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156.たがう主張
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「イリアさん!?」
気がつけば、部屋の外に人影が見える。
そこにはさっき大男と共に部屋から消えたイリアの姿があった。
「イリアさん、どうして……」
問いかけるソフィアにイリアは小さく口を開いた。
「わたしはもう後には引けない。そしてこの国はあと数時間もたたずに壊滅する」
「イリア……さん?」
「だから貴方たちだけでも逃げてほしいの。わたし達の計画は必ずうまくいく。王国に勝ち目はないわ」
イリアはそういうと、見るからに迷いのある目で俺たちを見ていた。
「イリア、お前――」
「それはできません」
俺が話そうとした途端、隣にいたソフィアが即座に否定した。
その問いにイリアの表情が険しくなる。
「なんで? このままここにいれば貴方たちは確実に死ぬのよ? 明らかな負け戦に身を投じる気?」
「はい。たとえそうであってもです」
ソフィアは即答した。
迷いのない瞳を向け、澄んだ声で。
すると、イリアの表情は更に険しくなった。
「もう少し現実を見なさい! 貴方の持つ愛国心はわたしもよくわかってるつもりよ。でもそれで自分の命を投げ出すのは最良の判断ではないわ」
イリアは流れるように続けた。
「国は滅んだとしても、場合によっては建て直すことができる。でも命は一度失ったら、二度と元には戻らないのよ? それでもなお、貴方は死を選ぶつもり?」
息を継ぐ間もなく話し、息を切らすイリア。
その言葉一つ一つには彼女の想いが感じ取れた。
今まで紡いできた思い出から生まれた彼女の気持ちが。
だがソフィアは彼女の想いに、迷わず首を振った。
「それでも、わたしは戦うことを選びます」
冷静だった。
こんな状況でも、ソフィアの想いには強い芯があった。
この国を救いたい、守りたいと願う……誰よりも強い想いが、彼女からあふれ出ていた。
「どうして……そこまでして」
「わたしは王女としてこの国を、民を守る責務があります。そんな人間が真っ先に背を向けるには裏切ったのも同然。そんなことは絶対に出来ません。全力を出し切り、それでも守り切れなかったその時は死へのお迎えを快く受け入れるつもりです」
「ソフィア、貴方……」
このソフィアの意思は揺らぐものじゃない。
俺はそれをよくわかっている。
彼女がどれほどこの国と民を愛しているか、ずっと傍で感じてきたのだから。
「それに、わたしはまだ諦めていませんよ。何故ならこの国にはお父様と、頼りになる最強の魔法使いがいますから」
「最強の……魔法使い?」
ぼそっと呟くとソフィアは俺の方に視線を向けてきた。
「え、俺のこと?」
「それ以外に誰がいるんですか」
「いや、てっきりドロイドさん辺りのことかと」
異空間に閉じこまれた時に思ったけど、あの人は相当な実力者だ。
初めて会った時から何となく強者の風格はあったが、実際に魔法を使うところを見たときに確信に変わった。
この人もバケモノレベルであると。
仮にあの人と一騎打ちすることになったら、勝つことは相当厳しいだろう。
あの時でさえ余裕そうな感じだったから、全力じゃなかっただろうし。
「イリアさん、貴方の意見は間違っていない。でも、わたしにはわたしの意志がある。誰にも変えることが出来ない確固たる意志をね」
「理解できないわ。国の為に命を捨てるだなんて。ばかばかしい」
「たとえそういわれても、かまいません。わたしにとって、この国が亡ぶということは死へのチケットに他なりませんから」
ソフィアがそう言い切ると、イリアは無言のままその場に佇んだ。
そして浅くため息を吐くと、
「なら、いいわ。そこまで言うなら、わたしから何も言うことはない。後でじっくりとこの国の最期を見届けなさい。どちらにせよ、貴方たちはここから出られないのだから」
そう言って、イリアが背を向け始めた時だ。
「――いえ、ソフィア様は返していただきます」
脳内に突然響く謎の声。
その瞬間、背後のコンクリートに亀裂が入ると、壁が一瞬にして粉砕した。
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いつもご愛読、ありがとうございます!
明日は久しぶりに新作を出す予定ですので、
良ければ新作の方も応援していただけると嬉しいです!
気がつけば、部屋の外に人影が見える。
そこにはさっき大男と共に部屋から消えたイリアの姿があった。
「イリアさん、どうして……」
問いかけるソフィアにイリアは小さく口を開いた。
「わたしはもう後には引けない。そしてこの国はあと数時間もたたずに壊滅する」
「イリア……さん?」
「だから貴方たちだけでも逃げてほしいの。わたし達の計画は必ずうまくいく。王国に勝ち目はないわ」
イリアはそういうと、見るからに迷いのある目で俺たちを見ていた。
「イリア、お前――」
「それはできません」
俺が話そうとした途端、隣にいたソフィアが即座に否定した。
その問いにイリアの表情が険しくなる。
「なんで? このままここにいれば貴方たちは確実に死ぬのよ? 明らかな負け戦に身を投じる気?」
「はい。たとえそうであってもです」
ソフィアは即答した。
迷いのない瞳を向け、澄んだ声で。
すると、イリアの表情は更に険しくなった。
「もう少し現実を見なさい! 貴方の持つ愛国心はわたしもよくわかってるつもりよ。でもそれで自分の命を投げ出すのは最良の判断ではないわ」
イリアは流れるように続けた。
「国は滅んだとしても、場合によっては建て直すことができる。でも命は一度失ったら、二度と元には戻らないのよ? それでもなお、貴方は死を選ぶつもり?」
息を継ぐ間もなく話し、息を切らすイリア。
その言葉一つ一つには彼女の想いが感じ取れた。
今まで紡いできた思い出から生まれた彼女の気持ちが。
だがソフィアは彼女の想いに、迷わず首を振った。
「それでも、わたしは戦うことを選びます」
冷静だった。
こんな状況でも、ソフィアの想いには強い芯があった。
この国を救いたい、守りたいと願う……誰よりも強い想いが、彼女からあふれ出ていた。
「どうして……そこまでして」
「わたしは王女としてこの国を、民を守る責務があります。そんな人間が真っ先に背を向けるには裏切ったのも同然。そんなことは絶対に出来ません。全力を出し切り、それでも守り切れなかったその時は死へのお迎えを快く受け入れるつもりです」
「ソフィア、貴方……」
このソフィアの意思は揺らぐものじゃない。
俺はそれをよくわかっている。
彼女がどれほどこの国と民を愛しているか、ずっと傍で感じてきたのだから。
「それに、わたしはまだ諦めていませんよ。何故ならこの国にはお父様と、頼りになる最強の魔法使いがいますから」
「最強の……魔法使い?」
ぼそっと呟くとソフィアは俺の方に視線を向けてきた。
「え、俺のこと?」
「それ以外に誰がいるんですか」
「いや、てっきりドロイドさん辺りのことかと」
異空間に閉じこまれた時に思ったけど、あの人は相当な実力者だ。
初めて会った時から何となく強者の風格はあったが、実際に魔法を使うところを見たときに確信に変わった。
この人もバケモノレベルであると。
仮にあの人と一騎打ちすることになったら、勝つことは相当厳しいだろう。
あの時でさえ余裕そうな感じだったから、全力じゃなかっただろうし。
「イリアさん、貴方の意見は間違っていない。でも、わたしにはわたしの意志がある。誰にも変えることが出来ない確固たる意志をね」
「理解できないわ。国の為に命を捨てるだなんて。ばかばかしい」
「たとえそういわれても、かまいません。わたしにとって、この国が亡ぶということは死へのチケットに他なりませんから」
ソフィアがそう言い切ると、イリアは無言のままその場に佇んだ。
そして浅くため息を吐くと、
「なら、いいわ。そこまで言うなら、わたしから何も言うことはない。後でじっくりとこの国の最期を見届けなさい。どちらにせよ、貴方たちはここから出られないのだから」
そう言って、イリアが背を向け始めた時だ。
「――いえ、ソフィア様は返していただきます」
脳内に突然響く謎の声。
その瞬間、背後のコンクリートに亀裂が入ると、壁が一瞬にして粉砕した。
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