14 / 199
第一巻
★一緒に帰ろう
しおりを挟む 無抵抗に体を差し出したバフォールにアランが持つブラッディソードが腹部を貫いた。ドクドクと剣が血を吸い取っていることを感じるほど剣が脈打つ。
「契約者の死は我の自由……。さあ、あいつが来る前に我を求めよ――――」
耳元でバフォールが囁くがアランは目を閉じ、剣がソルブの血を飲み込んでいくのをただ感じていた。全てを吸いつくすとバフォールの力が抜け、アランの胸からずり落ちるように倒れた。
「お前は簡単に契約者を捨てるんだな」
干からびたバフォールに向かってアランは吐き捨てるように言う。汚いものを見るかのようにバフォールを睨んでいるとモワっと黒い煙が上がる。アランは思わず後ずさり、剣を構えてその様子を注意深く見つめた。
煙は影となり、大きな二つの角、山羊のような耳、背中には大きなコウモリのような翼があるような形を形成していった。しかしその姿もまた苦しそうに立っている。
「それがお前の本来の姿か……哀れだな」
"……あのままいても本体と共に朽ちていた……お前の体をよこせ……さすればここから逃げることもできよう……さあ、望みを言え……手に入れたいものがあるのだろう……?"
「俺はお前と契約などしない」
アランははっきりとバフォールを拒絶をし、目の前の大きな黒い塊に剣を横から切り込んだ。しかし、影が散りじりとなるだけで当たることはなかった。
"くっくっく……お前はまだその剣を使いこなせてはいないようだ……"
身体の無くなったバフォールは、しつこくアランを誘う。黒い影がアランにまとわりついてくる。
"素直になるがいい。お前の心は何を求めている……? 本当は――――"
「いい加減にしろ!」
「アラン!」
アランが声を張り上げたその時、セイン王子が背後から走ってくる。
"一番知られたくはないやつが来たな……俺があいつに教えてやろうか? くっくっく……その体を差し出せば秘密を守ろう……"
アランの耳元で小さく囁く。アランの剣を持つ手が震える。手の中のブラッディソードが相変わらず禍々しい色で鈍い光を放っていた。
「アラン、退いて!」
セイン王子は影となったバフォールに光の剣を両手で振り上げ、飛び掛かる。しかしバフォールはアランの背後へ素早く移動をしたため、アランはセイン王子の振るう剣を受け止めた。後ろからバフォールの声が囁く。
"セイン王子よ……お前はこの者の想いを知らない……これ程までに苦しんでいる原因は――――"
「いい加減黙れ! 根拠がない!」
アランは怒鳴り声をあげ、セイン王子の剣を弾いた後、背後のバフォールに斬りかかる。バフォールはセイン王子に何かを伝えようとしているようだった。アランの苛立ちがセイン王子に伝わり、二人を交互に見る。
俺たちの仲を引き裂こうとしているのか?
「アラン! こんなやつの言葉に耳を傾けちゃダメだ!」
「分かってる! お前は、真実ではないことを言って俺たちの動揺を誘っているだけだ!」
しかし、アランは実際には動揺をしていた。ただ、たとえセイン王子にバフォールの言う真実というものが知られたとしても魂を売るつもりはなかった。アランには信念がある。
――アトラスを守る!
アランは再度剣を振るう。肉体のないバフォールは、今までと同様に剣で切り裂こうとしてもすぐにすり抜けてしまった。しかし今回は、すり抜けた瞬間にアランの持つ剣がドクンと脈打つ。剣を見ると、すり抜けたはずの剣から赤い無数の蜘蛛の糸ようなものがバフォールにまとわりついていた。その糸は蛇のようにうねうねと這い回る。
これなら煙のように散り散りにならない。
"っ! これがお前が引き出した力か……!"
「レイ! 早く!」
「言われなくても! バフォール、人の気持ちを弄ぶのも大概にしろ!」
バフォールの背後にまわったセイン王子は、すべての魔力を剣に注ぎ込む。今まで囲っていた光の壁までをも吸収していく。
その光が全て剣に集まると、セイン王子は勢いをつけるために剣を後ろに引いた。
赤い糸が張り巡らされた身動きの取れないバフォールもまた最後の足掻きをする。
"この者はおまえの―――"
「もう煩いんだよっ!!!!」
セイン王子が力を込めて背中の翼と翼の間に剣を突き刺す。
"ぐ、ぐはぁあああああっっ!!"
