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日常編
09.脳筋令嬢への感謝
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「お嬢!」
魔物が倒されてからすぐに、バトラーが戻ってきた。
「どうやら、終わったみたいですね」
「中々手強い相手だったわ。やはり修行用木人なんかよりも実戦が一番ね!」
「それは良かったですね……」
バトラーは困惑しているようだった。
そんな顔されるほどのこと言ったかしら……
よく分からない。
「で、そっちはどうだったの?」
「こちらも無事に負傷者を避難キャンプまで送り届けました。道中に数名の負傷者と残党もいたのでついでに狩りながら救護に回っていた次第です」
「よし。なら後はここの人間に任せておいても問題なさそうね。変なのに見つかる前にさっさと撤退するわよ」
そう言ってその場から撤退しようと思った時だった。
「アカゲのお姉ちゃん!」
その声と同時に少し離れた物陰から先ほどの親子が出てきた。
「こら! 危ないから出て行っちゃ――」
母親と思わしき人物が止めるが、少女は真っすぐ私の元へと駆け寄ってくる。
「お姉ちゃん、助けてくれてありがとうっ!」
キラキラと目を輝かせる少女の頭のそっと手を乗せる。
「どういたしまして。ケガはない?」
「うん! 大丈夫!」
少女は元気よくそう言い放った。
ケガがないのは何よりだ。
「すみません。娘が……あと、先ほどは助けていただき、ありがとうございました」
母親が深々と頭を下げる。
「お気になさらず。当然のことをしたまでです」
力を持つ者が弱き者を助けるのは至極当然なことだ。
そこに迷いなど一切ない。
「この御恩は一生忘れません。後ほど謝礼を……」
「いえ、必要ありません。その代わりに私とここで会ったことは秘密してもらえると嬉しいです」
「秘密に……ですか?」
「はい。お願いします」
下手に言いふらされて記事になったりすると、活動の幅が減る。
それこそ私の秘密を追っている人間が出てきているというのだから、こういうところでしっかりとしておかないと。
「ねーねー、お姉ちゃんって「アカゲのごろうぃん」って呼ばれてる人でしょ!」
「え、いや……私は……」
そんなことを考えているといきなり核心をつくような問いが返ってくる。
まさかこんな少女にまで噂が広がっているというの?
「パパがよくお話してくれるんだ! とっても強い勇者様みたいな存在なんだって!」
「へ、へぇ……そうなのね」
そう言われると照れくさくなるが、なんだか雲行きが怪しくなってきたな。
「それと、いつも言ってるの! いつかその勇者の秘密を暴いてみせるって!」
あーーはい。そういう展開ね。
全く予想していなかったわ。
どうやらこれ以上の長居は危険なようだ。
その父親に見つかったら、面倒なことになる。
「えっと、お嬢ちゃん」
「ワタシ、リアナ!」
「じゃあリアナちゃん、お願いがあるの」
「お願い?」
首を傾げるリアナに私は小さく頷いた。
「今日あったことはみんなには秘密にしてほしいの。もちろんパパにもね」
「秘密……?」
リアナは首を傾げる。
「そう、お姉ちゃんとリアナちゃんとママだけの秘密!」
リアナは怪訝な表情で考え込むが、しばらくすると元気に頷いた。
「分かった! じゃあ三人だけの秘密にする! その方がなんかワクワクするし!」
「ありがとう、お願いね」
子供の感性はよく分からないが、理解してくれたみたいで良かった。
そんな感じで時間を潰していると、遠方から衛兵の声が聞こえてくる。
恐らく増援が到着したのだろう。
「お嬢、そろそろ……」
「ええ、いきましょう」
私はリアナと母親に別れの挨拶をすると、すぐにその場から立ち去る。
馬車へと戻る最中、私は別れ際に見せてくれた親子の笑顔を思い出していた。
「心から感謝されるって中々いいものね」
ボソッと口にすると、
「これもお嬢の努力の賜物ですよ」
バトラーがそう言った。
感謝されることは身分柄あるけど、心からそう感じたのはもしかしたら初めてだったかもしれない。
私に向かってくる感謝って大なり小なり身分という壁があったかのように思えたから……
ああいうのは新鮮だったのだ。
「さ、バトラー。さっさと帰ってトレーニングするわよ! どうせ視察は延期になるんだろうし!」
「その前に事後処理ですよ。元はいえば外壁の耐久性と水路汚染が原因なわけですしね。あと、お嬢がトドメを刺した外壁の件も……」
「……」
「絶対に逃がしませんよ?」
「……はい」
知らんぷりをかまそうと試みるが、彼の圧にあっさり負ける。
たまーに口が悪くなる時はすぐに頷かないと後が怖いからだ。
そんなわけで私は普段のフィオレンティナに戻り、事後処理を済ませた。
後日、今日の出来事がとある新聞社の記事に載っていた。
題名は『またも赤毛の勇者が発展著しい貿易都市を救った!』という見出し。
しかも謎の美闘士を謎に迫る! 今話題の美闘士ハンターに突撃取材! というオマケ付きである。
そこにはあることないこと、色んな事が書かれていた。
親子が言いふらしたような形跡はなかったので、どうやらあの親子以外にも目撃した輩がいたみたい。
……はああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
この記事を見ていた時、私のため息が部屋中に響き渡っていたというのはまた別の話である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次回は幕間になります!
