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第一巻
★メタモルフォーゼ~引き裂く因縁と胸懐のヘドロ~
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そこから二日間はランチも、一緒に帰ることもできなかった。
忙しいようだ。前も学校に公然と薄メイクをしてきても大丈夫なように、先生たちと打ち合わせしたり申請書や添付書類などを作ったり、亜子さんから技術を学んだりしていて忙しかった。今度は人的交流が忙しいみたいだ。申し訳なさそうな顔でこちらを見るが、本人としては好奇心を優先したいようで、それも致し方がないことだろうと思う。同じクラスのあのグループ、このグループ、他のクラスの女子グループ、男子混ざった混合、神宮組、電車内。。。それらの三年、二年、一年・・・上下混ざったのなど、色んな生徒たちとの交流が一気に盛んになった。休憩時間になれば、以前田中さんに関わりがなかった女子等(むしろ避けていたぐらいの女子かもしれない)や、その代表みたいな子が何かしら誘いに来た。授業の予習や復習・振り返りすらできていないように見えた。
「誰がどの子か、、、分からんくなる・・・」
そんな独り言すら聞こえてきた。
彼女は一気に勝ち組の、スクールカーストの階段を駆け上がったようだ。
それで妬まれたり、足を引っ張られることもなかった。
そのような下地を樹里が作ったからだ。
ただこういうことはある。
「あの、、、樹里さんを紹介してくれない?」
女子らが「田中さんは樹里さんと繋がりがある」「樹里さんと繋がっているからそこにあやかりたい」という思惑が多分にあったようだ。しかしそれは樹里は凄く嫌がる。そこは田中さんもあの席から聞こえる会話の中で「それは無理」「ごめん、できないことになっているねん」と必死で断っていたのが聞こえてきていた。
僕はお昼は一応作ってきていた。
さらに新メニューとかも追加していた。
ちくわ海苔チーズだ。ちくわを縦に切って海苔を挟み、チーズを挟み、巻いてつまようじで刺してオーブントースターで焼く。余った分は樹里の朝ごはんの食卓に置いておいた。帰ってみたら無くなっていてゴミ箱につまようじだけ捨てられてあったので、胃の中に納まったということだ。
けど、田中さんの胃の中に納まることはなかった。
江藤さんと二人で食べるが、そうなると江藤さんも僕の特別に持ってきたおかずにはあまり手を付けなくなった。ほとんど食べてはもらえなかった。そんな状態が二日続き、生ごみが増えた。
まだ二日だけのことだ。たかだが二日で何も変わらないし、僕と江藤さんはゆっくり待っていればいいと思う。
おかずはこの二日間頑張って作った。
三日目にようやく三人で食べれた。食べる場所が以前の講堂裏では、女子の服装的に無理になってしまったので、そのまま教室で食べることになった。
「なんか久しぶりな気するねー」
江藤さんがそう言う。
「ほんまやねー全然そんなことないのに」
田中さんが笑う
「今日もおかず作ってきたよ」僕がタッパから出す。
「うん、これ食べれるのも久しぶりって気する(笑)」
けど、三人の会話ができるのは十五分程度だった。
またどこかのグループ三人ほどが入ってきて、「今日はここに居たん?」から始まり、また別のどっかのグループ代表二人が来て、「お菓子あるからおいでよ」「明日食堂で食べようよ。みんな居るで」「連絡先だけ交換しといてよ」こんな感じ。その子たちから多少僕らの方を気遣っている気配はするものの、ほぼ『アンタらは関係ない。田中さんだけが望みよ』という雰囲気が伺える。
田中さんの返事は、「いや、ほんまあ、、ごめん・・・今日はここで」「うん、また必ず行くから・・・」「必ず顔出すねえ」「メッセージアプリ?あ、、うん、いいよ」
人気者になるのはある程度意図的なものがあったし、そのスケジュールに則っていたように思えるが、「人気者に対するアプローチ活動やファン意識からくる追っかけ行為などはスケジュールに関係なく、田中さんや周囲の人の都合などはいっさい斟酌してはもらえない」ものだった。
