とある最弱者の貴族転生~高貴な《身分》と破格の《力》を手に入れた弱者は第二の人生で最強となり、生涯をやり直す~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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第二十六話 親友?になりました

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 俺、ユーリ・フリージアは今、医務室のベッドルームにいる。
 
 先ほど模擬戦の相手をしたジーク・フリットの様子を見に来たのだ。

「それにしても、あの魔法を直に受けようとするなんて……」

 医務室の番人ことエリカ先生の話によれば、ただの外的ショックによる気絶だということで目立った傷などもなかったという。
 一時はどうなるかと冷や汗を垂らしたものだが、ジークの身体が丈夫でよかった。

(結構加減したつもりだったんだけどな……)

 まだまだ力のコントロールができていないことがはっきりと理解した瞬間だった。

 ちなみにジークの方はまだ意識が戻っていないようでベッドの上で安らかな眠りについていた。

 一言謝らなければと思って来たが、来るのが早すぎたようだ。

「一応、先生方からも許可を貰ったことだし、起きるまで待っているとするか」

 そう思いながら、俺は持参してきたこれから使うであろう魔術書に目を通し始める。

 今回の件で俺に足りないのは魔法のコントロールだということが分かった。
 とはいっても数年前からデルに言われ続けていることなんだけど……。

「この三年間で魔法のコントロールだけはしっかりと学ばないとな……」

 魔術書に書かれていたことは至って基礎的な事だった。
 だがそれこそ俺にとっては必要な知識で独学で勉強していた時は基礎よりも応用過程ばっかりに目がいっていた。

 初心忘れるべからずという言葉があるように抜け穴になっている箇所は山ほどある。

 なのでこれからの学園生活ではそれらを埋める努力をしなければならない。
 もちろん、それと並行して友人作りも行うつもりだ。

 それに、ジークが使っていた魔法を一時的に分散させるようなユニークな使い方もあることも知った。

 魔法に関しては結構勉強してきた方だと思ったが……

「まだまだ学ぶことは多そうだな」

 と、パラパラと魔術書をめくっていたその時だ。

「ハッ! 僕は一体何を!?」
 
 そう叫びながら身体を起き上げる人物が一人。
 そう、ジークが目を覚ましたのである。

「あっ、ようやくお目覚めか」
「ん? 君は……ユーリ・フリージアじゃないか。此処は一体どこなのだ?」
「医務室だよ」
「い、医務室?」
「ああ。お前、気絶したんだよ。あの時の模擬戦の後にな」
「気絶? ああ、そうだ。僕はあのとんでもない魔法に飲み込まれて……」

 おお、良かった。気絶する前の記憶もしっかりと残っているみたいだ。
 外傷がなくても中身が壊れていたらそれこそヤバイからな。

 内心ホッとしているとジークは俺の方を向き、

「君が僕をここまで運んでくれたのかい?」

 やんわりとした話し方でそう言ってくる。
 
「いや、運んできたのはBクラスの講師だ。俺は気になってお見舞いにきたんだ」
「ふっ、そうか。その様子だと、僕は情けないところを見られてしまったようだな」

 ジークは笑いながらも少し俯き、どこか悲し気な表情を浮かべる。
 俺はそんなジークを横目に、

「その……すまなかった」
「……ん、どうして君が謝るんだい?」
「俺の行動でお前を危機にさらしてしまった。一歩間違えれば大怪我をさせてしまっていたんだ」

 加減をしたとはいえ、挑発に乗ってムキになっていた自分がいたのも事実だ。
 あの状況でも冷静に考えていれば他の方法もあったかもしれない。

 初めから自分が格上だと分かった時点でそう考えるべきだった。

 こいつなら大丈夫だろうという過信がこのような結果を招いたのだ。
 俺は諸々の想いを抱きながら、ジークに頭を下げる。

 だがジークはその俺を見ると突然、

「はっはっは! やはり、君は面白い人だね」
「は、は?」

 きょとんと眼を丸くする俺にジークは、

「あれはどう考えても僕の力不足が招いたことさ。僕は君を過小評価しすぎて――いや、僕が自分の力を過信しすぎていたんだ」

 ジークは続ける。

「僕の力は君に遠く及んでいなかった。あの時の君の表情には底知れない余裕があった」
「ジーク……様」
「ユーリくん、あの時の魔法は実に見事だった。今でも身体全体にひしひしと伝わって来るよ。あの時の震えるような力と今までに感じたことなかった圧倒的な力の波動。どうやらまだまだ鍛錬が足りないようだ」

 ジークはグッと拳を握りながら自らの反省点を語る。
 そして再び目線を上げて俺の目をじっと見ると、

「ユーリくん、僕は君に興味を持った。是非とも僕の友人……いや、親友になってもらいたい!」
「し、親友!?」
「ああ。僕は生まれてこの方、圧倒的敗北というものを知ったことがない。恵まれし天才だったからな」
「じ、自分で言うかそれ……」
「だがしかしだっ!」
 
(聞いてないし……)
 
 ジークは天高く拳を突き上げ、続けた。

「僕は君との戦いで初めて圧倒的までの無残な負け方を味わった。僕のプライドは完膚無きにまでに傷つけられ、その苦痛を払拭するために今にも学園の屋上から身を乗り出したいくらいだ!」
「いやいや、それは止めとけよ。さすがに」
「だが……同時に学んだこともあった。そう、僕自身の可能性だッ!」

(ああ、もうダメだこの人。完全に自分の世界に逝ってしまわれている)

 ジークの自分語りは30分ほど続いた。
 なんだか自分はもっと強くなるだろう! とか、君という新たな目標が出来た! みたいな感じのことを何ともまぁ長ったらしい経験談と共に熱く熱弁し始める。

「……であるからして、僕は君と親友関係を築きたいのだ!」
「え、あ、ああ……そか」

 危ない危ない。危うく昼寝をするところだった。
 しかもなぜだか知らんが、さっきの模擬戦以上に活き活きとしているような。

「あ、僕のことはジークで構わない。なんたって親友だからな! 対等な関係でないとな! はははッ!」

 そして話はいつの間にかクライマックスへと至っており、

「というわけで、これから宜しく頼むユーリ!」
「え? いや俺は……」

 いつの間にか親友認定されていて戸惑う。
 しかも何かキャラが変わっているような気が……。

「ははははッ! これからの学園生活が楽しみだ! ユーリ、君もそう思うだろ?」
「あ、ああ……そう、かな?」

 俺はもう苦笑いをするしかできなかった。
 ただ見舞いにきただけなのになぜこうなったんだろうと思いながら俺は作り笑いを浮かべた。

 でも、まぁいいか。
 俺の学園にきた目的はより多くの友人を作ることにある。

 貴族、しかも五大貴族の一角を占めるフリット家の人間と仲良くなっていれば後々良いことがあるかもしれないしな。

 ……かくして、ユーリ・フリージアとジーク・フリットは親友同士(非公認)になった。

 盛り上がるジーク・フリットに相反し、俺だけは多くの謎を残して。
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