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日常編
04.脳筋令嬢のお仕事
しおりを挟む「ふぃ、フィオレンティナ様だ!」
「フィオレンティナ様ーーーー!」
馬車から降りると、早速黄色い声が私を包み込んだ。
「皆さま、ごきげんよう」
私は馬車から降り、軽く挨拶をすると手を振りながら目的地へと足を運ぶ。
「はぁ……今日もなんて美しいのかしら……」
「あの笑顔……これで今日も一日頑張れるぜ!」
「はぁ……はぁ……フィオたん好きぃ……愛してるぅ」
多くの人に慕われることは非常に気持ちがいいものだ。
最後辺りにヤバい奴がいた気がするが、まぁ世の中色々な人がいるので仕方ない。
とにもかくにも、こうして慕われることはバルク家の人間として名誉なことだ。
名誉なこと……なのだが、時折問題が発生することもある。
「……やべぇ、めちゃくちゃ鼻をほじりたい」
超絶小声でボソッと呟くと、すぐさまバトラーが反応した。
「お嬢、公衆の面前ですよ」
「わ、わかってるわよ。ちょっと寄り道してもいい?」
「承知致しました」
そんなわけで民衆の目を気にしつつ、一旦路地裏に避難すると――
「よし、ここなら誰も見てないわね」
周りに人がいないことを確認すると、とりあえず豪快に鼻を……ほじるとか言うとはしたないので『致す』という言葉に変えておこう。
「ふぅ…すっきり」
「……」
「なに、そんな目で見て……」
「いや……」
バトラーは何か言いたげな表情でこちらを見てくる。
言いたいことは分かるが……
「し、仕方ないじゃない! 鼻が死ぬほど痒かったんだから!」
まさか公衆の面前で豪快に致すわけにもいかない。
純白令嬢フィオレンティナの厄介なところはそういう縛りが多く出来ることだ。
立ち居振る舞いや表情など、一つ一つの所作が民の心の糧となる。
そんな中で完全無欠のフィオレンティナという人間を壊すような行動は断じてしてはならないのだ。
本音を言えば外に出た時でも豪快に鼻をほじりたいし、オナラもしたい。
この前とかつい、やりかけたところをバトラーの俊敏なカバーによって事なきを得た……ということもあった。
まさにそういったことは、許されぬ禁忌の行動なのである。
「お嬢、そろそろ目的地に向かいましょう。スケジュールがおしています」
「ええ、そうね」
それから街を歩くこと数分、目的の場所についた。
今日の現地視察は物流状況の確認や輸入品などの視察などが主な目的だ。
この街はマスル王国に数ある貿易中継都市のひとつだ。
よって、様々なモノが各国より集まってくる。
で、今日やってきたのはこの街を拠点とする貿易商会だった。
「これはこれはフィオレンティナ様、ようこそおいでくださいました」
出迎えてくれたのは貿易商会の会長だった。
名前は……忘れた。
「ご盛況なようで何よりでございます会長。先ほど市場を拝見させていただきましたが、以前よりも活気に溢れておりましたね」
「おお、流石はフィオレンティナ様、よく見ておられますな! ここ最近、更に販路を拡大致しまして――」
とりあえず適当な世辞をいってみたら、嬉しそうに答えてくれた。
なんか説明し始めたけど、まぁ繁盛してるってことだと思うので適当に流しておく。
それからVIP用の接待室に通され、視察の目的でもある資料を使いながら物流状況などを聞いた。
といっても聞くのは私ではなく、バトラーだけども。
え、フィオレンティナ様は知も富んだ人物だと名が広まっている?
はっはっは、ご冗談を。
私がそんなごちゃごちゃしたことを理解できるはずがない!
そういうイメージがつくのもバトラーがヒアリングし、私に進言してくれるからこそ成したもの。
私はただ、彼の名案を実行しているに過ぎないのである。
「――で、あるからしまして物流関係は極めて順調に進んでおります。これもバルク家のご支援があってこそのものです」
「それはなによりですわ。今後とも発展を期待しています」
「有難きお言葉! このフリードリヒにお任せくださいませ!」
この人、フリードリヒっていうのね。
とりあえず覚えておこう。
……明日には忘れてそうだけども。
「では、次は我が商会が誇る物流倉庫へ――」
フリードリヒがそう言いかけた時だった。
接待室に激しいノックと共に一人の秘書だろうと思われる人物が入ってくる。
「なんだね、まだ会議は終わって――」
「か、会長! 今すぐここからお逃げくださいっ!」
不満げな態度を示すフリードリヒを押しのけると、彼女は少し息をきらしながら、険しい表情で言い放った。
「街に……街に突如魔物が出現しました!」
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