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思い出して胃痙攣発症

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「へぇー田中真理さんて人、そんなことで悩んでんだね」
樹里はそう言いながらうどんも、昨日の揚げだし豆腐も食べ終わり、二個目のおにぎりを箸で割っている。
結局いつの間にか白状させられている僕がいる。
どう誘導されてここまで話してしまったのか、頭の中で再現するがどうも思い出せない。
結構喋らされてしまったので、こっちの食事は全然追いついておらず、まだまだうどんが残っている…てか、伸びている。
早く食べないと…ズズズッと啜る。
「人気者になりたいって感じなんやろ?」
そう言って樹里がおにぎりのかけらを口に運ぶ。
「塩こんぶうんま…」
ポソっとつぶやく。
「お笑い芸人とかみたいなんではないと思うけど」
僕が今日した会話を思い出しながら記憶の欠片から貼り合わせをして、形を想像すればこういうことかな、というものを口に出してみる。
「学校内にある、見えない上下関係みたいなもの、スクールカーストってやつ?それを今より上にあげたいってことなんじゃないかな」
ビンゴかどうかは分からないけど、なんとなくまとめてみた。
「うーん・・・・あんまりその感覚、好きじゃないなあ。けど言ったらそれって一番難しいんじゃない?」
コップの麦茶を樹里が流し込む。そして、
「そういうのんで目立つ子って必ず特技があるやん、しかもウケるやつ。持ってて簡単に格好いいとか、すごーいとか、伝わりやすい特技。あにぃみたいな分かりにくいのんじゃなくてな。そういうのんなんか有りはるんかな」
自分ので先に想像してみた。
僕のは分かりにくい・・・?特技なんてそもそもあったかな?基本的に家庭的なところ以外は全て樹里が上を行くので、なにが得意なのか分らんし、家庭的なところとはいえ、全部主婦以上に手抜きだし。白出汁は神様からの授かりものだと思っている。
――――そして田中さん・・・も無さそうやな。
「確かにこれといってないよねー」
「じゃあ、止めといて現状維持確定やね」
「えー?そんなこと言うたんなや・・・・何か考えてーよ」
ちょっと僕も樹里に頼り過ぎてる気配を、言葉を放った尻から感じた。発言して失敗したみたいな感じだ。
「ようするに出しゃばれってことやろ?出しゃばっても抑えにかかって来る抵抗勢力を抑え込むか、無しにしろってことやろ。そういうのんなかなか難しい。あにぃ知ってるか?『等慢』て言葉があるねん」
僕が甘えた失言をしたのが原因だろう。樹里の語気に少しだけ強さを感じる。
「等慢?」
「そう、等慢。必ず『あいつは昔こうやった』『あいつはこの程度のやつやったのに調子乗ってる』ていうのが出てくる。そいつらが足を引っ張りに来るねん表で裏で。それを振り切るぐらいの強さがないと、したらあかん。あにぃ分かるやろ、それ?」
「ええ、それって・・・・?」
「アンタがいじめられた時のことやんか。ああなった経緯自分で思い出してみぃよ」
「うう・・・・」
いじめられた経緯を思い出せ・・・・これはきつかった。そして迂闊に進めると田中さんにも同じ目に合わせてしまうことになる。それは絶対にダメだ。その方向で進めてはダメだ。

「というかもうあんなことは勘弁してほしいわ。ケンカはどっからでもなんぼでも来いやけど、後味が悪すぎ」

ウッ・・・・今のその言葉・・・・

「あにぃの鼻潰されて、マスコミに晒されて、こっち被害者やのに『こういう目に合う方にも原因がある』とかあちこちから言われてさ。知ってる人らが言うならまだしも全く会ったことのないようなお昼のコメンテーターにまで言われるんやで」

ウウッ・・・だんだん胃の上の方が、絞られていくような感じがして

「私への誹謗中傷知ってるよなあ、殺人鬼が出るって書かれたんやで。こっちは必死で我が身を守ってるだけやっちゅうねん。それで内申書ボロボロで公立にしろ私立にしろそういうの要求するところは行かれへんようになったわなあ」

ウウウッ・・・あかん、これは悪化しそうだ・・・

「まあもう、、、中坊ちゃうんやし。今のとこはそれなりの高校やし。そこまで輩飛ばしてくる奴らはあんまりおらんと思うけどな・・・それでも私のとこ、普通科見ていたら三年になったとしても精神年齢低くて危ういんちゃうかなーとか思う」
さらに付け加えて
「私今度あんなことに巻き込まれたら間違いなく少年院送りやわ」

イタッ…
その言葉で、水を貯めるダムの底に、小さな穴が開くような気持ちになる。
小さな穴は、大きな水流を生み、僕の表層に流れ出てこようとする。
・・・・最近あんまりなかったのに

僕は中学校二年生の夏頃に、いわゆるデビューしようとした。
アイドルやタレントのことではない。いわゆるデビューというのは、ヤンチャしいか、遊び人になる、ことを僕達の間では指していた。
少し気持ちがどんよりしてきて、目線を思わず下向ける。嫌な汗が額からどんどん流れてくる。
「なんか飲むもんないかな~」
そう言いながら、樹里が冷蔵庫に行く
「ないかあ、、、あ、ラッキー。牛乳と、アイスコーヒーあるわ」
グラスを二つキャビネットから取り出し、「飲む?」の合図を手に持つグラスと、視線でこちらに送る。
――――うん。
「あれ・・・あれ?」
多分僕の雰囲気が変わったのに樹里は敏感に気づいた。
「あにぃ、どうしたん?またあれになったんか?」
樹里は出したグラスをカウンターに置いたままこっちに飛んできた。そしてしゃがみ下から上目遣いで椅子に座りながら苦しんでいる僕を見る。
「ごめん、ごめんごめん、言い過ぎてしもうた、ごめん」
背中に手をあてて摩ってくれる。
「私が思い出させたなあ・・・・ごめん」
実はついさっきの中学校の時の話から、樹里に対する凄い罪悪感が沸いていた。
「あの時はごめんな・・・樹里まで、巻き込んでしまって、おまえまで逮捕勾留されて…」
「そんなん何回も言ってるやん、もうええよ。それより大丈夫?てか、顔真っ青やん・・・いや、しかも凄い汗・・・・」
「ホントなら、兄なんだから、おまえを守らなきゃいけなかったのに…」
苦々しい思いが喉の奥まで上がってくる。
胃袋の上の方がどんどん締め上げられていくような痛みが出てくる。
おでこと首元から冷たい汗がどんどんにじんでくる。酷いもんだ。俯くと額からポタポタ落ちる。焦燥感、恐怖、、、それに近い。
「わたしの顔面に、痣でも残ってる?残ってないで何も。それに守るのは私の役目。私の方が強いんやから、そっちの方が合理的やろ」
――――気にするなよってことなんだろうけど
そもそも、僕が調子乗ったデビューさえしていなければ、あんなことは起きていない。恨まれてて当然の僕に樹里は寄り添って隣で僕の背中をずっと撫で続けてくれている。
(優しい妹だ)
「ありがとう、大丈夫よ」
「え、ちょっとあにぃ?じゃがりこでも一緒に食べて熱いカフェオレでも飲もうや。。。てかまだあかんやろ!」
強引に椅子から立ち上がってリビングダイニングの扉を開ける。
「ごめん、ちょっとやりたいこと思い出したから。片付けは後で僕がするから、そのまま置いておいて」
笑顔で言った・・・・つもりだった。でも実際はそんなこともなかったのかも。
樹里がまだ僕を呼び止めるその前に、扉を閉めて出た。
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