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★女帝の部屋で事情聴取

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「は~また私生活指導かもしれません~」
階段を降りながら頭を抱えていた。
「ごめんよ~恰好悪いところ見せちゃって。それにあんな話の間に入らせてしまって」
「・・・・・ううん、そこはいいんです」
「良くないよ、これは本当は僕が解決せなあかんことやったわ、本当にごめん」
「いいんですいいんです。私も・・・私も『私が解決せなあかんこと』を樹里に解決してもらっているんで、、、どっかでは返さなあかんことやったし、私の方がもっとひどかったし・・・・あれぐらいのことで借りを返せたなんて思ってないし」
何があったかは分からないけど、樹里は何か亜子さんに貢献していたらしい。
最初のころ男がどうたらこうたら言ってたっけ。
本人も知られたくない話やろうし、僕から聞かないほうがいいなあ。

「あ~あ、おつかれ~」疲れたって感じで教室内に入る亜子さん
「お疲れ様です」
「あ、亜子ちゃんお疲れ、どこ行ってたん?ってあれ?にんたま居てるーー!!」
樹里と亜子さんのクラスだ。さっそくらんちゃんが手を振ってくれた。そこにそれ以外のメンバーもまだ二人見知らぬ女子の顔があり、二人とも同時に「お疲れ様ですー」と頭を下げてくれた。僕は恐縮でペコペコ頭を下げていた。

らんちゃんの(廊下からしたら)奥側(つまりグラウンド側)に樹里がデンと態度でかく座っていて、こっちに手をあげている。そしてまるで最高幹部のように亜子がその向かって右横にドッカと座る。余談だが確か1年はまだ席替えはしていない。なので多分順番でいけばその通りの順番だ。万里崎亜子→御堂樹里、のはず。
あれから樹里とは、田中さんの件についても、僕が家を出たらあかん件についても話していない。朝から至って普通。むしろ機嫌が良いくらいだった。早く起きていて、朝食や洗濯ものの手伝いでもしてくれるのかと思いきや、それはしなかったし、登校時間も樹里の方がやっぱり後からだった。
(何か考えている様子に見えたなあ。それもあるけど、気使ってくれてんだろうね・・・悪いなあ)
何となくだけど一年の教室、一階は暑い。今日のように梅雨の通り雨が降った後に日が照りだすと、再び煮えたアスファルトから上がる見えない蒸気のせいで独特のにおいがして、蒸し暑さを感じる。エアコンの設定は同じでも明らかに違う。樹里が言うのも分かる。
「えらい興奮してるやん亜子」
「うん、大したことはない。ちょっと暴れてもうた・・・」
「暴れたん?どこで?」樹里がニコニコで亜子に。
「お兄さんのクラス」片手で顔をおさえて
「また生活指導かな・・・・」
「なにしたん?」
「机・・・蹴り上げた」
「ぷぷぷぷ・・・・・」
「あら、亜子ちゃん久々にやっちまいましたか」
「もうちょっと言葉で詰め寄ったほうがいいですよ」見知らぬ女子A
「言葉でなあ・・・・私アホやからつい身体が動くねんなあ」
「学校の備品が・・・・」見知らぬ女子B
「久しぶりちゃう?四月の入りたての時ようやってたやん」
「よう・・・やってたな」
「すぐドンガラガッシャーン!『なんじゃこらオマエ??』って」
「(笑)言ってたなあ」
「なんじゃこらオマエって見たら分かることやん、大概な。普通の学校やのに(笑)」
「ホンマ(笑)ホンマホンマ、そんな確認せんでもな(笑)」
回顧しながらつい最近までやっていた若気の至りを思い出している。いつもなら樹里のボケに対して強気で返していくところを、この手の自分の昔話をされるとどうも照れてしまうのか、ちょっと弱々しい。

そんな姿を廊下で。僕が教室の外で突っ立っていれば、
「にんたま、そんなとこいないで入って入って」
「お、お邪魔します・・・」
「座って座って~~~」らんちゃんが横の椅子を引き出してくれた。
「あ、あ、ありがとう」
「あにぃ~おつかれーあれ・・・・目、真っ赤やん」
僕は目を伏せる。伏せたままとりあえず椅子に座る。
「え?どしたん?」
亜子が樹里の左手を漫才の突っ込みのように甲で叩く。
「私、あの田中無理やわ・・・・」
「田中かあ・・・・・」
「田中さん最近めちゃ目立ってるもんねえ」らんちゃんは僕の顔を見てくるので、
「目は、目はゴミ入っただけやから・・・」とりあえず誤魔化す。
「じゃあ目薬あります」
見知らぬ女子A(この子もキレイで三人と違ってどこか優等生感、品行方正さが強く出ている子)が持っていた手提げバッグから目薬をだした。
「あ、いやいや、だい、大丈夫です」
見知らぬ女子Bは・・・・この子も、、いや、この子凄いキレイかも。
座っているけど背が高くて脚が長い。。。外国人・・・ハーフなのだろうか、北欧系の透き通るような透明感がある容姿で髪の毛も違和感がない金髪だ。降り注いできた太陽光でそう見えるのかな・・・・いや、間違いない。金髪でひと際輝いている。
この子が、きっと樹里の次に有名な美人だろうなという気配がする。だいたいそんなにハーフなんて存在しないんだからほぼ確定でしょう。
「ヒッ!」
「え?あ、ああ、ご、ごめん」
突然顔を隠して身体をよじって僕の方から見えなくする。なに?って感じなんだけど。「ヒッ!」なのか「ハッ!」なのかはっきりわからない声をだして一気に自分を隠した。
「あんまり女子のことジロジロ見なやー」
樹里から苦情が入る。
「ええ、ああ、ご、ごめん、なんかその・・・・・」
「紗良(サラ)は見ての通りハーフやで。北欧系ハーフやねんけどこの通り・・・男性に免疫がない。ハーフの子って活発で関係のない男にでも抱き着くようなイメージやんか。そこは固定概念消したってな」
樹里は紗良さんの肩を撫でている。
「あ、、、そ、そうなのね。ごめん、、ちょっと見入ちゃった」
まるで有名ハーフ系芸能人っぽくて、『毎日パーティー三昧な生活してます』と言ったとしても『そりゃそうだよね』と言えそうな派手な出で立ち。なのに、自信が無さげで僕の目線から顔を赤くして逃げようとしている姿。
「にんたま、いやらしいですね。はい、こっち見てこっち。紗良ちゃんのキレイな顔ばっか覗き込んでないで、私のチャームポイントも見てくださーい」
とらんちゃんが自分の胸を指さす。
らんちゃんの胸は身体に反比例しているくらいのサイズ感。魅力的すぎるというには充分だった。というか、顔立ちも、らんちゃんは普通に可愛い。少し垂れたぱっちりした瞳に、ここ最近髪を伸ばしているようで、出会った頃の襟足刈上げではなく、セミロングに近づく勢いである。

ここは、天国かよ・・・・

さっきのショックでちょっと頭が両極端にシフトしすぎている。
「出た、痴女」
「亜子ちゃん痴女言わないで、誰にでもはしないから!」
「誰にでもせぇへんねんやったら何でお兄さんにはするんよ」
「なぜかしやすいから!」
・・・・・というか、僕がただのおもちゃのような気もする。。。
「あ、それと結衣、あにぃに目薬ありがとう」
「いえ、私も目がそんなに強くないんで、よく持ち歩いているんですよ」
どうやらAは結衣というらしい。俺が目薬を返すとニッコリ微笑み受け取った。にしてもさっきも言ったけど・・・やっぱりこの子もキレイだな。漆黒の髪を後で一つに束ねて長いまつ毛がまばたきするたびにはっきりと見える。この子の雰囲気は「和の美人」というところだろうか。見てわかる通りのなで肩、制服もきちっとした着こなしをして乱れがない。
そんなつかの間のうつつを抜かしていると、
「締めるとか言うとってん、あいつの連れ・・・・」
「なんであにぃが締められなあかんの?」
「知らんよ、それで私立ち聞きしてたら、田中がめっちゃ偉そうに『明日からちゃんとしてこい』とか『しけた顔や』とか言いやがってさ・・・・」
「ふーん・・・・・」
樹里は俯いた・・・・・表情はこちらに見せずにそのままうなだれている。そして全員が沈黙する。
多分皆思うことはひとつ、特に亜子さんが「あ!来るのかな」という顔をしている。だら~っとした気のゆるみから、再び緊張感に変わる。

