25 / 35
第二十五話 医務室の番人
しおりを挟むBクラス担任のラルゴ先生がジャッジを下し、唐突に勝負は終わった。
そしてラルゴ先生は俺の魔法に飲み込まれそうになっているジークを救出すると、
――≪リバース・リジェレクション≫
消去魔法を用い、俺の放った≪ビッグ・ファイア≫を一瞬で消し去る。
それも無詠唱で。
(……ま、マジですか)
周りの生徒たちもこの一連の出来事に驚いているようで、
「――な、なんだよ今の魔法」
「――あんな魔法が扱えるのかよ……」
「――あのジーク様が負けるなんて……」
「――それにラルゴ先生も凄いな。あの魔法を一瞬で止めるなんて」
ボソボソとした話し声が聞こえてくる。
だが今は驚いている場合じゃない。
俺はすぐにジークの元へと駆け寄り、
「ジーク! 先生、彼は……大丈夫なんですか!?」
「ああ。ちょっとしたショックで気絶しているだけみたいだな」
「よ、良かった……」
結構直にあの魔法を受けた感じだったからな。
恐らく防御結界が張られていたことで気絶で済んだのだろうが。
「とりあえず、ジーク・フリットは私が医務室へ運ぶとしよう。お前たちは引き続き、ルモット教授の指示に従って行動すること!」
ラルゴ先生はそう言うと、彼を抱えてその場を静かに去って行った。
(はぁ、俺としたことが……少しやりすぎてしまった……)
挑発に乗ってしまったという言い訳を言ってしまえばそこまでだが、やはり学園にいる間はあまり力を行使するべきではな――
「おいっユーリ! お前、すげぇな!」
「ッッ!? ジン!?」
いきなり背後から背中をバシッと叩かれ、振り向くとそこにはニヤッと笑みを浮かべたジンが立っていた。
「なんだよあの魔法は。あんなすげぇ魔法みたことないぞ!」
「そ、そうなのか……?」
「ああ! しかも一番嬉し……すげぇのはあのジークを一瞬で黙らせたことだ!」
おい、お前今一瞬嬉しいって言いかけたな?
「やっぱり俺の目に狂いはなかったぜ。俺はユーリならやってくれると思ってたんだ!」
「そりゃ、どうも」
その割には無理そうだったらギブアップしろよとか負け前提のことを言っていたような気がするが。
「よっしゃ! 俺も何だかやる気が出てきたぜ! 真面目にやるつもりは毛頭なかったが、ちょっとだけ俺の力を披露してやろうじゃないか!」
「お、おう……頑張れよ」
無駄にテンションの高いジン。
でもなぜだろうか。
俺とジークの戦いに感化されたのか、その後に行われた模擬試合はとてつもない熱気の中で行われた。
ジンを含めて皆、必要以上に熱くなっていたのである。
(にしても、ジークの奴は大丈夫だろうか。先生は大丈夫だとは言っていたけど)
……かくして、ユーリ・フリージアとジーク・フリットとの模擬試合はユーリ・フリージアの勝利ということで幕を下ろしたのだった。
♦
授業後、俺はある場所へと足を運んでいた。
「し、失礼しまーす」
扉を開けつつ、一言言うと同時に返事が返ってくる。
「あら? どうかしたの?」
その澄んだ高い声とと共に一人の若いお姉さんがひょっこりと姿を見せる。
「あっ、どうも。ここにジークが運ばれたと聞いてやってきた者なのですが……」
「ジーク……ああ、フリット家のお坊ちゃんのことね! 向こうのベッドで寝ているわよ」
「分かりました。ありがとうございます」
「いえいえ。それより……」
「……はい?」
突然、お姉さんが俺の顔を舐め回すようにマジマジと見つめてくる。
そしてその淡い紅の瞳を向けながら、
「貴方、男の子……よね?」
「……えっ! わ、分かります!?」
「ええ、もちろん。確かに顔立ちは女の子って感じだけど私の目は誤魔化せないわ」
ま、マジか。まさか初対面で俺を男だと一発で見抜ける人がいたなんて……
まだ会って数秒ほどしか経っていないというのに。
「初めてです。自分を男だと最初に思ってくれた人は」
「あはは。でもまぁその容姿じゃ誰も分からないわよ。私も腐女子パワー……いえ、何でもないわ」
「え、ふじょし……?」
「な、何でもないの! 忘れて! そ、それよりも君、新入生よね?」
「え……ああ、はい。ユーリ・フリージアって言います。今年から高等部1年に転入してきました」
「ユーリ・フリージア……ああ! 例の特別推薦で入ったって噂の子ね!」
「ま、まぁ……」
やはりどの人からしても俺はそういう認識なのか。
よっぽどその特別推薦入学者ってのにステータスがあるみたい。
それよりもさっきお姉さんが言いかけた”ふじょし”? ってのが少し気になるが……
「あっ、そういえばまだ自己紹介をしていなかったわね。私はユリカ。この医務室で養護教諭をしているわ。何かあったら何でも相談に乗るから、気兼ねなく言ってね」
「はい。宜しくお願いします」
お姉さんの正体は医療室の先生だった。
紅の瞳にベージュの艶のある美しい髪を持つ、美女だ。
この学園では別称として医務室の番人とも呼ばれているらしい。
でも接した感じ良心的で話しやすい人だった。
「あ、なんか呼び止めちゃってごめんね。確かジークくんに会いに来たんだったよね?」
「あ、はい。そうです」
「それなら案内するわ。こっちよ」
そう言ってユリカ先生は先導し、ジークのいるベッドにまで案内してくれた。
「ここよ。今はまだ寝ているかもしれないけど、そのうち目を覚ますと思うわ」
「わざわざありがとうございます、ユリカ先生」
「いえいえ~どうぞごゆっくり~」
ユリカ先生は少し意味深的な笑みを浮かべると、そっとその場を去る。
そして俺は一面カーテンで仕切られたベッドの中へと静かに入って行った。
0
お気に入りに追加
2,178
あなたにおすすめの小説
『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故
ラララキヲ
ファンタジー
ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。
娘の名前はルーニー。
とても可愛い外見をしていた。
彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。
彼女は前世の記憶を持っていたのだ。
そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。
格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。
しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。
乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。
“悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。
怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。
そして物語は動き出した…………──
※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。
※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。
◇テンプレ乙女ゲームの世界。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げる予定です。
アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!
アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。
「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」
王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。
背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。
受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ!
そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた!
すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!?
※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。
※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。
※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
Sランク冒険者の受付嬢
おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。
だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。
そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。
「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」
その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。
これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。
※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。
※前のやつの改訂版です
※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる