完全無欠の脳筋令嬢~脳筋思考で婚約破棄、弱い男は要りません!~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

文字の大きさ
上 下
7 / 18
日常編

07.脳筋令嬢執事の実力

しおりを挟む

「お・じょ・う……?」

「……」

 離れていた場所に立っていたはずのバトラーがいつの間にか背後に立っている。
 そして声色も4オクターブくらい低い感じで、如何にもご立腹だということがすぐに分かった。

「えっと……てへっ♡」

「てへっ♡ じゃないですよ! なんですかあれはっ!」

「ふっ、どうやらまた強くなってしまったらしい」

「は?」

「すみませんでした」

 素直に謝る。
 でないと後が怖い。

 特にバトラーが本気で怒るとマジで怖いから……
 今も眼光鋭くてヤバいし。

「そ、その……私も想定外だったのよ。全然力いれてなかったのに……」

「鍛えているのでしたら加減くらいはコントロールできるようになってくださいよ! これじゃあ美闘士じゃなくて破壊闘士じゃないですか」

「おお、破壊闘士……それもそれでありだな」

「あ?」

「大変申し訳ございませんでした」

 その顔、怖いからやめてほしい。
 その辺の巨大魔獣よりも迫力あるから……

「全く……修繕費でいくらかかると思っているんですか」

「そ、そこは……また私のポケットマネーから出すから……事後処理もその……ね?」

「当然です」

 バトラーはそう言いきる。

 当然ながら自分の失態は自分で尻拭いをするつもりだ。
 というかいつもそうしてきた。

 自業自得とはいえ、痛すぎる出費だけど……

「とりあえず街内に入りますよ。さっきので粗方倒したかと思いますけど、残党もいるでしょうから」

 というわけで、街内に入る。
 さっきまで賑やかだった街は一変して静寂に満ちており、ゴーストタウンのような雰囲気に変わっていた。
 
「衛兵の姿も見えませんね。これは一体……」

「バトラー、あれを見て」

 私が指さす先には大きな爪痕が刻まれた建物があった。
 それもかなりのサイズだ。

 どうやら一番厄介な奴が街に入ってしまったらしい。

「ここからがお楽しみってわけね! なんだかワクワクしてきたわ!」

「ならさっさと見つけますよ。ん……?」

 はぁ……とため息をつくバトラーと同じタイミングである場所へ目線が向く。
 血だらけになりながらも、建物の壁にもたれている衛兵を発見したのだ。

「大丈夫ですか!」

 私たちがすぐに駆け寄ると、衛兵は朦朧とした意識の中喋り始めた。

「ううっ……貴方たちは。もしや……逃げ遅れて……」

「喋らないで。バトラー」

「お任せを」

 バトラーが応急処置を始める。
 傷の具合は正直にいうとあまりよくない。

 あの巨大であろう爪の被害にあったのだろう。
 腕から大量の血が流れ出ていた。

「とりあえず止血は完了しました。後は……」

 バトラーは止血作業を終えると、怪我をしている腕に手を当てた。

「医神パイエオンに誓う。我が治癒のエーテルを解放し、この身に慈英を与えたまえ……【ラ・リザレク】」

 治癒魔法を使い、衛兵の身体を癒していく。
 バトラーは元々、優秀な治癒術師だった。
 
 執事になる前は医学の道を志していたとかなんとか。
 その辺は私も詳しくは知らないが、治癒魔法を使わせたら彼の右に出る者はいない。

 現に深く抉りこんだ傷もみるみる治ってきていた。
 
「な、なんだこの治癒魔法は……傷が塞がっていく……」

 衛兵も驚いているようで、同時に少しずつ顔色もよくなってきていた。

「これでひとまず治療は完了ですが、傷口は完全に塞がっていないので後は医師にみてもらってください」

「申し訳ない。恩に着る」

 一通りの治癒を完了すると、衛兵は深く頭を下げた。
 
「治癒した直後で申し訳ないのですが、一体ここで何があったんですか?」

 バトラーが衛兵に尋ねると震えた声で答えた。

「アホみたいに大きな魔物が突然街に入ってきたんだ。見た目は魚類種みたいだったが、二足歩行で立っていて……」

「その魔物は今どこに……?」

「最後にみた時は南門の方に向かっていた。恐らく今は他の衛兵たちが戦っているだろう。さっき何かを叩きつけるような大きな音がしたからな」

「なるほど。お嬢」

 バトラーは事情を聞くと、すぐさま私の方に振り返った。
 その表情を見るに言いたいことはすぐに分かった。

「今回は裏方に徹するのね?」

「ええ。この様子だと他にも負傷者がいるかと思いますので私は救護に回ります。彼も私が避難キャンプまで連れて行きましょう」

「それがいいわ。どっちみち一緒にきても貴方の出番はないだろうしね」

 いつもはバトラーも保険として同行するのだが、今まで出番があったことはない。
 自分でいうのもあれなのだが、鍛え始めてから自分の頑丈さに驚いてしまう。

「ではお嬢、後は頼みましたからね」

 バトラーはそう言うと、衛兵を連れて去っていった。

「さて、お楽しみの大物狩りをしましょうか」

 私はグッと握り拳をつくると、街の南側方面へと走るのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

婚約破棄と言うなら「時」と「場所」と「状況」を考えましょうか

ゆうぎり
恋愛
突然場所も弁えず婚約破棄を言い渡された。 確かに不仲ではあった。 お互い相性が良くないのは分かっていた。 しかし、婚約を望んできたのはそちらの家。 国の思惑も法も不文律も無視しての発言。 「慰謝料?」 貴方達が払う立場だと思うわ。 どれだけの貴族を敵に回した事か分かっているのかしら? 隣国で流行りだからといって考えなしな行動。 それとも考えての事だったのか? とても不思議な事です。 ※※※ゆるゆる設定です。 ※※※オムニバス形式。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約破棄は良いのですが、貴方が自慢げに見せているそれは国家機密ですわよ?

はぐれメタボ
ファンタジー
突然始まった婚約破棄。 その当事者である私は呆れて物も言えなかった。 それだけならまだしも、数日後に誰の耳目げ有るかも分からない場所で元婚約者が取り出したのは国家機密。 あーあ、それは不味いですよ殿下。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている

五色ひわ
恋愛
 ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。  初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

「本当の自分になりたい」って婚約破棄しましたよね?今さら婚約し直すと思っているんですか?

水垣するめ
恋愛
「本当の自分を見て欲しい」と言って、ジョン王子はシャロンとの婚約を解消した。 王族としての務めを果たさずにそんなことを言い放ったジョン王子にシャロンは失望し、婚約解消を受け入れる。 しかし、ジョン王子はすぐに後悔することになる。 王妃教育を受けてきたシャロンは非の打ち所がない完璧な人物だったのだ。 ジョン王子はすぐに後悔して「婚約し直してくれ!」と頼むが、当然シャロンは受け入れるはずがなく……。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでのこと。 ……やっぱり、ダメだったんだ。 周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中 ※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

処理中です...