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日常編
01.脳筋令嬢の朝
しおりを挟む緑豊かな新緑の国、マスル王国――数年前までは小国に過ぎなかったこの国はここ数年で急激な成長を遂げ、今や大国に匹敵するほどの経済能力を有するようになった。
そんな国を影で支え続けている名家がある。
名をバルク家。
この家名は今やマスル王国の民の間で知らぬものはいない。
中でもその名声に拍車をかけているのは、バルク家の令嬢、フィオレンティナであった。
世間からは純白令嬢の愛称で呼ばれ、その名の通り清く美しく、その上知も兼ね揃えた完璧な人物として名が通っていた。
街を歩けば美しい白銀の髪が大衆を惹きつけ、話せばその慈愛に溢れた言霊で人々を魅了する。
見つめ合えばその翡翠の瞳が貴方を虜にすることでしょう。
そう……彼女はまさにこの世に舞い降りた一人の天使とも呼ぶべき人物なのだ!
……が、それは大きな間違いだということを世の民は知らない。
それはあくまで外側だけの彼女に過ぎない。
本来の彼女はそんなおしとやかな感じではないのだ。
むしろその逆……呆れるほど「脳筋」な女であった。
これは、自由奔放な脳筋令嬢のとある日常の物語である。
※
小鳥の囀りが脳裏をつつく。
目は瞑っていても身体は分かるのだ。
もう朝であると。
「……」
薄暗い部屋、豪華なベッドの上にいる私。
朝特有の気怠さがありつつも、ベッドから出る。
目をこすりながらも、真っ先に向かうのはカーテンで閉鎖的になった窓のほうだ。
「……うっ」
カーテンを開けた途端に眩い日差しが部屋に差し込む。
加えて窓を開けると、これまた朝特有の爽やかな風が部屋に流れ込んできた。
今日もいい朝ね……
多分小説とかだと、そんなセリフが出てくるのだろう。
でも私は違った。
「やべぇ……バカ、ねみぃ」
眠い……! 眠すぎる!
置時計に目を配ると時刻は朝の6時を指していた。
「まだ6時……6時よ? なんでこんなに早く起きなきゃいけないの!?」
爽やかな風とは対照的に私の愚痴が外へと流れていく。
というのもこれは家のルールみたいなものなのだ。
朝6時には起床し、7時には朝食……というのが数多い我が家のルールの中にある。
これは平日だろうが、休日だろうが関係ない。
起きないと、もれなく使用人が部屋にカチコミをかけてくる。
「いや、百歩譲って平日ならまだわかるよ? でも休日までこんな早起きしないといけないのは何故!?」
今日は休日だ。
本来ならゆったりして身体を癒す日……なのに我が家のルールによって早起きを強いられている。
本当なら昼過ぎまで寝たい。寝つくしたい。
でもそんなことを許してくれるはずもなく、今日も今日とて家のルールに縛られた朝を迎えるのだ。
ちなみにルールから脱却するべく、一人暮らしをしたいをしたいと両親に言ったことがあるが、速攻で却下された。
特にクソ親父……基、父が猛反発し、年頃の娘が一人暮らしなど危険だということらしい。
その時は冷戦沈着な父には珍しく、物凄く動揺していたし……
どんだけ過保護なんだよ……
「はああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!」
そんなこんなで今日もめちゃデカため息をついていると、
「今日はいつにも増して、クソデカため息をついておられますね」
いつの間にか我が家の使用人が部屋に入ってきていた。
「バトラー、お前いつ部屋に入ってきた?」
「つい先ほどですが……ノックをしても応答がなかったものですから……」
ノックしていたのは知らなかったので申し訳ないが……
「乙女の部屋に音もたてずに入るのは感心しないな……」
「おと……め?」
「あぁん?」
「乙女でした」
「だよな?」
「イエス」
否定しかけたので、無理やりねじ伏せる。
ついでに朝の運動も兼ねて張っ倒してやろうと思ったが、朝から疲れるのは嫌なので我慢する。
まぁ、こういうやり取りができるのも彼とは付き合いが長いだからだ。
彼は我がバルク家の使用人、名をバトラーという。
主に私のお世話や警備などを担っている優秀な使用人だ。
私が生まれてからずっと使用人として従事しているのが、もう十数年の付き合いになる。
「とりあえず、ご準備ができましたらダイニングまでお越しください。朝食の準備が出来ております」
「分かった……」
そして本来の私を知る数少ない人物でもある。
「準備するか……」
気怠い身体に鞭をうち、身支度を整える。
「うっ……今日の寝癖は手強いな……」
ぴょんと跳ねた髪をくしで強引にとかしていく。
こういう寝癖一つも見られるとクソめんどくさいことになるのだ。
特にクソ親父からの説教がめんどくさい。
それなら使用人に頼めば良くないかと思うかもしれないが、私は身の回りのことは全部自分でやっている。
理由は色々あるが、大きな理由は自分のことは自分でやるという確固たる意志があるからだ。
世間では私をよく知らない人から箱入り令嬢だの常識を知らないなど、散々言われることもあったため、そうなりたくないという思いが強かったのも一つの要因だろう。
そんなわけで今日も今日とて寝癖直しから着つけまで全部自分でこなしていくのだ。
「はぁ……めんどくせぇ……」
貴族家は全てにおいて民衆の注目の的にされる。
公爵位を持つ令嬢となっては尚更だ。
見た目から服装、立ち居振る舞いまで全て見られるのだ。
私は昔からそれが嫌で仕方がなかった。
だから一般市民のカジュアルな生活スタイルに強い憧れを持っている。
とはいえ、人生にリスタートはない。
今日も今日とて、私はみんなのイメージ通りのフィオレンティナでいなければならないのだ。
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