5 / 18
日常編
05.脳筋令嬢の秘密
しおりを挟む
「ま、魔物が出ただと!? 衛兵は何をしていたのだ!」
秘書らしき人物からの報告を聞くと、フリードリヒは苛立ちながらも即座に立ち上がった。
「他の者は?」
「もう既に避難をしております! 会長も早く脱出を!」
どうやら他の者は避難したらしい。
会長は焦りを見せながらも、こちらに視線を向ける。
「フィオレンティナ様、ここは危険でございます。我が商会に属する護衛団をつけさせていただきますのですぐに脱出なさってください」
そういうとどこからともなく現れた護衛団に周りを固められるが、私はすぐに拒否をした。
「いえ、その心配はございません。もう既に外に待機しているはずですから」
外に出ると、既にバルク家の馬車が商会前に止まっていた。
「状況は?」
バトラーが馬車の手綱を握るもう一人の使用人に駆け寄る。
「現在閉鎖中の北門付近の外壁から侵入したとのことです。現在、衛兵が結界門を展開して対応しております」
「住民の方は?」
「住民の避難はその他の門より順次行っております。今のところ、負傷者の報告は上がっておりません」
「分かった。お嬢、我々もいきましょう」
「ええ。皆様もどうぞ馬車の中へ」
私は振り返ると、フリードリヒたちも乗るように誘導する。
「で、ですがバルク家の馬車に乗車することは……」
「こういう時こそ、助け合いが必要なのです。そこに身分なんて関係ないのですよ」
今は一刻を争う時だ。
そんな時に身分なんてこだわっていたら――
「で、ですが我々には護衛団をおりますのでフィオレンティナ様は先に脱出を――」
ああああ、もうっ! 鬱陶しい!
良いからはよ乗れや! 死にたいんかいな!
……なんてことは言えないので「どうぞどうぞ」と強引に乗せることに。
「郊外に避難用のキャンプが出来ているとのことなのでそちらまでお送りいたしますね」
「も、申し訳ございません……」
「なにをおっしゃいますか。命あっての物種といいますでしょう?」
まぁちょっと護衛団も一緒なので重量オーバーなので馬車の耐久が心配だが、それで命が助かるなら安いものだ。
それから私たちはフリードリヒたちをキャンプまで送り届けると、街の北側から程近い森林地帯の中に馬車を止めた。
「バトラー、例のモノは?」
「ありますけど……やっぱりやるんですか?」
「当然でしょ! こんな美味しい展開を逃してなるものか」
「街にとって絶対絶命な状況を美味しい展開って言わんでください」
バトラーは心底呆れているようだ。
だが私にとって、このような展開は美味しい以外の何ものでもない。
普段から己を鍛え続ける者にとっては最高の舞台なのだから!
「そんなに戦うことがお好きなら冒険者にでもなればよいものを……」
「それが出来たら苦労しないわ」
「それは……そうなんですけど」
貴族の……しかも公爵令嬢が堂々と冒険者など出来るわけがない。
まぁ……戸籍等を偽れば出来ないこともないのだが、バレた時にはかなーーり面倒なことになる。
おまけにそんなことがクソ親父の耳に入ったら、最悪の事態を招くのは必然だ。
よって私は今日も『赤毛の美闘士』に変装し、各地で戦いを求めるのである。
「というか、何度もいいますけど貴方は公爵家の令嬢なんですからね?」
「それがなに?」
「いや……多分貴族家の人間でこんなことやってるの我が家だけですよ」
「いいじゃない! これぞオンリーワンってやつね!」
別にいいじゃない。こういう貴族がいたって。
街の緊急事態に安全な場所でコソコソやってる方が正直どうかと思うのだけれど?
あと本来、今日は休日だったのだからこれくらい許されてもいいでしょ!
そんな返しをすると、バトラーは深くため息をついた。
「全く、これだから脳筋は……」
「あ? なんか言ったか?」
「いえ、なにも」
バトラーはすぐに口を紡ぐと、変装セットを差し出してくる。
赤毛のカツラに、カラーコンタクト、極限まで軽さを求めた戦闘服……
これがあれば、ほぼ確実にフィオレンティナとはバレずにやり過ごすことができる万能グッズだ。
ちなみにバトラーも同行するので、いつもの執事服ではなくプライベートな恰好となる。
彼の変装も傍から見れば冴えない小市民という感じで完璧なのだ。
「冴えなくて悪かったですね」
「貴方はエスパーかなにかなの?」
こわっ。
何も言ってないのに心を読まれたんだけど……
まぁそんなことはともかく、私はすぐに変装を完了させると、馬車から飛び出した。
「とりあえず早くいくわよバトラー! 私のこの筋肉が唸りを上げる前に!」
「承知致しました……」
私は乗り気じゃないバトラーを引っ張りだすと、再び街の方へと戻るのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今日の更新はここまでになります!
続きも楽しんでいただけますと幸いです!
秘書らしき人物からの報告を聞くと、フリードリヒは苛立ちながらも即座に立ち上がった。
「他の者は?」
「もう既に避難をしております! 会長も早く脱出を!」
どうやら他の者は避難したらしい。
会長は焦りを見せながらも、こちらに視線を向ける。
「フィオレンティナ様、ここは危険でございます。我が商会に属する護衛団をつけさせていただきますのですぐに脱出なさってください」
そういうとどこからともなく現れた護衛団に周りを固められるが、私はすぐに拒否をした。
「いえ、その心配はございません。もう既に外に待機しているはずですから」
外に出ると、既にバルク家の馬車が商会前に止まっていた。
「状況は?」
バトラーが馬車の手綱を握るもう一人の使用人に駆け寄る。
「現在閉鎖中の北門付近の外壁から侵入したとのことです。現在、衛兵が結界門を展開して対応しております」
「住民の方は?」
「住民の避難はその他の門より順次行っております。今のところ、負傷者の報告は上がっておりません」
「分かった。お嬢、我々もいきましょう」
「ええ。皆様もどうぞ馬車の中へ」
私は振り返ると、フリードリヒたちも乗るように誘導する。
「で、ですがバルク家の馬車に乗車することは……」
「こういう時こそ、助け合いが必要なのです。そこに身分なんて関係ないのですよ」
今は一刻を争う時だ。
そんな時に身分なんてこだわっていたら――
「で、ですが我々には護衛団をおりますのでフィオレンティナ様は先に脱出を――」
ああああ、もうっ! 鬱陶しい!
良いからはよ乗れや! 死にたいんかいな!
……なんてことは言えないので「どうぞどうぞ」と強引に乗せることに。
「郊外に避難用のキャンプが出来ているとのことなのでそちらまでお送りいたしますね」
「も、申し訳ございません……」
「なにをおっしゃいますか。命あっての物種といいますでしょう?」
まぁちょっと護衛団も一緒なので重量オーバーなので馬車の耐久が心配だが、それで命が助かるなら安いものだ。
それから私たちはフリードリヒたちをキャンプまで送り届けると、街の北側から程近い森林地帯の中に馬車を止めた。
「バトラー、例のモノは?」
「ありますけど……やっぱりやるんですか?」
「当然でしょ! こんな美味しい展開を逃してなるものか」
「街にとって絶対絶命な状況を美味しい展開って言わんでください」
バトラーは心底呆れているようだ。
だが私にとって、このような展開は美味しい以外の何ものでもない。
普段から己を鍛え続ける者にとっては最高の舞台なのだから!
「そんなに戦うことがお好きなら冒険者にでもなればよいものを……」
「それが出来たら苦労しないわ」
「それは……そうなんですけど」
貴族の……しかも公爵令嬢が堂々と冒険者など出来るわけがない。
まぁ……戸籍等を偽れば出来ないこともないのだが、バレた時にはかなーーり面倒なことになる。
おまけにそんなことがクソ親父の耳に入ったら、最悪の事態を招くのは必然だ。
よって私は今日も『赤毛の美闘士』に変装し、各地で戦いを求めるのである。
「というか、何度もいいますけど貴方は公爵家の令嬢なんですからね?」
「それがなに?」
「いや……多分貴族家の人間でこんなことやってるの我が家だけですよ」
「いいじゃない! これぞオンリーワンってやつね!」
別にいいじゃない。こういう貴族がいたって。
街の緊急事態に安全な場所でコソコソやってる方が正直どうかと思うのだけれど?
あと本来、今日は休日だったのだからこれくらい許されてもいいでしょ!
そんな返しをすると、バトラーは深くため息をついた。
「全く、これだから脳筋は……」
「あ? なんか言ったか?」
「いえ、なにも」
バトラーはすぐに口を紡ぐと、変装セットを差し出してくる。
赤毛のカツラに、カラーコンタクト、極限まで軽さを求めた戦闘服……
これがあれば、ほぼ確実にフィオレンティナとはバレずにやり過ごすことができる万能グッズだ。
ちなみにバトラーも同行するので、いつもの執事服ではなくプライベートな恰好となる。
彼の変装も傍から見れば冴えない小市民という感じで完璧なのだ。
「冴えなくて悪かったですね」
「貴方はエスパーかなにかなの?」
こわっ。
何も言ってないのに心を読まれたんだけど……
まぁそんなことはともかく、私はすぐに変装を完了させると、馬車から飛び出した。
「とりあえず早くいくわよバトラー! 私のこの筋肉が唸りを上げる前に!」
「承知致しました……」
私は乗り気じゃないバトラーを引っ張りだすと、再び街の方へと戻るのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今日の更新はここまでになります!
続きも楽しんでいただけますと幸いです!
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

