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第二十九話 正体
しおりを挟むフィアットに屋上へと誘われた後、俺はすぐに教室へと戻った。
次は昼休憩なので授業はないが、購買のパン争奪戦に参加する予定だったので少し急いでいた。
ジンと昼食を食べる約束もしているからな。
あまり遅いと怒られてしまう。
と、思っていたのだが……
「ほらよ。お前の分」
「い、いいのか?」
「ああ。当分帰ってこないだろうなと思ってたからな。ついでに買っといてやったぜ」
「す、すまん。ありがとう」
「いいってことよ。だがその代わりに聞きたいことがあるんだが」
「ん……?」
ジンはそういうと俺の方へと身体を寄せる。
そして周りに聞こえないように小声で、
「おい、お前あの方とどういう関係なんだ?」
耳打ちしてくる。
「どういう関係って。誰のことだ?」
「ん、さっきまで一緒にいたんじゃないのか? お前を呼びにきたあの美少女!」
「美少女……ああ、フィアットのことか?」
「ふぃ、フィアットだと!? お前、彼女をことをそう呼んでいるのか!?」
「あ、ああ……」
「う、嘘だろ……」
どうやらジンはそのことに驚きを隠せない様子。
あの時もそうだったが、なぜみんなフィアットを見て驚いていたのか。
なんかこう、彼女が来た途端にクラス内の雰囲気を変わってたし。
気になったので俺は一応ジンに、
「なぁジン。さっきもそうだったが、なぜみんなフィアットを見てそんなに驚いていたんだ? 彼女はこの学園では有名人なのか?」
と、聞いてみる。
するとジンは片方の眉を歪ませ、
「ユーリ。お前、もしかして知らないのか?」
「えっ、何を?」
「あの方の正体を」
「い、いや……」
「お、おいおい。さすがに一週間以上も学園にいれば一度くらい名前を耳にするだろうがよ」
(そうなのか? 俺は一度も聞いたことがないが)
でも確かに考えてみるとフィアットって何者なのだろう。
皆の反応を見るまではあまり気にすることはなかったが、どことない大物感があるのは感じていた。
「そんなにスゴイ人なのか……?」
この問いにジンはすぐに答えてくれた。
「あ、当たり前だ。なんたってあの人はこの学園の頂点に君臨するお方だからな。フィンラード生徒会の会長にして宮廷魔術師試験を史上最年少で合格した超絶エリート。帝国からもお墨付きを貰うレベルの逸材ってわけさ」
「そ、そんなにスゴイ人だったのか……」
「しかもそれだけじゃない。フィアット会長はあの歴代帝国でも類を見ない伝説の魔術師とも言われたウィンチェスター公爵の実娘だ。五大貴族の中で最も力を持つとされるグレイシア家と唯一肩を並べられると言われている名家の中の名家の出身ってわけ。まさに鬼に金棒とはこのことであの方はこの学園でも別格の存在なのさ」
「お、おぉ……」
なんか色々と説明をしてくれたが、情報が多くて頭に入ってこない。
でも分かったのは、とにかくフィアットはすんごい人だということ。
それにウィンチェスターって言葉は前から引っかかっていたが、前に父上が「あのウィンチェスターのくそジジイがぁッ!」っと大声で言ってたのを思い出し、話が繋がった。
(そりゃ呼び捨てにした関係を目の前で見せつけられたら、ああいう反応になるわな。向こうも俺のことを”様”付けで呼んでるわけだし)
「ってわけでだ。話を戻すが――」
『あっ、ユーリ様! 教室に戻っていらしたんですね』
ジンが話を戻そうとした時、背後からとある声が聞こえてくる。
その声が聞こえた途端、周りもざわつき始めた。
「――ふぃ、フィアット会長だ」
「――またユーリくんに会いにきたのかな?」
「――やっぱ何度見てもすげぇ貫禄だ」
そのざわつきで大体は察したが……やはりフィアットだった。
俺はジンに「少し待っていてくれ」とだけ言ってフィアットの元へ。
「どうしたんだフィアッ……いや、フィアットさん」
「ん、どうしたのですかユーリ様。普通にフィアットとお呼びいただいても――」
「いや、ちょっとそういうわけにもいかなくなったんだ。友人から貴方についての話を聞いてね。その……流石に無礼だったなと」
反省。今の俺は貴族であっても貴族じゃない。
設定上はただの平民だ。
彼女の立場、地位、もちろん実力なども加味してしかるべき敬意を払う必要があると俺は考えた。
でも彼女は、
「いいえ。ユーリ様にはむしろそう呼んでいただきたいのです。そこに身分も立場も関係ありません。今まで通り、フィアットとお呼びください」
否定した。
しかも逆にそう呼んでほしいというお願いまでされてしまった。
そう言われた以上、俺もこれ以上のことを言うつもりはない。
「分かった。じゃあ、今まで通りそう呼ばせてもらうよ。フィアット」
「はいっ!」
フィアットはその美貌とはまた別に可愛らしい笑みを見せ、返答してくる。
その笑顔は流石に俺も少しドキッとしてしまった。
普通に可愛い。
「ご、ゴホンッ。そ、それよりフィアット。今度は一体何の用で?」
顔が赤くなってないか心配するあまり、わざとらしい咳を挟みながら要件を聞く。
するとフィアットは、
「あ、そうでした! 実はさっき選抜魔道祭りのメンバーのことなのですが正式にユーリ様の参加が理事長より認められました」
「おお、そうか。良かった良かった」
「それで、あとあの時にもう一つ言い忘れていたことがあるのですが……」
「……?」
そう切り出した後、フィアットはある事について俺に話してきた。
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