手ごたえはある。刺し込んだ手元、バフォールの内側から光が次々と侵食していく。
「俺とアランの間にもし何かあったとしても俺はアランを信じる! 俺たちの仲を裂こうとしたって無駄だ!」
さらに剣に魔力を込めるとバフォールの体全体が輝き、一気に弾け飛んだ。光の雨が降り注ぎ、その場にいた全員が息をするのも忘れて見入った。何が起きたのか頭の整理が出来ていなかったのだろう。誰もが声を発しなかった。
「終わった……?」
最初にその沈黙を破ったのはセイン王子だった。
「……」
「終わったの?」
「……ああ、終わったみたいだな……」
もう一度問いかける。目の前に立つアランも放心状態だった。お互いの目が合うと、じわじわと実感が込み上げてくる。
二人は片手を上げ、思いっきり手を振り、高い音を響かせた。
そんな二人の顔には笑顔が浮かんでいた。
「契約者の死は我の自由……。さあ、あいつが来る前に我を求めよ――――」
耳元でバフォールが囁くがアランは目を閉じ、剣がソルブの血を飲み込んでいくのをただ感じていた。全てを吸いつくすとバフォールの力が抜け、アランの胸からずり落ちるように倒れた。
「お前は簡単に契約者を捨てるんだな」
干からびたバフォールに向かってアランは吐き捨てるように言う。汚いものを見るかのようにバフォールを睨んでいるとモワっと黒い煙が上がる。アランは思わず後ずさり、剣を構えてその様子を注意深く見つめた。
煙は影となり、大きな二つの角、山羊のような耳、背中には大きなコウモリのような翼があるような形を形成していった。しかしその姿もまた苦しそうに立っている。
「それがお前の本来の姿か……哀れだな」
"……あのままいても本体と共に朽ちていた……お前の体をよこせ……さすればここから逃げることもできよう……さあ、望みを言え……手に入れたいものがあるのだろう……?"
「俺はお前と契約などしない」
アランははっきりとバフォールを拒絶をし、目の前の大きな黒い塊に剣を横から切り込んだ。しかし、影が散りじりとなるだけで当たることはなかった。
"くっくっく……お前はまだその剣を使いこなせてはいないようだ……"
身体の無くなったバフォールは、しつこくアランを誘う。黒い影がアランにまとわりついてくる。
"素直になるがいい。お前の心は何を求めている……? 本当は――――"
「いい加減にしろ!」
「アラン!」
アランが声を張り上げたその時、セイン王子が背後から走ってくる。
"一番知られたくはないやつが来たな……俺があいつに教えてやろうか? くっくっく……その体を差し出せば秘密を守ろう……"
アランの耳元で小さく囁く。アランの剣を持つ手が震える。手の中のブラッディソードが相変わらず禍々しい色で鈍い光を放っていた。
「アラン、退いて!」
セイン王子は影となったバフォールに光の剣を両手で振り上げ、飛び掛かる。しかしバフォールはアランの背後へ素早く移動をしたため、アランはセイン王子の振るう剣を受け止めた。後ろからバフォールの声が囁く。
"セイン王子よ……お前はこの者の想いを知らない……これ程までに苦しんでいる原因は――――"
「いい加減黙れ! 根拠がない!」
アランは怒鳴り声をあげ、セイン王子の剣を弾いた後、背後のバフォールに斬りかかる。バフォールはセイン王子に何かを伝えようとしているようだった。アランの苛立ちがセイン王子に伝わり、二人を交互に見る。
俺たちの仲を引き裂こうとしているのか?
「アラン! こんなやつの言葉に耳を傾けちゃダメだ!」
「分かってる! お前は、真実ではないことを言って俺たちの動揺を誘っているだけだ!」
しかし、アランは実際には動揺をしていた。ただ、たとえセイン王子にバフォールの言う真実というものが知られたとしても魂を売るつもりはなかった。アランには信念がある。
――アトラスを守る!
アランは再度剣を振るう。肉体のないバフォールは、今までと同様に剣で切り裂こうとしてもすぐにすり抜けてしまった。しかし今回は、すり抜けた瞬間にアランの持つ剣がドクンと脈打つ。剣を見ると、すり抜けたはずの剣から赤い無数の蜘蛛の糸ようなものがバフォールにまとわりついていた。その糸は蛇のようにうねうねと這い回る。
これなら煙のように散り散りにならない。
"っ! これがお前が引き出した力か……!"
