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★もう二度と戻らないわ。

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余談だが、その週の週末、夜、樹里はまた帰ってこなかった。しかし今回は亜子さんとこに遊びに行くと言ってたから問題ないのかなという気はするものの、こないだみたいに亜子さんが男呼んでいたら分からない・・・・しかもそれ、結構ありうる話やし。亜子さんもあんなだからモテるやろうし、顔も広そうやし。
――――ひょっとしたら、らんちゃんよりヤバいのでは??あんなことや、こんなことになっているのでは??
また悶々とする。
連絡待ってしまいそうになるからスマホの電源切っておきたいわ・・・・

結局のところ、田中さんとはその週は浴衣を買いに行った時だけで、一度も一緒に帰れず。お昼もそれなりに話題はあるけどもなにかを考えている様子が見受けられた。

一度だけ、なにかの申請書というフォームが机の端から見えていて、間違いなくうちの学校のフォームで、何の申請書かは分からなかったけど、本人の余裕があるときだったのだろうか、授業が終わり際に見て考えていた。そのあとすぐにさっと鞄に隠したのを見た。

そこから数週間が流れて、
僕たちはたまに一緒に帰るような感じだった。まだ続いているようだし、亜子さんとも放課後なにか一緒にやっているようだった。樹里も一緒に見物しているような感じで、前は樹里がメインで、ついてきて亜子さんだったのに、今は亜子さんがメインで、樹里がついてくる、といったように見受けられた。

けど何をしているかは教えてくれないでいるからちょっと話が難しいというか、気がそちらに行ってしまいがちになる。けど田中さんが、
「楽しみにしといて!」
と言ってくれた言葉が嬉しかった。

ある朝、そういうことかな?ということがちょっとだけ理解できた。
「おはよう」
「おはよう」
「おはよう」
形だけの挨拶をクラスメイトたちとして自分の席に付こうとする。

「おはよう」

田中さんが振り返って僕に挨拶してくれた
「おはよう・・・・・」
それはいつものこと。いつものことで、笑顔で、それもいつものことだったんだけど、すぐに前を向いてしまったので、、、何とも言えないのだけど、、、、

うん?

何かしらの違和感、嫌な方のではなく、良い方の、違和感があったように思えた。
けど、相変わらずの触手が出てきそうといわれた四点止めの髪の結び方は変わってはいない。

もう一回確認したくお昼を楽しみにしたんだが、その日は樹里たちに呼び出されたみたいでそっちに行ってしまった。僕は江藤さんと二人でランチ。何か気まずいし作ってきたおかずが余ってしまった。
僕が気まずければ当然江藤さんも気まずいわけで、早くに講堂裏でのランチを済ませて教室に戻った。田中さんは次の授業の始まり十分前ぐらいに自分のお弁当を抱えて戻ってきた。

その時だった。

「あれ、真理ちゃん顔・・・・」
江藤さんがハッとなる。
僕はまったくもって鈍感で。でもその声に吊られて田中さんを凝視してみると
あれ、顔・・・・・、肌、、、凄く健康的な色になっている。
「アハハ…分かった?」
田中さんが僕たちの方に顔をやりながら自分の席に着席する。
そしてサブバッグにお弁当の空き箱を直す。
そして向き直って顔を見せる。
パーツそのものは樹里を思わせるような大き目のものだったし、顔の整ってる感は美人そのものだ。ようは肌質だった。脂性と乾燥肌が入り交じり、肌質と色合いが悪くなっていたのだが。

「え・・・ええ?いいのん?そんなんして?」
江藤さんが危惧する。
そりゃそうだ。うちの学校は化粧は禁止のはず。
ということは亜子さんの悪影響を樹里が与えさせたのか??
そうだったら止めないと。これは校則違反になって生活指導の対象に・・・
「生活指導の対象にならないメイクなの」
「・・・・ふぇ?」そんなんあるの?間抜けな声が出てしまった。
「樹里ちゃんが調べてくれたんだよ、わざわざ。学生手帳に校則載ってるんよね」
「お、おお、見たことないわ・・・・(笑)」
大半いや、九九パーセントぐらいは校則のページなどは見もしないものだ。
「うん、私も見てなかった。けど、そこに書かれてあるんよ、これ見て」
学生手帳を鞄の内ポケットから出してきて、開ける。よく目を通していたのか栞紐がそのページにはさかっていた。
「ここ見て」
僕たちは目を皿にする。内容は自分を良く見せるための化粧の類は原則、一切禁止する。とあるのだが、そこの文章の「禁止」の前には「原則」とある。
「樹里ちゃんは「原則」とあるなら「例外」があるのか?と思いついたらしいのよ。で、ここから二ページほど先に・・・・」
紙を捲る音がして、目的の文章に辿りつくと、

※医療行為や生まれながらの特性などにより、外見の容姿を著しく損ねると判断されたときは〇〇番ー〇号の類ではなく、医療行為の延長とみなす。その時は度合、濃さなどを判断するべく担任・主事の教員もしくは教頭に許可を取ること。またそれは〇〇番ー〇号も同様である。

とあった。つまり、医療行為で顔に傷がついた人や、痣などがあって少しの化粧で消せる人、あるいは先天的になにかしら容姿を劣化させうるものがあって、それを日常的な節度ある薄化粧で消せるのなら、担任、主事教員、教頭の許可を取り付ければ、その子は化粧をしてきてもかまわない、ということだった。
後者の番号を見てみると、それは髪の毛のルールだということが分かった。
「これをね、樹里ちゃんは教頭先生に掛け合っててくれたの。私の顔の状態と、髪の毛のことと。それに合わせて、どこまでのメイクなら本校の医療行為、あるいは節度のある薄化粧の行為として認めてもらえるのかを、化粧のプロ級のスキルがある亜子さんを従えて、聞き取りをしにいってくれたの」
「・・・・・あいつマジか」
「・・・・そこまでしてくれたんやね」
江藤さんがあの日のことを思い出したのか、少し感極まったのか、そんな感じ。
「うん、だから私も担任と何度も面談して、申請用紙と添える文章を何度も作り直して書きあげた。そこから主事と教頭の面談があって、、、、めちゃくちゃビビったよそりゃあ。けど樹里ちゃんがそこまで私にお世話してくれたわけじゃない?絶対負けたくないって思ったわ」
「うんうん・・・・」
「何度目かの面接で谷本教頭がね、、学年主事がいない二人のときに『あいつに(樹里)言われてムカッときたけど、ホンマにそうやなあと思うことがあってな、いじめがおきるような校則の解釈は、校則そのもののせいじゃない。校則とは、その人の解釈の仕方で優しく温かみのあるものにも厳しく人を律するものにもなる。田中さんに会ってあげてください。どう判断したら良いか分かるはずです!って言いよってん。まあホンマに今回は「その通りやなあ」って思った』って、、、言ってくれてんな・・・・いけてん、私」
「真理ちゃん、泣いたら・・・ズズ・・・・泣いたら化粧崩れる」
「ホンマやな、ホンマやわ、、、あかんあかん」
「いけたって、つまり?」
涙をハンカチでふき、気持ちを落ち着かせて
「私は、この顔の皮膚を隠すような薄化粧ならということで学校内で公式に許されてん。だからその点に関しては何も校則違反を恐れることなく学校に来れるねん」
こっそりとではなく、どうどうとメイクを決めてこれるようにした。
「縮毛矯正やストパーは別に校則に寄っていく方だから何も禁止行為ではないんだって。真っすぐな人がチリチリにしたり巻いたりするのがダメなんだって」
ということは、それもクリアされたということか。
「あと厳密にどこをどの程度までならいいか、どこをどれだけ塗ったり書いたりするのはダメか、という細かい部分は亜子ちゃんが突っ込んで聞き取りしてくれたんよ。そこは樹里ちゃんもなかなか分からないところだったらしいから」
メイクの手法とどこまでは許される範囲かの確認は亜子さんが徹底的にして、それらを理解し、メイクが大好きでスキルのある亜子さんからその全てを習って体得した、というわけか。
これまた、普通なら、ましてや僕には絶対不可能なことをやってのけよった。あの谷本教頭と話をして、いじめにつながる欠点なら隠す化粧をしても良いと認めさせやがった。そこに亜子さんを連れて行って、技術で体現させたんだ。
「だけど乾燥肌の脂性だから、普通の人より型崩れしやすいの。だから結構時間見計らっては鏡でメンテする感じになる。けどあの皮膚とその間だけでもさよならできているならそれでいいわあって。あとはもっと根本的な改善でスキンケアとお手入れ面が重要になるみたい。だからこんな・・・・」

そういってスマホのテキストを見せてくれた。そこにはどっさりこの時はこれ、あの時はこれ、週に一度はこれ、、、といった感じでクリームやローションその他よく分からないケアのキットや化粧水的なものが書かれてあり、それらの横にはちゃんと値段まで記載があった。
「これはとりあえず思いつく全部を亜子ちゃんと私とで書き出したのね。で亜子ちゃんが成分や効能、値段とか調べてくれて。で、一度お金の許す限り全部試してみて、そこから合うやつを選んでいけばいいんだって。それに「毎日」は勿論「毎日」するほうがいいんだけど、「二日に一回」とか「三日に一回」とか、時間とお金に余裕があれば毎日とか、そのあたりは調整を自分でしながらやっていけばいいらしいんよ、そりゃあちゃんと効果を得ようとしたらその通りにやるのがベストなんだけど、私たちだったらなかなかお金が続かないやん。だからコストも一番安くて入れ物にお金かかって無さげなやつばっかり探して、代用できるなら百均のやつとかもホラ・・・これとこれ、実は百均やねんで」
「そうだよね、これらを揃えるのって、、、結構な金額だよね」
江藤さんがスマホのテキストを指でなぞりながら見ていく。
「うん、浴衣は親からもらったお金だったけど、こっちは全部今まで入学祝いとか合格祝いとかお年玉でもらってきたお金貯めていたやつで自腹よ。半分ぐらい使ったわ」
そのぐらいの覚悟があるということだ。自分を変えるため、顔の皮膚と髪の欠点から一時的でも切り離されたいと思う願いと覚悟やね。
「いよいよ二週間後新制服やんね」僕がキレイになるというキーワードから閃いたことだった。
田中さんが廊下側の方を見つめて遠い目をする。
「うん、女子にはターニングポイントやな」
僕の返答に

「そう、ターニングポイント。。。もう戻らないわきっと」

戻らない、、、どういうこと?
田中さんは幻想の中にスーッと引き込まれていきそうだった。このまま小さくなって遠くなって、遠くを見てるのと同時に、江藤さんの後で見ている僕から、遠くに、徐々に遠く、そしてずっと遠くに、行くような気がして、、、
「そんなん言わんと、友達でおってなあ」
江藤さんが田中さんの肩を握る
「ハハ!そんなん勿論やわ。気持ちの問題だけよ気持ちの!現状は何も変えへんわ」
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