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★亜子さんキレる。

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聞き覚えのある声が廊下側からここにいる全員の生徒に突き刺さるように入ってきた。

教室の空気が固まる。

「シケた顔って、、、あんたなんか化粧の下、脂でベタベタでギトギトのくせして・・・誰に言ってんの?」

亜子さんだ。

ゆっくり僕たちの方に近づいてくる、その間はキレイで秀麗な顔立ちではあるが、般若の仮面を思わせるような雰囲気を漂わせて田中さんを睨みつけて一秒たりとも逸らさない。昨日今日で地位を手に入れて、即興で誰かの物真似をして人を脅している者と違い、ずっと不良の第一線で身体張ってきた者の重厚さと心底から相手を威圧し凌駕する力が、たった一人の年下の少女から放たれて教室全体を覆う。

田中さんはいっきに怯えだし、唇を震わせて目線が泳ぐ。亜子さんに対しては伏し目がちだった。
「なんかそこらのおばはんらも、この人のこと締めてるとか聞こえてたけど、なんか締めなあかんことでもあんのかコラッ??」
ひとつ下とはいえ、出で立ちとその全体から発する空気感だけで「私たちは確実にヤバい」ということを認識させる。だからあるものは声も出せず、動きもできないし、あるものはオタオタするだけだった。
「この人を締めることがあるんやったら私がこの人に変わったるわ、なあ。なんやねん?ああ?言うてみいや田中」
大蛇が餌を値踏みするかのように田中さんの顔を覗き込む。
「い、、、、いえ・・・・・」
「いえ?・・・・何もないんけ?何もないのに何イキり散らかしてんの?」
こちらの地元の方便になってきた。
「あ、あの・・・・じょ、上級生のクラスに・・・入って来て、その態度はおかしいと思いますよ・・・・」
田中さんが反撃したが、声は上ずり、手が震えている。その手を隠すために両手で組む。
「ふーん、そんなことでしかマウントとられへんの?なあ?」
さっきよりさらに顔を近づけていき、大蛇がいよいよ噛みつくのか、という体制に入る。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「あ、亜子さん」
僕が弱腰で止めに入ろうとするが、慣れている。逆に田中さんから遠い方の手で僕を掴んで動けないように抑えつけた。この動き。素人の俺でも分かるけど、力強くて動けない。そして慣れてる。。。

「あんた、そのリップ」
「・・・・・・・・・」
「そんな色のリップつけやって私言ったことないよなあ」

良くわからなかった。色々大変すぎて。田中さんがここに来た時からめちゃくちゃで。でも確かに言われてみれば、いつもよりだいぶピンクがかっている。そしてもうそんな気は到底起きないが、より可愛らしく唇だけは見える。
「その濃さのリップは違反よなあ・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「あんた、・・・誰らのおかげで顔塗って学校に来れてるん?」
「・・・・・・・・・・・・」
「そんな違反のリップ塗ったら、私だけじゃなく樹里の顔も汚してるん分からん?」
「・・・・・・・・・・・・」
「分からんのかって?」
「・・・・・・・・・・・・」
「分からんのかって聞いてんじゃーーー!!」

雄たけびに似た声とともに落雷でもあったかのような轟音が教室に鳴り渡った。

亜子さんが近くの机を蹴り上げていた。
机は宙に跳ね上がったあと、田中さんの横に逆さまになって落ちた。

「キャーーーーー!!」
「イヤーーーーー!!」
田中さんは自分から自分の席に転がり顔を伏せて震えていた。
村岡さんらもその場で倒れこんで、そのまま立てずに後ずさりしていく。

「ふぅ・・・・」亜子さんが大きく息を吐く。
「あ、亜子さん」
「そもそもなんでそんな塗って学校に来れるようになったん?樹里と私とが動いたからあんたができたんやろうが!」
僕は左手のホールドが弱まったので、慌てて机を直しにいく。
底面がかなり凹んでしまっていた。
僕にはどうにもできん、ごめんよーー
「なんで動いた?あんたの力か?違うなあ」
「亜子さん、、、もうええから」
「うん、後でうちの教室行こう、でもちょっと待って」
止めようとした僕を逆に止めて見せた。

「この樹里のお兄さんがいたから、樹里にしろうちにしろ動いたんやろうが!なんでそれ分からへん??アホやろおまえ!上級生とか関係ないわカス!色んな人に対する感謝忘れとんねん、たったひととき周りにチヤホヤされたぐらいで!!アホすぎるわ」

踵を返して僕の手を掴み、
「行こうもう、、、こんな教室おったってしゃーない」
「え?ええ??」
「ええから行こうって、行くで」
物凄い力で僕の腕をひっぱり教室から僕は連れ出された。
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