樹里がキレたら最後や・・・・

この学校で止められるもんなんて一人もおらんで。ていうかこの地域にでもそんな人おるんか?といった類の戦慄と緊張。それでも止めなあかんし・・・・
亜子さんはらんちゃんと目でなにか合図を送っている。さっきのを見て亜子さんは強いのは証明済み。ポイントを抑えて僕を制していた上に、力も男以上に強かった。おそらくらんちゃんもソフトボールを真剣にずっとやってきた子だから普通の女子より遥かに体力に自信があるはず。残りの二人は未知数。。。

「ホンマに顔シケとったんちゃうん?(笑)」
ズルッと二人こける。僕らの住んでいた地域のノリはこちらにもあるようで。

「ねーたま・・・・最近フェイントうますぎ」
「あんたの無言の間、怖すぎるねん」
「ごめんごめん(笑)」
「ごめんな~心配かけて、ホンマに皆さんごめんなさい。ホンマにしけてた思うよ僕」
「なんでお兄さんが謝るんよ、そんなことないやんかあ」
亜子さんにはまだ怒りの余韻がある。
「最近私のお弁当もなくなったやん。その代わり、よりもっと勉強時間長くなったよなあ、どうしたんよ?昨日も確実におかしかったわ、あんなこと言ってさ。田中がらみなんは分かるで。言えるだけ言ってみいや。ちょっとスッとできるから」

