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婚約破棄編
11.脳筋令嬢の婚約
しおりを挟む「お父様、フィオレンティナです」
ドアをノックするとともにそう告げると、「入りなさい」という一言だけが返ってくる。
魔物騒動から数日たったある日、私は突然クソ親父に呼び出された。
理由はまだ知らない。
「失礼致します」
相も変わらず、気持ちが悪いほど全てがきっちりとしている執務室である。
クソ親父も掃除とかは自分でやるタイプだが、部屋の隅をみても埃一つ落ちていない。
私の部屋なんて掃除をしても大量の埃が湧いて出てくるというのに。
「今回はどのような御用でしょう?」
なにかの資料を見つめるクソ親父はこちらに目を合わせることはなく、口を開いた。
「まずは先の騒動の件、上手くやってくれたようだな。昨日、お前から引き継いだ現地視察に赴いた際にフリードリヒ会長が嬉々として語ってくれた。事後処理の件も助かったと言っていた。お前もようやくバルク家の人間としての自覚が芽生えてきたようだな」
「ありがとうございます」
まぁ……事後処理のほとんどはバトラーがやったんだけどね。
書いてある資料とかなにいってんのかさっぱりだったから、バトラーに見てもらったし。
当然、そんなことは言えないけども。
というかクソ親父が褒めるなんて珍しい。
大学で色々な……よくわからん賞をとらされた時には何にも言わなかったのに……
「そんなお前に朗報を持ってきた」
クソ親父は少し嬉しそうに言ったが、私には謎の悪寒が全身を駆け巡った。
「朗報とは……?」
恐る恐る聞いてみると、クソ親父は少し厚めの冊子を取り出すと、
「お前と婚約したいと申し出てきた家があってな。一週間後に顔合わせのパーティーをすることになった。お前にはこの資料を読んでおいてもらいたいのだ」
そう言い放った。
……は?
思わずそんな言葉が出そうになるのを寸前と我慢する。
「お、お父様……婚約っていきなりすぎではありませんか?」
無理無理無理!
そんなの受け入れられないに決まっている!
「何を言うか。お前も来年には成人を迎える。むしろ貴族社会では遅い方なのだぞ」
確かに貴族社会では私より二回りも年下の子でも婚約を結び、成人と共に結婚をする。
または生まれた瞬間、許嫁がいるかのどちらかだ。
一般人には少し外れた考え方だが、貴族社会ではごく当たり前のことなのである。
「それに今までそういった話を出さなかったのはお前の為でもあった。だが、このままというわけにはいかないだろう」
そう……実を言うと私は今日に至るまで、そういった婚約とかの話はしてこなかった。
というか避けていたのだ。
理由は私の壊滅的な男運にある。
私は幼い頃から、様々な男から被害を受けてきた。
自分で言うのもあれだが、私には人を惹きつける何かがあるらしい。
それは外見だけではなく、中身も含める。
そういった事から誘拐されたり、監禁されたり……色々なことがあった。
婚約についても同様だ。
昔は何人か婚約者と呼ばれた男がいた。
例えばそれに該当する10個上の男がいたのだが、そいつが後に生粋のロリコンだったということが判明。
常軌を逸した行動の数々にクソ親父が怒髪冠を衝くほどのブチ切れをかまし、その家とは絶縁となった。
当時の私は幼く純粋だったからか、優しいお兄さんくらいにしか思っていなかった。
それが今思い返すと……うっ、吐き気を催す。
他の男たちも同じようなもので、碌な人間が寄り付かなかったのだ。
「でもその方も万が一の可能性がありますし……」
「それなら大丈夫だ。家柄や人相を含めて私が見極めた男であるからな。安心して娘を預けられるといえよう」
いや、なに自分で納得してんの?
私の意見は?
「とはいえ、パーティーをセッティングしたのはお前がそう言うと思ったからだ。向こう側も快く承諾してくれた。お前にはバルク家の人間として相応しい振る舞いをしてもらいたい」
「で、ですが……」
「なんだ? それとも他に相手でもいるのか?」
「それはいませんが……」
「なら問題なかろう。話は以上だ」
「は、はい……失礼致しました」
私は渋々返事をすると、執務室を後にする。
そしてそのまま自室に戻り、ふかふかのベッドにダイブすると今まで鬱憤を晴らすかのようにため息を吐いた。
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