃないと思われてしまう。とりあえずその場から逃げたかった。一人か樹里と二人だけになりたかった。ショックな出来事で再発するPTSDを知られたくなかった。
コの字に回り込むまで僕なりに大丈夫、ちょっとした腹痛みたいなもん、というふりをしていたが、亜子さんに指摘された通り顔色は隠せなかった。
けど踏ん張っていたんだ。
回り込みきったとたん、ダメダメだった。一旦膝をついて四つん這いになってしまった。樹里もいけるのかな?と僕の演技に力を抜き油断していたみたいだったが、慌てて「戻るか?ここで休むか?」と聞いてきた。僕はまだ会館から近いので嫌だった。もう見られてはいるが百パーセントは見せたくないし、同世代の女の子たちも居てる。田中さんの行動で傷ついてショック状態になり、PTSDから胃痙攣を起こしましたなんて知られたらどうよ?黒歴史すぎる。
どうにか神宮東公園まで行ってそこで休みたい。あそこならベンチがあるし、あんまり人影がない。
樹里に肩を抱えられながら胃の上部の搾り上げられるような痛みと貧血に堪えながらなんとか立ち上がって歩く。
樹里が僕のおでこに手をやる
「めちゃ冷たいやん・・・・」
こうなると僕の体温は三十四度台になる。顔が冷たく頭頂部に氷を埋め込まれたみたいだ。視界にはなにやら小さな光の粒が飛び交い、油断すると真っ白になってこけてしまう。
「急ぎたいん分かるけど、ゆっくり行こう、ゆっくり・・・・」
左肩から抱えてくれている樹里は、優しくもあったが力強くもあり、着実に前に進んだ。
「うう・・ああ・・・いてぇ・・・・」
汗が地面に滴り落ちる。熱さによるものではない。血の気が引いた冷汗だ。
「ゲホゲホゲホ・・・・ウェッ」
「吐きそうか?」
「いや、、、吐きはしないけど、、、ちょっとえづきそうになる」
「そっか、じゃあもうちょっと行こうか。吐きたかったら吐いてしまえ」
樹里に身体を支えられながら思った。
あそこにいた遊び人たちはきっとこんな僕みたいなことにはならないだろう。
好きだった人が他のもっと遊んでいる人らと楽しそうに歩いているところを見て、PTSDを発症して胃痙攣を起こして悶絶し、えづきながら気絶しそうになっている。
こんなこととはきっと縁遠い太い人種なんだろう。勝ち組だ。おそらく彼らは田中さんにそれほどのお金をかけることはないだろう。ひょっとしたら恋愛上手なら田中さんからお金を引き出す側に回っているかもしれない。きっと田中さんを容易く笑顔にするのだろう。現にもうしていた。ひょっとしたら田中さんのことがお目当ての男子がいて、いや、確実にいるだろうなあ、きっと何の抵抗もなしに口説くだろう。ひょっとしたらその後はあっさり抱かれてしまうんだろう。自分はどうだ?なんて細かく無駄ばかりの自分なんだろう。なんでもっと上手に女の子を口説く才能や神経のほうは発達しなかったんだろう。なんでそういう環境に恵まれてなかったんだろう。それを金や樹里の力を使ってカバーして何とか大きく見せかけて、案の定仮面を剝がされたら召使いのような扱いを受けて、真人間らしい言葉をメッセージアプリでかけてくれてからの、これ。。。思いを伝えることも出来ず手で触れることもできず、当然唇で触れることも抱くこともできず。。。
自分はやはり樹里が前に言った「そんな扱いを受ける男」の方、負け組だったんだ。
正気が戻ってきた当たりから、頭から血の気が引いていく感覚とともに、胃の上部が何か悪魔にでもゆっくりゆっくりしかも強力に掴まれていく感触が身体を突き抜けていく。
「う・・・・うう・・・」
僕は苦悶して呻きながら・・・身体が折れていく
「あ、、、、あにぃ、今度はあれ(PTSD)か。ちょっと、、、ベンチあけて!」
座っていた亜子さんが「何??」と驚いたようになっているが、急変をすぐ理解したのかサッと避けた。
「どうしたん?・・・お兄さん顔・・・真っ青やん」
「にんたま大丈夫?」
「御堂くん、そこの会館の休憩所入ろうか。うわ、、ホンマや、え?救急車呼んだほうがいいか?」
僕は樹里の身体を叩いて気づかせた。
「いや、樹里。。。皆に見られたくない」
「ええ?」
「まだ初期段階やから、、、今のうちに誰もおらんところへ」
「誰もおらんところ・・・?」
「あれやったら、、、僕一人でうろついてくるわ・・・・」
「んなことできるわけないやろ!」
樹里の真剣な声色に周囲が過敏に反応する。
「え?御堂君どうしたん?」
「食あたりとかかな?」
何も事情を知らないクラスメイトたちも寄ってくる。
「あの、今日もう、、帰るわ」
樹里が横に回り、僕の肩を組んだ。
「あ、大丈夫?休んでいかないの?いける?」
「うん、、、本人ももう帰りたいみたいやし・・・」
「ああ、そうか。分かった」
辻本君が頷いた。
「え?お兄さん意識あるの?ホンマ大丈夫なん?」
亜子さんも寄ってきて背中に手をあててくれるが、僕はこの皆のいる状況からいち早く逃げたかった。
「これ、神宮東公園のほうってこの通りじゃなくて表からいける?」
「ああ、そっちから行った方が近いよ」
電車通り以外は蛇行していてよく分からなかったのだが、どうやら公園脇には表通りから行くほうが近いようだ。その方が助かる。下手にさっきの集団に僕や特に樹里が近づいて田中さんに気づかれてもあかんし、あんな調子に乗った集団だったら樹里をその場でナンパしかねない。そうなるともうひとつややこしい。
「これそこの角を曲がってぐるっと行くんやな?」
コの字を書いていくかの確認。
「そうやなあ、そこはそれしか抜け道がないわ」
「分かった、ありがとう。あにぃ行こう。みんなごめん、帰るわ!」
本当はしゃがみ込みたかった。頭を心臓より下にして血液を脳に送りたかった。
けど周りに人が多すぎてそんなことしたらただ事じゃないと思われてしまう。とりあえずその場から逃げたかった。一人か樹里と二人だけになりたかった。ショックな出来事で再発するPTSDを知られたくなかった。
コの字に回り込むまで僕なりに大丈夫、ちょっとした腹痛みたいなもん、というふりをしていたが、亜子さんに指摘された通り顔色は隠せなかった。
けど踏ん張っていたんだ。
回り込みきったとたん、ダメダメだった。一旦膝をついて四つん這いになってしまった。樹里もいけるのかな?と僕の演技に力を抜き油断していたみたいだったが、慌てて「戻るか?ここで休むか?」と聞いてきた。僕はまだ会館から近いので嫌だった。もう見られてはいるが百パーセントは見せたくないし、同世代の女の子たちも居てる。田中さんの行動で傷ついてショック状態になり、PTSDから胃痙攣を起こしましたなんて知られたらどうよ?黒歴史すぎる。
どうにか神宮東公園まで行ってそこで休みたい。あそこならベンチがあるし、あんまり人影がない。
樹里に肩を抱えられながら胃の上部の搾り上げられるような痛みと貧血に堪えながらなんとか立ち上がって歩く。
樹里が僕のおでこに手をやる
「めちゃ冷たいやん・・・・」
こうなると僕の体温は三十四度台になる。顔が冷たく頭頂部に氷を埋め込まれたみたいだ。視界にはなにやら小さな光の粒が飛び交い、油断すると真っ白になってこけてしまう。
「急ぎたいん分かるけど、ゆっくり行こう、ゆっくり・・・・」
左肩から抱えてくれている樹里は、優しくもあったが力強くもあり、着実に前に進んだ。
「うう・・ああ・・・いてぇ・・・・」
汗が地面に滴り落ちる。熱さによるものではない。血の気が引いた冷汗だ。
「ゲホゲホゲホ・・・・ウェッ」
「吐きそうか?」
「いや、、、吐きはしないけど、、、ちょっとえづきそうになる」
「そっか、じゃあもうちょっと行こうか。吐きたかったら吐いてしまえ」
樹里に身体を支えられながら思った。
あそこにいた遊び人たちはきっとこんな僕みたいなことにはならないだろう。
好きだった人が他のもっと遊んでいる人らと楽しそうに歩いているところを見て、PTSDを発症して胃痙攣を起こして悶絶し、えづきながら気絶しそうになっている。
こんなこととはきっと縁遠い太い人種なんだろう。勝ち組だ。おそらく彼らは田中さんにそれほどのお金をかけることはないだろう。ひょっとしたら恋愛上手なら田中さんからお金を引き出す側に回っているかもしれない。きっと田中さんを容易く笑顔にするのだろう。現にもうしていた。ひょっとしたら田中さんのことがお目当ての男子がいて、いや、確実にいるだろうなあ、きっと何の抵抗もなしに口説くだろう。ひょっとしたらその後はあっさり抱かれてしまうんだろう。自分はどうだ?なんて細かく無駄ばかりの自分なんだろう。なんでもっと上手に女の子を口説く才能や神経のほうは発達しなかったんだろう。なんでそういう環境に恵まれてなかったんだろう。それを金や樹里の力を使ってカバーして何とか大きく見せかけて、案の定仮面を剝がされたら召使いのような扱いを受けて、真人間らしい言葉をメッセージアプリでかけてくれてからの、これ。。。思いを伝えることも出来ず手で触れることもできず、当然唇で触れることも抱くこともできず。。。
自分はやはり樹里が前に言った「そんな扱いを受ける男」の方、負け組だったんだ。
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