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第一巻
★田中の本性~解散~
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勿論意志表示することは今まであった。こうしたい、ああしたい。勿論それは悪くないことだ。
しかしなにかが気持ち悪くて、何かがおかしく思えた。
――――違和感。
表現は考えがまとまらないからまだできない。だから本当は樹里に相談して自分なりにまとめたかったが、樹里は今日は空手の稽古に行ってて遅いし、なんかこんなこと言って樹里に相談したら、おまえしょうもない些細なことに感情揺さぶられる小さな男やなあと言われそうで、そっちの方が嫌だった。
そして樹里に対してもあった。
あれを聞きたい。もし「そうだ」と言われたら、親と相談してできるかどうか聞いてみよう。あれは僕の中で「ただ単に青春の中でよくある一時的な思考」だけでは済ませられないぐらいに膨れ上がって来ていた。
扉が開く音がした。
僕はダイニングの扉をあけて
「おかえり・・・・・うん?」
「ただいま~」
「顔よ、大丈夫かい」
左の口元は切れて、左目の上は腫れていた。
「うん、大したことない。むしろ足のほうが痛いなあ」
ジャージをめくってみせたら右膝から上が紫色にあざができている。しかもその上までありそうだからかなり広範囲みたいだ。
「おまえ、それ折れてないか」
「ああ、それはないない。ここまで歩いてこれたし」
「アイシングしたろ」
「あ、ありがとう」
「肩貸そうか」
「じゃあ、御言葉に甘えて・・・ヘヘヘ」
「腕も痣だらけやんけ」
「うん、明日休みやからってちょっと今日はやりすぎた」
「何してん?」
そう言いながら樹里の肩を抱き、抱えてダイニングまで連れていき、とりあえず椅子に座らせる。
「今日二段、三段の人らとか他所の強いという噂の人ら集まっておったから、まとめてそのあたりのん皆と人組手した」
「・・・・・・・皆とって、それ全員男やろ」
「男やで。あれ知ってる?実は一番強いのんて二段三段て。五段とかになってきたら勿論強いけどほとんど名誉職とかになるねん」
「男の有段者のバリバリ相手して来て傷これだけって。病院送りで普通やろ」
「いや、充分痛いよ(笑)」
「痛いよちゃうわ、倒したんかいな」
「一応全員倒した」
「ありえへん」
「一対一ちゃうで、複数対私一人とかやで。七人と私一人とか」
「ホンマありえへん」
「ルール何でもありとか、小道具使えるんやったら私もっと強いで。二十人来ても大丈夫やわ」
通常は、こんなことは見栄というか虚勢というか、分からない話だと思うが、
「なんとなく分かるわ」
樹里は、やれる。
僕は冷蔵庫からアイシング用保冷剤を出してきて近くにあるタオルでくるみ準備をした。
樹里は普通にジャージのボトムを脱いだ。紫の痣が広がって右鼠径部手前ぐらいまで紫色になっている。下半身はボクサーパンツいっちょうであるが、ここまでくるとグロくて色っぽくはない。近づくと樹里の汗と血の臭いがして、女子らしい匂いは感じることがなかった。僕はタオルにくるまれた保冷剤を持って樹里の足にそっとあてる。
「くぅぅぅーーーーーきくわ~」
「ちょっと持っとき。僕荷物こっちに・・・」
「あにぃ持っといてや・・・玄関の荷物私後でするから」
「ええ?段取り悪いなあ・・・洗濯ものも一緒にしたいのに」
「ええやん、明日休みやし。洗濯機ぐらい私回すよ」
「回し方知らんやろ・・・・?」
「・・・・・・・知らん(笑)」
「もう!」
「ええやん、もうちょっとおさえといてえや。あとここも・・・・」
僕は樹里の久々の腕白最強ぶりにムズムズした小さな話を忘れてしまっていた。
そうさ、忘れてしまうようなちっぽけな話、どうでもいいような感情の起伏のひとつなんだ。今週末はそう思い込んだ。
翌週、
その日のお昼は最低だった。
田中さんと江藤さんと僕と一緒で、またおかずパーティーをしようとしたが、ほとんど会話が成立しない。「ああ」「うん」「そう」、投げやりな会話の往復が数回あっては黙り、また数回あっては黙りの繰り返しだった。江藤さんはまるで笑顔のこけしの様だった。
最後は食べ終わると田中さんだけ「私ちょっと行かなあかんとこあるから」と言って出て行ってしまった。
数分黙ったまあ僕たちが食べていたが
「もう、ええかあ。御堂君」
「え?」
江藤さんが表情は笑顔のこけしのまま呟くような小声ではあるが、明確な意思を示した。
「もう、ええにしよう。終わりにしよう。私も他のクラスの友達のところに食べにいけるし、御堂くんにしても私と食べてても仕方ないやろ」
「・・・・・・江藤さん」
「だから、もういいで」
「・・・・・・・・・」
「はい、今日で終了(笑)」
笑顔は笑顔のまま、心がこけしのように固く閉ざされたものとなってしまった。
もう一度、もう一度、試したかった。何がどうなっているのかが知りたかった。
僕はその日メッセージアプリで