「う、うん、ありがとう・・・・けど、まだ頭の中整理つかない。。。その豹変してしまったようにしか思えないから。それに・・・自分の『思い』みたいなんもあって・・・こうなればいいなあ、っていう、期待みたいなものかな。。。」
頭の中が混乱してて、整理がつかない。どう説明すればうまく表現できるのだろう。あまりに自分が情熱的に早々と動いていて、それに対しての帰ってくるボールが早すぎてキャッチするのが大変だったのに、最近は凶器を含んだ危険球みたいなんがバンバンくるもんだから、受け入れられないことが多すぎた。
「そっかあ、じゃあさ、亜子が生活指導かかりそうやんかあ、これに関してはあにぃ関係あることなんは分かるよなあ」
「うん、分かってる。申し訳ないと心から思っている」
「いや、そんなん結衣が言ったみたいに、言葉でやっつければよかったのに私がカッときて・・・・・・ぷっ」
「え?なに?亜子どしたん?」
今度は急に亜子さんが噴き出し始めた。
口を押えて顔が赤くなって樹里の服の袖を摘まむ
「いや・・・あのな、」
聞こえるけど、樹里の耳元で
「・・・・私がな、机蹴ったあとな、お兄さんめちゃダッシュで回り込んでな、一瞬なにしはるんかなと思ったらな・・・」
「うんうん」
「机凹み確認して、机を元の位置に戻してん(笑)え??このタイミングでー??って思ったわ」
「わははははは!あにぃらしい!」
「そうやでホンマ、あれでかかってきたらガチのどつきあい始まる前に机の凹み確認してさ、元に戻してな・・・・こんな人私の周りにおらんかったわって(笑)」
「ケンカに進まないね、にんたま」
「そうやねん、内心『何してんのこの人?私行かれへんやん!』て。気めちゃ抜けたわ(笑)ほんまやったらまだあの後引きずりまわして土下座でもつかそうかなって思ってたのに(笑)」
土下座って、いわゆるヤンキー流の「詫び」ってやつなのか、やっぱりこの辺本物の気合がすごいよなあ。。てか怖すぎるやろ、学校で。
「まあまあ、話元に戻すけど、とりあえず今日放課後即効で生活指導かかったらあかんから、亜子にこういう理由でやりましたっていうもんを持たせてやっとかんとあかんようになる。その後からあにぃの聞き取りになると思うから、あにぃのまとめはいつでもええねんな」
「うん。。。」
「せやから・・・後入先出しで考えていこうや」
「後入・・・・?」
「うん、まずなんで亜子がキレたんか、やな」
「それは、僕が・・・・田中さんから、その・・イジメみたいなことを受けていたから」
「なんでいじめられてたんですか?」らんちゃんが素朴な疑問を
「あ、ちょっと待って。そういう行為になったのはなにがあったからなん?」
樹里が制す。おそらくイジメの原因追及になると、また長く混沌としたところから取り出さないといけなくなるからだろう。今はおそらく端的なことだけを抽出したいと思っているに違いない。
らんちゃんは自分のお茶の水筒を出してきて、僕に注いでカップをそっと渡してくれた。
「飲むと落ち着きますよ・・・」
「あ、ありがとう・・・」
僕はらんちゃんからもらったお茶を遠慮なく口つけさせてもらった。田中さんの攻撃とか亜子さんの強行で口の中が乾いていた。このタイミングでお茶はホント助かる。こういう機転がきくところがらんちゃんは凄いなあって。さすが家が飲食業でその手伝いをきっちりやっている子だなって思える。
「宿題を見せてくれって言われててんな。。。でも僕はそういうの違うと思ってんねん。だから嫌やったけど、色々付箋貼って注釈入れたり、答えの前後関係を付箋に書いて貼ったり、テキストコピーしたりして、ダイレクトに答えだけにせんと、答えのところにまず付箋はって疑問を投げるようにしてん」
「うわ、、、にんたまめっちゃ優しいですやん」
「そういうのが二回あって、それが気に入らんかったみたいで、僕に『私の言うた通り答えだけ見せろ』とか『私は忙しい!あんたらと流れてる時間の大事さが違う!』とか・・・『あんたらは自分ではなにも変えることができないへたれな学生生活なんちゃらかんちゃら送ってる』とか・・・言ってきて、多分そのあたりから亜子さんが聞いてた思うけど」
「で、締めてるとか締めへんとか、ギャラリーが言うてたからな、こらあかんわって・・・」
「うん、なんか言いなりにしようと・・・自分の使いやすいようにしようとしていたんかもな」
「奴隷の調教ですね・・・」結衣がぽそっと呟く。
「そらあかんわ、私もむかついてきたわ、めちゃ調子乗ってるねえ、にんたまそいつの頭はたいたったらよかったのに」
「う、うん・・・まあはたかなくても、嫌だって拒み続けることはできたかもね、今から思えば」
「そうやなあ、そうなると、先生らからしたらなんで宿題見せる行為にあにぃが加担したんか?ってそこに来るなあ」樹里が両方の机に肘をかけて手をひょいっと小さく上げる。
「それは・・・・・・・」
「本当のことはどうでもいいわ、また後からで。今は亜子の立場を守ることが最優先やから。とりあえず凄い勢いやったんやろ?じゃあ、あにぃは『とても怖くてそうする以外に思いつきませんでした。前まで友達やったし』にしときよ。あながち外れてもないから言いやすいやろ」
「・・・・うん、そうやな」
「じゃあ、それはそういうことで。亜子もそいでええなあ?宿題みせろって恐喝していたのを止めようとしてやりすぎたと」
「うん、それにあいつ私が指定した色のリップよりもっと濃いのしてたし、それも注意したというのもあるし」
「へえーそんなんしてんの。インナービューティー、自己研鑽するのはここからやでって言うたってんのに宿題もできんと、リップの色だけ濃いくなって・・・大したインナービューティーやね」
「そんなインナービューティーはとても残念ですね」
結衣さんが鞄を持って立ち上がり、大人しいが戯言を吐き捨てるように言った。それに合わせて逃げるように隠れ続けていた紗良さんが結衣さんの横につく。
「じゃあ、私たちはこれで。樹里さん、あの件考えておいてくださいね」
「はーい」
「では、失礼します」
「ばいばい~」
「さよなら~」
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