とある最弱者の貴族転生~高貴な《身分》と破格の《力》を手に入れた弱者は第二の人生で最強となり、生涯をやり直す~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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第十九話 自己紹介

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 理事長室へ足を運んだ後、俺は一度フィアットと別れると、担任講師への挨拶をするべく講師室へと出向いていた。

「君がユーリ・フリージアくんね。担任を務めるルモットです。一年間、宜しくね」
「は、はい。宜しくお願いします」

 担任講師はルモットという女講師だった。
 見た感じ、まだ若くて綺麗な人だった。

 ちなみにこの学園での俺の名は『ユーリ・フリージア』となる。
 数日前の事前手続きでルナ姉さんに理由を話して難なくOKを貰った。

 なのでこの三年間はこの名前で学園に籍を置くことになる。

「とりあえず最初の内は分からないことが多いだろうから、いつでも私を頼ってね。基本的に講師室にいるから」
「分かりました。ありがとうございます」

 という塩梅で挨拶を済ませる。
 ルモット先生が言うにはこの後、教室前で待っていてほしいとのことなので先に教室へと向かうことになった。
 
 時刻もちょうど他の生徒が登校してくる時間帯。
 学園内も徐々に沢山の声や人の往来で賑わいを増していた。
 
 ちなみに決まったクラスは1年のAクラス。
 一応、ルナ姉さんが言うには1年生全員に近々転校生が来るっていう情報を流しているみたいだけど……

(なんかすっげ~見られてないか?)

 廊下を歩き、教室へ向かっていると会う人会う人にジロジロと見られ、脇ではコソコソとこっちを見ながら話している女子生徒も見受けられた。

 確かに目立つ要素としては色々と考えられることはあるけど……
 例えばこの銀色の髪とかフィンラードでは結構珍しいらしいし。

 それにしても……

(なにを話しているのか気になる……)

 気にしないようにしたいとはいっても、見入るような目で目視されながらコソコソと話されたら誰でも気にしてしまうものだ。

(あんまり盗み聞きは良くないけど……)
 
 そう思いつつも、俺は一瞬だけ聴覚強化の魔法を発動。
 範囲を限定し、微々たる音を全て捉える。

 すると聞こえてきたのは、

「――ねぇ、あの子かな? 例の転校生」
「――そうじゃない? あの綺麗な銀色の髪といい、容姿といい、この国の人間じゃないと思う」
「――でもだとしても凄く可愛い子だよね。あんな可愛い女の子、初めて見たよ」
「――しかも、学園の特別推薦枠で入学した超優等生って話でしょ?」
「――え! ホントなのそれ!? だったらもう言うことなしじゃん!」

 ……というような会話が耳に入って来る。
 
 めっちゃ見られていたのはやはり容姿のことが大きかった。
 銀色の髪とこの女の子のような中性的な容姿。

 今あの女子生徒に「実は俺、男なんです」と衝撃的カミングアウトをしたらどういう反応をするのやら……。
 
 あと、もう一つの噂の種である特別推薦枠による入学のことだが、これは本当である。
 
 俺は理事長であるルナ姉さん直々の推薦を受けてこの学園に入学したため、体裁上そういうこととして学園側からは扱われる。

 だから入学試験とかも全部免除されたし、入学金なども免除。
 しかも授業料半額以下という破格の条件の下で学生生活を送れるという、いわば超エリート待遇であった。

 噂もそういった背景を他の生徒も知っているからこそのことなのだろう。

 と、まぁ注目の理由が分かったところで俺は少し早歩きで教室へと向かう。

 予め決められたタイムスケジュールによるともうすぐ朝のHRが始まる時間帯だった。
 なので廊下にいた生徒たちは少しずつ減っていき、気がつけば誰もいない状態に。

 そんな中で俺はこれから一年を過ごすことになるAクラスの教室の前まで来ていた。

「ここがAクラスか」

 すこーしだけ中を覗いてみると、そこには約30人ほどの学園生が談話したり、本を読んだりして時間を潰していた。
 
「これから彼らがクラスメートになるってことか」

 と思うといよいよ学園生活が始まるんだなと改めて感じる。
 
「男女比率は……ちょうど半々くらいか?」

 でも噂通り、この学園に身分差は関係ないらしい。
 
「あの人はどう見ても貴族っぽいな。いらんほど巻いた髪型とか特に」

 他にも同い年なのかってくらい体格の良い男子生徒やただひたすら影の如く本を読んでいる女子生徒とか様々な人がいた。
 
 と、その時だった。

「あら、ユーリさん? どうかしました?」
「あっ……ルモット先生」

 窓の端から教室を覗く俺に声を掛ける者が一人。
 担任講師のルモット先生だった。

 俺は慌てて窓の端から離れ、「なんでもないです」と一言。
 
 その後ルモット先生にこれから行われるHRで自己紹介をしてほしいと言われ、俺は静かに頷いた。

「では、先に私が入って説明をするのでユーリさんはここで合図するまで待っていてください」
「あ、はい。分かりました」

 そう言ってルモット先生は教室の中へ。
 すると途端にさっきまでガヤガヤとしていた教室内が一気に沈黙の空間へ。

 皆、無言で着席し、ルモット先生の話を静かに聞いていた。

 さすがは優等生が集う学園と言われるだけはある。
 切り替えが早い。

 そして数分ほど経った後、ついにその時が訪れる。

「では、ユーリさん。入ってきてください」

 中からルモット先生の呼ぶ声が聞こえてくる。
 俺は少し緊張しつつもゆっくりと教室の扉を開け――中へ。

 すると突然クラス全体がざわつき始め……

「お、おい! マジかよ! 転校生って女子だったの?」
「てか、めっちゃ可愛くね?」
「ああ。オレ、ああいう子結構タイプだわ」
「くぅ~! 早く仲良くなりてぇ!」

 入った瞬間、そんな声が教室内を駆け巡る。
 どうやら殆どの人が俺の事を”女子”として認識しているらしく、男子勢は大盛り上がりだった。

「それではまず初めに自己紹介をしていただきます。ユーリさん、お願いします」
「はい」

 ルモット先生のこの一言でクラスは瞬時に静かになる。
 そして俺は静まり返った教室を目の前にしながらすぅ~っと息を吐くと――自己紹介を始めた。

「皆さん、初めまして。ユーリ・フリージアと言います。少しでも早く皆さんと仲良くなれればと思っているのでこれからよろしくお願いします」

 と、ここで一区切り。
 徐々にまた教室内が騒がしくなってきたところで最後にもう一言だけ、俺は付け加えた。

「あっ……ちなみにですが自分、こう見えても”男”なのでそこの所はどうぞお見知りおきを」

 と言うと、再びクラスは沈黙の渦に取り込まれる。
 それはまるで時が止まったかのように静かで……物音一つすら聞こえてこなかった。

 だがそんな時間が数秒ほど続いた、その時だ。

「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」」」

 突然。
 沈黙を破って教室内に響き渡ったのは紛れもない驚嘆の声であった。

(そ、そんなに驚くことか?)

 男として実に複雑である。

 今までの経験から考えてみれば仕方のないことだけど……

(どうにも腑に落ちないな……やっぱり)

 こうして、俺の学園生活におけるファーストステップは驚嘆の嵐で幕を開けたのだった。
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