多分田中さんの気持ちより、僕たちの思いより、周囲はもっと速いスピードで変化していってるんだ。
そして今思えば村岡さんはだいぶマシで良い子だった気がする。
それはまだ江藤さんに対する配慮があったように思う。あの子の自由人な感覚がそうさせたのかそれともクラスメイトに対する義理立てなのかは分からない。
他の子は当たり前かもしれないが、『江藤さんに対する配慮』がほぼ感じられない。『知らん子』だからきっと仕方のないことなんだろう。他の子は江藤さんは、ほぼ亡き者扱いである。そこに存在していないかのようにしている。僕は男だから誘われなくっても仕方ないが、田中さんの横にいる江藤さんは女子で、かつての仲間・グループ内の友達だ。ご一緒にいかがですか?があってもいいはず。
けどそういう声かけは一切ない。江藤さんも声をかけられなくて良いと思っているのかもしれないけど、微妙だ。僕の間違った考え方なのか穿ったものの見方なのか分からないが、しもぶくれ、糸目、赤ら顔の江藤さん、スクールカースト最下位に近いオッペケペーズの江藤さんには関りすら持ちたくなくて、同じグループにいてそこから樹里や亜子さんのアシストを使って這い上がった成功者、田中さんにだけ関りを持ちたいんだ。
そこがなんとなく残酷で割り切れなかった。
そういうのに連ねて前に言った「凄く嫌なモヤモヤ感が生まれつつある。どんなものは分かっているが、これは絶対に言ってはいけないことだ」と感じたヘドロのような胸懐の巣がまた僕の中で少しずつ広がっていった。ヘドロの中身はそれだけじゃない。ネット記事のこと、樹里のこと、三原と話したこと・・・まさしくヘドロだ。色んな僕の中のインケツが混じり合っている。これが逆流して自分の中から飛び出したら・・・きっと見たことも無い、最悪な自分を晒すことになる。
少し前にも思ったこと・・・・仮想的に思いを巡らせてみる。
――――僕一人が消えれば、吐いたヘドロで迷惑かける人もいないかも。
僕らの年頃はそういう自虐的なこともよく考える。特に気にする必要もないと思った。そう思いたい気持ちなんだ、それだけだって。
梅雨明け宣言が行われ七月に入ったのに、また雲が立ち込めてき出した。薄暗くなった視界は実は僕だけが感じているものかもしれない。
忙しいようだ。前も学校に公然と薄メイクをしてきても大丈夫なように、先生たちと打ち合わせしたり申請書や添付書類などを作ったり、亜子さんから技術を学んだりしていて忙しかった。今度は人的交流が忙しいみたいだ。申し訳なさそうな顔でこちらを見るが、本人としては好奇心を優先したいようで、それも致し方がないことだろうと思う。同じクラスのあのグループ、このグループ、他のクラスの女子グループ、男子混ざった混合、神宮組、電車内。。。それらの三年、二年、一年・・・上下混ざったのなど、色んな生徒たちとの交流が一気に盛んになった。休憩時間になれば、以前田中さんに関わりがなかった女子等(むしろ避けていたぐらいの女子かもしれない)や、その代表みたいな子が何かしら誘いに来た。授業の予習や復習・振り返りすらできていないように見えた。
「誰がどの子か、、、分からんくなる・・・」
そんな独り言すら聞こえてきた。
彼女は一気に勝ち組の、スクールカーストの階段を駆け上がったようだ。
それで妬まれたり、足を引っ張られることもなかった。
そのような下地を樹里が作ったからだ。
ただこういうことはある。
「あの、、、樹里さんを紹介してくれない?」
女子らが「田中さんは樹里さんと繋がりがある」「樹里さんと繋がっているからそこにあやかりたい」という思惑が多分にあったようだ。しかしそれは樹里は凄く嫌がる。そこは田中さんもあの席から聞こえる会話の中で「それは無理」「ごめん、できないことになっているねん」と必死で断っていたのが聞こえてきていた。
僕はお昼は一応作ってきていた。
さらに新メニューとかも追加していた。
ちくわ海苔チーズだ。ちくわを縦に切って海苔を挟み、チーズを挟み、巻いてつまようじで刺してオーブントースターで焼く。余った分は樹里の朝ごはんの食卓に置いておいた。帰ってみたら無くなっていてゴミ箱につまようじだけ捨てられてあったので、胃の中に納まったということだ。