「レイ! 早く!」
「言われなくても! バフォール、人の気持ちを弄ぶのも大概にしろ!」
バフォールの背後にまわったセイン王子は、すべての魔力を剣に注ぎ込む。今まで囲っていた光の壁までをも吸収していく。
その光が全て剣に集まると、セイン王子は勢いをつけるために剣を後ろに引いた。
赤い糸が張り巡らされた身動きの取れないバフォールもまた最後の足掻きをする。
"この者はおまえの―――"
「もう煩いんだよっ!!!!」
セイン王子が力を込めて背中の翼と翼の間に剣を突き刺す。
"ぐ、ぐはぁあああああっっ!!"
手ごたえはある。刺し込んだ手元、バフォールの内側から光が次々と侵食していく。
「俺とアランの間にもし何かあったとしても俺はアランを信じる! 俺たちの仲を裂こうとしたって無駄だ!」
さらに剣に魔力を込めるとバフォールの体全体が輝き、一気に弾け飛んだ。光の雨が降り注ぎ、その場にいた全員が息をするのも忘れて見入った。何が起きたのか頭の整理が出来ていなかったのだろう。誰もが声を発しなかった。
「終わった……?」
最初にその沈黙を破ったのはセイン王子だった。
「……」
「終わったの?」
「……ああ、終わったみたいだな……」
もう一度問いかける。目の前に立つアランも放心状態だった。お互いの目が合うと、じわじわと実感が込み上げてくる。
二人は片手を上げ、思いっきり手を振り、高い音を響かせた。
そんな二人の顔には笑顔が浮かんでいた。
3
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~
みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。
ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。
※この作品は別サイトにも掲載しています。
※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。


学園のマドンナの渡辺さんが、なぜか毎週予定を聞いてくる
まるせい
青春
高校に入学して暫く経った頃、ナンパされている少女を助けた相川。相手は入学早々に学園のマドンナと呼ばれている渡辺美沙だった。
それ以来、彼女は学校内でも声を掛けてくるようになり、なぜか毎週「週末の御予定は?」と聞いてくるようになる。
ある趣味を持つ相川は週末の度に出掛けるのだが……。
焦れ焦れと距離を詰めようとするヒロインとの青春ラブコメディ。ここに開幕
善意一〇〇%の金髪ギャル~彼女を交通事故から救ったら感謝とか同情とか罪悪感を抱えられ俺にかまってくるようになりました~
みずがめ
青春
高校入学前、俺は車に撥ねられそうになっている女性を助けた。そこまではよかったけど、代わりに俺が交通事故に遭ってしまい入院するはめになった。
入学式当日。未だに入院中の俺は高校生活のスタートダッシュに失敗したと落ち込む。
そこへ現れたのは縁もゆかりもないと思っていた金髪ギャルであった。しかし彼女こそ俺が事故から助けた少女だったのだ。
「助けてくれた、お礼……したいし」
苦手な金髪ギャルだろうが、恥じらう乙女の前に健全な男子が逆らえるわけがなかった。
こうして始まった俺と金髪ギャルの関係は、なんやかんやあって(本編にて)ハッピーエンドへと向かっていくのであった。
表紙絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストです。

光属性陽キャ美少女の朝日さんが何故か俺の部屋に入り浸るようになった件について
新人
青春
朝日 光(あさひ ひかる)は才色兼備で天真爛漫な学内一の人気を誇る光属性完璧美少女。
学外でもテニス界期待の若手選手でモデルとしても活躍中と、まさに天から二物も三物も与えられた存在。
一方、同じクラスの影山 黎也(かげやま れいや)は平凡な学業成績に、平凡未満の運動神経。
学校では居ても居なくても誰も気にしないゲーム好きの闇属性陰キャオタク。
陽と陰、あるいは光と闇。
二人は本来なら決して交わることのない対極の存在のはずだった。
しかし高校二年の春に、同じバスに偶然乗り合わせた黎也は光が同じゲーマーだと知る。
それをきっかけに、光は週末に黎也の部屋へと入り浸るようになった。
他の何も気にせずに、ただゲームに興じるだけの不健康で不健全な……でも最高に楽しい時間を過ごす内に、二人の心の距離は近づいていく。
『サボリたくなったら、またいつでもうちに来てくれていいから』
『じゃあ、今度はゲーミングクッションの座り心地を確かめに行こうかな』
これは誰にも言えない疵を抱えていた光属性の少女が、闇属性の少年の呪いによって立ち直り……虹色に輝く初恋をする物語。
※この作品は『カクヨム』『小説家になろう』でも公開しています。
https://kakuyomu.jp/works/16817330667865915671
https://ncode.syosetu.com/n1708ip/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる