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婚約破棄編
15.脳筋令嬢の暗躍
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「やぁ、待っていたよ」
パーティーが終わった後、私は約束通り、噴水広場に足を運んでいた。
「その服……着てくれたんだね。やはり僕の目に狂いはなかった。君が着ると一段と美しく見えるよ」
そう、広場に向かう前に彼の提案で私は着替えさせられていた。
先ほどのドレスよりかはマシだが、白を基調としたレースがふんだんに使われたスカートとブラウス、頭には白薔薇が装飾されたリボンが垂れ下がっている。
彼の趣味なのか分からないが、とにかく恥ずかしい。
私は手前の着せ替え人形じゃねぇんだぞ。
言えるならそう言ってやりたいくらいだった。
「では、早速行こうか」
そう言って彼は手を差し伸べてくる。
私もそれに応じるように手を添えた。
それから先は特段すべきことはないくらいに、平凡な散策をした。
まぁこの散策自体がお忍びということもあり、あまり大っぴらにはできないからその辺は仕方ない。
平凡じゃないところといえば、いちいちキザなセリフを言って私を口説いてくるところくらいだ。
まさに地獄である。
それに彼は気づいているか分からないが、いたるところに護衛騎士が潜んでいるのを察知した。
仕方ないとはいえ、終始見られているのは非常に不快である。
「おっと、もうこんな時間か」
クレストが懐中時計を見ると、時刻は20時30分を指していた。
「そろそろ戻ろう。これ以上、外にいて身体が冷えるといけないからね」
「そうですわね」
ようやく終わった。
そう安堵していると、彼にパーティー会場前まで送り届けてもらう。
戻ると、既に帰りの馬車が到着しており、両親とクレストの両親が談義していた。
「フィオ、戻ったか。クレスト殿、我が娘が迷惑をかけなかっただろうか?」
「いえ、最高に楽しいひと時でした。僕の思い出の宝物が一つ増えましたよ」
クレストは爽やかに答えた。
「それは良かった。出来の悪い娘ではあるが、今後とも宜しく頼む」
「ええ、もちろん」
その後、お互いの両親が別れの挨拶を交わすとアゼルバード夫妻は馬車に乗り込む。
だが、クレストだけは別の馬車に乗車するようで別の方向へと去っていった。
私はバトラーに目を配ると、彼もコクリと頷いた。
「では、我々も帰ろう」
クソ親父が馬車に目を配ると、私はすぐに引き留めた。
「お父様、一つお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「もう少し王都の様子を見学してもよろしいでしょうか?」
「なぜだ?」
「私もバルク家の人間として王都の街をよく見ておきたいのです。あまり王都に来ることは少なかったものですから、色々な視点に目を傾け、それを知恵として吸収したいのです」
それっぽいことを言ってみると、クソ親父は腕を組んだ。
「それは殊勝な心掛けではあるが、このような夜更けにお前一人を置いていくわけにはいかない。過去を鑑みればそれが許されないことくらいは分かっているだろう」
「で、ですが……」
「王都に来たいというのなら日が昇っている内に私がまた連れて行ってやろう。それで不満は――」
「フェランド様、その件に至っては自分にお任せください」
頑なに拒否するクソ親父にバトラーが割って入った。
クソ親父の鋭い眼光は私からバトラーへとシフトする。
「バトラーくん、君こそこの話を理解しているものはいないだろう? 数多の事件に君もうんざりしているはずだ」
「それは否定しませんが、故に私がいれば安心とも言えるのではありませんか? それに今宵は王都で狩猟祭という豊穣を祝った夜市が開かれるとのこと。フィオレンティナ様が知見を広めるのは絶好の機会かと存じます」
ナイスバトラー!
最初の否定しないというのは少し引っかかる場面があるが、流石の返答である。
「むむ……」
クソ親父は悩みに悩むが、バトラーの押しの強さもあり、渋々頷いた。
「分かった。ではバトラーくん、君を信じよう。もし何かあったら……その時は分かっているね?」
「はい。承知の上でございます」
「ならば良い。ただし、日を跨ぐ前までには必ず帰宅するように。分かったね?」
「承知致しました」
「うむ。では我々は先に帰るとしよう」
そういうと、クソ親父たちは先に馬車に乗って王都を去っていった。
「はああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
両親を見送ってからしばらくしてそんなクソデカため息が隣から聞こえてくる。
「貴方がそんなクソデカため息をつくなんて珍しいわね」
「誰のせいだと思ってるんですか。あの眼光マジで怖かったんですからね!」
「それは……ごめんなさい」
彼も彼でクソ親父に対しては苦手意識を持っている側面があるみたいだ。
学者としてはすごく尊敬しているみたいだけど、過去に叱れた時にあの鋭い眼光が軽くトラウマになっているのだとか……
そこに関しては申し訳ないと思っている。
「とにかく、時間は作りました。早速動きますよ」
「ええ。ちなみに貴方も彼の動向は見ていたのよね?」
「その辺は問題ありません。探知魔法にも彼を対象としてひっかけてありますので」
「さすがはバトラーね! じゃあ早速いくわよ。あのキザ野郎を潰しに!」
「言い方がいちいち不穏ですが……承知致しました。参りましょう」
そんなわけで、私はバトラーと共に夜の王都に繰り出すのであった。
パーティーが終わった後、私は約束通り、噴水広場に足を運んでいた。
「その服……着てくれたんだね。やはり僕の目に狂いはなかった。君が着ると一段と美しく見えるよ」
そう、広場に向かう前に彼の提案で私は着替えさせられていた。
先ほどのドレスよりかはマシだが、白を基調としたレースがふんだんに使われたスカートとブラウス、頭には白薔薇が装飾されたリボンが垂れ下がっている。
彼の趣味なのか分からないが、とにかく恥ずかしい。
私は手前の着せ替え人形じゃねぇんだぞ。
言えるならそう言ってやりたいくらいだった。
「では、早速行こうか」
そう言って彼は手を差し伸べてくる。
私もそれに応じるように手を添えた。
それから先は特段すべきことはないくらいに、平凡な散策をした。
まぁこの散策自体がお忍びということもあり、あまり大っぴらにはできないからその辺は仕方ない。
平凡じゃないところといえば、いちいちキザなセリフを言って私を口説いてくるところくらいだ。
まさに地獄である。
それに彼は気づいているか分からないが、いたるところに護衛騎士が潜んでいるのを察知した。
仕方ないとはいえ、終始見られているのは非常に不快である。
「おっと、もうこんな時間か」
クレストが懐中時計を見ると、時刻は20時30分を指していた。
「そろそろ戻ろう。これ以上、外にいて身体が冷えるといけないからね」
「そうですわね」
ようやく終わった。
そう安堵していると、彼にパーティー会場前まで送り届けてもらう。
戻ると、既に帰りの馬車が到着しており、両親とクレストの両親が談義していた。
「フィオ、戻ったか。クレスト殿、我が娘が迷惑をかけなかっただろうか?」
「いえ、最高に楽しいひと時でした。僕の思い出の宝物が一つ増えましたよ」
クレストは爽やかに答えた。
「それは良かった。出来の悪い娘ではあるが、今後とも宜しく頼む」
「ええ、もちろん」
その後、お互いの両親が別れの挨拶を交わすとアゼルバード夫妻は馬車に乗り込む。
だが、クレストだけは別の馬車に乗車するようで別の方向へと去っていった。
私はバトラーに目を配ると、彼もコクリと頷いた。
「では、我々も帰ろう」
クソ親父が馬車に目を配ると、私はすぐに引き留めた。
「お父様、一つお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「もう少し王都の様子を見学してもよろしいでしょうか?」
「なぜだ?」
「私もバルク家の人間として王都の街をよく見ておきたいのです。あまり王都に来ることは少なかったものですから、色々な視点に目を傾け、それを知恵として吸収したいのです」
それっぽいことを言ってみると、クソ親父は腕を組んだ。
「それは殊勝な心掛けではあるが、このような夜更けにお前一人を置いていくわけにはいかない。過去を鑑みればそれが許されないことくらいは分かっているだろう」
「で、ですが……」
「王都に来たいというのなら日が昇っている内に私がまた連れて行ってやろう。それで不満は――」
「フェランド様、その件に至っては自分にお任せください」
頑なに拒否するクソ親父にバトラーが割って入った。
クソ親父の鋭い眼光は私からバトラーへとシフトする。
「バトラーくん、君こそこの話を理解しているものはいないだろう? 数多の事件に君もうんざりしているはずだ」
「それは否定しませんが、故に私がいれば安心とも言えるのではありませんか? それに今宵は王都で狩猟祭という豊穣を祝った夜市が開かれるとのこと。フィオレンティナ様が知見を広めるのは絶好の機会かと存じます」
ナイスバトラー!
最初の否定しないというのは少し引っかかる場面があるが、流石の返答である。
「むむ……」
クソ親父は悩みに悩むが、バトラーの押しの強さもあり、渋々頷いた。
「分かった。ではバトラーくん、君を信じよう。もし何かあったら……その時は分かっているね?」
「はい。承知の上でございます」
「ならば良い。ただし、日を跨ぐ前までには必ず帰宅するように。分かったね?」
「承知致しました」
「うむ。では我々は先に帰るとしよう」
そういうと、クソ親父たちは先に馬車に乗って王都を去っていった。
「はああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
両親を見送ってからしばらくしてそんなクソデカため息が隣から聞こえてくる。
「貴方がそんなクソデカため息をつくなんて珍しいわね」
「誰のせいだと思ってるんですか。あの眼光マジで怖かったんですからね!」
「それは……ごめんなさい」
彼も彼でクソ親父に対しては苦手意識を持っている側面があるみたいだ。
学者としてはすごく尊敬しているみたいだけど、過去に叱れた時にあの鋭い眼光が軽くトラウマになっているのだとか……
そこに関しては申し訳ないと思っている。
「とにかく、時間は作りました。早速動きますよ」
「ええ。ちなみに貴方も彼の動向は見ていたのよね?」
「その辺は問題ありません。探知魔法にも彼を対象としてひっかけてありますので」
「さすがはバトラーね! じゃあ早速いくわよ。あのキザ野郎を潰しに!」
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