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第一巻
★ここで三人でお昼を食べようね。
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そこから時間は過ぎて、いよいよ約束していた釣りの前日になった。
ちなみにDVDの感想は「よかったよ!」と「格好良いよね」という簡単なものが、あの翌日に送られてくると同時に、机の上でノートパソコンを起動させて画面に蒼介がポーズを決めて歌っている映像が写メで送られてきた。そこには彼女の部屋が少し映り込んでいて、机から見える出窓。その上に乗っかっている手のひらほどの兎のぬいぐるみが一つ。これが彼女のメッセージアプリのアイコンにあったやつだ。植物の置物のようなものが一つ見えた。そんなに多くの物が置かれていないところは、シンプルだけど少し可愛げを求める田中さんらしさのように思えた。窓に反射して撮影している本人の後方が映り込み、おそらく白であろう壁紙とその壁にかかっている旧の制服が見えていた。本人はスマホで顔が隠れてしまって分からない。暗闇と混在してどんな髪型を家でしているのかも分からなかった。「田中さんの部屋の中をちょっとだけ知ってる」という少し倒錯した感覚に襲われていたが、そこについては彼女に言及はしなかった。その後「全部見れなかったからもうちょっと借りてていい?」だった。勿論OK。
お弁当はおかずのみで、田中さんがその日は家から白いご飯を持ってくるか、コンビニで白飯ないしはおにぎりを買うか、はたまたパンを買って挟んで食べるか、という約束だった。あと樹里にも言われて気になっていたんだが、到底毎日なんてできない。なので毎日はやらないから期待しないでということも。とはいえ、結局三日中二日は作って持っていった。
その中の一日は田中さんも前日の残りのおかずを多めに持ってきてくれて、ちょっとした御堂家と田中家の残り物おかずパーティーだった。その時はお互いシェアして食べあうようにした。場所はいつも第三グラウンド前の階段。
すごく嬉しかった。
ちなみに僕のあの日作ったハンバーグは大好評で、カレーの風味とピーマンがすごくお肉と合うそうだ。
樹里もごはんだけの入れ物とおかずだけのいれものニ段のお弁当箱を持たせてやり、おかずはおかずカップを使い、他のおかずと分けて入れてあげた。むしろ樹里のお弁当のほうが気を使った。おかずカップ目玉焼き(特製味付け(内緒))を初日入れてあげたら『毎日作れ』と言い出すし。むしろ田中さんと食べるほうが、タッパー容器に詰めるだけと言った感じだ。
「えっちゃん、来週から復活やで」と箸を置いてお茶に手を伸ばす田中さん
「おお、コ〇ナ明けか。ちょっと体力落ちているかもな」
「なったことあるん?」
「いや、ないけど、なんかよくそういうの聞くやん」
「うん」ぐいぐいとペットボトルのお茶を田中さんが飲んだ。
正面の第三グラウンド前の雑木林。緑は深く濃かった。あそこから降りて行ったらどういくのかは知らないが、確かあの大きな川に出ると聞く。川の水分を含んだ風が雑木林を揺らし葉とそこの地面の含む湿気を僕らの前に運んでくる。涼しさとどこか湿っぽさを感じさせてくれる風。だからここはどうもいつも湿っぽい。空はどこまでも澄み切った水色に少しの雲。。。本物の夏が来る。
「御堂君がよかったらやけど・・・・」
「うん?」
突然言い出す。
「えっちゃん復活しても、ご飯ここで一緒に食べようよ。私えっちゃんに言うから」
「そんなんええよ。無理せんとって。女子同士の話し合いのときもあるんちゃうん」
僕は江藤さんが復活したら、また自分一人で食べようと思っていた。女子同士の間柄にあんまり挟まりたくないし、僕は江藤さんがいない間のリリーフぐらいに思っていた。。。というのはキレイごとで、自分もグループに入れてもらって三人で仲良くして、特に田中さんと仲良くしていきたいと願っていた。
「大丈夫大丈夫。えっちゃん御堂君とかでそんなん嫌な顔する子ちゃうし」
「ほんまあ、ありがとう。おかずまた作ってくるわ」
「いや、それはもう気ぃ使わんといてって、最初から言ってるやん」
もう僕も高校生で、小学生や中学生じゃないのだから、友達が男であろうが女であろうが気にすることはない。小学生のころだと女友達とかになると、周囲の目があった。「いやあ!こいつ〇〇と一緒におる!おまえ〇〇のこと好きなんやろ~」という囃し立てがすぐに湧き上がったので男女ともにちょっと交流を避けていたような気がする。それが小学校五年ぐらいから急に雪解けのようになってお互い話したりたまに一緒に遊んだりすることも出てきた。しかしまだまだ壁はあった。中学校の時は「付き合う」「付き合わない」という言葉が一年生から出てきだした。今度は「違うものへの忌み嫌い」から「性の対象」としての意識が強くなり、これまたお互いを少しけん制しあう空気感があった。
それに比べてテレビで見ていると大学、あるいは社会人とかになれば男女で仕事の話をしているシーンをたくさん見かける。だから別に女子二人の中に男子が一人友達で入ってもなんらおかしくはない。もし、田中さんと付き合うことになったりしたら、それはまたその時で考えよう。
「明日ちゃんとできるかなー」
田中さんが不安を口にする。
「ちゃんとできるって。僕と樹里がいてるから大丈夫よ。それこそ最初からなんも気を使わなくていいわ」
「フフフ、ほんまあ?糸結ぶんとかも動画で見たけど、私多分できないよ」
「僕がするって」
「場所も素人のわたしにかなり合わせてくれたような場所なんよねえ、ホンマありがとう」
「ああ、あそこやったらトイレも自販機も軽食も困ることないわ。でもたまにいっさい釣れないときもあるから、そこだけは勘弁してな」
「釣りは自然の運やもんね、大丈夫よ。樹里さんとも話してみたかったし・・・良い機会」
再度お弁当を手に取って、僕が今朝炒めたほうれん草のバターソテーをご飯の上にのせて、食べようとしたが手を止めた。
「樹里さんに、私のことは言ってないんよね」
「私のことって悩んでること?」
「うん・・・そのこないだの消しゴムの中の願い事のこととか」
「ああ、言ってない」嘘である。
「うん・・・私ね、樹里さんとは生きてるステータスが違うから分かってもらえないと思うけど、一度、一度樹里さんに聞いてもらいたいんだあ」
「ほう・・・どうしたら、その、自分を変えれるかってこと?」
「うん、そう」
樹里の予想した通りに田中さんの気持ちが動いていく。ゴルフで言うならば、確実にカップにボールが吸い寄せられていくようだ。これが読める樹里はいったい何者なんだ??兄妹でも分からなくなりそうだ。そして『それはしなくてもいい』と言った理由が結局分からないままだし、お弁当を作るぐらいのことをしてあげる程度でセックスしたかうんぬんを聞いてくる意味も分からなかった。
でも、僕としては、変わらなくていいと思うけどね・・・けどそれをこないだ否定したからもう言わないけど。
「きっと樹里さんからしたら、『は?なに?それ?』ぐらいに思われてしまうかもしれないんだろうけど、そうであっても」
僕は頷く。
「そうであっても、あの人と長い時間一緒に居たらなにかヒントになるものがあるかもしれないと思うの」
「どうだろうねえ、でも樹里の周りには悩み聞いてほしい系の人ら結構集まるね」
「ああ、やっぱりそうでしょう。そういうボスというか賢者みたいな雰囲気あるもん。でも私レベルの悩みなんて答えるに値しないかもしれないね」
そんなことはないと思うし、あいつはあいつなりの悩みがあるみたいだけどなあ。
まあでも「怖がらずに言ったらいいよ。気に入る答えくれるかどうか責任は持てないけど」
ハハハと笑い、
「そこまでは望まないから。けどすごい答えが出るような気がするわ」
また先ほどの風が雑木林から僕たちの間を吹き抜けた。
ちなみにDVDの感想は「よかったよ!」と「格好良いよね」という簡単なものが、あの翌日に送られてくると同時に、机の上でノートパソコンを起動させて画面に蒼介がポーズを決めて歌っている映像が写メで送られてきた。そこには彼女の部屋が少し映り込んでいて、机から見える出窓。その上に乗っかっている手のひらほどの兎のぬいぐるみが一つ。これが彼女のメッセージアプリのアイコンにあったやつだ。植物の置物のようなものが一つ見えた。そんなに多くの物が置かれていないところは、シンプルだけど少し可愛げを求める田中さんらしさのように思えた。窓に反射して撮影している本人の後方が映り込み、おそらく白であろう壁紙とその壁にかかっている旧の制服が見えていた。本人はスマホで顔が隠れてしまって分からない。暗闇と混在してどんな髪型を家でしているのかも分からなかった。「田中さんの部屋の中をちょっとだけ知ってる」という少し倒錯した感覚に襲われていたが、そこについては彼女に言及はしなかった。その後「全部見れなかったからもうちょっと借りてていい?」だった。勿論OK。
お弁当はおかずのみで、田中さんがその日は家から白いご飯を持ってくるか、コンビニで白飯ないしはおにぎりを買うか、はたまたパンを買って挟んで食べるか、という約束だった。あと樹里にも言われて気になっていたんだが、到底毎日なんてできない。なので毎日はやらないから期待しないでということも。とはいえ、結局三日中二日は作って持っていった。
その中の一日は田中さんも前日の残りのおかずを多めに持ってきてくれて、ちょっとした御堂家と田中家の残り物おかずパーティーだった。その時はお互いシェアして食べあうようにした。場所はいつも第三グラウンド前の階段。
すごく嬉しかった。
ちなみに僕のあの日作ったハンバーグは大好評で、カレーの風味とピーマンがすごくお肉と合うそうだ。
樹里もごはんだけの入れ物とおかずだけのいれものニ段のお弁当箱を持たせてやり、おかずはおかずカップを使い、他のおかずと分けて入れてあげた。むしろ樹里のお弁当のほうが気を使った。おかずカップ目玉焼き(特製味付け(内緒))を初日入れてあげたら『毎日作れ』と言い出すし。むしろ田中さんと食べるほうが、タッパー容器に詰めるだけと言った感じだ。
「えっちゃん、来週から復活やで」と箸を置いてお茶に手を伸ばす田中さん
「おお、コ〇ナ明けか。ちょっと体力落ちているかもな」
「なったことあるん?」
「いや、ないけど、なんかよくそういうの聞くやん」
「うん」ぐいぐいとペットボトルのお茶を田中さんが飲んだ。
正面の第三グラウンド前の雑木林。緑は深く濃かった。あそこから降りて行ったらどういくのかは知らないが、確かあの大きな川に出ると聞く。川の水分を含んだ風が雑木林を揺らし葉とそこの地面の含む湿気を僕らの前に運んでくる。涼しさとどこか湿っぽさを感じさせてくれる風。だからここはどうもいつも湿っぽい。空はどこまでも澄み切った水色に少しの雲。。。本物の夏が来る。
「御堂君がよかったらやけど・・・・」
「うん?」
突然言い出す。
「えっちゃん復活しても、ご飯ここで一緒に食べようよ。私えっちゃんに言うから」
「そんなんええよ。無理せんとって。女子同士の話し合いのときもあるんちゃうん」
僕は江藤さんが復活したら、また自分一人で食べようと思っていた。女子同士の間柄にあんまり挟まりたくないし、僕は江藤さんがいない間のリリーフぐらいに思っていた。。。というのはキレイごとで、自分もグループに入れてもらって三人で仲良くして、特に田中さんと仲良くしていきたいと願っていた。
「大丈夫大丈夫。えっちゃん御堂君とかでそんなん嫌な顔する子ちゃうし」
「ほんまあ、ありがとう。おかずまた作ってくるわ」
「いや、それはもう気ぃ使わんといてって、最初から言ってるやん」
もう僕も高校生で、小学生や中学生じゃないのだから、友達が男であろうが女であろうが気にすることはない。小学生のころだと女友達とかになると、周囲の目があった。「いやあ!こいつ〇〇と一緒におる!おまえ〇〇のこと好きなんやろ~」という囃し立てがすぐに湧き上がったので男女ともにちょっと交流を避けていたような気がする。それが小学校五年ぐらいから急に雪解けのようになってお互い話したりたまに一緒に遊んだりすることも出てきた。しかしまだまだ壁はあった。中学校の時は「付き合う」「付き合わない」という言葉が一年生から出てきだした。今度は「違うものへの忌み嫌い」から「性の対象」としての意識が強くなり、これまたお互いを少しけん制しあう空気感があった。
それに比べてテレビで見ていると大学、あるいは社会人とかになれば男女で仕事の話をしているシーンをたくさん見かける。だから別に女子二人の中に男子が一人友達で入ってもなんらおかしくはない。もし、田中さんと付き合うことになったりしたら、それはまたその時で考えよう。
「明日ちゃんとできるかなー」
田中さんが不安を口にする。
「ちゃんとできるって。僕と樹里がいてるから大丈夫よ。それこそ最初からなんも気を使わなくていいわ」
「フフフ、ほんまあ?糸結ぶんとかも動画で見たけど、私多分できないよ」
「僕がするって」
「場所も素人のわたしにかなり合わせてくれたような場所なんよねえ、ホンマありがとう」
「ああ、あそこやったらトイレも自販機も軽食も困ることないわ。でもたまにいっさい釣れないときもあるから、そこだけは勘弁してな」
「釣りは自然の運やもんね、大丈夫よ。樹里さんとも話してみたかったし・・・良い機会」
再度お弁当を手に取って、僕が今朝炒めたほうれん草のバターソテーをご飯の上にのせて、食べようとしたが手を止めた。
「樹里さんに、私のことは言ってないんよね」
「私のことって悩んでること?」
「うん・・・そのこないだの消しゴムの中の願い事のこととか」
「ああ、言ってない」嘘である。
「うん・・・私ね、樹里さんとは生きてるステータスが違うから分かってもらえないと思うけど、一度、一度樹里さんに聞いてもらいたいんだあ」
「ほう・・・どうしたら、その、自分を変えれるかってこと?」
「うん、そう」
樹里の予想した通りに田中さんの気持ちが動いていく。ゴルフで言うならば、確実にカップにボールが吸い寄せられていくようだ。これが読める樹里はいったい何者なんだ??兄妹でも分からなくなりそうだ。そして『それはしなくてもいい』と言った理由が結局分からないままだし、お弁当を作るぐらいのことをしてあげる程度でセックスしたかうんぬんを聞いてくる意味も分からなかった。
でも、僕としては、変わらなくていいと思うけどね・・・けどそれをこないだ否定したからもう言わないけど。
「きっと樹里さんからしたら、『は?なに?それ?』ぐらいに思われてしまうかもしれないんだろうけど、そうであっても」
僕は頷く。
「そうであっても、あの人と長い時間一緒に居たらなにかヒントになるものがあるかもしれないと思うの」
「どうだろうねえ、でも樹里の周りには悩み聞いてほしい系の人ら結構集まるね」
「ああ、やっぱりそうでしょう。そういうボスというか賢者みたいな雰囲気あるもん。でも私レベルの悩みなんて答えるに値しないかもしれないね」
そんなことはないと思うし、あいつはあいつなりの悩みがあるみたいだけどなあ。
まあでも「怖がらずに言ったらいいよ。気に入る答えくれるかどうか責任は持てないけど」
ハハハと笑い、
「そこまでは望まないから。けどすごい答えが出るような気がするわ」
また先ほどの風が雑木林から僕たちの間を吹き抜けた。
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