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第二十五話 医務室の番人

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 Bクラス担任のラルゴ先生がジャッジを下し、唐突に勝負は終わった。
 そしてラルゴ先生は俺の魔法に飲み込まれそうになっているジークを救出すると、

 ――≪リバース・リジェレクション≫

 消去魔法を用い、俺の放った≪ビッグ・ファイア≫を一瞬で消し去る。
 それも無詠唱で。

(……ま、マジですか)

 周りの生徒たちもこの一連の出来事に驚いているようで、

「――な、なんだよ今の魔法」
「――あんな魔法が扱えるのかよ……」
「――あのジーク様が負けるなんて……」
「――それにラルゴ先生も凄いな。あの魔法を一瞬で止めるなんて」

 ボソボソとした話し声が聞こえてくる。
 
 だが今は驚いている場合じゃない。
 俺はすぐにジークの元へと駆け寄り、

「ジーク! 先生、彼は……大丈夫なんですか!?」
「ああ。ちょっとしたショックで気絶しているだけみたいだな」
「よ、良かった……」

 結構直にあの魔法を受けた感じだったからな。
 恐らく防御結界が張られていたことで気絶で済んだのだろうが。

「とりあえず、ジーク・フリットは私が医務室へ運ぶとしよう。お前たちは引き続き、ルモット教授の指示に従って行動すること!」

 ラルゴ先生はそう言うと、ジークを抱えてその場を静かに去って行った。

(はぁ、俺としたことが……少しやりすぎてしまった……)

 挑発に乗ってしまったという言い訳を言ってしまえばそこまでだが、やはり学園にいる間はあまり力を行使するべきではな――

「おいっユーリ! お前、すげぇな!」
「ッッ!? ジン!?」

 いきなり背後から背中をバシッと叩かれ、振り向くとそこにはニヤッと笑みを浮かべたジンが立っていた。

「なんだよあの魔法は。あんなすげぇ魔法みたことないぞ!」
「そ、そうなのか……?」
「ああ! しかも一番嬉し……すげぇのはあのジークを一瞬で黙らせたことだ!」

 おい、お前今一瞬嬉しいって言いかけたな?
  
「やっぱり俺の目に狂いはなかったぜ。俺はユーリならやってくれると思ってたんだ!」
「そりゃ、どうも」

 その割には無理そうだったらギブアップしろよとか負け前提のことを言っていたような気がするが。

「よっしゃ! 俺も何だかやる気が出てきたぜ! 真面目にやるつもりは毛頭なかったが、ちょっとだけ俺の力を披露してやろうじゃないか!」
「お、おう……頑張れよ」

 無駄にテンションの高いジン。
 
 でもなぜだろうか。
 
 俺とジークの戦いに感化されたのか、その後に行われた模擬試合はとてつもない熱気の中で行われた。
 ジンを含めて皆、必要以上に熱くなっていたのである。

(にしても、ジークの奴は大丈夫だろうか。先生は大丈夫だとは言っていたけど)

 ……かくして、ユーリ・フリージアとジーク・フリットとの模擬試合はユーリ・フリージアの勝利ということで幕を下ろしたのだった。

 ♦

 授業後、俺はある場所へと足を運んでいた。

「し、失礼しまーす」

 扉を開けつつ、一言言うと同時に返事が返ってくる。

「あら? どうかしたの?」

 その澄んだ高い声とと共に一人の若いお姉さんがひょっこりと姿を見せる。

「あっ、どうも。ここにジークが運ばれたと聞いてやってきた者なのですが……」
「ジーク……ああ、フリット家のお坊ちゃんのことね! 向こうのベッドで寝ているわよ」
「分かりました。ありがとうございます」
「いえいえ。それより……」
「……はい?」

 突然、お姉さんが俺の顔を舐め回すようにマジマジと見つめてくる。
 そしてその淡い紅の瞳を向けながら、

「貴方、男の子……よね?」
「……えっ! わ、分かります!?」
「ええ、もちろん。確かに顔立ちは女の子って感じだけど私の目は誤魔化せないわ」

 ま、マジか。まさか初対面で俺を男だと一発で見抜ける人がいたなんて……
 まだ会って数秒ほどしか経っていないというのに。

「初めてです。自分を男だと最初に思ってくれた人は」
「あはは。でもまぁその容姿じゃ誰も分からないわよ。私も腐女子パワー……いえ、何でもないわ」
「え、ふじょし……?」
「な、何でもないの! 忘れて! そ、それよりも君、新入生よね?」
「え……ああ、はい。ユーリ・フリージアって言います。今年から高等部1年に転入してきました」
「ユーリ・フリージア……ああ! 例の特別推薦で入ったって噂の子ね!」
「ま、まぁ……」

 やはりどの人からしても俺はそういう認識なのか。
 よっぽどその特別推薦入学者ってのにステータスがあるみたい。

 それよりもさっきお姉さんが言いかけた”ふじょし”? ってのが少し気になるが……

「あっ、そういえばまだ自己紹介をしていなかったわね。私はユリカ。この医務室で養護教諭をしているわ。何かあったら何でも相談に乗るから、気兼ねなく言ってね」
「はい。宜しくお願いします」

 お姉さんの正体は医療室の先生だった。
 紅の瞳にベージュの艶のある美しい髪を持つ、美女だ。

 この学園では別称として医務室の番人とも呼ばれているらしい。
 でも接した感じ良心的で話しやすい人だった。
 
「あ、なんか呼び止めちゃってごめんね。確かジークくんに会いに来たんだったよね?」
「あ、はい。そうです」
「それなら案内するわ。こっちよ」

 そう言ってユリカ先生は先導し、ジークのいるベッドにまで案内してくれた。
 
「ここよ。今はまだ寝ているかもしれないけど、そのうち目を覚ますと思うわ」
「わざわざありがとうございます、ユリカ先生」
「いえいえ~どうぞごゆっくり~」

 ユリカ先生は少し意味深的な笑みを浮かべると、そっとその場を去る。
 
 そして俺は一面カーテンで仕切られたベッドの中へと静かに入って行った。
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