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日常編
06.脳筋令嬢の実力
しおりを挟む『赤毛の美闘士』
最近になって噂が拡大しているとある武闘家の異名だ。
魔物関連などの事件が起きた時にどこからともなく現れ一瞬にして駆逐したこと思えば、消えるように去っていく。
そんなことが各地で起きたからか冒険者や旅人、商人などの間で話題となっている。
「毎度思うんですけど、何故ゴロウィンなのですか?」
「私の好きな格闘家のリングネームだからだけど?」
そう……これは私、フィオレンティナが公爵令嬢としての自分を捨てることができる世を忍ぶ仮の姿なのである。
「そうはいってもゴロウィンは一般的には男性名ですよ。もっと可愛い名前にした方が……」
「かっーーーーー! ぺっ!」
私は痰を吐き捨てると、バトラーを睨んだ。
「いらぬ! 強さを目指す武人に可愛さなどいらぬのだ!」
切り裂くように言い放つ。
「はぁ……」
「それに今は多様性の時代よ? 名前で男女の区別をするなんて馬鹿馬鹿しいわね」
「まぁ……それはそうですが。あと、道端でそんなことしないでください。はしたない」
「誰も見ていないし、大丈夫よ。知らんけど」
この完璧な変装をしているからには、仮に見られたとしても大丈夫だろう。
知らんけど。
「とりあえず、早く現場に向かうわよ。こうしている間にも被害は増えているのかもしれないんだから」
街への侵入は北側の破損した外壁から入ることに。
予めバトラーが段取りを進めてくれていたので、街へ入るのに障害はない……が、早速そうはいかないことが分かった。
「あれは……」
外壁の破損部辺りで交戦している様子が目に入ってくる。
多数の魔物が押し寄せ、外壁前で数人の衛兵が死闘を繰り広げていた。
「なるほど、魔物発生の原因は不純エレメンタルの仕業でしたか」
「水路に潜んでいた微生物に憑依したってことか」
不純エレメンタルというのはその名の通り、不純物質を多く含む場所を好む元素霊のことだ。
この街の周りには円を描くような水路が敷かれている。
普段から水路の点検はしているはずなのでこんなことになることはないが、恐らく人の目の届かないところで不純物がたまった場所があったのだろう。
そこを根城とした不純エレメンタルが水路内にいる微生物に憑依したことで巨大化、そして魔物と化し、現在に至るというわけだ。
状況を見るに魔物側で数的有利みたいで衛兵たちはかなり押されているようだった。
「ふむ……これは水路点検の施策を改めて見直す必要が――」
「そんなことよりもバトラー、退路はしっかりと確保しておいてちょうだいね。最近は私が出現すると、尾行しようと目論んでいる連中もいるみたいだから」
噂が広がるとこういう弊害も出てくる。
ゴロウィンの名前だって、前にとある危険地帯の魔獣討伐戦に参加した時に名前だけ聞かれたからつい答えてしまっただけで自分から広めたわけじゃない。
私は別に有名になりたいわけではない。
むしろ有名になると、こういった被害が出るからあまり喜ばしくないのだがこればかりは仕方ない。
ぶっちゃけ私がフィオレンティナだとバレなければ、どっかの見知らぬ地でファンが出来ようが崇拝しようが、宗教ができようがどうでもいいのだ。
「承知致しました。あ、あと……」
「なに、まだなんかあるの?」
「いつも言ってますが、やりすぎないようにしてくださいね。例えば更に外壁に穴をあけるとか……」
「大丈夫、問題ないわ」
全く問題ない。
確かに前にちょこーっとだけやらかしてしまったことがあるが、今の私は更に自らを鍛え上げたことで力のコントロールが出来るようになっている。
「あの程度の魔物なんて軽ーい波動正拳突きで――ふんっ!」
……そう思っていました。
「あ……」
そう声が出た時にはもう遅かった。
私の放った技は衝撃破となり、大勢の魔物たちを一瞬にして消し炭にした後、外壁諸共粉砕してしまったのだ。
「な、外壁が崩れる……!?」
「全員退避ッ! 下敷きにされるぞ!」
衛兵たちの伝令がこだまする。
そしてその声と同時にオーラを放った人物が背後に立っていた。
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