執事のバトラー視点でお話が進みますので楽しみにっ!
魔物が倒されてからすぐに、バトラーが戻ってきた。
「どうやら、終わったみたいですね」
「中々手強い相手だったわ。やはり修行用木人なんかよりも実戦が一番ね!」
「それは良かったですね……」
バトラーは困惑しているようだった。
そんな顔されるほどのこと言ったかしら……
よく分からない。
「で、そっちはどうだったの?」
「こちらも無事に負傷者を避難キャンプまで送り届けました。道中に数名の負傷者と残党もいたのでついでに狩りながら救護に回っていた次第です」
「よし。なら後はここの人間に任せておいても問題なさそうね。変なのに見つかる前にさっさと撤退するわよ」
そう言ってその場から撤退しようと思った時だった。
「アカゲのお姉ちゃん!」
その声と同時に少し離れた物陰から先ほどの親子が出てきた。
「こら! 危ないから出て行っちゃ――」
母親と思わしき人物が止めるが、少女は真っすぐ私の元へと駆け寄ってくる。
「お姉ちゃん、助けてくれてありがとうっ!」
キラキラと目を輝かせる少女の頭のそっと手を乗せる。
「どういたしまして。ケガはない?」
「うん! 大丈夫!」
少女は元気よくそう言い放った。
ケガがないのは何よりだ。
「すみません。娘が……あと、先ほどは助けていただき、ありがとうございました」
母親が深々と頭を下げる。
「お気になさらず。当然のことをしたまでです」
力を持つ者が弱き者を助けるのは至極当然なことだ。
そこに迷いなど一切ない。
「この御恩は一生忘れません。後ほど謝礼を……」
「いえ、必要ありません。その代わりに私とここで会ったことは秘密してもらえると嬉しいです」
「秘密に……ですか?」
「はい。お願いします」
下手に言いふらされて記事になったりすると、活動の幅が減る。
それこそ私の秘密を追っている人間が出てきているというのだから、こういうところでしっかりとしておかないと。
「ねーねー、お姉ちゃんって「アカゲのごろうぃん」って呼ばれてる人でしょ!」
「え、いや……私は……」
そんなことを考えているといきなり核心をつくような問いが返ってくる。
まさかこんな少女にまで噂が広がっているというの?
「パパがよくお話してくれるんだ! とっても強い勇者様みたいな存在なんだって!」
「へ、へぇ……そうなのね」
そう言われると照れくさくなるが、なんだか雲行きが怪しくなってきたな。
「それと、いつも言ってるの! いつかその勇者の秘密を暴いてみせるって!」
あーーはい。そういう展開ね。
全く予想していなかったわ。
どうやらこれ以上の長居は危険なようだ。
その父親に見つかったら、面倒なことになる。
「えっと、お嬢ちゃん」
「ワタシ、リアナ!」
「じゃあリアナちゃん、お願いがあるの」
「お願い?」
首を傾げるリアナに私は小さく頷いた。
「今日あったことはみんなには秘密にしてほしいの。もちろんパパにもね」
「秘密……?」
リアナは首を傾げる。
「そう、お姉ちゃんとリアナちゃんとママだけの秘密!」
リアナは怪訝な表情で考え込むが、しばらくすると元気に頷いた。
「分かった! じゃあ三人だけの秘密にする! その方がなんかワクワクするし!」
「ありがとう、お願いね」
子供の感性はよく分からないが、理解してくれたみたいで良かった。
そんな感じで時間を潰していると、遠方から衛兵の声が聞こえてくる。
恐らく増援が到着したのだろう。
「お嬢、そろそろ……」
「ええ、いきましょう」
私はリアナと母親に別れの挨拶をすると、すぐにその場から立ち去る。
馬車へと戻る最中、私は別れ際に見せてくれた親子の笑顔を思い出していた。
「心から感謝されるって中々いいものね」
ボソッと口にすると、
「これもお嬢の努力の賜物ですよ」
バトラーがそう言った。
感謝されることは身分柄あるけど、心からそう感じたのはもしかしたら初めてだったかもしれない。
私に向かってくる感謝って大なり小なり身分という壁があったかのように思えたから……
ああいうのは新鮮だったのだ。
「さ、バトラー。さっさと帰ってトレーニングするわよ! どうせ視察は延期になるんだろうし!」
「その前に事後処理ですよ。元はいえば外壁の耐久性と水路汚染が原因なわけですしね。あと、お嬢がトドメを刺した外壁の件も……」
「……」
「絶対に逃がしませんよ?」
「……はい」
知らんぷりをかまそうと試みるが、彼の圧にあっさり負ける。
たまーに口が悪くなる時はすぐに頷かないと後が怖いからだ。
そんなわけで私は普段のフィオレンティナに戻り、事後処理を済ませた。
後日、今日の出来事がとある新聞社の記事に載っていた。
題名は『またも赤毛の勇者が発展著しい貿易都市を救った!』という見出し。
しかも謎の美闘士を謎に迫る! 今話題の美闘士ハンターに突撃取材! というオマケ付きである。
そこにはあることないこと、色んな事が書かれていた。
親子が言いふらしたような形跡はなかったので、どうやらあの親子以外にも目撃した輩がいたみたい。
……はああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
この記事を見ていた時、私のため息が部屋中に響き渡っていたというのはまた別の話である。
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次回は幕間になります!
執事のバトラー視点でお話が進みますので楽しみにっ!
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