雅樹<一緒に帰れる?>
とメッセージアプリを送った。
田中<今日は無理。明日やったらいいよ>
と返事があった。
しかしなにかが気持ち悪くて、何かがおかしく思えた。
――――違和感。
表現は考えがまとまらないからまだできない。だから本当は樹里に相談して自分なりにまとめたかったが、樹里は今日は空手の稽古に行ってて遅いし、なんかこんなこと言って樹里に相談したら、おまえしょうもない些細なことに感情揺さぶられる小さな男やなあと言われそうで、そっちの方が嫌だった。
そして樹里に対してもあった。
あれを聞きたい。もし「そうだ」と言われたら、親と相談してできるかどうか聞いてみよう。あれは僕の中で「ただ単に青春の中でよくある一時的な思考」だけでは済ませられないぐらいに膨れ上がって来ていた。
扉が開く音がした。
僕はダイニングの扉をあけて
「おかえり・・・・・うん?」
「ただいま~」
「顔よ、大丈夫かい」
左の口元は切れて、左目の上は腫れていた。
「うん、大したことない。むしろ足のほうが痛いなあ」
ジャージをめくってみせたら右膝から上が紫色にあざができている。しかもその上までありそうだからかなり広範囲みたいだ。
「おまえ、それ折れてないか」
「ああ、それはないない。ここまで歩いてこれたし」
「アイシングしたろ」
「あ、ありがとう」
「肩貸そうか」
「じゃあ、御言葉に甘えて・・・ヘヘヘ」
「腕も痣だらけやんけ」
「うん、明日休みやからってちょっと今日はやりすぎた」
「何してん?」
そう言いながら樹里の肩を抱き、抱えてダイニングまで連れていき、とりあえず椅子に座らせる。
「今日二段、三段の人らとか他所の強いという噂の人ら集まっておったから、まとめてそのあたりのん皆と人組手した」
「・・・・・・・皆とって、それ全員男やろ」
「男やで。あれ知ってる?実は一番強いのんて二段三段て。五段とかになってきたら勿論強いけどほとんど名誉職とかになるねん」
「男の有段者のバリバリ相手して来て傷これだけって。病院送りで普通やろ」
「いや、充分痛いよ(笑)」
「痛いよちゃうわ、倒したんかいな」
「一応全員倒した」
「ありえへん」
「一対一ちゃうで、複数対私一人とかやで。七人と私一人とか」
「ホンマありえへん」
「ルール何でもありとか、小道具使えるんやったら私もっと強いで。二十人来ても大丈夫やわ」
通常は、こんなことは見栄というか虚勢というか、分からない話だと思うが、
「なんとなく分かるわ」
樹里は、やれる。
僕は冷蔵庫からアイシング用保冷剤を出してきて近くにあるタオルでくるみ準備をした。
樹里は普通にジャージのボトムを脱いだ。紫の痣が広がって右鼠径部手前ぐらいまで紫色になっている。下半身はボクサーパンツいっちょうであるが、ここまでくるとグロくて色っぽくはない。近づくと樹里の汗と血の臭いがして、女子らしい匂いは感じることがなかった。僕はタオルにくるまれた保冷剤を持って樹里の足にそっとあてる。
「くぅぅぅーーーーーきくわ~」
「ちょっと持っとき。僕荷物こっちに・・・」
「あにぃ持っといてや・・・玄関の荷物私後でするから」
「ええ?段取り悪いなあ・・・洗濯ものも一緒にしたいのに」
「ええやん、明日休みやし。洗濯機ぐらい私回すよ」
「回し方知らんやろ・・・・?」
「・・・・・・・知らん(笑)」
「もう!」
「ええやん、もうちょっとおさえといてえや。あとここも・・・・」
僕は樹里の久々の腕白最強ぶりにムズムズした小さな話を忘れてしまっていた。
そうさ、忘れてしまうようなちっぽけな話、どうでもいいような感情の起伏のひとつなんだ。今週末はそう思い込んだ。
翌週、
その日のお昼は最低だった。
田中さんと江藤さんと僕と一緒で、またおかずパーティーをしようとしたが、ほとんど会話が成立しない。「ああ」「うん」「そう」、投げやりな会話の往復が数回あっては黙り、また数回あっては黙りの繰り返しだった。江藤さんはまるで笑顔のこけしの様だった。
最後は食べ終わると田中さんだけ「私ちょっと行かなあかんとこあるから」と言って出て行ってしまった。
数分黙ったまあ僕たちが食べていたが
「もう、ええかあ。御堂君」
「え?」
江藤さんが表情は笑顔のこけしのまま呟くような小声ではあるが、明確な意思を示した。
「もう、ええにしよう。終わりにしよう。私も他のクラスの友達のところに食べにいけるし、御堂くんにしても私と食べてても仕方ないやろ」
「・・・・・・江藤さん」
「だから、もういいで」
「・・・・・・・・・」
「はい、今日で終了(笑)」
笑顔は笑顔のまま、心がこけしのように固く閉ざされたものとなってしまった。
もう一度、もう一度、試したかった。何がどうなっているのかが知りたかった。
僕はその日メッセージアプリで
雅樹<一緒に帰れる?>
とメッセージアプリを送った。
田中<今日は無理。明日やったらいいよ>
と返事があった。
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