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第十六話 はしゃぐ(元)25歳
しおりを挟むフィンラードへ来てからなんだかんだで数日が経過。
俺は環境が変わってもいつもの如く本を読み漁り、勉学に励んでいた。
「ユーリ様、今よろしいでしょうか?」
部屋の外からノックと共にカトレアの声が聞こえてくる。
俺は「大丈夫だ」と一言だけで答え、カトレアが部屋の中へと入ってくる。
相変わらず恰好はメイド服でご奉仕する気満々であるが、その方が落ち着くという本人の要望もあって家にいる時は使用人スタイルを許可した。
まぁ正直に言うと俺もカトレアに甘えてしまっている面もあるため、一概にダメだとも言えなかった。
自分から極力使用人として振る舞うのは止めてくれって言ったのに――恥ずかしい限りである。
カトレアは部屋に入るなりすぐに一礼し、
「ユーリ様、例の物が届いたのでお渡ししに参りました」
「例のモノって……ああっ!」
ふと、ピカーンと頭の中であることを思い出す。
そうだ、確か今日は……
「おおっ! すっげぇぇぇ! 本物の制服だぁぁ!」
俺が二日後から通う予定であるフィンラード魔法学園の制服が届く日だった。
本と勉強に夢中ですっかり忘れていたけど……
「カッコイイな。特にこの赤のラインが良いとは思わないか? な、カトレア!」
「はい、凄くカッコイイです。きっとユーリ様ならお似合いになることでしょう」
子どもみたいにはしゃぐ俺を微笑みながら見つめるカトレア。
でもはしゃぐのも無理はない。
だって本物の制服だぜ?
伝わりにくいかもしれないが、学生時代を過ごしたことのない人間からしたらこれほど興奮することない。
制服と言えば学生の象徴のようなものだ。低階級の身分で生まれ育った人にとっては学校に通うなど夢のまた夢のようなものであり、その輝かしい姿に誰もが憧れる。
俺もその一人だった。
だから二日後から始まる学園生活が楽しみで仕方ない。
「少し来てみたいが、シワになるのは嫌だな……」
「それでしたら私がシワ消しをしておきますよ。サイズも合っているかどうか確認する必要もありますし、着てみたらいかがでしょう?」
「そ、それもそうだな! よし、じゃあ着てみるとするか!」
カトレアの提案を即座に受けると、俺は着替え始める……のだが。
「あ、カトレア。悪いんだけど着替えている間は後ろを向いているか、部屋の外で待っていてくれないか?」
「え、別に私は気にしませんが……」
「いや、今の言い回しからして俺が気にしているんだが……」
いくら長い付き合いで使用人だからと言っても異性に自分の肌を見られるのは恥ずかしい。
屋敷にいる時も毎朝、部屋にお着換え担当の使用人たちが入って来るのだが、悉く断っていた。
という感じでカトレアに伝えると、
「では、私は部屋の外にいますので着替えを済まされたらまたお呼びください」
「お、おう。悪いな」
そう言ってカトレアは部屋の外へ。
俺は完全にカトレアが部屋の外へ行ったのを確認すると、すぐに服を脱ぎ、着替えを済ませた。
そしてネクタイまできちんと締めて、いざ鏡の前へ……。
「お、おおっ! 中々いいじゃないか!」
鏡には制服を身に纏った自分の姿が映っていた。
制服は黒を基調としたもので随所随所に赤のラインが施されている。
しかもちょうどサイズはぴったりで、ごわごわしている感じもなければ緩かったりきつかったりする感覚も一切ない。
「完璧だ!」
鏡の前で数種類の決めポーズをし、様々なアングルから自分を見つめる。
「うーん、これがいいかな。いや、こうか?」
そんなことをしていた時だった。
突然背後にある扉がガチャリと開き……
「あのユーリ様、着替えは……」
「……あっ」
ちょうど決めポーズ(見られたら一番恥ずかしいやつ)をしている所をカトレアに見られ、目も合ってしまった。
カトレア自身もドアノブに手をかけたまま、ピタリとその場に立ち止まった。
「ゆ、ユーリ様……」
「い、いや! こ、これは……!」
慌てふためき、言い訳を考えようと俺の脳がフル回転する。
だが咄嗟に有効打を与えられるような言い訳が出てこない。
しかもなんか哀れな目でこっちを見ている。
カトレアは普段はあまり表情に出さない方なので普通の人ならば一見分からないかもしれないが、俺には分かる。
あれは……人を小馬鹿にしている時の目だ!
「か、カトレア! い、いきなりは、入ってく、来るなよ!」
動揺を隠せず勢いに身を任せる。
おかげで噛みまくって何を言っているのか分からないというさらに恥ずかしいことになっていた。
「いやその……部屋の外にいたらユーリ様の叫び声? のようなものが聞こえてきたので何かあったのではないかと思いまして……」
俺とは違い、冷静な対応である。
(てか、俺はそんなに叫んでいたのか? うわ、めっちゃ恥ずかしいやつじゃん!)
「ととと、とにかく! サイズはぴったりだ。特に異常はない」
「そうですか。なら良かったです」
うぅぅ……死にたい。切実にそう思った。
……かくして、人生初の制服お披露目会は幕を閉じた。
一生忘れられないであろう黒歴史を残して……。
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