上 下
20 / 119

★兄弟の絆~ただならぬ危険を察知するが、ロックの世界では大人や先生は敵だから~

しおりを挟む
その時、僕はなんとなく「これでもう二度と家に帰ってこれなくなる」気配を悟った。
その日の朝に、樹里に
「お前は今日学校にくるな」
「どうしても行かないとあかんのなら、おまえの友達(この時から樹里の周りは中納らでも寄せ付けないスクールカースト最強に近い友達らが集まっていた)らに一日中囲まれておけ」
それと
「今日の夕方六時までに帰らなかったら、警察に電話してくれ」
そう伝えて、僕の当時の携帯を、
樹里に渡して、手を握った。
昔はよく、何処に行くのも手を握り合っていた。それよりもっと前は、あんまり仲が良くなかったような記憶がある。
けどいつからか、樹里は僕の手を握りたがってくれた。

こんな愚かな兄でも、慕ってくれる可愛い女の子がいたんだ。

それと、携帯を渡したのには理由がある。
僕をいじめていたグループが僕の携帯を執拗に見たがったからだ。
ひょっとしてと僕は感じていた。
――――樹里が危なくなるのでは?
それだけは死んでも回避しないといけなかった。それならば、僕は救いのアイテムである、電話を手放すことで、樹里にすぐに危機が及ぶことはなくなる。
僕のことをネタに、樹里を呼び出す作戦は、完全に消滅させられる。
周囲の大人たちも僕へのいじめが激化していることに気づいていて、悩んでいたように思う。けど、大人を呼んで助けてもらうという選択肢はなかった。

大人や先生は、ロックでは敵だから・・・・
そこに頼るのは、ロックを生きたい人間としてはタブーだから。
僕達の敵だと歌っていたから。
だから先生や親にお願いするのは、とても情けなく恥ずかしくヘタレのやること、ロックじゃないことだと思いこんでいた。

しかし、後から考えれば、中納のやっていることが、もはや子どもレベルの要求ではないと考えて、大人に対応を任せるということを判断できなかった自分は稚拙だった。

予感は的中だった。
その日はのっけから激しく殴られた。

いつもなら、言葉やデコピン、ローキックなどで僕を嬲るように追い込んでくる。僕は笑いながら「ちょ、きついツッコミやめてーや」と、これはいじめという名の現実ではなく、スキンシップなんだと、逃げていた。しかし、この日は違った。

僕は日頃使われていない三階の空き教室に呼ばれた。鍵は南京錠がかけられていたのだが、そんなの誰がとっくに壊していて、生徒らの出入り自由だった。ただ、その教室はエアコンもなかった。しかも先にも述べたように三階。本来なら誰も寄り付かない。先生たちもそこの廊下すら歩きたがらない場所だった。
そこに僕は中納らから呼び出された。
いきなり中納の歪んだ笑みを見た次の瞬間、
衝撃と暗転と火花が散った。
僕の目あたりにあいつの拳が炸裂した。
そこから片付けられることの早かったこと…

僕は、これはもう限界だ。
こいつらとはやり合わないといけないと判断した。
その判断はとうの昔の地点であって、ここに来てからでは遅すぎた。
何とかこらえて中納に、距離の近い左でパンチを出す。
口元を捉えるが、ケンカの強いやつというのはこの辺りが違う。
おそらく下唇あたりをこれの拳がヒットしたことで切ったことは分かっているだろうが、お構い無し。その痛みは切り捨てて、ますますアドレナリンが噴き出したように興奮し、僕に拳を叩きつけてくる。

当たるたびに骨が歪むような感覚に襲われて、それが脳に伝わる。
ボクシングのガードを上げるようなポーズを取るが、
何処から何が入ってくるかがまったく分からないようになる。
まるで津波に飲まれてその中に無数の拳や足があるようだった。
ガードを抜けるように膝が顔面を打ち抜く。
勢いは僕の後頭部から飛び抜けて、直立になってしまう。
そのガードが下がった状態を中納は見逃さない。
ここぞとばかりに獲物を噛み殺す肉食動物のようだ。
顔面
顔面
腹に蹴り
また顔面…
口の中には血液がたまり、息苦しくなって吐き出す。
視界も左側の霞が取れなくなった。
それでもまだ執拗に、
胸、腹、太ももの外側広筋に容赦なく拳と蹴りを打ち込んでくる。

もう駄目だ…
僕は間もなく倒れ込んだ。
痛みと麻痺の感覚で、呼吸がまともにできないようなってしまい、頭に酸素が行き渡らない状態に陥った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

家政婦さんは同級生のメイド女子高生

coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

処理中です...