けど、田中さんの胃の中に納まることはなかった。
江藤さんと二人で食べるが、そうなると江藤さんも僕の特別に持ってきたおかずにはあまり手を付けなくなった。ほとんど食べてはもらえなかった。そんな状態が二日続き、生ごみが増えた。
まだ二日だけのことだ。たかだが二日で何も変わらないし、僕と江藤さんはゆっくり待っていればいいと思う。
おかずはこの二日間頑張って作った。
三日目にようやく三人で食べれた。食べる場所が以前の講堂裏では、女子の服装的に無理になってしまったので、そのまま教室で食べることになった。
「なんか久しぶりな気するねー」
江藤さんがそう言う。
「ほんまやねー全然そんなことないのに」
田中さんが笑う
「今日もおかず作ってきたよ」僕がタッパから出す。
「うん、これ食べれるのも久しぶりって気する(笑)」
けど、三人の会話ができるのは十五分程度だった。
またどこかのグループ三人ほどが入ってきて、「今日はここに居たん?」から始まり、また別のどっかのグループ代表二人が来て、「お菓子あるからおいでよ」「明日食堂で食べようよ。みんな居るで」「連絡先だけ交換しといてよ」こんな感じ。その子たちから多少僕らの方を気遣っている気配はするものの、ほぼ『アンタらは関係ない。田中さんだけが望みよ』という雰囲気が伺える。
田中さんの返事は、「いや、ほんまあ、、ごめん・・・今日はここで」「うん、また必ず行くから・・・」「必ず顔出すねえ」「メッセージアプリ?あ、、うん、いいよ」
人気者になるのはある程度意図的なものがあったし、そのスケジュールに則っていたように思えるが、「人気者に対するアプローチ活動やファン意識からくる追っかけ行為などはスケジュールに関係なく、田中さんや周囲の人の都合などはいっさい斟酌してはもらえない」ものだった。
多分田中さんの気持ちより、僕たちの思いより、周囲はもっと速いスピードで変化していってるんだ。
そして今思えば村岡さんはだいぶマシで良い子だった気がする。
それはまだ江藤さんに対する配慮があったように思う。あの子の自由人な感覚がそうさせたのかそれともクラスメイトに対する義理立てなのかは分からない。
他の子は当たり前かもしれないが、『江藤さんに対する配慮』がほぼ感じられない。『知らん子』だからきっと仕方のないことなんだろう。他の子は江藤さんは、ほぼ亡き者扱いである。そこに存在していないかのようにしている。僕は男だから誘われなくっても仕方ないが、田中さんの横にいる江藤さんは女子で、かつての仲間・グループ内の友達だ。ご一緒にいかがですか?があってもいいはず。
けどそういう声かけは一切ない。江藤さんも声をかけられなくて良いと思っているのかもしれないけど、微妙だ。僕の間違った考え方なのか穿ったものの見方なのか分からないが、しもぶくれ、糸目、赤ら顔の江藤さん、スクールカースト最下位に近いオッペケペーズの江藤さんには関りすら持ちたくなくて、同じグループにいてそこから樹里や亜子さんのアシストを使って這い上がった成功者、田中さんにだけ関りを持ちたいんだ。
そこがなんとなく残酷で割り切れなかった。
そういうのに連ねて前に言った「凄く嫌なモヤモヤ感が生まれつつある。どんなものは分かっているが、これは絶対に言ってはいけないことだ」と感じたヘドロのような胸懐の巣がまた僕の中で少しずつ広がっていった。ヘドロの中身はそれだけじゃない。ネット記事のこと、樹里のこと、三原と話したこと・・・まさしくヘドロだ。色んな僕の中のインケツが混じり合っている。これが逆流して自分の中から飛び出したら・・・きっと見たことも無い、最悪な自分を晒すことになる。
少し前にも思ったこと・・・・仮想的に思いを巡らせてみる。
――――僕一人が消えれば、吐いたヘドロで迷惑かける人もいないかも。
僕らの年頃はそういう自虐的なこともよく考える。特に気にする必要もないと思った。そう思いたい気持ちなんだ、それだけだって。
梅雨明け宣言が行われ七月に入ったのに、また雲が立ち込めてき出した。薄暗くなった視界は実は僕だけが感じているものかもしれない。
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