婚約破棄と言うなら「時」と「場所」と「状況」を考えましょうか
ゆうぎり
恋愛
突然場所も弁えず婚約破棄を言い渡された。
確かに不仲ではあった。
お互い相性が良くないのは分かっていた。
しかし、婚約を望んできたのはそちらの家。
国の思惑も法も不文律も無視しての発言。
「慰謝料?」
貴方達が払う立場だと思うわ。
どれだけの貴族を敵に回した事か分かっているのかしら?
隣国で流行りだからといって考えなしな行動。
それとも考えての事だったのか?
とても不思議な事です。
※※※ゆるゆる設定です。
※※※オムニバス形式。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約破棄は良いのですが、貴方が自慢げに見せているそれは国家機密ですわよ?
はぐれメタボ
ファンタジー
突然始まった婚約破棄。
その当事者である私は呆れて物も言えなかった。
それだけならまだしも、数日後に誰の耳目げ有るかも分からない場所で元婚約者が取り出したのは国家機密。
あーあ、それは不味いですよ殿下。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている
五色ひわ
恋愛
ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。
初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

「本当の自分になりたい」って婚約破棄しましたよね?今さら婚約し直すと思っているんですか?
水垣するめ
恋愛
「本当の自分を見て欲しい」と言って、ジョン王子はシャロンとの婚約を解消した。
王族としての務めを果たさずにそんなことを言い放ったジョン王子にシャロンは失望し、婚約解消を受け入れる。
しかし、ジョン王子はすぐに後悔することになる。
王妃教育を受けてきたシャロンは非の打ち所がない完璧な人物だったのだ。
ジョン王子はすぐに後悔して「婚約し直してくれ!」と頼むが、当然シャロンは受け入れるはずがなく……。

婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでのこと。
……やっぱり、ダメだったんだ。
周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中
※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる